2016_02
16
(Tue)11:55

不器用エール(前編)

もうすこしの続きを待っておられる方すいません。どうしてもどうしてもまとまらなくて…
それに本誌が出る前に出しとく方がいいかな…と。
12月の鬼とか書いといてなんですが、実はこういう最上親子像が理想です。


2016/2/16




事故渋滞に巻きこまれ到着時刻は大幅に遅れた。このままでは依頼人との約束に遅れてしまう。


最上冴菜が約束時間ギリギリに駆けんだログハウスは、公園の片隅にある立地のせいで周りの木立が鬱蒼と繁っているために都心の隠れ家といった風情だ。
重い扉を開けるとカラコロと入店を知らせる鐘がなり、その音に弾かれたように奥のテーブルにいた依頼人が顔を上げた。

「待たせたかしら?」
「いえ…私もさっききたところです。お母さん。」



■不器用エール(前編)




「お店はすぐに分かった?」
「事務所の方が送ってくださったので。素敵なお店ですね」
「そう?」

実はキョーコに喜ばれる店をとグルメサイトで必死に探した事などおくびに出さず冴菜は席についた。

*
*

最上冴菜は自分には母親なんて名乗る資格が無いことは重々承知している。その彼女がこうしてキョーコと食事をとるようになったのは一重に同僚のせいだ。

半年ほど前に藤道に打ち合わせだと呼び出された店で依頼人として紹介されたのがキョーコだったのだ。

「お、これまた深い最上川。」
「…どういうこと?藤道先生。依頼人はどこに?」
「だからここに。」

藤道が指し示す先にはカチカチになって座ったキョーコ
眉間の皺がさらに深くなる。

「…」
「川と言うより海溝だな。いやさ、偶然電車で会ったんだよ」

挨拶程度の世間話をするうちにキョーコに刑法関係で質問をされた。2時間ドラマを見ていて疑問が湧いたらしい。

「そういうことなら君には顧問弁護士いるんだし。という話になってさ。その方が俺も面倒くさくないし?」

何が顧問弁護士だ。後半部分が本音だろうとますます眉間に皺がよる。
反論しようと口を開きかけたところで藤道がついと耳元で囁いた。

「母親失格でもそれなら最上の得意分野だろ?」

どうしてこう図星をついてくるのだ。だからこの男は苦手なのだと眉間の皺の数まで増したが、反論するだけ無駄なので腰を降ろす。

「依頼内容は?」
「え?」
「何を聞きたいのかと言ってるのよ」
「え…とですね」
「まあまあ、取り敢えず注文しよう。お店の人待ってるよ。爆弾ハナタル頼んでいい?」

なんで高い焼酎を奢ってやらねばならぬのだ。だが、口を開く前にキョーコがオズオズと申し出た。。

「あ、あの…今日のお支払は依頼人の私が「高校生に奢ってもらう程落ちぶれちゃいないわ。」」

藤道から奪い取ったメニューを開き目を走らせる。
キョーコは肌艶もよく元気そうだ。だがいくら芸能人とはいえ少し細すぎないか?
芸能人の過剰なダイエットについての特集記事が冴菜の頭をよぎる。何か何か…精のつく食べ物を…。

「…レバニラ。」
「はいっ?」
「レバニラ食べなさい。」
「へ?レ…レバ?」
「最上、女子高生にレバニラはないだろう…」

そうこうしているうちに食事が終わり、「改まっては聞けない相談内容もあるだろうし、次は来月末なんてどう?俺、すき焼き食べたいな」などと藤道に提案されて、思わず「私がセッティングするから藤道先生は結構よ」と口走ってしまったのだ。

*
*

そして今回が3回目の“相談日”だ。

藤道曰く「相談と言うより事情聴取」のような会話をしながら、冴菜は行儀よく食事を進めるキョーコの様子を伺う。

(この店の雰囲気、ちょっと好みじゃなかったかしら?)

前のイタリアンは、事務所の若い弁護士がデートで好評だったと話すを小耳に挟んでチョイスした。オーナーがこだわってミラノで買い付けてきたと言うステンドグラスやランプを目をキラキラさせながら見ていたキョーコは、今日は最初に店の雰囲気を褒めたきりあまり関心を示さない。
ハンバーグが売りのこのレストランは冴菜自身がグルメサイトから探し出した。木の風合いを生かした内装とキャンドルの使い方が評判らしくキョーコが気に入ると思ったのに。
やはりセンスのない自分が選ぶには無理があったのか。

(もっと明るくてキラキラした感じの方がよかったかしら。)

だが、そんな店で食事をする自分の姿を想像するだけで眉間に皺がよる。

視線を感じたのか、キョーコが食事の手を止めてこちらを見た。

「あ、あの…」
「ちゃんと学校へは行ってるの?テレビでしょっちゅう見かけるけど」
「見て下さったんですか?」

瞬時に染まった頬がなんとも可愛らし…いやいや相手は依頼人依頼人と10回胸のなかで唱えた。

「たまたまつけたテレビで見かけるから」

実は生まれて初めてDVDレコーダーなるものを買い、3時間かけて説明書を読み込んだ上で四苦八苦して『京子』でのキーワード録画を成し遂げた。当の本人には絶対に秘密だが。


店への食い付きが悪かった以外は最上親子的にはには実に和やかに食事は終った。結局冴菜からの尋問が殆どを占め、キョーコからの法律相談の時間が無くなったことにはあえて気付かない振りをする。

「ご馳走さまでした。」
「いえ…地下鉄で帰るの?」
「はい。」
「私はタクシーつかまえるわ」
「じゃあ私はこっちなので」

丁寧にお辞儀をしてキョーコは駅に向かって歩き出した。冴菜はスマホを取り出すとメールをチェックする振りをしてその後ろ姿を見守った。角を曲って大通りに出てすぐに地下鉄への出入り口があるが、この辺りは夜間は人通りが少ないのだ。
オフホワイトのコートを着たキョーコはピンと背筋を伸ばした綺麗なウォーキングで歩いていく。まるでモデルのようなその姿に、本当に芸能人なんだと妙に納得をしているうちに、曲がり角に差しかかった。

(もう大丈夫ね)

さあ自分もタクシーを捕まえようとスマホを鞄に入れかけた。
その時だ。
ビルの角に半分隠れたオフホワイトのコートがぐらりと揺らぎ…見えなくなった。


何、と思うより先に足が駆け出す。

「キョーコ!?」

角を曲がった先にはしゃがみこんでいるキョーコの姿。

「キョーコ!?どうしたの!?」
「あ…お母さん…。ちょっと躓いちゃって」

こちらを見上げる顔は真っ青で額には脂汗が浮いている。躓いた、そんな理由では決してない。

病院へ。どうやって?救急車?いや意識もあるのに大袈裟か。仮にも芸能人なのだ。あまり騒ぎ立てるのはよくないかもしれない。ではタクシーで?だがこんな時に限ってタクシーのタの字も通らない。

(やっぱり救急車を…)

「最上さん!」

スマホの画面に指が触れるよりも先に聞こえてきたのは、聞き馴染みのない、でもどこかで聞いたことのある声。

(え?)

すぐ近くに停まった高級車から飛び出てきた男に驚愕する。
聞き馴染みがなくてもどこかで聞いたことがある…そんな矛盾も当然だ。その声はいつだってテレビや街角で機械を通して聞いているのだから。テレビで見ない日はない芸能人敦賀蓮。今朝だって朝専用缶コーヒー飲みながら「今日も一緒に頑張ろうね」なんて画面の向こうで微笑んでいたではないか。

「つ…るがさん。ど…うして」
「送ってきた時様子がなんだかおかしかったから」
「敦賀さんには私の演技じゃ通用しませんね…。取材は…」
「ちゃんと終わらしてきたよ。大丈夫。」

敦賀蓮の声はテレビで聞くより随分甘い。だがそんな声よりその内容に驚愕する。自分が気付けなかったキョーコの体調不良にこの男は気付いていた?そして送ってきたということは事務所の人とはこの人気俳優の事か?まさかこんなスターが新人の域をでないキョーコの足みたいなことをするわけは…

混乱する冴菜には頓着せず、人気俳優は流れる様な動作で己のコートを脱ぎながら近づくと、今脱いだそれでキョーコを包み込む。一般人がやったら滑稽にもなりかねないキザなその仕草が決まって見えるとは恐るべし芸能人。

そのまま抱き上げられそうになったキョーコが、どこにそんな力が残っていたのかと不思議なほど抵抗して見せる。

「大丈夫です!」
「大丈夫って顔色じゃない。」
「本当に大丈夫です。少し休んだら地下鉄で帰れますから。」
「うつるとかそんな心配している場合じゃないだろう?」
「違います!」
「最上さん」
「病気じゃないんです!」
「そんな顔色で何を「生理なんです!!!」」

「……」

青い顔を赤くするなんて器用な真似をしながらキョーコが叫ぶと、敦賀蓮は暫し固まって…ほんの少し頬を染めて横を向きコホンと咳をした。

「ですから「じゃあ…うつる心配はないよね?」」

返事をする間も与えられずキョーコの身体は宙に浮いた。
所謂お姫様抱っこのまま己の車に2,3歩進んだ蓮がこちらをふり向く。

「貴方はどうします?」

どうでもいいけど一応聞いとく感満載のその言葉にムッとして、反射的に答える。

「一緒に行くわ!」
「どうぞご自由に。」

依頼人の身の安全の確保も弁護士たる自分の責務だ。
男の車に1人載せるなんてそんな危険は冒させるわけにはいかない。

冴菜は蓮の後に続いて車に向かった。

(後編に続く)
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コメント

Re: ツンデレ・・・

>aomaho様
コメント有難うございます!お返事遅くなって本当にすいません。
冴菜さんの若い頃ってやっぱりキョーコちゃんに似てるなあと思って、それなら挙動不審なところも似ちゃったりしてるのかなと思います。いつもはクールだけと時々1人でブツブツ言ってみたり頭抱えてみたり…
きっと娘の活躍観て、緩んだ顔をして…立て直して…と繰り返していると思います。
敦賀さんのこの姿勢は後半も続きますので、どうかお楽しみくださいねー。

2016/02/24 (Wed) 00:48 | ちょび | 編集 | 返信

Re: うにゃーー (〃∇〃)

>まじーん様
ドストライクですか?有難うございます!小躍りしました♪
約束をしかも忙しいお母さんとの食事を、あっちの痛みなんかでドタキャンするなんてしないうえに、何が何でも隠し通しそうですよね。
冴菜さんはデレな姿なんて絶対娘には見せないと思います。いや、1人の時だって眉間に皺よせながら録画したお宝映像見てると思いますよ。でも繰り返しみているから台詞まで覚えていたり…( ̄▽+ ̄*)

2016/02/19 (Fri) 00:07 | ちょび | 編集 | 返信

ツンデレ・・・

ちょび様、こんばんは。更新ありがとうございます。冴菜ママさんツンデレですね。
なんだかかわいいです。本誌でもこんな感じになったらいいなあ。
そして、蓮さん、冴菜さんに対してどうでもいいけど一応聞いとく感満載な言葉って。。一人でツボにはまってしまいました。ちょび様宅の蓮さんは本当にキョーコさんがよければ他はどうでもいいと本気で思ってる感満載で(私の勝手なイメージですが)大好きです。後編また楽しみにしてます。

2016/02/17 (Wed) 20:50 | aomaho | 編集 | 返信

うにゃーー (〃∇〃)

またしても、大好物、ドストライク!

ちょび様のお話は文章もお話も良いですなー。(∩*´ω`*∩)

憧れていたであろう母との食事。
人にうつす病気ではないなら、仕事同様、無理してでもキョコさんは出てきますよね。

モー子さんがツンデレなら、最上母はツン・・・・何でしょう?思い浮かびませんが。

前編ということは、あと1話か2話で完結なのでしょうが、もう少し読んでいたい感じです。

続きも楽しみにしてます。«٩(*´ ꒳ `*)۶»

2016/02/16 (Tue) 20:28 | まじーん | 編集 | 返信

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