2016_02
02
(Tue)11:55

もうすこし-4(ほんのわずか番外5)

あ~豊かな表現力が欲しい。と今回切に思いました。

2016/2/2



(よし!1時15分!)

三沢のナイスフォローにより予定時刻に顧客のマシンガントークから抜け出せた。御礼にビールを追加しようと考えながら、石橋光は小走りで目的地に向かう。寅軸商事本社ビルエントランスから少し離れたところに立つ制服姿のキョーコの姿に緩みそうになった顏は、その脇に見知らぬ男が立っているを確認して不審なものをみるものに変わった。

(ナンパ…かな?)

今日の大人美人メイクでは無理もないのかもしれない。不愉快な思いをさせてはいけないと足を早めたが、キョーコはどういう訳かペコペコと頭を下げ、男が気にするなといった風情で手を振り笑っている。一体何があったのか?



もうすこしー4(ほんのわずか番外5)
     ~ ほんのわずか3カ月後 ~




「キ…最上さん?」
「あ、石橋さん。」

その声に隣の男が反応した。

「石橋さん?」
「そ…うですけど?」
「寅軸商事営業2課の村雨です。」
「え?」

咄嗟にスーツを見ると襟についているのはたしかに寅軸商事の社章だ。どうしてアポをとった相手がキョーコと並んで立っているのか。訳も分からないまま初対面の挨拶を交わした。

「そうか、キョーコちゃん。石橋さんに用事だったんだ。」
「そうなんです。石橋さん、どうぞ。」

村雨の馴れ馴れしい名前呼びに少々ムッとするが、キョーコは別に気にした様子もなく光に書類を渡した。

「では私はこれで…。」
「あ、うん。ごめんね。」
「いえいえ。では村雨さん、失礼させていただきます。」
「うん。会えてよかった。あ、これ。」

す、と差し出されたものを、思わずといった感じでキョーコは受け取った。

「俺の名刺。携帯も書いてあるから気が変わったら電話して。」
「そ、それは…」
「とりあえず受け取ってくれればそれでいいからさ。」

一度受け取った上に相手は取引先の営業マンだ。突き返すわけにはいかないと思ったのだろう。キョーコは小さく頷いてそれをカバンにしまうと、もう一度綺麗にお辞儀をして去って行った。
残された光は横に立つ男を見上げる。背も高く実に男らしい“男前”。背が低く27にもなって可愛いと言われる顔の自分のコンプレックスを充分刺激してくれる。

「最上とお知り合いなんですか?」
「3か月位前でしたか…大原とコンパした時に来てくれたんですよ。その時はお茶に誘ったけど断られましたね。ここでまた会えたって運命かなって再プッシュしたんですけど、あっさり断られちゃいました。」
「そ…ですか」

あまりにオープンな物言いにあっけにとられる。つまり…この男は自分のライバルと言う事か?

「しっかしすごい綺麗になってびっくりしました。前も可愛かったけど…。御社の制服と社員証ぶら下げてなかったらきっと分かりませんでしたね。でも社員証フルオープンで外歩くの危ないですよ?」
「よく言って聞かせます…。」

きっと光に書類を届ける為に慌ててきてくれたのだろう。ちょっと無防備なところもいつもは可愛いが、今日はやめてほしかった。
全くなんてことだ。自分のつまらぬミスがこんな強力なライバルとの再会をお膳立てする結果になろうとは。

「連絡くれるといいんですけど…あ、お約束30分からでしたよね。」
「ええ。」
「もうお入りになりますか?。」
「敦賀を待ってからにします。」
「そうですか。ではお待ちしています。」

爽やかに笑って村雨はエントランスに入っていく。その姿を見送って小さくため息を落としたところで、蓮が足早にこちらに向かって来るのが見えた。

「敦賀君!流石無遅刻キング。5分前だよ、」
「うん。間に合ってよかった。…資料は?。」
「キョーコちゃんからバッチリ受け取ったよ。」
「…結構待たせちゃったかな?。」
「どうだろ?俺15分にはついたから殆ど待たせてないと思うけど。」
「そう。ならいいけど…。じゃあ行こうか。」

蓮はほっとしたように笑うと光をエントランスに促した。

*
*


寅軸側との顔合わせは無事終わり、先方の近衛部長の誠実そうな様子に光は安堵していた。

「穏やかなそうな人だね。」
「物腰は穏やかだけど、こうと決めたことは妥協しないタイプだよ。上辺だけ取り繕うとか絶対通用しないと思うな。でもその分すごく筋の通った方だね」
「いい仕事にしたいね。」

ゴゴゴッという音が次第に近づいて、地下鉄が姿を現した。大勢の客を吐きだし開いた隙間に光と蓮も乗り込むと、発車ベルと共に扉がしまり車両はゆっくりと動き出した。いつもの癖で車内広告に目を走らせていると隣から尋ねられた。

「…石橋君。」
「何?」
「さっき、村雨さんと社屋前で会ったって話になったよね?」
「ああ、あれね。」

応接室で「先程はどうも」と挨拶を交わす光と村雨をみて、怪訝な顔をした近衛と蓮にそう説明したのだ。

「知ってた?村雨さん、キョーコちゃんと大原さん主催のコンパで一緒になったことがあるって。吃驚したよ~。寅軸ついたらキョーコちゃんと村雨さんが立ち話してるんだもん。」
「……。」
「おまけに村雨さん、キョーコちゃんのことコンパのときから気に入ってたみたいでさ。サッと名刺渡すんだよ。流石営業マンだね。まあそりゃあ今日の綺麗な姿みたら無理もないかと思うけど、すっごい堂々とアピールするから圧倒されちゃったよ。仕事出来そうだし、背は高いし男らしいし、焦っちゃうな。」

ボロボロと口に出した途端恥かしくなる。「そんなことないよ。」と否定してくれる言葉を期待して大げさに不安がって見せるなんてガキじゃあるまいし。そもそも隣の同期にキョーコへの思慕を明確に口にしたことはないのだ。まあ…きっとバレバレだろうが。
そうしているうちに次の駅に到着し、乗客の入れ替わりの波をやりすごしているうちに話が流れたことに少し安心して次回の打ち合わせをスケジュールに登録しておこうとスマホを弄る。

(あれ?時間3時でよかったっけ?)

確認しようと顔をあげた視線の先には、地下の闇を走る車窓に映し出された乗客の姿。そのガラスの世界でも頭ひとつ抜き出て背が高い上にその容貌で目立っている蓮は険しい顔で宙を睨んでいるように見える。

ごくり

見た事のない表情に自分の身体が強張るのが分かる。横に立つ同期はこんな…鋭利な刃物のような視線を送る男だったのだろうか?地下の闇と時折混じる光が織りなす悪戯だと思いたい。
横を向き表情を確認するのがひどく恐ろしかった。
だが、はたとガラスの上で眼があった気がして、慌てて取り繕った声を上げる。

「敦賀君」
「何?」

見上げた顔はいつもの穏やかな笑みをたたえていた。

「あ…えっと…次の打合せって3時からでよかったっけ?。」
「そう。来月2日の3時。場所はうちの会議室だよ。」
「オッケー。」

やはり眼の錯覚だったのだ。蓮のように整った顔は光の加減で随分と表情が変わって見えるのかもしれない。それに今日は朝もいつもと違うタイミングで起きたし、ミスやら思わぬライバルの出現に神経が高ぶっているのかもしれない。
今夜は聞き上手の三沢に少し愚痴でも聞いてもらおうと、スマホの画面に目を落とした光は気付かなかった。

再び窓を見つめる蓮の眼が先程と同じように昏く光っているのことに。


*
*

♪♪♪・♪♪♪…

自分のモノではない着信音が鳴り響く。方向は自分の斜め前、主任席からだ。
立ち上がり確認すると、机の端っこでスマホが震えながら鳴いていた。席を立ち、スマホを取り上げると、画面に表示されているのは“松嶋部長”の文字

「部長、敦賀君のスマホ、ここですよ。」

部長席で手帳を見ながら携帯を耳にあてていた松嶋が苦笑する。

「なんだ。敦賀君忘れて帰ったのか。珍しいな。」
「ですね。」
「なんだか急いで帰りましたよね。デートじゃないですか?」
「そうなのか。いいなあ若いもんは。三沢君は彼女はいいのか?」
「うちの姉ちゃんたちとバイキングに行くみたいですよ。女同士の会話に割って入ると邪険にされて辛いだけですから。俺は石橋さんとラーメン行くんで待ってるんです。」
「石橋…人生には潤いも大事だぞ?」
「俺だって潤い欲しいですよ。」

不貞腐れながらホッチキスを綴じると、すかさず三沢の「領収書の張り位置違いますよ。それに糊で貼らないと」と突っ込まれ、もうそれはやりますから入力すましちゃってくださいと取り上げられた。手際よく芯を外しながら三沢が松嶋に話しかける。

「部長、敦賀さんへの電話急ぎですか?」
「いや、忘れないうちにと思っただけで、明日で構わなよ。でも敦賀君は明日直行じゃなかったか?」
「ですねー。」
「あ、俺届けますよ。電車同じ方向なんで。マンション知ってますし。」

光は蓮のスマホをカバンに入れると、再び交通費の清算に取りかかった。

*
*

「ここだったよな。」

駅から5分ほど歩いたところにあるタワーマンションを見上げる。以前荷物を取りに戻る蓮を、この前に停めたタクシーで待ったことがあったのだ。親名義の部屋らしいが両親は海外在住なのでこんな高級物件に1人暮らしらしい。羨ましい限りだ。

エントランスでインターフォンを鳴らそうとして部屋番号は知らないことに気付く。なんてマヌケな。

(ど、どうしよう…)

♪♪♪・♪♪♪…

測ったようなタイミングで鳴り出したスマホの画面は“自宅”からのコールを知らせるものだ。

「敦賀君!俺!石橋!」
『ごめん。今頃気付いた。どこに忘れてた?』
「営業部のデスクだよ。よかった~。敦賀君のマンション前まで来てるんだけどさ。部屋番号知らないこと忘れてて。」
『え?わざわざ?本当にごめん。ちょっと待ってて、今シャワー浴びたところで…。』
「いいよいいよ。玄関まで持っていくからさ。」
『いや…でも…。』
「いいっていいって。風呂上りなんだろ?部屋何号室?」
『じゃあ…。」

エントランスのロックを解除してもらい目的の部屋に向かう。呼び鈴を押す前に開いたドアから玄関に入った。

「本当にごめん。もっと早くに気付けばよかった。」
「俺なんてしょっちゅうだよ。」

スマホを差し出すと蓮が画面を少しいじる。

「上尾さんから電話何度もあったんだ。」
「最初だけ出て事情を説明したんだけどね。電源落とせばよかったんだろうけど敦賀君からかかってくるかなと思って。」
「うん。ありがとう。」

そう言いながら着信履歴をチェックする蓮は本当にシャワーを浴びて直ぐなのだろう。まだ少し湿り気を帯びた髪が伏せた眼にかかっている。VネックのロンTから普段より多く覗く肌も艶やかだ。

(うわ…男の俺から見ても色っぽいな)

なんだか眼のやり場に困って光も目を伏せた。すると足元の様子が目に入る。
明らかに蓮のモノと分かる男物の皮靴は彼の性格を反映したようにきちんと揃えられている。そして女性物のチョコレート色をしたブーティが片方は蓮の足元で倒れて、もう片方はまるで違う所に転がっている。

光の視線に気付いたのだろう。

「ああ……ごめん…行儀が悪いね。」

身体を屈めたせいか、シトラスが薫りが鼻腔に届き、靴をそろえ直す蓮の口角が微かに上がったように見えた。



その湿った髪が、乱れた女物の靴が、艶やかな笑みが


猛烈に“夜”を連想させた。



「お…」
「お?」
「おっおっおっ…お邪魔しました―――――――――っ!!!」
「え?ちょ、ちょっと石橋君?。」

背中にかかる蓮の声にも振り向かず、光は玄関を飛び出すと、エレベーターに向かって走った。


エントランスを抜けて、そのまま駅までひた走る。
そうして飛び乗った電車の窓に映る自分の顔は真っ赤だ。

(…何やってんだろ。俺)

同期の男に色気を感じて、そこにあった靴が乱れていただけで妙な想像を働かせるなんて、思春期真盛りの中学生か何かか。
靴だってただ少しお行儀の悪い女の子なのかもしれないし、そもそもあれは置き靴で部屋にはいなかったのかもしれないのに。

(絶対変に思っただろうなあ…)

いやでもでも…あの靴の様子はなんだかこう…とまた妙な方向に走りそうな脳にストッパーをかける。相手の女性も知らないのになんて妄想力だ。

(あれ…でもあのブーティ、どこかで見たような…)

どこだったっけな、と暫く努力してみるものの思い出せない。まあ女性物の靴なんて判別できないのだしと諦めて、ドアにもたれかかりながら頭を冷やす。

なんだかドタバタとした一日だった。しかもまだ火曜日が終わったばかり。

(帰ったら風呂に入ってすぐに寝よう)

明日は週の真ん中水曜日。
どうかアラーム時刻まで寝られて、健やかで平穏な一日になりますように。



(5に続く)
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Re: キョーコさんが心配

>ひろりん様
うふふー。ブーティ伏線でしたよー。お蔭で3話があまり内容のない会話で占められてしまいましたが(汗)
ただ、三沢君のお話はこの番外編の後に続くのです。ばらばらとお話を書くせいで混乱させてしまって申し訳ないです。
ちなみにお行儀のいいはずのキョーコちゃんが靴をバラバラに脱ぎすててどうしてるか?ご想像にお任せします(笑)

2016/02/08 (Mon) 00:38 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

キョーコさんが心配

ちょび様
こんにちは‼
おおおおーーっ‼ あの『プーティ』伏線だったんですね!
いやー益々目が離せなくなってきましたね。楽しみです。光くん思い出しちゃうのか、三沢くんも巻き込んでしまうのか!三沢くんは蓮さん家の近くでキョーコさんに会ってるし・・
蓮さんわざとですか?あのプーティをこれ見よがしに直したのは!
公表したいが為の行動なのですか??
蓮さんの家でキョーコさんどうなっているのでしょう・・・?気になる―ぅ

2016/02/03 (Wed) 15:39 | ひろりん #d.solu8c | URL | 編集 | 返信

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