2016_01
26
(Tue)11:55

もうすこしー3(ほんのわずか番外5)

さて、目線が変わりました。

2016/1/26




石橋光は営業の仕事にやりがいを感じている。
だけど、どんなにやる気があろうとも、火曜日の朝ともなると、まだ週の半分も終わってないのか…そんな風に思ってしまうことだって当然あるのだ。



■もうすこしー3(ほんのわずか番外5)
     ~ ほんのわずか3カ月後 ~



「おはよう、貴島君」
「おはよう、石橋君。早いじゃないか。」
「アラームより早く着信で起こされたんだ。」
「モーニングラブコール?」
「彼女いないの知ってるくせに…。母親からだよ。『ホットミルク作りたいのにレンジ動かへん!なんで!?』って。」
「朝からそのノリ、流石大阪のおかんだね。」
「レンジの扉開閉してみた?って言ったら『あ、ついたわ。』で通話終了だよ?息子に元気かの一言もないのかって感じだよね。」

アラームの時間まで残り20分ほど。2度寝するには足りないこの微妙な時間が恨めしい。

「声聞いたら元気って分かるんじゃないか?あ、キョーコちゃん。おはよう!。」

貴島の声に下がっていたテンションが一気に上がる。火曜日の朝から片思いの相手に会えるなんてなんてラッキー。

(ありがとう!母さん!!!早起きは三文の徳だね!)

だが、振り向いたキョーコに心臓が止まりそうになった。

「おはようございます。貴島さん。石橋さん。」
「おはよう。今日も大人美人さんだね。」

そう、キョーコはメイクをガラリと変えていた。今までのナチュラルな感じも充分可愛らしかったが、まさに大人美人度2倍増し。元々顔の造りもスタイルもいいのでまるでモデルか何かのようだ。3人を追い越していくサラリーマンがチラチラと視線を送ってくる。

「貴島さんは朝から褒め上手ですね。昨日教えてもらった通りにやったんですけど変じゃありませんか?。」
「イケてる。イケてる。早速デートに誘いたい位だよ。な?石橋君?。」
「う…うん。すっごく綺麗で吃驚した。なんか別人みたい。」
「石橋さんもお上手ですね。昨日百貨店の化粧品売り場で教えていただいたので早速やってみました。」

えへへ、と笑うといつものキョーコの顔がのぞく。

「似合ってるよ。服もなんだか大人っぽいし。」
「服は手持ちですよ。今日は涼しいので秋モードで。」

ブラウンと基調とした今日のコーディネートは9月中旬の朝の空気にマッチしている。

「うん。いいと思うよ。その…。」

ブーツの短いやつなんていうんだっけ?朝の情報番組で前聞いたような気がするなあと必死に頭の中を探っていると、斜め後ろから声がした。

「貴島リーダー、石橋さん、キョーコさん、おはようございます。」

同じ営業の三沢だ。それぞれが挨拶を返す中、3人に追いつくとキョーコの私服に眼をとめた。

「キョーコさん、そのブーティ可愛いですね。」
「ほんと?冬のセールで一目ぼれしちゃって。悩みに悩んで買ったの」
「いいと思いますよ。トップラインって言うんですか?そこのラインがアクセントになってて。」
「そう!そこ!私もそこが気に入ったの。ここ蛇皮なの。」
「蛇?マジですか?蛇皮っていうとグロくなりそうなのに、部分使いするとなんか可愛いですね。ってことは小さい蛇は可愛いってことですか?」
「それは違うから。」

2人はブーティ談義を繰り広げながら前を歩いていく。
上手く褒めたかった部分を持っていかれて何とも悔しいが、自分ではあんなに的確には表現できないだろうから仕方ない。肩を落としていると貴島がやれやれと声をかけてきた。

「三沢君はお姉さんがいっぱいいるとかでそういう話に詳しいんだよ。張りあおうなんで無駄」
「……。」
「いつも思うけどさ、石橋君は上手く褒めようとしすぎだよ。もっと単純にかわいいねって言えばいいのに。」
「数少ない機会だから少しでも株を上げようと思って…。」
「結果言えないで終わること多いだろ?三沢君は彼女いるし安全パイだけどキョーコちゃん狙っている男多いよ?あんなに美人さんになったら尚更」
「…貴島君も?」
「確かにあれは好みのドストライク。でも今LUPINOUSのさくらちゃん押してる最中だからなあ。」
「誰。さくらちゃんって。」
「百貨店の美容部員。昨日も閉店間際にご飯誘いに行ったんだけどさ、そこで口紅のポスター熱心に見てる美人さんがいるなと思ったらキョーコちゃんだったんだよ。あまりの変身ぶりにCGかと思った。挨拶されなければ気付かなかったな」
「だろうね。」

あんなに変身するなんて。最近は不破も何かとキョーコに話しかけてヨリをもどしたいんじゃないかと気が気じゃないのに。

そうこうしているうちに社屋のエントランスに入る。少し先にエレベーター待ちをしていた三沢達の前で開いた扉から出てきた蓮が、キョーコの姿を見ると驚いたような表情を見せた。

「おはようございます。敦賀主任」
「キ…今日はまた随分と雰囲気が違うね。最上さん。」
「敦賀主任。おはようございます。キョーコさん、昨日メイクレッスン受けたそうですよ。イケてますよね」
「そうだね…。とても綺麗だと思うよ。」
「ですよねー。主任はもう出るんですか?」
「うん。現地の方で打ち合わせなんだ。」

いってらっしゃいの声に頷いた蓮がこちらに向いた。

「おはよう。貴島君、石橋君。」
「敦賀君、おはよ。」
「敦賀君。おはよう。今日は寅軸は直接?」
「結構ギリギリになると思う。資料、大原さんが仕上げてくれてるはずだから確認お願い。」
「わかったよ。じゃあ寅軸前で。」

エレベーターホールを見るともうキョーコはいなかった。せっかくなら同じ箱に乗りたかったなと少々落胆しながらボタンを押す。

「石橋君、今日初めての寅軸?」
「そう。資料を届けがてら先方の担当者に紹介してもらうんだ。」
「近衛部長と村雨さんね。挨拶はなるべく早い方がいいもんな。」
「うん。俺なんかが加わって敦賀君の助けになるとは思えないけどね。」

チン、と開いた箱に2人で乗り込む。

「そう?敦賀君は石橋君を結構高評価してると思うけど?」
「そうかなあ…。」
「石橋君みたいな同期と組めて、敦賀君も結構助かってると思うよ。」
「ええ?俺が?敦賀君みたいなオールマイティの?。」
「なんでも出来てあれだけのイケメンだよ?妙なやっかみ受けて足を引っ張られること多いんじゃないかな」
「あれだけ完璧すぎるとそんな気もおきないけど。それを鼻にかけるでもないしさ。」
「そうやって受け止めてくれる奴がいるって楽だと思うよ。」

ちらり、と横の同期を見上げた。
貴島もエリートだし見栄えもいい。色々苦労することがあるのだろうか?

「…俺もいろいろ頑張るよ。」
「そうそう。頑張ってねー。」

貴島は軽く手を振って7階で降りて行った。

そうだ。まだ週が始まったばかりの火曜日なんて嘆いている場合ではない。

(敦賀君の足を引っ張らないように、しっかり仕事しなくっちゃな。)


そう思っていたはずなのに…。

*
*

「ごめん…敦賀くん。」

電話でのこの上ない情けない声に蓮は困惑している様子だ。

『石橋君、どうした?』
「寅軸、俺もギリギリになりそうなんだ。」

サンプルが出来上がったから届けるだけと訪問した先が悪かった。顧客である女医にガッチリ捕まりランチまで一緒にすることになってしまったのだ。「午後一アポあるんだったら、院長は話長いからやめといたほうがいいですよ。」そうアドバイスしてくれた三沢の言う事を聞けばよかった。

『先生サンプル心待ちにしていたから…早く届けた判断は間違ってないよ。1時半から予定があるってことは伝えたんだろ?』
「それは勿論」
『じゃあ問題ないよ。三沢君も一緒なんだろ?時間が押しそうなら後は彼にお願いして失礼させてもらうといい。』
「そうなんだけど…」
『うん?』
「寅軸への資料…忘れてきちゃって…。」
『……取りに帰る時間はないよね…。』

寅軸商事の担当者も忙しい。先週の打ち合わせに参加できなかったのはこちらの都合だ。光に引きあわせるためだけに2人に時間を空けてもらうのは心苦しいので資料を口実にしたのに、それがなければ恰好がつかない。

「いや、あの、大丈夫!持ってきてもらえるように手配してるから!。」
『そう…じゃあ一安心だけど、大原さん達も今日は結構忙しいって言ってなかった?』
「うん。だからね、企画にヘルプを…。キョーコちゃんが丁度役所に行く予定が入っててさ。寅軸前で渡してもらえる手はずになっているから!!!だから大丈夫!。」
『…………。」

蓮にしては長い沈黙。
回線を通じて冷気が漂う気がするのは子供のようなミスが後ろ暗いせいだろうか。

「あ…あの…敦賀君?」
『……ああ、ごめん。…そう。それなら最上さんにこれ以上迷惑がかからないように、なるべく早く寅軸に着かなきゃね。俺もなるべく急ぐよ。』
「う、うん!そうだよね。俺もなるべく早めにいけるようにするから!」

通話を終えると三沢が早速突っ込んできた。

「なるべく早くだなんて…院長のマシンガントークの途中で席立つの結構勇気入りますよ。」
「うう…フォローお願い。」
「今晩ラーメンおごってくださいね。唐揚付きで。あ、院長出てこられましたよ。」

待たせてごめんなさいねー。と上機嫌で走り寄ってくる女医ににこやかに応対しながら考える。


仕事熱心で自分にも人にも厳しい所がある蓮だが、ミスについてきちんと謝ったり反省している相手には冷静に励ましヒントをくれ助けてくれる。
だけど、先程の蓮の沈黙からは、気の所為かもしれないけれど、強い苛立ちみたいなものを感じた。
そんな空気を感じたのは初めてじゃないだろうか?

いや、そもそも…あのいつも穏やかな同期のむき出しの感情など感じたことはなかったかもしれない。


「和食なんてお2人共若いから苦手かしら?」

チラリと掠めた考えは院長の声に掻き消えた。

「いえ、普段不摂生ですからありがたいです。」


(とりあえず、時間には注意しないと)


キョーコとの約束時間は“午後1時20分寅軸商事社屋前”


(4に続く)
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Re: タイトルなし

>ひろりん様
有難うございます!本編をお好きだと言ってくださる方が沢山いらっしゃる分、番外編を書くのを「イメージ壊さないかな?」とビクビクしてしまうので楽しんでいただけてすごく嬉しいです。
おまけにひろりん様の頭の中で、蓮キョ達が動き回るなんて…本当に嬉しい限りです。私の中でも動き回ってますよ~。上手く文章に出来てなくて残念なんですけど…汗
三沢君は書いてて楽しいです。きっと友達にしたい男№1でしょう(笑)

2016/02/01 (Mon) 01:03 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

ちょび様
やっぱりいいですね~ほんのわずかシリーズ‼
日常の一コマの中の風景がなんていうんだろう…普通のことなのにドラマを見ているように、自分の頭の中で動き回るんですよ。会話のひとつひとつが生きてるんです。
本編のほんのわずかで切なかった分番外編ではキョーコちゃんがいい感じに蓮様を尻に敷いてるような(笑)それもいきいきとして。
第三者目線も大好きなので、この後いったい何が起こるのかすっごく楽しみです。
オリキャラ三沢くん、鈍いあなたが楽しくて好きです。その鈍さまた発揮してください!
追伸
早く一緒に住めるといいですね、蓮様。

2016/01/27 (Wed) 09:58 | ひろりん #d.solu8c | URL | 編集 | 返信

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