2016_04
19
(Tue)11:55

もうすこし-8終話(ほんのわずか番外5)

ようやく終わりましたー。
そして拍手コメントはじめ、パス請求へのお返事出来てません…。近いうちに必ず!

2016/4/19




少しメイクを変えただけで見違えるほど綺麗になったキョーコになんだか焦りを感じていた。
こうやってどんどん綺麗になって、人を惹きつけて、そして置いて行かれそうで。
自分の想いだけが募り重くなって、やがて彼女に負担になるんじゃないかとさえ思った。

だから考えもしなかった。
彼女がメイクを変えたのが、少し大人びた服のチョイスが、まさか自分の為だなんて

“ときめかせたい”

そんな可愛い事考えてくれていたなんて


■もうすこしー8(ほんのわずか番外5)
     ~ ほんのわずか3カ月後 ~





「あ、あのですね。ときめかせてみせるとかそんなおこがましい事考えていたわけじゃなくて、LUPINOUSのポスターがあまりに綺麗で、同じ口紅つけたらコスメ・デ・マジック効果で自分に自信持てるかな…とかそんなことを。」

貴島が人混みの中に紛れて行った事を確認して、ごにょごにょと可愛い言い訳を続けるキョーコの1歩近づいて耳元で囁いた。

「自信ないの?俺の可愛い恋人さんは。」

ついでにくんくんと香りも堪能したら、ふぎっ、とかうぎっとか奇声が聞こえる。

「つ、敦賀さん!近いです!こんな街中で!」
「もう大原さん達もどこか行ったんだろ?会社からも微妙な距離だしそうそう社内の人間には出くわさないよ。」
「そんなこと言って同じ店の隣の部屋だったじゃないですか!」

まあ確かにそれはそうだ。

「そうだった。じゃあ早く2人きりになれるように帰ろうか。」

駅へと方向転換を図ろうとしたら、キョーコにスーツの袖口を掴まれた。

「あ、あのさっきお店で言ってたこと…。」
「うん?ああ、コンパでのこと?ごめん。勝手に語って。」
「いえ…それはいいんですけど…その…私…敦賀さんをカッコ悪くなんて思ったことないですよ?」
「そう?テンパって告白するし、嫉妬深いし、かなりのものだと思うけど?」
「それでもカッコ悪くなんてないです。敦賀さんと並んでいたいからもっと自分磨かなきゃって思っているんですから。」
「それでこんなに綺麗にしてくれてたんだ。」

くすりと笑って改めて“大人美人”キョーコを観察する。キメの整った肌も、シャープに引かれたアイラインも、艶やかなグロスののった唇もすべて自分の為に整えられたのだと思うと…結構…いや、かなりくる。
恥かしげに自分が握った袖口を見ていたキョーコが蓮を見上げた。

「あ、あの…」
「ん?」
「少しは…ときめいていただけ…たり…しましたか?」
「……」

(ああ…)

もう…どうしてくれよう…
貴島から割引券を受け取っておくべきだったと後悔する。

「うん。すごく。」
「ほんとですか!?」

にぱあ!と喜色満面の笑顔に、ニッコリ笑いながら続ける。

「うん。でもトキメキすぎて心臓に悪い。このままだと一生分の心拍数5年ぐらいで使い切っちゃいそうだから、時々にしてくれると嬉しい。」
「時々…ですか?」
「うん。それにいつものキョーコに会えないのは寂しいな。」

そう告げると、また顔を赤くしたキョーコが「このスケコマシ」と呟いた。なんだか聞き捨てならないが、とにもかくにも2人になりたい。

「スケコマシはないと思うけど、とりあえず行こう。俺の部屋でいいよね?」
「あ…だるまやのおかみさんから、今日は松茸ご飯炊くから帰りに取りおいでって言われてるんです。私の部屋でいいですか?。」
「勿論」

袖口を掴んでいた手が離れていくのが少し寂しいが、2人連れだって帰れるのは嬉しい。キョーコの歩幅に合せて連は歩き始めた。

*
*

金曜日夜10時近くの電車は想像通り混雑していた。満杯という程ではないが、それでも庇うためにドア近くのコーナーにキョーコを囲う。
蓮たちと同じく明日は休みという人が多いのだろう。乗客は少し疲労を滲ませながらも何やら緩んだ様子で電車に揺られている。
アルコールの匂いを纏った一団が乗ったり降りたりとするその流れをやり過ごすうちに、目的地1つ前の駅に近づいた。電車は次第にスピードを落としていく。

「どうかしました?」

車窓から見える一点を眼で追っていた蓮にキョーコが話しかけてきた。

「あー。いや。眼が行くんだよね。あの探偵事務所。」

それは線路沿いの雑居ビルのテナントで、窓一面に事務所の名前が入っている。ブラインドも降ろさず灯りを燦燦とつけた室内は丸見えだ。

「あそこ眼が行きますよね。あんなに丸見えで相談に来る人いるのかなあって不思議です。」
「んー。初めてくる依頼者には安心感はあるのかもよ。それについつい眼がいくから宣伝効果は抜群だ。」

確かに、とクスクスと笑い合う。そうするうちに電車は停まり、また人の出入りの波をやり過ごす。再び動き出した車両にはキョーコのアパート最寄りの駅名を告げるアナウンスが流れている。

「あの事務所が目に入ると、次だなあって思うんだ。ん?どうした?」

ふよふよと口を緩ましたのに気付いて問うと、嬉しいそうに教えてくれる。

「同じだなあと思いまして。」
「探偵事務所見ると次だって思う事?。」
「そうじゃなくて…私が敦賀さんのお家に電車で行くとき、あといくつ…って段々と近づいていくのが凄く嬉しいんです。ひとつ前の駅のホームの一番端の広告見たら「いよいよ次だ!」とか思ったりして。」

同じですね、と笑った後キョーコはなにやら頬を染めて少し視線を落とした

「…こういうドキドキをまだ堪能したくって…もう少しこのままでいたいんです。」

キョーコの熟れた頬を美味しいそうだとか馬鹿な事を考えていて、反応が遅れた。

「え?何?」
「この前、このまま一緒に暮さないかって言ってくれましたよね。」
「あ…うん。」

忘れるはずがないマイナスループにハマることになったあの発言。

「こうやって電車でお家に遊びに行く時とか、お休みの日に待ち合わせしたりとか、そんな時のこう…なんといいますかウキウキする気分をまだまだ堪能したくって。もう少しこのままがいいかなあって思うんですよ。」

無表情で固まった恋人に気付いたキョーコは少し首を傾げた。

「敦賀さん?」
「あ…いや…そういう意味なんだ。」
「はい?」
「いや、なんでもないよ。」

安心させるように微笑むと、再び窓の外に目を向けた。
雑然としながらもどこか懐かしい街並みの中を電車は走る。いつも何気なく眺めているそれも、住まいを共にしたら見ることはもうない。たとえ同じ時間にこの路線を乗ることがあっても、キョーコの部屋に向かうために乗った今とは目に映るものは違うのだろう。

キョーコはそんな些細な事さえ愛おしいと言ってくれる。

“もう少しこのままがいい”

一緒に暮すことに待ったをかけられたのだと思っていた。

そうではない。蓮を、蓮と過ごす時間を、2人を取り巻く環境を今と言うこの時間をとても大事にしてくれているのだ。

(本当に間抜けだな…)

あのすれ違いの3が月が終わった夜に己が告げた言葉を忘れたのか?
“話し合っていこう、疑問があったら答えよう”と。
なのに自分が1人グルグル考えてこんでどうする?

重さは確かに違うのかもしれない。

だけど愛の測り方は重さだけじゃない。
大きさ、色、形…きっと人それぞれで、1つの基準にこだわってたら全体像をつかみ損ねてしまう。

(ビックリ度で言ったらキョーコが断トツだよな。)

それはもう自分がどんなに身構えていても予想もつかぬ方向からの攻撃なのだから。



改札を抜けると、キョーコは蓮の手を引っ張るようにだるまやに向かって歩き出した。

「大将の松茸ご飯、本当に美味しいんですよ。明日の朝ご飯に食べましょうね!」
「朝から豪華だね。」
「今週も敦賀さんお仕事大変そうでしたから。朝ご飯でパワーチャージしましょう。」
「うん。ありがとう。ごめんね。」
「ごめんは余計ですよ。」
「そうだ…ね。」

繋ぐ手に力を籠める。

平日は、互いの駅の改札を抜けるまで手を繋ぐのは我慢するのが2人のルール。
当たり前のように傍に居る日々もきっと幸せなのだろうが、このプライベートの領域に入ったと同時に絡まる手の温もりはまた格別だ。

キョーコの部屋に向かう時の弾む様な足取り、雑踏の中明るいブラウンの髪を見つけた時の弾けるような想い。擦れ違いが続いてなかなか会えない夜の通話を終えた後の切なささえも

今この時だから、この距離だから感じる事。


愛おしくて
いとおしくて

溢れだしそうなこの気持ち


(ほんとにごめん。キョーコ)


今夜は声が堪えれるよう加減できそうにありません。


*
*

翌朝はいいにおいで眼が覚めた。

昨夜…いや日付はとっくに変わった時間までこちらの我儘に付き合わせたというのに、働き者の恋人は朝からフル活動しているようだ。

「おはようございます。敦賀さん、シャワー浴びてきてください。朝ご飯仕上げちゃいますから。ほらほら、起きた。起きた。」

ベットから追い出されてシーツがべりべりと剥がされる。妙にそっけない物言いと態度はどうやら昨夜の自分の乱れようが恥かしいようだ。

「ねえ、キョーコ。」
「…なんですか?」
「一緒に入る?」

うちのお風呂はそんなスペースありません!と枕が飛んできた。
期待通りの反応に笑いながらシャワーを浴びて、頭を拭きながら出てくると、ローテーブルには朝食が並んでいる。

「お味噌汁よそったら出来上がりですから、座ってください。」
「うん。この魚、何?」
「カマスの一夜干しです。」
「美味しそうだね。」

そう言いながら胡坐を組もうとして気が付いた。

「これ…」

朝日を柔らかく遮っているレースのカーテン。

「気付きました?」
「そりゃあ、これだけ変れば気付くよ。リメイクしたんだ?」

一部が裂け裾もほつれていたレースのカーテンは小さな花のモチーフが散らされ、見ただけでは補修箇所は分からないようになっていた。

「この前の日曜日にモー子さんに付き合ってもらって100均の手芸パーツで直したんです。破れてたとこはレースで補強して、ほつれていた裾はバイアステープ使った上にお花のパーツ貼ったんですよ。貧乏くさくないですか?」
「全然。元からこういうカーテンだったみたいだ。キョーコらしくてかわいいね。」
「本当ですか?なんかつけてるうちに自分でも盛り上がってきちゃいまして、これ以上はゴテゴテするからやめろってモー子さんに止められちゃいました。」
「その様子目に浮かぶよ。でもこんなに縫うの大変だっただろ?」
「実はバイアステープ以外は布用の接着剤で付けたんです。だから簡単でした。耐久性はあまり期待できませんけど、もう少し持てば儲けものかなあって。」

私所帯くさいんでこういうの大好きなんです!
なおもカーテンリメイク術について熱弁をふるうキョーコに、口元が緩んで仕方ない。

「うん。そうだね。もうすこし…ね。」

もうすこししたら、その先に新しい生活が待っているかも。そんな風に考えてくれてくれたのだろうか?


来客を知らせるブザーがなった。

「はーい。あ、深町のお婆ちゃん、おはようございます。」
「おはようキョーコちゃん。今日はいい天気だね。」
「ほんとに。お洗濯日和です!」
「おはようございます。」
「敦賀さん。おはようございます。今日もいい男だね。」
「ははは。ありがとうございます。」
「キョーコちゃん、これ、うちの糠漬け。敦賀さんがきてるなら朝ご飯に食べてもらおうと思ってさ。」

え?とキョーコは見る間に真っ赤になった。

「ど、どうして敦賀さんがきてること…。」

壊れたおもちゃのようになったその様子に笑いをこらえて、蓮は努めて普通に告げた。

「昨夜帰ってきたときに挨拶したじゃないか。」
「そうだよ。」
「あ…そ、そうでした!あはははは…。あ、松茸ご飯あるんですよ。おすそ分けしますね」

真っ赤な顔のままタッパーを受け取って、ギクシャクと冷蔵庫に向かう姿に深町のお婆ちゃんは首を傾げた。

「どうしたんだい?キョーコちゃん。」
「さあ?どうしたんでしょうねえ。」



もうすこしだけかもしれない、この2人の距離を楽しんでいこう。


その間に今度はちゃんとしたプロポーズの方法も考えよう。ちょっと鈍いキョーコには、あまり凝った演出はせずストレートな言い方がよさそうだ。

(指輪は…キョーコが関西出身なら2人で選ぶほうがいいかもって父さん言ってたな)

海の向こうの両親にもいろいろ根回ししておいておいた方がいいかもしれない。1度夏に会せたきりなので、あまりほっておいたら日本に押しかけてきそうだ。

キョーコを大切にしてくれるこのアパートの住民達にも祝福されて部屋を出るほうがいいだろう。


(なんだ。考える事いっぱいあるな)


そうこうしていたら、もうすこしの時間なんてあっという間に過ぎて行きそうだ。


「なんだい。敦賀さん、随分と楽しそうだね。」
「そうですか?」

にこり、と蓮は笑みを深めた。

「勿論楽しいですよ。キョーコと一緒ですからね。」



(FIN)





随分長い時間をかけましたほんのわずか番外。
自分的にはなんだか消化不良で、実は途中「やっぱ書くんじゃなかった」とか思ったり(汗)
よかった。終わって~。ホッとしました。
ダラダラとした展開に最後までお付き合いいただき本当にありがとうございます。

さて、今後ですが、以前書いてた「ほんのわずか」番外の通常公開に移りたいと思います。そして通常公開は…水曜日としましょうかね。
既に書いている番外は6回分あります。それを通常記事として公開していく間は、新しいお話は「闇色のお伽話」の更新のみとしたいと思います。闇色週2ペースで行きたいけど…それはまあ日常生活との相談で。

では通常記事だけご覧になる方は来週水曜日にお会いしましょう。

関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント