2015_04
16
(Thu)11:55

強く欲するモノ(10)

12話にて完結です。
このお話最初は4話くらいで終わるつもりだったんですよね…見通し甘いとかそういうレベルじゃありません(笑)

2014/4/5初稿、2014/9/10一部修正、2015/4/16加筆修正の上通常公開





病室を出るとき振り返った

「別れた訳じゃないんだから電話とメールは許してくれるよね?」
「仕方ありませんね」

そういって肩をすくめるキョーコの姿を目に焼き付ける。
その姿が色あせぬうちに迎えに来るのだと己に誓う。




■強く欲するモノ(10)




『京子は渡米に同行しない。婚約は一時解消』

出国前最後の会見で明らかにされた事実に報道陣は色めきたった。

「それは別れたということですか?」
「違います」
「でもそういうことじゃないですか!?」
「必ず迎えに来ます」

そう宣言するとそれ以上の質問は受け付けず、蓮は会見場を後にした。


“女優として使い物にならなくなった京子を敦賀蓮は棄てた”

今、ネットではそういって自分は叩かれているらしい。
だが、そんな雑音はどうでもいいことだ。


「へえ、なんだか前会った時と顔つきが変わったな」

渡米後の打ち合わせで会った監督はそう言った

「…変わりましたか?」
「変わったね。なんというかハングリーな感じが加わったな。ガツガツした役だから、いくら演技力があってもこんな小綺麗なやつでは物足りないんじゃないかと思ってたんだよ。ちょーどいい」
「ハングリー…そうですね。喉から手が出るほど欲しいものがありますよ」

もっと沢山の芝居
演技者して評価
キョーコの横に立つのにふさわしい男でありたい。
キョーコと歩く未来


欲しくて欲しくてたまらないもの。強く強く願うもの。

*
*

キョーコとの糸は、メールと電話

時差の関係もあってなかなか電話では話せないが、その少ない機会ではキョーコの声はいつも明るく笑っていた。
蓮の仕事の話、食事事情、社の話
キョーコの見つけたかわいいもの。作ったご飯。季節の変化、奏江や千織の活躍ぶり
怪我についてはキョーコは一切触れなかった
蓮も聞かない。

渡米してしばらくすると、蓮は手紙も書くようになった。
毎日交わすメールから見ると随分な時間差のネタだが、アナログな通信手段の温かみはまた格別だった。
思いついた時にキョーコ好みのポストカードに気持ちをこめてしたためる。
心は少しでもキョーコの傍にいたいから

*
*

1年と少し経った頃、ローリィから電話があった

『よう。新しい映画の撮りスタートしたんだろ?どうだ?調子は』

この声は絶対遊ぼうとしているとわかる。蓮は警戒しながら返事をした。

「…いいですよ」
『そうらしいなあ。前の仕事観た監督から直接のオファーだってな。賞の常連監督作品の準主役とあっちゃ気合入るよなあ』
「勿論入ってますよ」

そうだろう、そうだろうとローリィが電話越しに頷いている気配がした。
益々嫌な予感しかしない。

『そこでだ!さらに気合が入るプレゼントを俺が用意した!』
「いりません」
『遠慮するなっ!それにそろそろ届くころだ』

蓮の抗議は全く受け入れられることなく電話は切られた。
気の毒そうな顔で電話が終わるのを待っていた社が尋ねてくる。

「社長なんだって?」
「プレゼントがそろそろ届くそうですよ」

社が青褪め、「ちょっと出かけてこようかな」と実にわざとらしく逃走を図ろうとするが、逃がすつもりはない。

「一緒に居てくださいよ」
「嫌だ。お前の為のプレゼントだぞ?サンバか仮面舞踏会か知らないけど、ありがたくいただいて一緒に踊ってこいよ。」
「酷いな。それでもマネージャーですか」

言い合いながらドアを開けると、プレゼントは壁にもたれて立っていた。

不破尚

(よりにもよって)

事件直後に面会を申し入れてきたが断った。それはローリィも納得していたはずなのに。

「海まで渡って…何の用だ?暇なのか?」
「なっ!N.Y.でレコーディングだったんだよっ!」

N.Y.とロスではついでとは言えないだろう。

「で?」
「あんたに伝えたいことがあって…」
「侘びとかいらない」
「あんたに詫びようとは思ってない。だから……キョーコに電話をかけたんだ。」

最後の方は尻すぼみな声になった。
蓮は小さくため息をついて、尚の方を向いた。

「で?詫びさせてもらえなかったんだろ?」
「…別に俺のせいじゃないって」

-まあ、あんたの発言も考えなしとは思うけど、ちょっとは反省したんだったら、その俺様脳にはよかったんじゃない?それでもまだ申し訳ないって思う暇があるのなら、少しでもいい歌作んなさいよ。-

キョーコはそういったのだという。
不破にまで発破をかけたと聞いて少々おもしろくないが、黙って話の続きを待った。

「だけど、俺はキョーコに面と向かってちゃんと詫びたいって言ったんだ!」

そしたら…

「『敦賀さんにも会えてないのに、どうしてあんたと会わなきゃいけないのよ?』って…。…アイツの声震えてた。だから…」

蓮は懸命に言葉を探している尚の顔を見つめた。

おそらく“キョーコを棄てないでやってほしい”。
そんなかっこ悪いことを言いに来たのだ。
誰よりもいいかっこしいのくせに。
きっとこの男もキョーコが泣くのは耐えれないから。

「安心しろ。別れたりしない」

尚が目線を上げた

「俺はどっかの馬鹿な幼馴染と違って女を見る目があるんでね」

おまけにアッカンベーをつけてやって、蓮は歩き出した。

「なっなっ、人が下手に出りゃ…」

後ろで尚が何かわめいていたが放っておく。



キョーコが待っている。
時には泣きたいほどの蓮への想いを抱えて

そしてきっと闘っている

(社長、確かに気合入りましたよ)

蓮はキョーコへと続く空を見上げた。



(11話に続きます)
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