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闇色のお伽話-32

2016/5/10初稿、2019/9/13一部修正の上通常公開


≪登場人物≫

◆キョーコ: モガミ家令嬢、ショー王の内々の婚約者だったが破棄され、王弟レン王子付きとなる。18歳
◆モガミ公サエナ: キョーコの母。モガミ家の当主にて財務大臣
◆トウドウ:モガミ家家令
◆ダルマ: キョーコの乳母。夫のヤーと故郷で宿屋をひらく 
◇レン: 王弟、ツルガ領を治める。22歳。
◇ヤシロ: ツルガ領行政官
◇サワラ: ツルガ領行政副官
■ショー: ヒズリ王国国王。レンの異母兄、28歳
■ショーコ: アキ家令嬢、モガミ公サエナとは異母姉妹(母親が夫の死後実家に帰っているのでアキ家の人になってます)、ショーとキョーコの婚約が破談になった結果王妃となることに。
■クー: 先王、ショーとレンの父親。故人
■ジュリ: クーの愛妾でレンの生母。「魔女」と呼ばれた。故人
□ローリー:先王クーの宰相。現在はタカラダ領の家督を長男コウキに譲り、神宮官として各地を飛び回っている。
□テン: 最上位の神官
●カナエ: キョーコの友人。LME校の寮では同室だった。
●チオリ: 同上
●イツミ: 同上
●ミンマヤ: LME校名誉教授、キョーコの恩師、レンの師でもある
●ヒカル:キョーコのLME校での先輩。イシバシ子爵家長男。
〇アール・マンディ:通称アル。ツルガ出身のデザイナー、王都、ツルガ領都に「アルマンディ」の店舗を持つ。
○ナンモク:ツルガ領酪農地帯出身の絵師の卵、キョーコの肖像画を描いている。
▲先生: レンの幼少時の家庭教師。リックの父親、“森番”ということになっていた。故人
▲リック: レンの兄同然の幼馴染。故人
▲ハルナ:レンの幼少時に傍に居たメイド






(まだお仕事中かあ…)

湯殿から出たキョーコは執務室に続くドアを見つめた。
春先の大雨で流れた都の橋梁修繕奉仕がツルガの担当になったとかで、夕食後にヤシロとサワラが打合せにやってきて、今も続いている。

(今日はもう…あきらめないと駄目よね)

就寝前はレンから抱きしめてもらえる貴重な時間だが、ヤシロやサワラとて忙しい身だ。こうやって3人が揃って相談事をする時間はなかなか持てないのだから邪魔するべきではないだろう。
けれどそれでもあきらめきれず、自室から裁縫道具をもってくると居間の暖炉前に陣取った。ここで刺繍でもしながら少し待ってみようと思ったのだ。

広げたのは枕カバー。文交わしのお礼の品として、キョーコがレンの誕生祝に贈ったものとおそろいの品が贈られたのだ。寝具がお揃いだなんてなんだか気恥ずかしいがとても嬉しい。あちらの枕はレンの紋章を刺繍したので、どうせならとこちらはキョーコの紋章をいれることにしたのだ。
しかし、いくらも縫わないうちからウツラウツラとしはじめた。今日は天気が良かった為洗濯やら掃除やらに館の中を走り回り気付かぬうちに疲労が溜まっていていたのだろう。
ゆらゆらと舟を漕ぎながらも自己防衛本能は働くらしい。危なっかしい手付きながらも針と枕カバーをテーブルに置くと、安心したのかキョーコはソファーの背もたれに身を寄せて眠り始めた。時々レンも腰を下ろすそこには微かに彼の気配が残っていて尚更安心する。



■闇色のお伽話-32



それから僅かの時間だったのだろうか?それとも随分と経ったのか、人の気配を感じた。

「こんなところで寝て…」

ここにはキョーコ以外には1人しかいないのだ。待ち人の声にキョーコの口元が緩む。

「ほら、起きて。ベットで寝ないと風邪をひくよ。」

触れることに躊躇しているのか、声のみで起こそうとするが、すっかり眠りの王国の住民と化しているキョーコにはあまり効果がない。

「大丈夫です…。」
「何が大丈夫なんだか。」

小さなため息とともにレンの気配が少し離れ、すぐになにやら柔らかいものに触れた。その感触からいって、もう1つの椅子にかけていたひざ掛けだろう。
暫くの間レンはひざ掛けをもって何やら考えていた様子だが、「これが一番いいかな」とか呟く声と一緒にひざ裏と背中に大きな手が差しこまれて、キョーコはふわりと宙に浮いた。

抱き上げられたのだ。

そう理解した途端ぱちりと目が覚めたが、慌てて寝たふりを続行する。レンにお姫様抱っこをしてもらえるなんて機会はそうそうない。堪能したい気持ちが買った。
どうやらレンはひざ掛けを自分とキョーコの間接材として利用したらしい。そうしてなおもなるべくキョーコに触れまいと努力しているのか強ばった動きで進んでいく。両腕の2点だけで支えているので、さぞかし重いに違いない。

(もし呪いがあったとしても、これくらい触れるのなんて大丈夫なのに…)

申し訳ないが、この幸せにまだ未練があって、せめて胸との3点で支えたら少しは楽だろうと、階段に差しかかかった揺れに合せてレンの胸に身を寄せる。その胸に包まれる心地よさにまた顔が緩み、さらにとおでこを摺り寄せた。

どくんっ、レンの心臓が激しく跳ねるのが伝わると同時に足の動きが止まった。
レンの視線を感じ、狸寝入りがばれたのかとひやひやしたが、そうではないらしい。何やらブツブツ呟いた声は何を言っているのか分からないまま、足はまた動き出した。
レンの居室の前を通り過ぎると、キョーコの私室となっている女官部屋はすぐそこだ。部屋の前まで来ると来ると身体がゆるゆると揺さぶられる。

「キョーコ、起きて。」

さてどうしようかと寝たふりをしたまま考えていると、躊躇いながらもレンはドアノブに手をかけた。もとより2人だけの住まいだ。鍵などかけていないのでドアはすんなり開いた。
ここまできたら狸寝入りを最後まで通すしかない。眼を閉じたまま部屋は片付いていただろうかと考えていると、レンはおずおずと室内に足を踏み入れた。

3つある女官部屋の中では一番大きな部屋を与えられているとはいえ、レンのそれと較べたら小さな部屋だ。iいくらか歩けばベットにたどり着く。今更起こすのは可哀想と思ったのだろう、壊れ物を扱うようにベットに降ろされ、寝具をこれまたそっとかけられた。

そのままじっと寝顔を上から見られる気配が続いてなんだかいたたまれない。己の寝顔など当然のことながら見たことがないが相当間抜けなのではないだろうか?寝返りをするふりをして顔を隠してしまおうか、そんな風に考えていたら、手袋をしたレンの手が伸びてきて乱れて顔にかかっていた髪の毛を整えてくれ、その手はキョーコの顔のすぐそばに添えられた。

ぎぃ

手にかかった体重でベットが小さく軋む。
ゆっくりとレンの気配が近づいて…頬に布越しの柔らかな感触を感じた。

唇。

そう理解したと同時にレンは脱兎のごとくキョーコから身を離し、慌てた様子の足音はドアに向かう。いつもの彼なら有り得ないことに、何かを引っかけたのか床を転がる音までした。

バタン!

ドアが閉まった音を聞いて身を起こすと、縫物用の生地を入れた籠があった場所から随分離れたところに転がっていた。乱暴なドアの閉め方と言い随分と動揺して出て行ったようだ。

レンが触れた頬に手をやる。布越しでも、それでも感じた柔らかさと微かな温もり。


それを何度も反芻しているうちに、レンが己の身も心も侵食していくのが分かる。

「これが呪い…?」

そうだとしたら、なんと甘美なものなのだろう…。


*
*


意識のない(と思っている)相手に勝手に触れたことが余程後ろめたいのか、レンは翌朝早くから執務室に籠っていた。
簡単につまめるようにサンドイッチにした朝食を片手にドアをノックする。

「おはようございます。」
「おはよう…」

レンが何が言う前にこちらが頭を下げた。

「すいません。昨夜は居間で眠りこけてしまって…お手数をおかけしました。」
「あ…いや…それは別に…」

言おうか言わまいか、眼がキョロキョロと動く

「…ちょっと色々と触れ…すぎてしまったかもしれない。体調は?」
「とてもいいですよ。」
「でも…なんだか疲れた顔をしている。」
「それは夜中に眼が覚めてしまって、ついつい夜更かしをしてしまったのです。」

布越しとはいえ頬にキスをされたのだ。心臓が煩くって眠れなかった。

「ならいいけど…断りもなく部屋に入ってごめん。」
「いえ、かまいません。片付いて無くて恥ずかしいですけれど。」
「そんなことないよ。女の子の部屋なんて初めて入ったけど、なんだか華やいでいるしいい香りがするし…」

いらぬことを言ったと思ったのだろう。レンは途中で口を噤んだ。キョーコもなんだか真っ赤になってしまい2人は黙ったまま机の上のサンドイッチやらポットに視線を泳がせていたが、行政官の来訪を知らせる鐘に我に返る。

「ヤシロさんがお見えですね。少しでいいから朝食を召し上がってください。」
「う、うん。」
「今日は遅くなりますか?」
「いや、橋の事はもう後は表のほうでやってくれるから。今日はいつも通りだと思うけど。」
「承知しました。ツルガ西部の一押しワインをホ・クホク亭の女将が差し入れてくださったのです。今夜はそれをお出ししますね。」
「それは楽しみだね。」

執務室を出たキョーコは足取りも軽くキッチンに向かう。
頬への、しかも布越しのキスになんて浮かれるなんて子供っぽいこと甚だしいが、好きな人からの初めてのキスだ。ささやかにでも祝いたい。

*
*

「へえ…美味しいな。」

カーテン越しに聞こえた声にキョーコは顔を綻ばせた。

「本当に。私お酒はまだよく分からないのですが、芳醇ってこういうのを言うんでしょうか?。」
「ヘナシの辺りは葡萄作りに向いてるといって熱心に研究している者がいることは聞いていたけどここまでとはね。」
「そんな方が…。」
「うん。確かアジガサとか言ったんじゃないかな?俺がツルガに来る前から私財を投じてワイン作りに没頭していると聞いたよ。これなら都でも通用しそうだ。」
「もう少しラベルに工夫をすればもっと素敵かもしれません。」
「成程ラベルね」

どんなものか確認しようとしたのだろうか、しかし袖かなにかが引っかかったのかゴトンッと不穏な音がする。

「あっ」
「どうされました!?」
「ワインの瓶が…」

レンが言い終わるより先に、ワインがテーブルから床に流れていく音がする。

どうやら瓶が置いてあったのは2人を隔てるカーテンのすぐそばだったらしい。床に出来た水たまりはキョーコからもすぐ見て取れた。深紅のそれは見ようによっては不吉な色に見えて少しぞっとした。

「ごめん」
「いえ、とりあえず雑巾で押さえておいて、食事の後に綺麗にしましょう。」
「本当にごめん。」

レンは倒れた瓶やらを片付けているようだ。キョーコは急いで布巾と雑巾を取ってくると、カーテンの下から布巾を差し入れた。

「テーブルのワインはこちらで…」
「ああ、ありがとう。」
「いえ、本当は私がするべきですのに。」
「俺が倒したんだから当然だよ。ああ、すごく大きな水たまりになっちゃったね。美味しいワインだったのに勿体ない。」

勿体ないなんて聞くと、血だまりのように見えていたそれが一気にただのワインに戻る。なんだかおかしくてクスクス笑いながら、これ以上の被害拡大を防ごうとして少しカーテンを持ち上げた手はギクリと停止する。

わずかに持ち上げただけなので、こちらから見えるのはワインの海だけ。

だが、そのワインの海にはテーブルを拭きながら、そこを覗き込んでいる男…つまりレンが映っていた。

無論、鏡の代わりをしているのがワインな上に、燭台とランプがあるといっても昼間と違い薄暗い部屋の中だ。ハッキリと映っている訳ではない。

だが、輪郭と顔のパーツはなんとなく見て取れた。


「キョーコ?」

動きを止めたキョーコを心配したレンから声がかかる。

「あ…ちょっと血みたいと思ったら…」
「なんだ。怖くなった?雑巾落としてくれたら俺が適当に拭いとくよ。」

カーテンの向こうでゴソゴソと動く気配に耳を澄ませながら、キョーコは立ちすくんでいた。


もともと眼はヴェールから見えるので知っている。
それにあのワインに映っていた輪郭や顔のパーツを組み合わせて…、呪われる程の醜い顔が出来上がるものだろうか?


答えは否だ


キョーコは指先が白くなるくらい己の手を握りしめた。


“どうか御辛抱を。”

ヤシロの言葉はしかと覚えている。
今まで感情に任せての行動を何度も悔やんできた。

だけど

きっと、今が勝負の時だ。

そう己の直感が告げている。


(33に続く)
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Comments 4

匿名係のメエメエ  
きゃあ~!

キョコちゃん、行っちゃって!!!!お願いいぃイイィ...

2019/09/13 (Fri) 12:30 | EDIT | REPLY |   
まじーーん  
きゃーー

レンくんは、布ごしであろうと、心臓バクンバクンですね!

触れたい想いは今後も育っていくでしょうが・・・

キョコさんが勝負に出るようですね。

どう転ぶのか楽しみです!

2016/05/10 (Tue) 23:02 | EDIT | REPLY |   
harunatsu7711  
次回、急展開の模様

こんにちわ。更新をいつも楽しみにしています。
次回、ふたりの間の隔たりが取れるかも!!!という期待でいっぱいです。
32話を越え、かなりの長作になって参りましたね。ふたりの進展、ショー王との確執など、まだまだ謎だらけ。ますますたのしみです!

2016/05/10 (Tue) 18:09 | EDIT | REPLY |   
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2016/05/10 (Tue) 16:49 | EDIT | REPLY |   

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