2015_12
30
(Wed)11:55

12月の鬼-番外23.5 行方[前編](記憶喪失の為の習作-5)

ぎゃー!!!25日の0時といつもの時間に予約投稿したつもりが!
仕方ないので後編は10分後位にアップします。寝不足頭はダメダメですね。
なぜ、22話までしか書いてないのに23.5なのか?それは時系列的には23話後の話だから。
23話のネタバレに繋がる部分はカットしたので完結したら細部を書き直して並び替えたいと思います。



23話の内容を反映して一部加筆修正しました。

2015/12/25初稿、2016/1/9一部加筆修正




あれは2人が付き合い出してすぐの頃だ。

「付き合って最初の誕生日に指輪って重いですかね?」
「は?」

冬ドラマの撮影で厳しい残暑の中コート姿で走り回った担当俳優が休憩時間にポツリとした質問。
その直前まで仕事の話をしていたので、いきなりの方向転換に戸惑ってしまった。

「あ…ああ、なんだ。キョーコちゃんのことか。いきなり話変わるから吃驚するだろ。」
「え?あ、あー…すいません。ずっと考えていたもので。」
「お前は頭の中まで本当に器用だな。で、誕生日に指輪贈りたいのか?。」
「ええ…できれば。でも高校生に指輪とかどうなんだろうって。俺こちらのそういう事情には疎いので…。」

あのとかそのとかモゴモゴ続ける担当俳優に、少し前にいろいろとカミングアウトをうけた社はふむふむと頷いた。

(まあ、こいつの育った環境は日本の普通のご家庭とはかけ離れてるもんな)

15の時から来日しているとはいえ、ずっと芸能界の中だ。無理もない。

「でっかいダイヤの立て爪リングは引かれる可能性有りだけど、指輪は基本嬉しいんじゃないか?。」
「そ…ですかね。」

ほっとした表情の蓮をみるとその辺の若造に見えてきて、ニヤニヤと笑ってしまう。

「見た目如何にも高いのはやめとけよ。『返してきてくださーい!』って泣かれるぞ。」
「分かってますよ。」


■12月の鬼-番外23.5 行方[前編](記憶喪失の為の習作-5)



その後すぐに蓮は手配をしたらしい。リングが出来上がったのは11月中旬、事故の直前だった。
アルマンディの事務所でコソコソとしているからすぐにピンときて蓮の背中から顔をのぞかせる。

「え?何、例のやつ?随分早いな。」
「アルのスケジュールに合わせたので…」
「…アール・マンディ自らのデザインかよ。値段怖くて聞けないな。」

アール・マンディ氏の秘書が確認の為とケースを開けようとする。

「ちょっと社さん。あっち行っててください。」
「えー。やだー。俺もみたいー。」
「なんですか。その女子高生みたいなしゃべり。これはキョーコに最初に見て欲しいんです。」
「確認作業の一環だろ。ここで見ないと気になって気になって、俺ずっとソワソワすると思う。それに一般人の感想も大事。絶対大事」
「…分かりましたよ。」

渋々とみせてくれたそれは想像とは違っていた。

「へえ…」
「へえって」
「いやさ。なんか小さめの石で細身の大人っぽいデザインイメージしてたから。」

小さな箱に収まっているのは確かに小さな石が使われてはいるが繊細な彫り物がなされてまるで…

「なんか…中世のお姫様とか、ファンタジーとかで魔法のアイテムに使われそうだな。狙ったのか?」
「ええ、まあ…」
「好きそうだもんな。っていうか絶対好きだよな。目キラキラさせて喜びそう。」

それに間近でみれば金属や石の質が明らかにいいしデザインも洗練されているのだが、パッと見そんなに高級品には見えない。10代とはいえ芸能人のキョーコなら持っていてもおかしくない感じになっている。

「大人の女性になってデニムとかの時に着けても結構いい感じかな…と。」
「うんうん。確かに。いい買い物したんじゃないですか。敦賀さん。」

ちょっと照れたように、でも社からお墨付きが出て少し安心したように笑い、受け取った時のキョーコの笑顔を想像したのか蓮は指輪を愛おしげに眺めた後ゆっくりと箱を閉じた。



その後の行方を社は知らない。



事故後初めての12月25日はテレビ局の控室で迎えた。
12月は正月関係の特番の撮影などで演技以外で長時間拘束されることが多い。精神状態がどん底の担当俳優にはバラエティの収録はきついはずで食欲も落ちている様子だった。今後の体調管理について考えていた社は、蓮のスマホが小さく震えたのを25日午前0時を知らせるアラームとは分からなかった。

「………♫♫…」

微かに聞こえてきたのがバースディソングだと気付いて、スマホの振動の意味に気付き、手帳を広げていたデスクから顔を上げて振り向く。蓮は先程までと同じく雑誌をひろげおだやかな仮面を被ったままで、その唇から漏れる歌は無意識のようだった。
社は自分の配慮のなさを呪う。

(1人にしてやればよかった。)

敦賀蓮の仮面をつけたまま、それでもなお漏れ出るほどの想いを、怒りでも哀しみでもいい。1人にして吐きださせてやればよかった。今の社にはそれくらいしかできないのだから。


翌年は移動の途中だったが、その時間に合せて社はコンビニに入った。
だから車中1人になった蓮がどうしたのかは知らない。だがきっとスマホは愛しい人の誕生日を知らせたのだろう。

この2年間、12月25日は社にとって、己の不甲斐なさとこの状況のもどかしさ、そして言いようのない哀しみを感じる日となった。

*
*

そして事故から2年。
蓮の迎えを待ちながら社はため息を落とす。

(結局キョーコちゃんに会わせてあげれないまま25日になっちゃったなあ…)

キョーコが母親のすすめる男と付き合い始めたことで、蓮は期限まで待たずに動こうと決めた。だが12月は芸能人にとってはまさに追い立てられるような日々だ。なかなかに時間が取れず、取れても公園のコーヒーショップが開いているような時間ではなかった。たまに行けても店は開いてなかったりキョーコが立っていなかったりと空振り続きだ。
しびれを切らした蓮はローリィにキョーコの自宅を聞いて、仕事上がりに車で周囲を走ったりもしたようだ。先に最上弁護士に見つかったらと思うとリスキーだが仕方ない。だが、連日のてっぺん越えではそれでも会うことは叶わなかった。

(二十歳の誕生日までってことで蓮には随分と我慢をさせたのに)

付き合っている男がいるとなると、クリスマスと誕生日が続く2日間はいわば地雷地帯だ。記憶を喪う前のキョーコの性格からいってすぐに男と深い関係を望むことはなさそうだが、相手はそれなりに経験もありそうな大学生だ。そんなイベントを見逃すとは思えない。

(今日は昼に2時間ばかり空きがあるんだけどな…)

例え会えても「彼氏と熱い一夜を過ごしました」後だったら…と思うと胃が痛くて仕方ない。
そうこうしているうちに蓮の愛車が滑るように社の前に停まった。

「おはようございます。」
「おはよう。蓮、その…」

言葉を探しているうちに車内の異変に気付いた。
後部座席に昨日までは無かった結構大きな段ボール、その開いた口から見えるのはどう見たって女性物の鞄だ。

ヒュッ
己の喉が異常音を立てる。

担当マネージャーとして、1人の友人として、社はこの美麗な男が行きずりの女性と関係を持ったり、ましてや性犯罪に走るようなタイプではないと断言できる。
だが、世界にただ一人、最上キョーコに関しては別だ。

真っ青な顔のままいつまでも着席しない社に蓮が訝しむ様に後ろを振り返り、その視線の先に気付くと少し頬を染めて言葉を探した。

「いや…その……いるんです。」
「…何が?」
「部屋に…キョーコが。」

意味を理解するのにおよそ7.5秒の時間を要した。

「お…おま…まさか…無理矢「合意の上です」」

あまりの衝撃の展開に、経緯を聞く間突っ込みもからかいも出来なかった。
丁寧に説明をしながらも、頭の中では幸せを噛みしめているに違いない担当俳優で遊んでやろうという余裕が生まれたのは撮影現場に到着してタイミングだった。なんとも残念だが、せめて緩んだ顔だけは注意しなければと見てみると、蓮の方も自覚はあったらしくきちんと仮面を被ってから車を降りた。もっとも肌は艶々だし色気は滲み出ていたがそのくらいは大目に見ることにする。

「社長には?」
「朝マンションを出てから連絡を。今晩キョーコも一緒に夕食をということでした。」
「上がり11時過ぎるぞ?」
「ええ。ですからキョーコだけ迎えをやるから先に来てほしいと。」
「それはキョーコちゃん不安じゃないか?記憶殆ど戻ってないわけだし」
「そうなんです。ですから社さん先に出て同行してもらえませんか?昼の空き時間にランチを社さんの分もお願いしてるんでその時にキョーコには説明します。」
「わかった。」

キョーコちゃんの手料理楽しみだな。そう続けて、担当俳優のこの2年使われていなかったキッチンを思いやる。

「料理って…材料何もないだろう?。」
「下のスーパーで買ってくれるよう頼みましたよ。」
「にしたって…調味料だって全部賞味期限切れだろ?結構な量の買い物になるぞ?」
「今度2人で買い出しに行きたいから最低限にしてくれって言いました」
「それにしたってなあ。あ、お前古い調味料とか処分してる?」
「…キョーコが使っていたままにしたかったので。」
「うわぁ。甘い夜が明けたらいきなり台所の大掃除かよ。キョーコちゃんかわいそ。」

慌てた様子でスマホを弄りだした担当俳優に社は笑う。

「蓮、よかったな。」

こちらをむいて「ありがとうございます。」と告げた笑顔はある意味最終兵器と言っていいほど極上だった。


(後編に続く)
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