2015_12
01
(Tue)11:55

12月の鬼-19(記憶喪失の為の習作5)

2015/12/1




流石に息が切れた。


「MerryChristmas!」
「お前酔っぱらいすぎ―!」
「酔ってない。酔ってない…あー彼女欲しい―――――――っ!」
「何でかい声で叫んでんだよ!恥ずかしいだろう!」
「だってさー。子供の頃親に言われなかった?サンタさんへの願い事は空に向かって大きな声で言いなさいって。大人の願いも叶えてくれないかなぁ?」
「無理無理。サンタに願う前に己を磨け」
「ひでぇ!」

まだ社会人になり立てだろうか?若いサラリーマン3人とすれ違う。
そのうちの1人がクリスマスイブの寒空の下に汗だくで息を切らしたキョーコにチラリと視線を向けたが、すぐにもう一軒行く行かないの話で盛り上がりはじめた。




■12月の鬼-19(記憶喪失の為の習作5)




キョーコは自分がたどり着いた場所に自嘲する。

夜の闇で昼間とは雰囲気が一変しているが見間違うはずがない。自分が毎日のようにコーヒーを売っている場所なのだから。
闇雲に走ったつもりだったのに、結局ここに来るのだ。

(どれだけ会いたいのよ)

また嗤い、公園の入り口に設けられた花壇の淵に腰掛けた。
ロングコートを通してさえも冷気が這い上がってくる。先ほどまでは暑い位だったが、冷えた汗が体温を奪っているのが分かった。首元が寒いのでマフラーを巻きたいが鞄の中だ。

「鞄…置いてきちゃった。」

唯一コートのポケットに入っているスマホが震えているのが分かったが、きっと若松だろう。話をする気にはなれなかった。
鞄もない。当然定期も財布もない。若松との付き合いは続けれるはずもなく、心の中で何かが弾けた今、きっと母とも前のようには戻れない。

(なーんにも無くなっちゃった。これからどうしよう)

現実問題ここにずっといたら朝には凍死体となって発見される。それは嫌だが一文無しではフェミレスで時間をつぶすことさえできない。美晴や遼子達を頼ろうにも帰省をしている人も多いし、何よりクリスマスイブだ。迷惑だろう。

寒い。
ロングブーツの中で足先が痛い位の寒さを訴えている。

どうしてあんなに過剰反応してしまったのだろう。母は世間一般の子供の自立について話していただけかもしれないのに。
20歳というスイッチを押した途端キョーコとの母との関係は終わるのだ。そんな気がした。独り暮らし、留学…そして若松との交際を推し進めた事さえ…

まるで厄介者を押し付けているような…


涙がにじんで慌てて空を見上げた。こんなところで声をあげて泣くわけにはいかない。泣いたところで誰にも届かない。

“サンタさんへの願い事は空に向かって大きな声で言いなさいって”

ふと先程のサラリーマンの言葉が甦る。
キョーコはあと僅かだがまだ10代だ。おまけにまけて願い事をかなえてはくれないだろうか?


「…敦賀さんを…ください…。」


サンタに届かぬ小さな声は冷気の中に溶け込んだ。そう思った。


「どうして俺が欲しいの?」

耳に馴染む低い声は聞きたかった声だがギョッとして声のした方を見ると、いったい何時からいたのか、10メートルほども離れていない場所に蓮が立っている。

「ど…し…て」
「車から君が駆けていくのが見えた。」
「あの…私…」
「どうして俺が欲しい?ちゃんと答えて?」
「今のは…」
「ちゃんと答えて。俺が求める答えだったら…」

ふっと、端麗な美貌がほんの少し口角をあげる。

「あげるよ。」
「え?」
「君に俺をあげる。だから答えて。どうして俺が欲しい?」

答えるのは怖かった。零れた本音を聞かれた上にそれを肯定するようなことをしてしまったら、店員と客と言う関係さえ喪ってしまうかもしれない。
身を竦めたまま無言の時が過ぎる。それはほんの数分だったかもしれないがキョーコには恐ろしく長く感じた。何か何か…この場を打開する様な事を言わないといけない。そう混乱した頭でぐるぐると考える。

「ねえ」

焦れたのだろうか?蓮の両手がゆっくりと上がる。

まるで何かを迎え入れるように広げられた手。


「答えて?」


その誘惑はあまりに強烈だった。


「…す…きなんです」

ようやく絞り出した小さな声だったが、蓮には届いたようだ。その肩がピクリと動いた。

「違う世界の人だからあきらめようって…そう思ったのに…やっぱり…やっぱり…あ…なたが…よくて…」

ただこれだけの言葉なのに酸素が足りない。いや…胸にこみ上げるもののせいで息ができない。
蓮の手が更に前に大きく広げられた。

「正解。…おいで。」

ふらり、と立ち上がる。1歩、1歩近づくたびに涙で視界が滲んで、あと数歩という所で蓮の姿さえ捉えられなくなった。そう思ったらグッと引っ張られ腕の中に囚われる。

「キョーコ……やっと…捕まえた。」

(どうして…名前…)

最上としか名乗っていないはずなのに。
だが、湧いた疑問は蓮の体温を感じ、ゆるゆると頭と背中を撫でられた途端涙腺が決壊してどうでもよくなった。

キョーコは蓮の背にその手をまわして縋りつくと、声をあげ思う存分泣いた。

その涙は、母との時間に亀裂が生じた哀しみのせいだったのか、想う相手の胸にある幸せのせいなのか?
キョーコ自身にも分からなかった。


(20話に続く)



腕を広げて「おいで?」なんて、似合いそうなの敦賀さんだけのような気がします…。
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コメント

Re: 泣けてきます

>かばぷー様
コメント有難うございます。
そして脳内漫画変換有難うございます!
思い出すのか出さないのか…記憶喪失をテーマにしているくせに話の筋道を考えて大体最後に考えることが多いです。
今回は流石に結末はもう決まっていますが、蓮キョのハピエンはどんな話でも不動です!(笑)

2015/12/07 (Mon) 00:06 | ちょび | 編集 | 返信

Re: もうキュンキュンが!

>くろ様
ようやく捕まえましたねえ。ようやくっていつからだっけ?と連載開始時を確認して半年も前であることに驚愕しました(笑)
キョーコちゃんの想いを確認した敦賀さんはもう怖いもの無しでしょう。ある意味キョーコちゃんがいないとダメダメですけど…。
くろ様の疲労回復のお役に立てて本望です。
残り4話どうかよろしくお付き合いください。

2015/12/06 (Sun) 23:49 | ちょび | 編集 | 返信

泣けてきます

ううぅ〜。やっとキョーコの恋心が告げられましたね。蓮さん待ってて良かった〜。我慢して良かった〜。漸く抱き締めれた〜。おいおい泣いています(;_;)。私の中でも完全な漫画画像ビジョンで動く二人。思い出さなくてもいいから、お願いします。幸せになってください。

2015/12/06 (Sun) 18:01 | かばぷー | 編集 | 返信

Re: 素敵すぎる…!

> genki様
返信遅くなりました。そしてもう過分な褒め言葉有難うございます!頭の中で漫画になってたなんて本当に嬉しいです。
素敵な脳内変換機能を持っていただける方がいらっしゃるって本当に助かります~(笑)。きっと私のお話の何倍増しで素敵ワールドになっているに違いありません。12月の鬼は後4話の予定です。どうか最後までお付き合いください。

2015/12/06 (Sun) 15:34 | ちょび | 編集 | 返信

Re: (´;ω;`)

>け○○様
コメント有難うございます!ようやくです。もう時間かかりましたー。
萌えていただけるのはもう本当に光栄で嬉しいですけど、死んではいけません!私に萌えを沢山くださーい!!!

2015/12/06 (Sun) 15:30 | ちょび | 編集 | 返信

もうキュンキュンが!

敦賀さーん!やったね!やっと捕まえた!もう離さないでーーー!
もう逆転ホームラン!想いを確認すればこっちのもの!
もうキュンキュンが止まりません!
疲れが吹っ飛びました!明日からまた頑張れます!
つづきたのしみです!

2015/12/01 (Tue) 20:31 | くろ | 編集 | 返信

素敵すぎる…!

ぎゃー!素敵すぎます!感動です。もう一つのSKBて感じです♪頭の中で完全に漫画になっていました。理屈の要らないSKBアナザーワールドが、クリスマスの魔法のように広がりました。でももうじき終わりかしら、悲しいですね~。すごく楽しめました。ありがとうございます!!

2015/12/01 (Tue) 17:38 | genki | 編集 | 返信

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2015/12/01 (Tue) 16:48 | | 編集 | 返信

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