2015_12
31
(Thu)15:06

12月の鬼-エピローグ(記憶喪失の為の習作5)

ギリギリセーフ!
12月の鬼完結です。半年もの間お付き合いいただきありがとうございました。

ちょっと急いで仕上げたので、また時間ある時に修正したいですが、時期的にも今日あげるのがいいのじゃないかと…

そして、年末のご挨拶を。
この1年、駄文にお付き合いくださり本当にありがとうございます。
ここの所は拍手御礼等滞っているにも関わらず沢山の励まし本当にありがとうございます。年明けになると思いますが必ずお返事させていただきます。

新しい年も時間の許す限り書けたらな、と思います。お時間ある時にお付き合いください。

ちょび


2015/12/31





“最上キョーコ”としての最初で最後の舞台 「春来る鬼」


レベルの高さで知られる演劇部の春公演は立ち見が出るほどの盛況ぶりだたが、どんなに多くのお客さんがいようとも見つけ出せる。





そして誰より愛しい人




■12月の鬼-エピローグ(記憶喪失の為の習作5)




「キョーコちゃん、いらっしゃい久しぶりだね。元気にしてた?」
「お久しぶりです。その節はご迷惑をおかけしてすいませんでした。」
「いやいや、こちらこそ次のバイトさんが見つかるまで無理言ってごめんね。」

この店にくるのは1月中旬でバイトをやめて以来だから2か月ぶりだ。挽きたてのコーヒーの香りがなんだか懐かしい。

「もう来られてるよ?」

のは店の一番奥のテーブル席だ。キョーコは小さく頷いた。

「本日のおすすめでいいかな?」
「はい。有難うございます。」

明るく笑って頭を下げるとテーブルに向かう。
仕事なのかノートPCに向かって何やら難しい顔をしている。コーヒーが運ばれているのにも気付いていない様子にせっかくの香りや味が台無しだと苦笑しながらキョーコは声をかけた。

「待たせてごめんなさい。お母さん。」

弾けるように冴菜が顔を上げた。そのまま何か言葉を探すようなそぶりを見せる。

「…キョーコ…あの…」

続きはまだ聞きたくなくて殊更明るい声を出した。

「昨日は舞台見に来てくれてありがとう。すぐ分かったよ。嬉しかった。」

3カ月ぶりに見る少し痩せた顔が一瞬くしゃりと歪んだ。涙をこらえたのだろうか?

「…驚いたわ。まさかあなたが鬼の役をするなんて。少し線の細い男の人かと本当に思った。」
「ありがとう。結構評判よかったんだよ。」
「ええ。本当にいい演技だったわ。」

心の波立ちを手の中にあるカップを見つめることで誤魔化した。

自分はずっとずっとこうして母に認められたかったのだろう。

「…成人式の写真、ありがとう。まさか着てもらえると思わなかった。」
「着るよ。せっかく選んだんだもの。あの柄一目ぼれだったし。あ、5月から仕事本格復帰の予定なの。映画のお仕事いただけそうなんだ。もし実現したらチケット送るね。」
「ありがとう。楽しみにしてるわ。」

冴菜が言葉を探しているのか、手の内のカップに視線を落とした。こういう癖まで似ているのだ。

「舞台…敦賀さんも観に来てたわね。」
「…うん。暗くなってから入ってきて一番後ろに立ってたのによくわかったね。」
「なんとなくそうかなって振り向いたら目に入ったから。終わってから見たらもういなかったけど」
「パニックになったから困るから明るくなる前に出たの。飛行機の時間もあったし。」

まだまだ固い会話。
でも幾度もカップの中のコーヒーを見つめる仕草で、今なら分かる。母は本当は蓮と上手くいっているのか、幸せなのか、身体は大丈夫なのか…、そんなことを本当は聞きたいのだと。


あの夜から多くの人に会って、沢山の話を聞いた。
受け入れられないことも、怒りも、もどかしさも、今だキョーコの胸の中にある。

仕事でもキョーコ個人でもこの2年間の遠回りがなかったら…そんな風にも思う。

だけど

嘘の過去の上に成り立っていた生活だった。
でも、過ごした時間はキョーコに向けられていた冴菜の笑顔は決して嘘なんかじゃない。

その確信がキョーコを冷静にしてくれた。前を向かせてくれた。

母も1人の人間だ。
時には身勝手で、時には間違うのだと。

詰りたい気持ちもある。
どうしてと尋ねたい気持ちもある。
蜷局をまく感情は上手く言葉に出来ない。

だけど、母という存在を抹消する気にはなれない。

こうやってぎこちないながらも、お互いの関係を見直して…いつか…いつか…互いの想いの丈を話し合えるそんな日がくればいいと思う。

(…でも…)

キョーコは思い出す。
あれは蓮の元に戻ってすぐの事だった。

*
*

眼が覚めると寝室で、蓮の腕の中だった。
リビングで後期試験に備えて語学の勉強をしながら蓮の帰りを待っていたはずなのにと思いながら枕元の時計を確認する。もう日付は大晦日になっていた。

(起こしてくれればよかったのに…)

30日が仕事納めの蓮にお疲れ様を言いたかったキョーコは、少し頬を膨らませながら身を起こす。連日の疲れが溜まっているのだろう、恋人はぐっすりと眠っている。
確かお茶を飲もうとして用意をしていたはずだ。電気も消えているだろうかとそっとベットからおりて寝室を出た。

一度は沸いたはずのお湯はケトルの電源が落ちてすっかり冷めていた。その脇には出したままのポットと茶器。目が覚めてしまったしカモミールティーでも飲もうかともう一度スイッチを入れる。

仕事をはじめた電気ケトルが唸る音の向こうで何かが聞こえ、耳を澄ます。

「……―コッ!?」

小さな呼び声は確かに蓮のものだ。
何かに怯えたような、悲痛な声。

何事かと思い急いでキッチンを出ると、蓮も寝室を飛び出してきた。余程慌てているのかスリッパさえも履いていない。

「敦賀さん?どうしました?」

その声に肩を揺らして、蓮がこちらを向き、キョーコの姿を確認して安堵したように、でもまだ不安そうに小さく息を吐いた。フットライトの灯りだけの所為かひどく顔色が悪い様な気がして慌てて駆け寄る。

「どうしました?」
「あ…いや…起きたらいなかったから…ちょっと吃驚して…寝ぼけたみたいだ。」

誤魔化すような笑いを浮かべる蓮の腕に触れる。
いつもキョーコを優しく包んでくれるその腕は震えていた。



蓮は一度も冴菜を責めるような事を口にしたことが無い。

きっと強引にでも取り戻す手段はいくらでもあったはずだ。
でも、キョーコの中のずっと満たされないまま押し込めてきた母への感情に区切りをつける為の時間をくれた。そしてその時間は決着はつかないまでも、“愛されない子供”だと思っていた自分から卒業する機会をくれた。

でもその間、蓮は?

幾夜夢にみたキョーコの姿を探してこの冷たい鉄筋コンクリートの中を歩き回ったのだろう?

その度にこんなに震えて冷たくなったのだろうか?
あんな悲痛な声で返事のない呼びかけを続けたのだろうか?


自分の熱を分けたくて、安心させたくて、その背に腕を回す。

おずおずと蓮もキョーコの背に腕を回して、存在を確認するように何度も何度も撫ぜた。


ここにいる。
確かにいる。

決してもう…離れたりはしない。


*
*

「じゃあ…仕事があるから。」
「うん。無理しないで。また連絡するね。」
「ええ…また…。」

店の前で別れた母に背を向けて歩き出す。

鞄からだし確認したスマホには着信履歴はない。きっと心配しているだろうに。
一番上に登録されている番号に電話をかける。

「…今電話いいですか?…ええ、お店出たところです。…大丈夫ですよ。」


誰より誰より愛しい人。
キョーコを守ってくれて…キョーコが守りたい人。


蓮がいるからといって母との繋がりはなくならない。
幸せになって欲しいし、できることなら大切にしたい。

だけど、
だけど、

キョーコには譲れないものができた。

もう絶対に1人にしない。
離れない。

2人で、互いの夢に向かって進んでいきたい。生きて行きたい

だから母だろうと、誰だろうと、2人を別とうとしても、今度は絶対守り抜いて見せる。
蓮との絆を、時間を、未来を



たとえ

鬼になろうとも



(fin)






本当に長い間お付き合い戴きありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか?まあ面白くなかったと言われても書いてしまったものは仕方ないのでごめんなさいと申し上げるしか術がないのですが…

これ、最初は23話部分だけのお話だったんです。「キョコ誕にこういうちょっと薄気味悪いのもどうかな?」みたいな。
いやー。無駄に膨らませましたね(笑)
そして念のためと思って6月にスタートしたのにギリギリになるという無計画ぶり。本当に色々すいません。

後半部分はちょっと日常生活に圧迫されて、冴菜さんの心情とかうまく表現できなくて心残りの部分がありますが、まあ…文才もしれてますしこんなもんですかねえ…。

年明けからは「ほんのわずか」の番外やリクエストに取り掛かりたいと思います。

今度記憶喪失書くときは明るいのがいいですね~

では




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Re: ふぅ。

>まじーん様
大好きなんて言って戴けて光栄です!
賭けの勝敗は別の視線からみたお話やら、12月の鬼はサイドストーリーやらが頭をよぎったりしたのですが、きっと書かない方がいいんだろうなと思っています。
お話を書き上げて間を置くとなかなか同じ空気?に持っていくのが大変なのは流石に学習しましたし(笑)
お話続けて読んでくださって本当に嬉しいです。有難うございます!

2016/05/19 (Thu) 05:16 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

ふぅ。

大好きな記憶喪失の為の習作シリーズ。

昨夜は「賭けの勝敗」を再読、本日は「12月の鬼」を一気読みさせていただき、満足感と共に、最終話を迎えた寂しさを感じております。
どのシリーズも見事な終わりかた・・・物語としてきっちり完結していて、満足度も非常に高いのですが、お話の世界に引き込まれまくっていた分、続きがない寂しさが・・・・‧⁺◟( ᵒ̴̶̷̥́ ·̫ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )
てなわけで、次のお話に嵌ってきまーす。ヾ(๑╹▽╹)ノ"

2016/05/05 (Thu) 16:25 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

Re: 再びコメントすみません

>かばぷー様
2度目の通し読み有難うございます。
どんな話でも蓮キョを蓮キョらしく書きたいなと思っていますのでとてもうれしいコメントでした。
私の頭の中でもいつも画像で浮かんでますよ。その通りに書けた例がありませんが…。

2016/01/15 (Fri) 08:16 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

再びコメントすみません

二回目通し読みも、やっぱりいいです〜〜(>人<;)。
車の中でキョーコの輪郭をなぞる蓮さん。冬枯れの木立の中で「どうして俺が欲しいの?」と聞く蓮さん。(その後の「あげるよ。」も好き。)とどめは、冴菜さんが「鬼」と称した、玄関先に佇む蓮さん。
なんだか、妄想脳に画像を見て、格好良過ぎな上に切なすぎです。
キョーコへの思いで、頭を下げてお願いする愛の形も、強い、強い気持ちの現れで、ほろりとさせていただきました。
ちょびさんの蓮さんは、何時でも見たい。こんな感じで動いて欲しい。囁いて欲しい。敦賀蓮とは、こうあるべし‼︎を王道で走っていらっしゃるので、正直、超満たされまする。一歩いっぽも、ほんのわずかも、心臓が痛いぐらいのトキメキです。
また、ぎゅんぎゅん来るお話を楽しみにしています。
ありがとうございました〜〜(≧∇≦)

2016/01/11 (Mon) 18:15 | かばぷー #- | URL | 編集 | 返信

Re: 完結おめでとうございます!

>○海様
まとめ読み有難うございます!
私は我慢できなくて読んじゃう人なので凄いです。半年本当にお待たせしてすいません。
そしていつもながら丁寧な感想に本当に嬉しくなりました。色んな人の想いを妄想しているので、その心情を受け止めてくださってお話を読んでくださって嬉しいです。
敦賀さんはもう本当にひたすら我慢我慢でしたね。これからも時々揺らいで、それを隠そうとするんでしょうけど、きっとキョーコちゃんやヤッシーに見つかっていくんだと思います。2人の優しい日常の中で心が癒されて行けばいいなと思っています。

2016/01/07 (Thu) 00:29 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

>aomaho様
年末年始のバタバタお疲れ様でした。
キョーコちゃんの記憶については戻ったのか戻らないのか、あえて触れずにエピローグを書きました。
冴菜さんもキョーコちゃんもそれぞれ互いを認め合っていける未来がくればいいと思います。
敦賀さんは今回は本当につらい目に合せてしまいました。キョーコちゃんとの幸せな日常の中で心をゆっくり癒して行ってほしいです。

2016/01/07 (Thu) 00:24 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2016/01/05 (Tue) 04:28 | # | | 編集 | 返信

あけましておめでとうございます。
12月の鬼完結お疲れ様でした。年末年始バタバタしていて、今日やっと最終回をゆっくり読ませて頂きました。結局きょーこさんの記憶は戻らないまま最終回なんですね。まだまだきょーこさんの中でいろいろ消化しきれないことも多いようですが、冴菜さんとはこれから違った形で新しい関係を築いていけるといいですね。蓮もめいっばい甘やかしてもらうといいなと思います。次は、ほんのわずかの番外もあるということで、楽しみに待ってます。

2016/01/04 (Mon) 22:52 | aomaho #- | URL | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

>○○○ま様
返信遅くなりました。そして明けましておめでとうございます。
何度も読み返して頂き本当に嬉しいです。車の中の敦賀さんのシーンは自分でも書きたかったシーンなので凄く舞い上がります。
色んな視点での妄想は繰り広げているのですが(たとえば一度も登場してない光さんとか、キョーコちゃんの真似っこしてた共演女優さんとか)同じ場面での他者目線というのはあまり書く自信が…(同じシーンで読める話を書ける自信がないのです。)
機会があったらその後の日常生活で不安に揺れる敦賀さんとか書けたらな…とは思いますが、きっと蛇足になること間違いなしです(笑)

2016/01/04 (Mon) 07:13 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: 12月の鬼

>○○コ様
お返事遅れて申し訳ありません。明けましておめでとうございます。
記憶喪失の習作、トータルで40作を超えました。見てみたら全体の作品数の20%以上を占めていましたよ…どれだけ書くんだ自分と苦笑もするのですが、皆様からの反応が大きくて書いていて楽しいシリーズです。
このラストを連載をスタートする時点では決まっていたのですが、結構好き嫌いあると思っていたので気に入っていただけて嬉しいです。恋愛や結婚は他人同士である分他には譲れない一線みたいなものがあるんじゃないかと思っています。

2016/01/04 (Mon) 07:07 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2015/12/31 (Thu) 20:31 | # | | 編集 | 返信

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2015/12/31 (Thu) 20:17 | # | | 編集 | 返信

お疲れ様でした!

完結おめでとうございます!
冴菜さんとの生活は決して無駄にならず、母に愛された記憶として糧になればいいですね。
しかし蓮さまは可哀想なので、これからたっぷりとキョーコちゃんに甘えるがいいです!
素敵なお話ありがとうございました!
ほんのわずかの番外甘ったるくて大好きなので楽しみです(≧∇≦)

2015/12/31 (Thu) 19:26 | くろ #- | URL | 編集 | 返信

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