2016_01
07
(Thu)11:55

背面熱量

すっかり明けてしまいましたね。
本年最初のお話は「ほんのわずか」の番外からスタートしようと決めていたのですが、どうにもこうにも敦賀さんがジトジトグルグル考え込みすぎてて書いてるこっちが煮詰まりまして、短編でお話初めってことで。

題名見て「あれ?どっかで?」と思った方、正解です。
以前企画に参加させていただいた「背面慕情」と同じ背中物ってことで題名も似せてみました。雰囲気も少し似せたつもり…。
まさか背中物でシリーズ化?いやいや…しません。しませんよ。

では、今年もお楽しみいただけたら幸いです。

ちょび

2016/1/7





密かに想う先輩俳優の背中

その背中に追いつくことは決してない。

だけどせめて、その姿が見える所にいたい。これ以上遠ざからないようにしたい。


ただ、それだけを願っていた。


そのはずなのに



■背面熱量



「あれ?京子ちゃん。その恰好、事務所のお使い?」

百瀬逸美からかけられた声にキョーコは振り向いた。

「そうなんですよ。社さんに書類を届けに。」
「社さんって敦賀さんのマネージャーさんよね。LMEってすごい厳しいのね。京子ちゃんにお使いさせるなんて。」
「朝と夜だけ仕事が入ってて時間持て余してたんですよ。それに私ラブミー部ですから。」

時間を持て余していたのは確かだが、本当はキョーコにいかせるなんてと恐縮していた社員から半ば無理矢理もぎ取った仕事だ。だって松もとれたというのに今年はまだ一度も蓮の姿を見れていない。優しい先輩は何かと気遣いの電話はくれるが、もう声だけでは足りなくなってしまったのだ。
背中でいい。一目でいい。
まだ見える場所に蓮はいてくれるのだと安心したかった。

「それにしてもそのツナギだけじゃ寒くない?」
「実は寒いです。暖冬だからって油断しちゃって。」

ずっと冬とは思えない気候が続いて、昨日なんて小春日和だった。今日も日差しが暖かいからとツナギの下は機能性下着1枚で出かけたら大失敗だ。移動中に厚い雲がお日様を覆い隠した上に、蓮と逸美が出演するCMのロケ現場である河原の水面からの風が熱を奪っていく。

「私のストール貸そうか?」
「そんなとんでもない!そんなモコフワのかわいいストールこの格好には似合いませんから!。」

両手をぶんぶんと振りながら2歩3歩と後ずさる。そこには30センチほどの段差があることに気付かずに。「あっ」と逸美が小さな声をあげたが間に合わなかった。


とんっ


キョーコの身体は段差に足を取られることなく止まった。そこで蓮がスタッフと打ち合わせをしていたからだ。
こちらに背を向けていた蓮は段下にいるせいで常より肩も背中も30センチ下にあった。つまりキョーコは蓮と背中をピタリ合わせた状態で止まったのだ。

「やあ、最上さん。明けまして…はもう言わないのか。とりあえず今年もよろしくね。」

常の見上げる状態にあるのではなく、自分の耳すぐそばで発せられる声。整いすぎるほど整った美貌がすぐ横にある。

「いえ…私こそ今年もよろしくお願いいたします…って!すいません。失礼な格好で!!!。」

慌てて飛び退いて、ぺこぺこと頭を下げる。
その様子に蓮がクスリと笑った。

「いいのに。俺の背中位いつでも貸すよ?。」
「と、とんでもございません!確かに暖かかったですけど、せ、背中をお借りするなんて。」
「よかったね。怪我しなくて。京子ちゃん寒そうですよね。敦賀さん。」
「そうだね。」

すいません、と蓮が少し離れて立ってた社を呼んだ。

「俺のマフラー最上さんに渡してくれますか?」
「了解。ちょっと待ってて。」
「いや、本当に大丈夫です。結構ですから!」
「借りたほうがいいよ。京子ちゃん。敦賀さんなら同じ事務所だから返す機会も沢山あるだろうし。」
「でもっ。」
「最上さん。体調管理もプロの仕事…じゃなかったっけ?。」

段差を超えた蓮にいつものように見下ろされる。

「す…いません。お借りします。」

俯きしょぼしょぼと呟くと、蓮が社から受け取ったマフラーを巻いてくれた。

「はい。出来た。」
「…有難うございます。」

ボソボソと礼を言うと、マフラーを掴んだまま蓮の顔が少し近づき、キョーコにしか聞こえない声で囁いた。

「前に言ったろ?君が守ってくれと言うなら、どんな無茶な約束だって守り通してみせるって。背中なんていくらでも。」

(天然タラシ…)

どうしてそんな罪作りな社交辞令を、そんな甘い声で囁くのか。


仕事の予定があるので、撮影を見て行かないかと言う社の親切は断腸の思いで断り、現場を後にした。
遠く土手の上から眺める愛しい人の背中は、小さいのにすぐ見つけれるから不思議だ。

(暖かかったな…)

密着したのはほんの僅かな時間…でもキョーコのそれより遥かに広い背中は本当に暖かかく安心できた。
もう少し、もう一度…そう願ってしまいそうなほどに。

(もっとお仕事頑張って…もっと最上キョーコを作って…)

そうしたら少しは距離を縮めれるだろうか?せめてあの背中に手が届く位には


ぶるぶる…と首を振る。

「煩悩退散!!!」

小さく、でも力強く叫ぶとキョーコは駅に向かって駆け出した。


*
*

― 1年後 ―

「うううっ。寒い。」

暖かかった去年と打って変わって今年の冬は寒さが厳しい。
屋外の吹きっさらしの中で夜遅くまで続いたロケで芯まで冷えた身体は、湯船につかって温まったにも関わらずすぐにまた熱を失っていく。

長い廊下を足早に歩く。普段は居心地のいい我が家だが、こんな日には風呂を出てから寝室まで距離があるのが少々難点だ。

かちゃり

なるべく音を立てないようにと開けたドアの向こうにある大きなベットにはぐっすりと眠る恋人の姿。遅くなるから先に寝ていてほしいと言うお願いを聞いてくれたようだ。

「お邪魔します。」

小声で告げて、横をむいて寝ている蓮の背中側に潜り込み、自分の背中をぺたりと合わせた。まるであの日の様に。
密着した部分から伝わる熱がキョーコを温めてくれていく。

(極楽…極楽…)

寒さに縮こまっていた身体を伸ばすと背中越しに声がかかった。

「温まった?」
「あ、起こしちゃいました?お陰様で」
「…冬に入ってから、俺が先に寝てるといつもこの体勢だよね。」
「だって、あったかいんですもん。接地面積が広いと熱が伝わりやすいんでしょうかね?」

くすくすと笑っていると、少し身を起こした蓮にころりと転がされる。

目の前に少し寝ぼけた、いつもの“敦賀蓮”より幼く見える美しい恋人の顔。

「せっかくこういう関係になれたんだから、俺は向かい合って可愛い顔が見たい。」
「こんな素うどんでよければいくらでも。」

蕩けるように笑う眼がそのまま閉じられて、キョーコに巻き付いたまま蓮は安らかな寝息を立てる。
キョーコも蓮の胸に顔を寄せて目を瞑った。


背中でも、胸でも、その手でも…

躊躇いなく触れる距離にいれる幸せに心を満たしながら。


(fin)
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コメント

Re: やった!短編♡

>ひろりん様
明けましておめでとうございます。今年もお時間ある時によろしくお付き合いください。
こちらの敦賀さん、現時点ではまだ交際もスタートしていないのに、1年後には同棲に持ち込んでいる中々のやり手です(笑)
本誌では初チューまでに10年かかるのに…。

12月の鬼、熱くなっていただけて嬉しいです。私も頭の中ではあれやこれやと考えておりますよ。うふふ…。

2016/01/09 (Sat) 15:33 | ちょび | 編集 | 返信

やった!短編♡

あけましておめでとうございます。
新年早々砂を吐かせていただきました(笑)
近い未来、こんな風になれたらいいですね。“背面慕情”は切なさの後の胸キュンって感じでしたが背面熱量は暖かな胸キュンって感じでした。
さらにこの後の未来には家族が増えていたりして・・・。
新年1発目素敵なお話しありがとうございました!

また、“12月の鬼”お疲れ様でした。
“賭けの勝敗”もそうですが、私は必ず記憶は戻っていると思いたい!
思いが通じるまでの紆余曲折、その大切な瞬間を無いものには出来ないです。(すいません熱くなりました!)

このあとの“ほんのわずか 番外編”と“闇色のお伽噺”楽しみにしています。
ああ、待ち遠しい・・・・

2016/01/08 (Fri) 11:41 | ひろりん | 編集 | 返信

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