2015_04
23
(Thu)11:55

強く欲するモノ(11)


2014/4/7初稿、2014/9/10一部修正、2015/4/23加筆修正の上通常公開




この地で夢破れて帰っても、『今度は2人で頑張りましょう』と彼女は笑って抱きしめてくれるだろう

でも、どうせならいいところ見せたいじゃないか。



■強く欲するモノ(11)



『Jap』

カットがかかった為セットから下りようとした時、背後の共演者が吐き捨てるように告げた

『お前がその役をやれるのは日本での興行収入のためさ。お前の実力じゃない。調子に乗るな』

小声だが悪意に満ちた言葉
蓮は顔色一つ変えずセットから降りた。


「気にするなよ」

2人になった途端、社が蓮を気遣う。どうやらこの耳聡いマネージャーに聞かれていたようだ。

「自分は端役で、蓮が準主役なことに嫉妬しているだけだ。」
「大丈夫です。気にしてませんよ。逆に勉強になるっていうか…」
「はあっ?」
「いや、俺って両親のことを重荷に感じてきたじゃないですか」

“あの親だから”“あの親なのに”

その言葉に縛られ続けた昔
それが今は

“Japのくせに”“日本のマーケット狙いのおかげで”

以前ならどんなに頑張ってもダメなのかと絶望したかもしれない
だが

「ああいう悪意って、たぶん俺が何者だろうと俺を貶める事を探してくるんだろうなって」

生まれ
顔のつくり
事務所の規模
もし見つからなかったら作り出すのかもしれない。

「そうだとしたら相手にするだけ時間の無駄かと。俺のことを理解したうえで評価してくれる人を増やす努力を続けようと思いまして」

久遠の眼では見えてなかったことが、蓮というレンズを得たことで浮かび上がる。

皆が自分に両親の影を見るのが嫌だった。
でも、両親の影に一番こだわり過ぎていたのは自分かもしれない。
目立ってなんぼの世界。なら目立つ者はやっかまれるのは当然だ。
今ならバックグランドを公表した後に両親の名前欲しさに仕事が来ても、チャンスととらえて受けるだろう。
そして精一杯演じるだけだ
後の評価は世間がしてくれる。

「へえ、強くなったもんだねえ」
「その分、ちゃんと評価されてるって思ってる人に否定された時の落ち込みはすごいでしょうけどね」

苦笑する背中をドンッと叩かれる。

「自信持てよ。敦賀蓮は俺の自信作でもあるんだぞ?」

ニタッと笑う敏腕マネージャー

そう。
今の自分には社がいる。社長も、LMEのスタッフも、テンも、
何よりキョーコが

でも…きっとあの頃の自分にもいたのだ、リックだけでなく。
自分の殻に閉じこもっていたから気が付かなかっただけで。
気付けていたら、きっとリックを失わずに済んだ。
まだ子供だったからとかそんな言い訳はきかない。

それは明確に蓮の罪
絶対に忘れない

でも、そのお蔭で日本へ行き、社をはじめ、今の自分を支える人々に出会えた
何より、キョーコに出会えた

そのことも絶対に忘れてはいけないのだ。

*
*



渡米して2年と少し経った3月の第1日曜日

ロサンゼルス、ハリウッド
収容人数オーバーと言えるシアターの喧騒の中に蓮はいた。

45秒という制限時間をはるかに超えるスピーチはまだ続いており、蓮の意識は日本へと飛んだ。
“寒の戻りで雪まで舞いました”
見ごろだという梅にチラつく雪の写真が添付されたメールが届いたのは昨日のことだ。

(キョーコの足の負担にならないよう早く暖かくなればいいのに)

そんなことを考えていたから

「Ren Tsuruga!」

呼ばれた名前に反応が遅れた。


会場が揺れるほどの歓声と拍手
監督と主演俳優の祝福に応えて壇上に向かう

上から見るその場所は光と音で溢れていた。

「…っ」

不覚にも声が詰まる。
短めのスピーチの締めくくりだけは決まっていた

「…リックと愛するキョーコに捧げます」


贈られた彫像を掲げて、あえて少し挑戦的な笑みを浮かべた
カメラの向こうにいる彼女に向けて

(ほら、約束の3年より少し早くなったよ。キョーコ)


これでゴールじゃない。

もっと演技の高みに
演じることの充実感に

でも、その前に

君の隣で歩む未来を!



式典の後、蓮は足早に社のもとへ向った。
困らせてしまうのは分かっているが、この我儘だけは通したかった。
もしかしたら泣いてくれたのかもしれない。少し目が赤い敏腕マネージャーは操作が終わったスマホを片付けながら「おめでとう」と笑ってくれえた。

「社さん…」
「スケジュールの調整も、飛行機の手配も終わってるよ。お前の名前が呼ばれた直後から始めたからね」

あまりの敏腕ぶりに少し笑ってしまう。

「流石ですね」
「ただ、日本滞在は3日間だ。その後はとりあえず一度戻ってもらうからな」

蓮はうなずいた。

「キョーコちゃんには電話で知らせるのか?」
「いえ、テレビ見ているでしょうから」

きっと、蓮のメッセージは伝わっている。



(次回12終話です)





賞の事は全く持って詳しくありません。
ちょっとだけ調べたのと、後は昔テレビで見た授賞式のぼんやりとした記憶だけです。
お詳しい方はスルーしていただけるか、「これだけは直した方がいいよ」とコッソリ教えていただけると嬉しいです。
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コメント

Re: 限定もの

> 節様
早速のご訪問有難うございます。そして再読宣言に小躍りしました。
敦賀さんにはあの留守電位いけしゃあしゃあとキョーコちゃんへの愛を語る日が来てほしいです(笑)

2015/03/25 (Wed) 00:52 | ちょび | 編集 | 返信

限定もの

貰い泣きしました。敦賀さんの留守電最高!!限定もの読めるようになって感激でした。多分何日かしたらまた読むでしょう!と言うか読みます。一歩いっぽも数え切れないくらい読むと思います。

2015/03/24 (Tue) 19:14 | 節 | 編集 | 返信

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