2016_06
21
(Tue)11:55

君がいるから

最近ちょっと短編づいてます。
まあ、新しい連載物を出す勇気がないってのもありますがね(笑)

B.P.D終盤付近で湧き出た話。随分長い間寝かせちゃいましたね。


2016/6/21




あれはない

キョーコはそう思う


カインヒールとして2重生活を送る間、当然のことながら敦賀蓮としての仕事量は落ちた。
ましてや終盤はグアムでのロケとなったため、敦賀蓮もまたアルマンディの仕事で海外という設定になり、視聴者はドラマは勿論、トーク番組、バラエテイでは蓮に遭遇することは随分と減った
CMでも新しい映像は缶コーヒーの物を含めて数本、後は既存のもののみとなっていたのだ
あの社会現象とも言うべき嘉月フィーバーの後、皆、“敦賀蓮”に餓えていたのだろう

だとしても

(これはないわ。絶対に!)

ラブミー部の部室でキョーコが眉間のシワを日本海溝ばりに深く刻みながら見つめるテレビの画面では、“栗レン”こと栗原玲恩(れおん)がバラエティー番組であの笑顔を振り撒いている。



■君がいるから





栗原はそもそも俳優としてデビューしたらしい。泣かず飛ばずで数年間、その後は主にチラシモデルをやっていたらしいのだが、あるCMで注目された

それは地方ローカルの結婚式場のCM
栗原はその仕事を得るために明るい茶のロン毛を黒く短くしたのだが、その姿が“蓮に似てるかも”とネットで話題になったのである。
それからはローカルのバラエティーや情報番組、CMに露出が増え始め、その間に自分に求められているものを理解したらしい。あの嘉月スマイルもどきをマスターしたのだ。
蓮に似た容貌から繰り出される神々しい笑み…あくまでもどきだが、敦賀蓮枯渇状態の視聴者にそれは受けに受けた。
視聴者に喜ばれ、何よりギャラが安い、結果、あっという間に栗原玲恩、通称栗レンは全国区となったのだ


そっくりさんが受けるのはこの業界ではよくある事だ。真似される人がそれだけ人気が高いということなのだからある程度は許容すべきなのだろう
だが…

『では栗原さん、ドラマの見所を教えてください』
『もう、見所満載なんですけど…』

そう、栗原玲恩はこの度2時間ドラマの主演をはったのだ。
女性にモテモテの探偵なんていう実に安っぽい設定で、嘉月スマイルをこれまた安っぽくあちらこちらに振る舞っている。

「ふざけんじゃないわよ!!!」

画面に向かってキョーコは吠える。

「嘉月のあの神々スマイルはねえっ、胸に秘めた美月への愛しさがもうどうしようもないほど膨らんで、溢れ出たものなのよ!そんなワゴンに積まれたセール品みたいにバラ撒くもんじゃないのよ!だいたい深みがないのよっ!!演技もただセリフ言えばいいだけじゃないんだからねっ!!!」
「最上さん、随分とエキサイトしてるね。咽枯れちゃうよ?」

気がつけばすぐ後ろに先輩俳優とそのマネージャー。

「つ、敦賀さん!」

立ち上がって挨拶をしようとしたキョーコは、まだ“クリレン”が画面一杯にあの笑顔を張り付けているのを思い出した。慌てて消そうとリモコンに手を伸ばすが、時すでに遅し。

「お、今日も出てるなー。クリレン」
「その呼び方はどうかと思いますけど、本当に人気者ですね。」
「嘉月スマイルマスターするためにすっごい細かくコマ送りして研究したらしいぞ」
「それはすごい。」

あはは、と笑いあう元祖様とその担当マネージャーからは焦りや、ましてや怒りなど微塵も感じられない。

「二人して何呑気に笑ってるんですか!」

無論キョーコとて天下の敦賀蓮があんな小者も小者、ミジンコ並みの似非俳優などに少々真似をされたくらいで動揺などして欲しくはない。だが人気があるもの勝ちなこの芸能界。何があるかはわからない。思い出すのも鬱陶しい話だがあのショータローだってパクリとしか思えないビーグルに取って変わられようとしたではないか。

「あんな安っぽい笑いを嘉月スマイルなんて言われる事態が冒涜です!」
「嘉月をそれだけ大事に思ってくれてありがとう。でも視聴者がそうだと見えるならそれがすべてだからね。」
「キョーコちゃん。放送終わって暫くたつのに、これだけそっくりさんが人気になるってダークムーンがいかに凄いドラマだったって事だよ。それに蓮とクリレンを見較べようってオンデマンドの視聴鰻登りらしいよ」
「そうなんですか?栗原君様々ですね」
「そうなのかもしれませんけどっ!!」

その強い語気に蓮と社共にキョーコを見た。

「…確かにそうなんですけど…嫌なんです。敦賀さんがあんなに苦しんで…ようやくつかんだ嘉月を表面だけの笑顔だけで売り物にされるのが…。」

一人気持ちを高ぶらせているのが恥ずかしく、顔を赤らめ少し俯きがちに告げると、コホンと小さな咳払いの後、蓮の大きな手が頭にのって優しく撫でられる。

「ありがとう、最上さん。」
「大丈夫だよ、キョーコちゃん。これからバンバン蓮のCM流れるし、次のクルーではダークムーン後初めてのドラマ主演だ。話題になるよー。まあその分視聴率へのプレッシャーは半端ないけどね。」
「ダークムーンの40%越えは流石に期待してないでしょうから、わりと気楽ですよ。」

キョーコを安心させるように、ゆっくりゆっくり頭を撫でる手、甘い甘いミルクティーみたいな優しい笑顔。

「頑張るよ」

応援しなければならないはずの自分が励まされてどうするのだ。


*
*


その3日後

「あ、蓮だ。」

聞こえてきた名前に自然と意識が向いた。

「このCM初めて見るかも。」

そう話すOLらしき2人が見上げるのは駅前に設置された巨大モニター。その画面の中では少し照明を落とした部屋で蓮がシャンパングラスを手にしている。黒いシャツをラフに着こなしてはいるものの、その微笑みはよそいきのものだ。



蓮がグラスを口元に近づけ、その香りを吸い込み楽しむように目が細められた。

『芳醇…薫る。』

ゆっくり傾くグラス

『…弾ける。…踊る。』

もたらされる刺激のせいか微かに瞼が震え、咽元を通る毎に表情が緩やかにほどけていく。

『発泡性日本酒、凛花』

もうすっかり寛いだだ柔らかな笑みをたたえた蓮がグラスをこちらに向けてきた。

さあ、乾杯しよう、そう言われているような…



「やだーっ!思わず乾杯しそうになっちゃった!」
「いやいや、あんたグラスなんて持ってないじゃない。」

そんな声に我に返ると、キョーコもまた持ってるはずのないグラスを掲げようとしているではないか。

「このお酒、もう売ってるよね?今晩買って帰って画面の蓮と乾杯しようかなあ」
「ホームページにはCM動画載ってるだろうしね。でもあんた日本酒飲まないでしょ?」
「あれなら飲めそう。ってか蓮と乾杯するためなら飲むし。」
「液晶の向こうの男の為になんでそこまでやれるかなー」
「とか言って自分もするくせに」
「私は前から日本酒飲むから」
「はいはい。あーやっぱり本物は違うねー。ハートどくんどくんだわ~」
「ハートどくんとくんってー」

笑いながらOL達が去っていった後も、キョーコは暫く画面を前にして立ち尽くしていた。



日本酒だけではない、蓮の新しいCMはどれも好評だった。蓮自身の存在感もさることながら、短い物語のもう一人の主役は日本酒だったり保険だったりして思わず対象商品やパンフレットを手に取りたくさせるのだ。
ただ笑顔だけ印象に残る栗原のCMとはまるで違っていた。

対する栗原の主演ドラマは散々だった。原作の漫画にかなりコアなファンがついていたらしく『あんな薄っぺらな話に仕上がるならドラマ化なんてしてほしくなかった』『蓮がやってくれてたらあの際どいキャラクターを再現出来てたはずなのに』とネットで散々に叩かれたらしい。
おまけに過密スケジュールが祟ったのか、寝坊して生番組に遅刻するに至っては、『敦賀蓮に雰囲気似た残念な人』という認識で世間は一致したようだ。本人もキチンと空気は読んだらしく、三枚目なクリレンは主にバラエティにそれなりの居場所を得たようだった。


*
*


「すいませんでした。」

蓮が僅かに眉をよせたのは、キョーコに久しぶりに事務所で顔を合わせる事が出来たことを喜びこそすれ、謝罪される心当りがなかったせいだ。
松島と打合せをしている社に視線を送るが、敏腕なる担当マネージャーからはとくに何も聞かされてはいない。

「ごめんなさいって何が?」

怖がらせないようにキョトンとした表情を作って聞けば、キョーコは視線を事務所につけたままにされているテレビに向けた。お昼の情報番組が映し出された画面では、クリレンが無理難題を振られたのか困った顔で笑っている。

「すいませんでした。ちょっとソックリさんが人気出たからってみっともなく騒ぎ立てたりして。」

謝罪の意味に気付いた蓮は柔らかく微笑んだ。

「ああ…あの日の事?最上さんが謝る必要なんてないと思うけど?」

でも…とキョーコは蓮を見上げていい募る。

「敦賀さんが自分の仕事をしたら、あんな上辺だけのそっくりさんなんて相手になるわけないのに…敦賀さんの実力を信じてないみたいでっ…」

どうどう、と言いたげに頭の上で蓮の手が踊る。

「この業界は売れてなんぼだからね。最上さんの心配は尤もだったと思うよ」
「敦賀さんはあんなに冷静だったのに!」

ふわり、と蓮に神々しい笑みが浮かぶ。

「…俺が冷静でいられたのはね」

あの日と同じように優しく頭を撫でる優しく大きな手

「みんなが俺を支えてくれているからだ。ギャラだって栗原君に較べたら高いし、時間も制限がある俺を使ってくれるスポンサーや監督達、俺を信じてマネージメントしてくれる社さん始めとする事務所のみんながいたからだよ。」
「でも、私っ」

蓮を信じて見守れなかった。蓮の演技を汚された怒りを抑えられなかった。

「うん」

動きを止めた手から伝わる熱はどこまでも温かい。

「まるで自分の事みたいに怒ってくれる人がいるって分かって、本当に力になった。」

蓮の眼に吸い寄せられる。暫し2人は無言で見つめ合った。



「おまたせー。蓮、行こう。少し押してる。」

は、と気づけば社はいつのまにやら俳優部の出口に立っている。蓮の笑顔に心を奪われて周囲に意識を向けてなかったキョーコは慌てた。

「分かりました。すぐ行きます。」

焦ることなく蓮はそう返すと、ついとキョーコの耳元に顔をよせた。

「…それが好きな子だったから尚更ね。」
「えっ…」
「じゃあ最上さん、行ってきます」

にこり、と告げられればキョーコが返す言葉は一つしかない。

「…いってらっしゃいませ」

軽く手を振り、優雅に、だが高速で歩く蓮の姿はすぐにエレベーターに消えた。

「なんなの…?」

キョーコの呟きと共に。


(おしまい)



思わせぶりツルガー発動中
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コメント

Re: うふふ

>まじーん様
キョーコちゃんの態度が嬉しくて、クリレンのことなんぞ頭の中から綺麗さっぱり忘れ去った事でしょう。
思わせぶりツルガー発動しましたが、これ発動しっぱなしでほったらかすと、キョーコちゃんの中で「これだから隠れ遊び人」はと結論づけられそうです。どうするツルガー?(笑)

20,000HIT有難うございます!
まじーん様に憑いていただけるなら手を広げて待ってます!!!

2016/06/28 (Tue) 04:55 | ちょび | 編集 | 返信

うふふ

蓮さんキョコさんが怒れば怒るほど、その間も自分のことばかり考えてくれてると感じられて嬉しかったんじゃないですかね。

思わせぶりツルガー発動。そのキョコさんへの影響も楽しみです。笑

遅くなりましたが、200,000HITおめでとうございます。

うふふ、200,000訪問。
こちらに通い詰めている仲間が大勢いることを証明する数字ですね。

これからもちょびさんに憑いていきますので、よろしくお願いします。

2016/06/22 (Wed) 20:05 | まじーん | 編集 | 返信

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