2016_03
15
(Tue)11:55

足元よし

こんにちは 一日遅れのホワイトデーです。
燃料よしの続きなのですが、あのさわやか?な空気はどこにも存在しません。

「もうすこし」は来週からは再開しまーす!

2016/3/15




いったいこれはどういうことだろうと、最上キョーコは途方にくれる。

ここはラブミー部
自分が座るソファーの反対側には見目麗しい先輩俳優が優雅に足なんて組まれて、こっちを見ていらっしゃる。

本日はホワイトデー
それが製菓会社の陰謀によるお祭りだったとしても、世間一般的に恋する乙女としては期待に胸膨らませときめく一日なはずだ。なのになんだか蛇に睨まれた蛙ってこんな気分だったかしら?なんて思ってしまうのはなぜだろう。


■足元よし


思えば…本当に怒涛の1カ月だったとキョーコは思う。

バレンタインデーに日付が変わってすぐ深夜の自動販売機前でホットチョコレートを押し付け、結果蓮から“頑張る”発言を聞かされた。何をどう頑張るのやらまるっきり分かぬまま恒例のワインゼリーを届けると、どういう訳か2人っきりの控室で見惚れるほどの美しい所作でゼリーを食した先輩は耳元で囁いてくださった。

「美味しかったよ。ありがとう。ねえ、知ってる?俺がバレンタインデーの贈り物を口にするのは最上さんのゼリーだけだって。」

カメラが回っている時は別だよ。それは仕事だから仕方ないよね。なんて続けながら、キョーコの耳たぶをプニプニと弄ったりしてくれるのだ。発言内容について考える余裕が生まれたのは、あまりの色気に眩暈を感じて控室を出て、次の仕事の現場についてからだ。
いや、もしかして敦賀さんって自分の事をなんてドキドキしたが、残念ながらその後は地方ロケが立て続けに入るスケジュールが続いて、キョーコは蓮と会えぬまままさに走る回って1週間を過ごした。ようやく一段落ついて明日にでも連絡してみようと思いながら閉店直後のだるまやに帰宅すると、「おかえり」と声をかけてきたのはカウンターの中に立つ蓮だったのだ。幻を見ているのかと目をこするキョーコにおかみさんは笑いながら言った。

「大将から料理の指導を受けてるんだよ。」
「へ?料理?敦賀さんがですか?。」
「ここんとこ何回かご飯食べに来てくれてたんだけどね。全然料理なんてできないけど、キョーコちゃんを看病する時にお粥のひとつでも作れるようになりたい、なんて嬉しい事言ってくれるから大将喜んじゃってね。」
「は…はあ…。」

ちょっとおかみさん、どうして私が病気になると敦賀さんが看病することになっているんでしょうか?。その疑問を口にする前に寡黙な大将が満足げに言った。

「なかなか覚えがいいな。」
「有難うございます。」
「これからの時代は共働きが当たり前だもんね。子供だって生まれるかもしれないし、パパが簡単な料理位は出来る方がいいんだろうねえ。」
「そうですね。うどんやカレー位は出来るようにならないといけませんね。」

うんうん、と大将が頷く。

いやいや、共働きってことは結婚してるってことですよね?どうして付き合ってもいないのに共働きやら子どもやらの話に?
混乱に拍車がかかるキョーコをおいて、「さあ、今日はそろそろ終いにしようかね。敦賀さんお茶飲んでいくだろ?」「有難うございます。いただきます。」 なんて和気藹々と居間に向かった先輩俳優はこたつでミカンなんて剥いていらっしゃるのだ。

「あ、あの敦賀さん」
「なにかな?あ、料理の事?勿論君みたいに美味しいものが作れるとは俺だって思わないし、君の体調管理も信頼しているけどね長い人生病気の一つや二つするだろ?大事な君の看病位できるようにならないと。」

新聞の陰で大将がウンウンと同意しているのが見えるが、いやいや、この人、片手でお茶なんて飲みながら、もう片方の手がコタツの下でキョーコの手を握ったりなんかしているんですけど?おまけにその動きが何とも言えずエロいんですけど?

その後も度々大将による料理教室は開かれて、キョーコが返ってくると炬燵でうたた寝している蓮に遭遇しちゃったりすることだってあった。このままでは本当にキュン死してしまう。


「社さん!敦賀さんが!」

人気俳優の奇行について報告しようと、敏腕マネージャーを捕まえてみたら

「蓮?最近生き生きとしてるよねー。やっぱり好きな子に堂々とアプローチ出来るって色々活性化するのかなあ。」

これで付き合い始めたりしちゃったら、どうなるんだろうねえ、なんてグフグフと楽しげに笑う社に二の句が継げない。
社長には「蓮が活動開始したんだって?どうだ。最上君驚いだだろう?」なんてニヤニヤ顔で尋ねられ、奏江にも、椹にも、どういう訳か貴島にまで根回しは済んでいて、流石のキョーコも先輩の頑張りとやらは己を捕獲するための為だと気付く。

(こ、これが俗にいう外堀を埋めるってこと?)

がっちがっちに埋め立てられて、堀どころかキョーコの足元だってカッチカチだ。

*
*

そして迎えたホワイトデー

差し出された品がチョコレートであることにホッとした。
超がつくほどの高級品であることに間違いはないが、それでもチョコレートはチョコレート、消え物であることに間違いはない。アルマンディ様の小物なんて贈られた日には庶民の自分がつけると浮いてしまう。

「ありがとうございます。」

そう礼を述べて受け取って、一緒に渡された茶封筒に首を傾げる。

「ああ、これ?最上さんは俺の発言を何かと斜め上に捉えるかならね。きちんと明確に書面で残す方がいいと思って。」

成程。だがラブレターに茶封筒はどうなんだろう?それともこれは世間の目を誤魔化すためのカモフラージュで中に蓮らしいお洒落な封筒が入っているのだろうかと開けてみて……出てきたA4の書面を見て固まった。

“…前略…敦賀蓮(以下甲と言う)は、最上キョーコ(以下乙という)より2月14日バレンタインデーに敬愛の念をもって贈られたホットチョコレート並びにゼリーの返礼として、情愛をもって以下の品を贈る。…中略…”

「…これは…。」
「ん?曖昧なラブレターだと別に意味に読まれちゃたら困るから。敢て事務的にしてみた。」

(事務的すぎます…。敦賀さん)

一体この文面をどんな顔して考えたのか。まさか社長と相談したんじゃあと不安にかられながら続きにめを通す。

“贈答品:エスカヤマ チョコレート3個   尚、乙はこちらを食す場合以下いずれかの方法を選択すること。”

(ん?方法?)

“1.乙は口をあけて、甲がその指で以て乙の口にチョコレートを運ぶ”
“2.乙は座した甲の正面に背中を密着する形で座し、甲の指で運ばれたチョコレートを食す”
“3.乙は唇を密着させた状態で甲の口よりチョコレートを受け取る”

己の目から読み取った情報が信じれなくて何度も瞬きしてみるが、文面は変わらない。
ようすうに最初はあーんで、次にバックハグ付きのあーんで、最後は口移し?どれもこれも抱かれたい男№1にかかれば卑猥な絵面になりそうで拒否したいが、ん?なんていいながらこちらを覗き込む先輩のプレッシャーが凄まじい。

「……じゃあ1で…。」
「うん。1個目は1だね。」
「1個目は?いや全部…」
「その下読んだ?」

“尚、一度使ったやり方は使えないものとする。”

声にならない悲鳴を上げ、真っ赤な顔でフルフルと震えるキョーコを見て蓮は満足げに笑う。

「だって、ほら、俺って最上さんに男としてみられてないでしょ?意識してもらえるように頑張らなくちゃと思って」

(見てます!見てますから!!!バリバリに意識してますから!!!)

訴えてはみるものの声にはならず出るのはハクハクと息ばかり。

「あ、大きい口だね。はい。あーん。」

長い指がひょいとチョコレートをつまんでキョーコの口に運ぶ。思わずあむっと受け取って舌の上で溶かしていると、閉じた唇をなぞる指先がなともいやらしい。「おいしい?」などと聞かれたら、文句なしに美味しいのだからコクコクと頷くと笑みを深める夜の帝王。

「俺から見たら最上さんの方がよっぽど美味しそうだけどね。…ねえ、もう一個食べる?それとも明日なら上がり早いから俺の部屋で食べる?」


ああ…もう…


本当に怒涛の1カ月だった。

怒涛すぎて自分の気持ちを伝えるタイミングが分からないほどに。

だけど

“私も貴方が好きです”

なんて言ったりしたら、もっと大変なことになるように思うのは…気のせいだろうか?



(おしまい)





頑張る方向を間違う敦賀さんを書いてみたくて…




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コメント

Re: 頑張る方向を間違う蓮さん

> まじーん様
もともと凝り性ですから、事務的にやるならとことんだと思います。
ビジネス文書の書き方本とか熟読したに違いありません。

全ての話を読んでいただけて本当にありがとうございます!!!
2年半の間に垂れに垂れ流しましたねー。自分でも全部を読み返すなど恐ろしいのに…\(゜ロ\)(/ロ゜)/

またいつでもご訪問お待ちしております!!!

2016/06/28 (Tue) 05:07 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 頑張る方向を間違う蓮さん

>まじーん様
全ての話を読んでいただけるなんて!本当にありがとうございます!
この数年垂らし続けた駄文の数々…自分でも通して読むなんて苦行は無理なのになんて勇者!流石まじーん様です(笑)

事務的書類でごり押しする敦賀さん、結構ラブミー部員には有効な手段かもしれないのですが、この書類どうやって作ったんでしょうか?自分で一から?それともヤッシーの手をかりて?ヤッシー止めなかったのかなーとか1人で楽しみました。
そもそもワードとかエクセル使ったことあるのかな?ゴージャースター様は謎が多いです( ̄▽+ ̄*)

2016/06/07 (Tue) 04:50 | ちょび | 編集 | 返信

頑張る方向を間違う蓮さん

恐ろしいほどの頑張り振りですね。(笑)

でも彼にとっては正面突破より簡単な方法だった気がします。

ヘタレはやはりヘタレということでしょうか。

数日目次部屋にこもらせていただき、すべての作品を読ませていただきました。再読作品も多かったのですが、どの作品も新鮮且つ素敵で堪りませんでした!

すべてを読み終えて、ちょびさんの物語ロスに陥りそうです。

でも、幸いなことに魔人めはトリ頭。
少ししたら読んだお話の記憶が薄れると思うので、ウキウキとまた読みに伺おうと思います。
未完の作品の続きも楽しみにしてます。
ではでは、お邪魔しました〜〜!

2016/05/09 (Mon) 00:57 | まじーん | 編集 | 返信

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