2015_12
08
(Tue)11:55

12月の鬼-20(記憶喪失の為の習作5)

今日を含めて残り4話の予定です。。なんとか本年度中に終わりそうです。
なかなか納得できない箇所がありまして、何度も何度も直してみたのですが、やっぱり納得が…
キリがありませんね。


2015/12/8




「車に入ろう。ここじゃあ風邪をひくよ。」

セラピー効果のありそうな心地よい腕が離れて寂しさを覚えたのは一瞬で、手を握られ顔が緩む。
絡む指がなんだか心強い。



■12月の鬼-20(記憶喪失の為の習作5)



事故で2年前からの記憶がない事。
ここ最近の出来事と段々感じるようになった違和感。

自分でももどかしいほど要領の得ない話を蓮は根気強く聞いてくれた。
車に入るときにほどかれた手は再び繋がれ、キョーコが言葉に詰まったり感情が揺れるたびに蓮の指先に力が籠り、それを励みになんとか話を終えた。
蓮が何か言いかけた時、スマホからイメージからかけ離れたメルヘンチックな曲が流れはじめた。

「お電話ですか?。」

通話の邪魔にならないようにと出ていようとノブに手を伸ばしたが、握られていた手は離れない。

「電話じゃないよ。アラーム」
「アラーム…ですか?」
「25日0時のね。」
「え…」
「キョーコ、20歳の誕生日おめでとう。」
「…どう…して…知って…。」

誕生日が25日だということだってたった今話したばかりだ。

蓮は少し小首をかしげてキョーコを見つめた。

「知りたい…?」
「そりゃあ勿論…」

繋いでない方の蓮の手がキョーコの頬に触れた。ゆっくりと何か確認するように撫ぜられ、親指が唇をなぞる。
蓮の眼が細められた。

「教えてあげる。でも…そうなると引き返せないよ?」
「引き…かえ…せない?」
「うん。大学を辞めろとかお母さんと会うなとか言うつもりはないよ。でも君の居場所は俺の隣だ。もう…絶対に…手放さない。」

繋がれた手が熱い。
その手の熱さに、告げられた言葉の強さに息を呑む。

考えてみれば不思議なことだらけだ。
教えた覚えのない名前や誕生日。
たいして質問もされなかった打ち明け話。
そもそもあのコーヒーショップは蓮のような有名人がふらりと訪れる立地ではない。

だけど、だけと…
蓮から告げられた言葉が嬉しくて身が震える。

傍にいていいのだと。望まれているのだと。


キョーコが震えたのを少し不安に思ったのかもしれない。

「突然こんなことを言い出して混乱させてしまっていると思う。でもこれだけは信じて欲しい。…君を…愛してるんだ。」


すべてを投げ打ってもいい…それはこういう時に使う言葉なのかもしれない。

答えの代わりにキョーコは蓮の首に縋りついた。蓮からも痛い位に抱きしめられた。
このままずっとこうしていたい。そう思うほどの心地よさに酔う。

「寒い―!」
「ちょっとー。もう1軒行こうよ!」
「ダメダメ。そんなことしてたら終電終わっちゃう。」


酔っ払いの大きな声に我に返る。ここは車の中とはいえ公道だ。深夜で少ないとはいえ人通りだってないわけではない。
キョーコはおずおずと身を離し、蓮も名残惜しそうに腕の拘束を解いた。

「…俺の部屋に帰ろうか?」

帰る。
その言葉が酷く嬉しい。


走り出した車内で2人は無言だった。あまりにも話したいこと伝えたいことが多すぎて上手く処理できない。
赤信号のたびに繋がれる手だけが2人の想いを伝えた。

車はマンションの地下駐車場に滑り込み、所定の位置に停車すると蓮は再びキョーコの手を握って少し足早に歩きだした。スムーズに上昇をつつけるエレベーターさえもどかしい。

早く。早く。

エレベーターが開き、目的のドアに向かってまた足早に向かう。

早く。早く。早く。

カードキーの読み取りの一瞬の間にさえ焦らされる。
やっと開いたドアを促されたキョーコが先にくぐり、蓮が後ろ手に施錠する。

がちゃり、外界から遮断される音。

「上がって」

後ろからかかった声にほっと肩の力を抜いて、キョーコはブーツとコートを脱いだ。その時チラリと目に入った自分の服装に蓮とこうして会うのだったら一番のお気に入りのワンピースを着るのだったと妙な後悔がわく。
脱いだコートを手にかけると、それを待っていたかのように後ろから蓮の手が伸びてくる。

「ごめん…」
「…何がですか?」

耳のすぐ後ろで囁かれる謝罪の意味が分からない。

「教えてあげるとか言ったくせに…。キョーコが足りなくて…我慢できない。」

かあっと熱が上がる。
咄嗟に自分が身に着けている下着が何だかったかを考えたのが余計恥ずかしい。

「…嫌?」

小さく横に首を振る。

「よかった。」

ひょいとお姫様抱っこをされて廊下を進む。寝室のドアを開けて、規格外の大きさのベットを目にしてもキョーコは驚かなかった。ただただドキドキと自分の胸の鼓動を聞いていた。
まるで壊れ物を扱うようにそっとベットに降ろされて、コートを脱いだ蓮がキョーコの顔の両脇に手をついて覆いかぶさってきた。近づく距離に心臓はもう爆竹状態だが、そっと目をつぶる。

蓮の唇が落ちてこない。

目を開けると先程と同じ距離に端正な美貌があった、

「あ、あの…?」
「…スマホは?持ってきたってさっき言ったよね?どこにある?」
「え…?え…と…コートのポケットに。」

蓮は身を起こすとベット脇に落ちていたコートのポケットからキョーコのスマホを取り出した。それを持つと再び先程の姿勢に戻りスマホを差し出す。

「別れて。」
「わ…」
「今すぐ別れて。君とのこれからの行為が浮気とかそんな扱いをされるなんて絶対に耐えられない。」

ようやく若松の事だと合点がいった。おずおずと受け取り、機械的に着信履歴から若松にコールをかけた。
その様子を蓮は強張った顔でじっと見ている。

♪♪♪♪・♪♪♪♪…

『キョーコちゃん!!!やっと電話に出てくれた!さっき家に鞄を届けに行って最上先生から話を聞いたんだ。俺キョーコちゃんが記憶失くしてるなんて知らなくて無神経な事言ってごめん!先生もすっごく心配して「若松さん」』

電話の向こうにいるのは自分の交際相手で、つい先程までクリスマスデートをしていたはずだ。だが聞こえてくる声は酷く遠くに感じられた。

「私…好きな人がいるんです。あきらめなきゃって思っていた相手だったんですけど、やっぱりその人じゃなきゃダメなんです。」
『え?何?キョーコちゃん何言って…』
「ごめんなさい。お別れしてください。」
『ちょっちょっと待って…』
「すいません。」

蓮が安堵の息を小さく吐いたのが分かった。もう充分だ。今は他の声など聞きたくはない。

通話を終え電源を切ったキョーコからスマホを受け取ると、蓮はそれを遠くに放り投げようと振りかぶり…暫し静止した後に脱力したように降ろした手でキョーコの頭の脇にそっと置いた。

「ごめん。こんなことさせて。」

後悔に美しい顔が歪む。そんな表情をさせたくはないのだ。キョーコは頭を振り、スマホをそっとベットから滑り落とすと蓮の頬に手を伸ばした。

「ちゃんと…けじめをつけさせてくださってありがとうございます。」
「だけど…」
「私フリーになりましたよ?改めて言わせてください。敦賀さんが好きです。」

眼が見開かれた後、蓮は甘く柔らかに笑った。

「キョーコにはかなわないな。俺も愛しているよ。ずっと。ずっと…ね。」


今度こそ唇が落ちてきて、キョーコは知った。

この大きな手が誰より…自分自身よりキョーコの事を知っていることを。

この手を自分が待ち望んでいたことを。


(21に続く)





頭に浮かぶ絵と自分の文章の隔たりが半端ないなあと思いつつ…
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コメント

Re: この日を待っていました

> くろ様
やっとやっと帰ってまいりました!
部屋につくまでチューまでも我慢していたとは敦賀さんとことん我慢の子ですよね。
次回は少しご褒美をあげたいと思います(^_^)

2015/12/10 (Thu) 00:57 | ちょび | 編集 | 返信

Re: お久しぶりです。

>○き様
お久しぶりです。コメント有難うございます!
いつも読んでいただいておまけに拍手までいただけて充分です!
コメントは難しいですよ。私も余所様へのコメントがいつも何を入っているのか分からない文になるので、コメントくださる方を見るとどうして皆さんこんなに書けるのだろうと思っています(笑)
連載半年にしてようやくここまで来れました。あと3話よろしくお付き合いください1

2015/12/10 (Thu) 00:34 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 涙がとまりません~

> aomaho様
コメント有難うございます!「別れて」の場面は是非とも入れたいお話だったので気に入っていただけて嬉しいです。
敦賀さんには長い間辛い思いをさせてしまいました。
完全補充には時間がかかりそうですし、まだまだ実感がわかない感じもあるのかもしれませんが幸せになって欲しいです。

2015/12/10 (Thu) 00:29 | ちょび | 編集 | 返信

この日を待っていました

蓮さま・・・良かったですね・・・やっとキョーコちゃんが帰ってきましたよ。・゜・(ノД`)・゜・。
もう泣きそうです!
蓮さまの部屋に行くまでのもどかしさ!
まずは思う存分いちゃラブしてください!


2015/12/09 (Wed) 21:42 | クロ | 編集 | 返信

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2015/12/08 (Tue) 16:33 | | 編集 | 返信

涙がとまりません~

やっと蓮の腕の中に帰ってきたんですね!寸前で、「今すぐ別れて。浮気扱いされるのは耐えられない」なんて蓮のこれまでの限界ぎりぎりの思いが分かりすぎるくらい分かってしまって泣いてしまいました。きょーこさんもやっと欠けていたピースがピタッとはまった感じでしょうか。次回また楽しみにしてます。とりあえず、蓮には足りてなかったきょーこさんをしっかりたっぷり補充させてあげてください~。

2015/12/08 (Tue) 15:07 | aomaho | 編集 | 返信

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