2016_02
23
(Tue)11:55

もうすこし-5(ほんのわずか番外5)

苦労した割には幕間的な感じになっちゃいました。

あ、お忘れの方も多いでしょうから。
ほんのわずか設定では社さんは敦賀さんの大学の先輩、モー子さんはその婚約者です。
2人ともあまり出てきませんからね…。

※読者様のご指摘によりモー子さんとキョーコさんがすでに出会っている説明がまだでした!
実はこの後の「抹消スイッチ」でその説明していまして…もうすっかり説明した気分でした。あれ1年近く前に書いたお話ですからね…。
そんな訳で加筆修正しております!

2016/2/23、2016/2/24加筆修正




群れることが嫌いな琴南奏江には女友達なんて言える存在はほとんどいない。
ましてや親友なんて、6月の中旬に紹介されて以来一方的に懐かれて親友認定されてしまったのが一度だけ。いちいち否定するのも面倒になったのでそのままにしているだけだ。今日その自称親友に会うためのメイクが、社とデートする時より気合が入っているのは全くの偶然だ。

「モー子さぁん!こっちこっち!。」

そう。こんな恥ずかしいあだ名で呼ぶのは、世界にただ一人

それなのに

なんだ?この大人美人は?



■もうすこしー4(ほんのわずか番外5)
     ~ ほんのわずか3カ月後 ~



豆腐料理がメインのこのお店は女性客でにぎわっている。もう少し遅ければ席が空くまで待たされるところだった。

「敦賀さんも昨日夕方の飛行機?」
「うん。土曜の夜に大学の人たちで飲むって聞いたけど。」
「ああ、社さんも一緒みたいよ。」

蓮と社共通の知人が今日福岡で結婚式を挙げているのだ。
キョーコの方は土曜日が仕事の前任者の結婚式だったらしく週末はすれ違いらしい。

「そういえば、ほんとびっくりしたわよ。どうしたのよ。その別人メイク。」
「別人だなんて大げさね。モー子さん。月曜に通りかかったLUPINOUSのポスター見入っちゃって…そしたら暇だったらしいお店の人に声をかけられたの。「メイクやってみませんか?」って。」
「あんたが百貨店コスメなんて珍しいわね。どこのモデルかと思ったわよ。」
「モデル?またまた~モー子さんたらぁ。」

冗談ではない。
手を振って否定するその所帯じみた仕草は間違いなくキョーコだが、本当に待ち合わせ場所で吃驚したのだ。ランチの店に向かっている道でもキョーコをチラ見する男の多さといったらなかった。あの心の狭い彼氏殿にとっては気が気でないに違いない。

「でもあそこの化粧品揃えたらかなりの金額でしょ?」
「LUPINOUSで全部そろえるなて無理無理。口紅だけ買って後は家にあるやつとプチプラコスメで代用だよ。モー子さん、そのブラウンのアイライナー目尻まで綺麗に入ってるのにすっごく自然。」
「これ?滲まなくておススメよ。それこそプチプラだし。」
「そうなの?どこのか後で教えて。そのネイルはジェル?」
「ソフトジェルよ。」
「アーガイルってそんな風にデザインされると大人っぽくて素敵。」

はう~とキョーコは奏江のネイルをうっとり見蕩れる。

「キョーコのそのルージュもいい色よね。」
「ほんと?」

これがついついキョーコと会う時にメイクに力が入ってしまう原因だ。
やはり女同士だと細かい点まで気付いてくれるし、ずっと1人狼だった奏江にとって情報交換も新鮮で楽しい。
店が忙しくてなかなかオーダーを取りに来ないのをいいことに2人はコスメ談義に花を咲かせた。


「火曜日はごめんね。電話返さなくて。」

注文が終わると、手を合わせてキョーコは詫びた。
ランチのお誘いメールがキョーコから入ったので火曜の仕事終わりに電話をかけたのだ。それが蓮の部屋に向かう共用廊下を歩いているタイミングだったらしく、かけ直すと言ったきりその日電話はかかってこなかった。

「別に良いわよ。つい忘れちゃうなんてよくあることだし。」
「あ…うん。」

キョーコは真っ赤になって俯いている。…これは忘れたわけではなく電話など掛けられないまま強制シャットダウンされたのかと思い当たり、あのむっつりスケベ野郎めと頭の中で3発ほどパンチを喰らわせた。

「…なんか呼び出されたっぽいこと言ってたけど、敦賀さんって頻繁にそんなことするわけ?」

彼女をそんな風に便利遣いしているようなら、キョーコにもアドバイスしなければいけないし、蓮にも社からチクリと言ってもらおうと考えながら奏江は聞いた。

「普段はそんなことないよ。村雨さんのこと聞きたかったみたいで。」
「村雨さん?」
「頼まれて行ったコンパで会った男の人なんだけど、敦賀さんとお仕事で一緒しているみたいなの。たまたま書類届けに行ったらいるんだもん。吃驚しちゃった。」
「…ただコンパで一緒だっただけ?」
「コンパの帰りに一緒になってお茶に誘われたよ?行かなかったけど。」
「…成程ね。」

コンパと言えば、以前この2人が揉める切っ掛けとなったコンパだろう。すました顔してねちこいあの男の事だ。忘れているはずがない。

「嫉妬ね。嫉妬深い男は鬱陶しいわ。」
「えー。そんなんじゃないと思うけど。」
「そう…?じゃあ村雨さんって人に何も言われなかったの?」
「食事に誘われたけど断ったし、名刺はもらったけど」
「え?受けとったの?」
「うん。サッと手渡されたし、うちの営業マンがいる前でそんなのいりませんなんて言えないよ。」

まあ確かに営業先からもらった名刺を突き返すなんて出来はしない。だがキョーコに関心をよせていた男から連絡先を受け取った、なんて爆弾を蓮が知ったらどうなるだろう。

「あんた…その話敦賀さんには…・」
「え?食事の事?言ったよ。お誘いされたけど断りましたって。」
「名刺の事は?」
「名刺?言ってないよ?帰ってすぐに裁断したし。」
「へ?シュレッダー…したの?。」
「だって事務の私じゃ営業先に個人的に連絡することなんてないし。使わない名刺を持ってて落としでもしたら個人情報流出でかえって迷惑かけちゃうし。」
「そう…よね。」

(この子の中ではもう完全に仕事先の人なのね…)

どう見たってまだ気があるのだろう村雨とかいう男には可哀想な話だが、キョーコは異性としてはこれっぽっちも意識していないようだ。問題はそれが連には伝わっていないことだろう。

(グルグル考えてそうよね)

片思い時代のカビの生えそうなグジグジ具合を思い出し、あんな酒に付き合わされるのはいくら婚約者である社の後輩とはいえ、もう勘弁してほしい。

「あ、そうだ。モー子さん。私行きたいお店があるんだけど。」

サラダを食べながらキョーコが告げたのは駅近くの商業施設の中に最近出来た家具の量販店だ。

「いいけど何買うの?」
「カーテンが欲しくて。縫おうかと思って手芸店で生地を見たんだけど高かったから。」

ごくん、とサラダにトッピングされていた大豆を飲みこんだ。

「え?…どこのカーテン?。」

まさか新居の?結婚するとかそういう話は聞いていない。親友じゃなかったのか。

「どこって…私の部屋に決まってるじゃない。レースのカーテン破れちゃったの」

ケラケラと笑うキョーコにまた驚愕する。
はっきり言ってこの自称親友はしまり屋だ。化粧品や服だってよくよく考えてから購入する。それなのに少しの期間しか使わないカーテンを購入する?奏江から見ても蓮がキョーコと結婚を視野に入れて付き合っているのは明白なのに。
もしかしてキョーコは分かってないのだろうか?

「…買うの?」
「うん?買うよ。破れたままじゃみっともないでしょ?。」
「え…でも…この先どれくらい使うか分からないのに…。」

結婚の意思など本人が伝えるべきことだろうと自然とゴニョゴニョとした喋りになった。

「なあに。モー子さん。聞こえないよ。」
「その…敦賀さんと一緒に住むとかそういう話は出ていないわけ?」
「前、敦賀さんのお家に行った時にこのまま一緒に住まないか、みたいなことは言われたけど?セキュリティーとか通勤の事とか色々心配してくれて家賃の負担も減るしって。」

(また中途半端なことを…)

蓮が社にプロポーズのことをリサーチしてきたを奏江は知っていた。
どうせ色々考えていたのにポロリと言ってしまい慌てて取繕ったのだろう。お蔭でキョーコはルームシェア程度のお誘いにとらえているようだ。
まあ、でも、同居だろうと同棲だろうと結婚だろうと、一緒に住みたい意思は伝えてある訳なのだ。

「で、どう答えたの?」
「もうすこしこのままでって。」
「断ったんだ…。」

流石の奏江も心の中で合掌した。
どうしてか訳を聞こうとしてキョーコの表情に気付く。

蓮の事を想っているのだろう、薔薇色に頬を染めているその姿から想像するに、理由は決して後ろ向きなことではないようだ。

(まあ、あの男はそれは分かってないでしょうね。なんせあんな顔して恋愛音痴だから。)

ちょっとフォローしてやろうか?
たとえば…いつもキョーコが身に着けているネックレスは、アルマンディが“永遠の愛を誓うのは薬指だけとは限らない”というフレーズで売り出しているシリーズのアメリカ限定モデルなのだと教えてやるとか?
20代も後半に入った男がそれを贈るなんてどんな意味があるかなんて誰だって分かる。

(ま、それは余計か)

人生の一大イベントのネタばらしなんて悪趣味もいいところだ。偶然知るなり、自分で調べるならともかく意図的に教えるなんて。

だからまあ…
新調されたカーテンをみてベッコベコに凹んだあの男のやけ酒に付き合うなんて冗談ではないことだし。

「もう少しってことは近い将来一緒に住むかもしれないのよね?じゃあ新しいカーテン勿体なくない?。」
「え?でも」
「新しいの買うのはいつでも買えるんだし。」
「……。」

それ以上は何も言わずにランチを食べ進めていると、考えが付いたらしいキョーコが顔を上げた。

「モー子さん、この辺で一番大きな100均ってどこかな?」
「そうねえ…。」

我ながらナイスフォロー。
このお代に今日はキョーコとの女の時間をたっぷり堪能させてもらおうと、奏江の頭はランチの後のスケジュールを組み立て始めた。
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