2015_11
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(Tue)11:55

12月の鬼-16(記憶喪失の為の習作5)

こんにちはー。もうばったんばったん継続中です。
予定より随分短いしなんだかもう何時にも増して文章滅多メタですが、とりあえず!

2015/11/10




落ち着け。落ち着け。

彼女を怯えさせてはいけない。
キョーコは自分の感情の変化に敏感なのだから。

かつて何度もやった過ちだけど、あの頃は事務所の先輩と後輩と言う関係があった。

だが、今、間違えたなら…
ただの客なんて…それこそあっという間にキョーコの中から抹殺されるだろう。


ワゴンに立つキョーコの姿を確認して、蓮は車の中で大きく深呼吸した。
助手席のマネージャーが心配そうにこちらを見ているがそれに応える余裕は流石になかった。
ゆっくり息を吸い込んで、ドアを開ける。



■12月の鬼-16(記憶喪失の為の習作5)



「最上さん。こんにちは」

落ち着いたつもりだったが普段より幾分低い声になった。キョーコの前ではいつでもとんだ大根役者だ。
拭き掃除をしていたキョーコはその声にびくりと肩を震わせたが、精いっぱいの笑顔で挨拶を返す。

「いらっしゃいませ。敦賀さん。いつものですか?」
「うん。1つは持ち帰りで」
「かしこまりました。」

代金のやりとりの間マニュアル通りのキョーコの言葉を聞きながら、心の中で必死に(落ち着け、落ち着け)と唱える。事故前のキョーコが言っていた“大魔王”な自分を晒すのだけは絶対に駄目だ。

「お待たせしました。本日のおススメです。」
「ありがとう」

先日、交差点でキョーコが若い男と歩いているのを目撃した時は、久しぶりに狂暴な自分が暴れだすのではないかと思うほどの怒りが支配した。
当たり前のように手を握って道を急いで渡る2人の姿は、誰がどう見てもデート中の恋人同士で…信号待ちで停止しているとはいえ運転中でなければすぐに引き剥がしに走っていただろう。

そして叫んでいたことだろう。
キョーコに触れるなと。

キョーコを問い詰めもしただろう。
今は出会いなんて求めていないのではなかったのかと。
俺を忘れて1人にして、どうしてそんな男と歩いているのだと。

だが、その衝動を何とかこらえられたのは運転中で衆人環視の交差点というのもあったが、何よりキョーコの表情が歪み何か苦痛をこらえているようでもあったからだ。
もしかして…もしかして…キョーコの中に眠る記憶が蓮以外の男に触れられることを拒んでいるのでは…そんな淡い期待に縋ることが出来たからだ。

(たいがい俺も自分勝手だよな。笑顔を守りたいとか思ってたくせに。キョーコの苦しむ顔をみて安心するだなんて)

だが、キョーコの隣は譲れない。
例え神に背こうと、己の罪を抱えてままでも…それでも共に歩いていくと決めたのだ。
キョーコもそれに頷き蓮の手を取ってくれた。

記憶が失ったとはいえその時間はなかったことにはならないはずだ。

「敦賀蓮」は自分1人のモノではないし、キョーコだって誇りに思い大事に想ってくれていた。
だからこそそれが傷つくことはキョーコを哀しませることにもなる。だから出来るだけ避けたいと思ってはいたけれど、社長が示したタイムリミットまでもあと一月を切った。

相手が誰であろうと、記憶が戻ろうと戻るまいと必ず奪い取って見せる。
キョーコが自分を愛してくれるまで、もう一度、いや何度だって跪き愛を告げよう。


(そのためにも…キョーコに距離をおかれる状況は避けないと)

あの交差点でキョーコは気付いていた。
何かを探す様に視線をこちらに向けて、そして蓮と目が合うと見る見る顔色を悪くした。
こちらの気持ちは分からなくてもマイナスな感情は伝わったとみるべきだろう。

だが、仕事中のキョーコから切り出すことは考えにくい。
かといってあまりにこやかな態度などとると返って「あきれられた」とか思いもしない方向にその考えが行くことは、過去の経験から分かっている。あれから散々考えて出た結果がストレートに聞くことだ。
半分ほどコーヒーが減ったところで口を開いた。


「…この前の…交差点で一緒に居たのは誰?」

キョーコがまた肩を揺らす。

「…あの…先日お話したコンパで知り合った母の事務所のアルバイトの方で…」
「…付き合っているの?」

またびくりと肩が揺れたが、キョーコは少し俯いたまま頷いた。
ジリジリと臓腑が焼ける様な感情が込み上げるが、なんとかこらえる。

「そう…じゃあ…なんであんな辛そうな顔してたの?」

パッとキョーコが顔を上げた。
それぞれの視線が何かを探す様に絡み合う。

「あ…あの…」
「うん」
「私…男の人に慣れないというか。いえ、慣れるために付き合って見なさいと母に勧められたんですけど、確かに社会経験が不足しているかなとか思ってうんと言ったのは私なんですが、でもなんというかやっぱり距離が近いと落ち着かないというか」

しどろもどろで告げる口調が後ろめたさ満載で、蓮に小さな期待を抱かせる。

「あんな顔までして無理に男の人に慣れる必要ないと思うけど?」
「…そうですよね」

再び俯く姿に胸が痛む。
そんな顔しないで、俺の元にと抱きしめたい。

だがまだだ。
受け入れてもらうまで愛を告げ、過去の事を話し説得するには今は時間がない。
中途半端な事をすればキョーコを混乱させ母親の耳に入って思いもよらない手に打って出られては水の泡だ。

「お母さん…そんなに心配してたの?」
「あ…はい。うち母子家庭なんで…私が女子大に行っているのもあって色々心配みたいで」
「そうか…。でもやっぱり無理はする必要はないんじゃないかな?最上さんの気持ちが一番大切だと思うよ。」
「そう…ですよね」


どうかあと少し待って
自分以外の男の手を取らないで欲しい。

そして…どうか…受け入れて

この執着ともいえる愛を


スマホが震えてタイムリミットを知らせる。
蓮を案じたマネージャーがなんとか捻じ込んでくれた時間はそんなに沢山はとれなかった。

気が付けば空になり己の手で無残に潰されていたコーヒ―カップを捨てながらキョーコに笑顔を向ける。

「ごめん。時間だ。また来るよ。明後日から2週間ほどアメリカだから次にくるのは12月下旬になっちゃうな。ここそんな時期でも開いてるかな?」
「12月に入ったら土日は開けないみたいですけど平日なら」
「そう…ならよかった。帰国したらなるべく早く顔を見せに来るよ。その時はゆっくり話をしたいな」

その言葉にキョーコは目を見開いて暫し固まったが、おずおずと頷いてくれた。


(17に続く)
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Re: 切ない

> ○○りん様
コメント有難うございます。
そうなんですよ。親って子どもの頃は最大の価値基準ですよね。ずっと離れていたことである意味その縛りから抜けれていなかったキョーコちゃんにとっては凄い縛りになるんじゃないかなと思ったりしています。
なかなかお話ではうまく表現出来ていないのに色々と考えて読んでくださって本当に嬉しいです。
12月中の完結を目指したいと思います。どうか最後までお付き合いください!

2015/11/13 (Fri) 00:28 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2015/11/11 (Wed) 23:50 | # | | 編集 | 返信

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