2016_07
05
(Tue)12:21

天知る地知る

公開するの忘れてた!告知も忘れてた!

2016/7/5





「この神社、絵馬を奉納したお願い事は叶うんだって。京子ちゃんもやろうよ。」

まだ20代前半の女性スタッフの言葉に頷いてしまったのは、ロケ現場でのノリというやつで、絵馬を受けってから「なんて書こう」と途方にくれる。
お賽銭をいれてのお願い事と違って絵馬となるとなんだか敷居が高い。「打倒不破尚!」なんて神聖な絵馬に書くのは憚れるし、「天上天下敦賀独尊」は敦賀教ではない神社にはどうだろう?やっぱり仕事のことだろうか?
皆はどんな願いを書いているのか…とぶら下がっている絵馬を見ると、「2人がずっと一緒に居れますように。」「両想いになれますように。」などと恋愛関係ばかりだ。絵馬と言えば合格祈願ではないのか?乙女な下心に負けるなんて世の受験生及びお母様方は一体全体どうしてしまったのだろうか?

「ここの絵馬、恋愛関係にすっごく御利益あるらしいよ。メイクさんもここに奉納したらプロポーズされてたって言ってた!私あっちで書いてくるね」

そういえばロケ中もそんな話をしていたな、とキョーコは思い出す。
ノリで買ってしまった絵馬だが、叶えて欲しい恋などしていない。この想いは地獄にまで持っていくと決めているのだから。

さて、どうしようとブラブラと歩きながら絵馬を見ていると、中には「浮気した〇〇に天誅を」やら「奥さんと別れてくれますように。」なんてオドロオドロしいものもある。決して綺麗な恋心だけを受けいれるわけではないらしい。

ちらり、と先程のスタッフに視線を送ると、自分のお願いごとに必死なようで、こちらには背を向けて熱心に絵馬に向かってペンを走らせている。
この隙に、とキョーコもペンを持った。

“Tさんにこの想いを一生隠したまま地獄に行けますように。K.M.”


ペンにキャップをして…

暫し考えたのち、キョーコはもう一度キャップを外した。



■天知る地知る





「いらっしゃい。最上さん。」
「お邪魔します。」

もう幾度となく訪れた蓮のマンションのドアをくぐる。

「今日はごめんね。迎えに行けなくて。」
「いえいえ、撮影が押してたんですから仕方ありませんよ。」

CMのロケが思ったよりも長引いたとこかで、電話をもらった時にはキョーコは既に蓮のマンションに向かっている最中だった。迎えにいくと主張する蓮をそのまま行く方が早いと制して今に至る。

「でも、夕食の買出しまでさせた上に荷物まで。」
「お土産のお礼に夕食を作りたいと言ったの私ですから。あのお菓子本当に美味しかったです!。普段甘いものあまり食べない大将も完食したんですよ」
「気に入ってもらえたのなら良かった。」

ロケと番宣で関西に出かけていた蓮から、抹茶のお菓子をお土産にもらったのは先日のことだ。そのお礼を建前に夕食を作る約束をゲットしたのだ。

「あ、新ドラマ滑り出し好調ですね!すごく面白くて続き気になっちゃいました!」
「ほんと?最上さんにそういってもらえると嬉しいな。」

ダイニングに入ると、テーブルの上にこの部屋では見慣れないものを見つけた。

「…笹ですか?」

そういえば、もうすぐ七夕だ。

「うん。今日のCM撮り、幼稚園が撮影場所でね。そこでもらったんだ。」

今春から蓮が出演している洗濯洗剤のCMはキョーコもお世話になった黒崎が監督を務めていた。

「敦賀さんは黒崎監督初めてですか?」
「うん、おもしろい人だね。」

子役ではない本当の園児との撮影はそれはもうてんやわんやだったのだと言う。最後はすっかり仲良くなった子供たちからプレゼントされたのがその笹で、彼らが一生懸命作ったのだろう、拙いながらも可愛らしい色とりどりの飾りがつけられている。見ると脇には短冊が2枚。

「保育士さんに短冊もどうぞって渡されてね。なんとなく持って帰ってきたし、まあ折角だからと思って。最上さんもどう?残り1枚だよ。残り物には福があるっていうだろ?」
「2枚だけの短冊で残り物と言われましても。」

笑いながらもペンをとる。蓮と2人だけの七夕飾りなんて嬉しいに決まっているのだから書かないという選択肢はない。蓮はどんな願い事を書いたのかと薄いブルーの短冊に目をやった。

“健やかでいれますように。 敦賀蓮”

「これまた…無難な…。」
「演技は自分が頑張るしかないからね。結果は後からついてくる…かな?。」
「うう…私はそんなカッコいいこと言えませんので…。」

さらさらさら…と書いた短冊を蓮に見せる。

「私はこれです!」

”もっともっと演技のお仕事もらえますように!最上キョーコ”

「最上さんらしいね。でももっと具体的に書く方が分かりやすいかもよ?」
「そうですかねえ…?」

暫し考えたのちに脇に書き足した短冊には“妖精演じてみたいです!”

「…急にハードル上がったね…。」
「そうですか?。」

鞄から取り出したエプロンをつけながら首を傾げたキョーコは夕食の準備に取り掛かるために立ち上がった。

「笹、どこに飾りますか?」
「夕食後にバルコニーに飾ろうか?社さんから冷たい和菓子の差し入れあるよ。」
「素敵ですね!氷出し緑茶煎れておきます。」

バルコニーで飾った笹をながめながらお茶とお菓子をいただくなんて、まるでお家デートのようではないか。緩みそうな顔を必死に引き締めながらキョーコはキッチンに向かった。

*
*

今日は食事をしながらDVDを見たいのだと言う蓮のリクエストで、食事はリビングでとることになった。

「映画ですか?」
「ううん。バラエティ―。大阪で番宣で出たのを送ってもらったんだ。放送は来週らしいけど」
「珍しいですね。敦賀さんがご自身がでたバラエティチェックするなんて。」
「どんな仕上がりになったのか気になってね。」

ドラマや映画ならともかくバラエティで蓮が仕上がりを気にするなんてますます珍しい。
どんな番組だとドキドキしながら、画面を見つめていると流れてきた音楽に「あ」と小さく声が漏れた。

「やっぱり最上さんも知ってるんだ。関西では有名な長寿番組なんだろ?。」
「ええ…これが流れると週末がやってきたといいますか…。」

視聴者からの依頼に探偵と称する芸人たちがこたえていくといく深夜ながらも高視聴率を誇るお化け番組。これをみないと週末がきた気がしないと断言していたのは、クールを気取っていても実はお笑い大好きな幼馴染だ。旅館なんていう職業柄夜更かしは割と許容されていて、小学生の高学年位になるころにはこれを見るのは習慣となっていた覚えがある。

「こっちではあまり視聴率は振るわないらしいね。」
「ああ…こういうノリは…それに放送時間帯や曜日もあるかもしれませんね。」

これはこんな時間帯に見る番組じゃねえんだよ!とテレビに向かって苦情を述べていた幼馴染の顔が浮かんで慌てて消し去る。蓮のマンションで大魔王召喚などたまったものではない。
こと、ショータローのことに関しては恐ろしく鋭い蓮のレーダーにもなんとか察知されなかったらしくほっとする。

「この番組の“局長”、敦賀さんのドラマの第1回の犯人役でしたもんね。」
「うん、番組後半でも再び出てもらうんだ。」
「ええ!ほんとですか!?確かにあの犯人謎秘めてそうでしたね。すごいアクションとかないのに手に手を握る心理戦で…筆跡鑑定を軸に松本が謎を解いていく件は鮮やかでした!」

蓮が演じるのは科捜研の偏屈な天才松本だ。

「実際役作りに協力してくださった科捜研の方も驚くほどの知識だったって社さん言ってましたよ。こんなにお忙しいのにいつ勉強されてたんですか?」
「付け焼刃だよ。科捜研の方も褒めるの上手だからなあ。」

依頼内容や、スタジオでの零れ話に花を咲かせているうちに番組も後半に突入した。

『それでは本日最後のご依頼です』

“呪いを消し去れ”
なんとも恐ろしげな題名だが、依頼者は20代後半の女性だ。半年後に結婚する予定なのだが、結婚前にどうしても清算したい過去があるのだという。

『私、3か月位前に彼氏の浮気を確信したことがあったんですよ。』

忘れたスマホを取りに夜遅くに彼氏のマンションに行ったら、部屋に入っていく女を発見したのだ

『翌日家探ししたら服やら鞄やら出てくるわ出てくるわ…。』
『ええ?浮気確信した男と結婚するの?』
『いや、その時は別れてやる!ってメール送りつけて、そのまま一人旅に出ました。』
『一人旅って!』
『こういう時はセンチメンタルジャーニーってきまってるやないですか。』
『センチメンタルジャーニーって!』

ところが、その後その女は彼氏の友人の女装した姿であることが判明する。女装への欲求とそれがばれる事の恐怖に苛まれていた親友の為に着替えと保管場所を提供していたのだ。

『女装好きだろうかなんだろうが、アイツは俺の大事なトモダチやからって。』
『めっちゃ男前やん!ええやつやん!』

誤解して1人暴走したことを詫びる彼女に男前な彼氏は『俺こそごめん』と謝った。

『お前は俺にとって大事な人生のパートナーやと思ってたのに、ちゃんと説明してなかったせいで傷つけた。今からでも遅くないなら正式にパートナーなってくれって。』

雨降って地固まるとはこのことだ。勿論彼女は承諾した。だが…

『でもね…私…旅行先で…。」
『旅行?センチメンタルジャーニー?』
『センチメンタルジャーニー。そこで呪いの言葉をね…』
『呪いの言葉?』
『もう怒り狂ってましたからね。浮気したアイツに天誅を!って絵馬に書いて神社に奉納しちゃたんです。』


浮気した〇〇に天誅を


(あれ?)

この言葉、それに絵馬…どこか引っかかるような…


はた、と数か月前の事を思い出した時は、すでに画面には件の神社が映し出されていた。
依頼内容は呪いの言葉を書いた絵馬を返してもらって自分の気持ち共々浄化したいというものだ。

(いや…まさか…あんなに沢山有るんだし、もう処分されたあとかもしれないし)

依頼者の記憶に従って探偵が絵馬を探し始めた場所は、キョーコが立ち止まりペンを出した場所に近いような…気がする。


いや、大丈夫、近いだけでは何の問題もない。
例えすぐ近くでもカメラに入らなければ問題ないし、カメラに入ったとして個人名が入ったものを今時ぼかさないなんて…

(って、私全部イニシャルにしちゃった!!!)

いや、でも、きっと、と祈るような気分で絵馬を探す2人を見守った。

『あ、あったこれでしょう!?』
『そう!そうれです』

アップになった絵馬をみてキョーコは天を呪いたくなった。
その下にうつっているのは自分が奉納したものに間違いない。“Tさんにこの想いを…”云々の文字が画面の端っこに見え隠れする。
もうそのまま…との思い虚しく、探偵が絵馬を外した瞬間、キョーコの絵馬の全体が映し出された。


“Tさんにこの想いを一生隠したまま地獄に行けますように。K.M.
 どうか、できるだけ長くTさんの傍にいれますように          ”


小さいながらもテレビ自体が無駄に大画面だ。判別できるほどの大きさに映ったがほんの一瞬でカメラは探偵と依頼者の顔をとらえた。
ほっとしかけたところで、蓮の手がリモコンに伸びて神業ともいえるスビードで、キョーコの絵馬を捉えたコマに巻き戻した。


え、と思うより先に蓮が言葉を発する。

「さて、ここに被疑者が書いた短冊があります。」

ギギギッと首を向けると、いつのまに食事を終えたのか、それはもうキラッキラッの笑顔で先程の短冊をつまむ先輩俳優。

「被疑者は書道をならっていたのでしょうか、非常に綺麗な字体です。ですが、“す”と“よ”に特徴がある。この丸まった部分にね。ほら、こちらの絵馬と一緒でね。」
「ああああああ、あの。」
「付け焼刃でも結構勉強したんだよ?特に筆跡鑑定はプロに花丸をもらえるほどに。」
「まさか…短冊…わざと…。」
「証拠集めは大事だからね。」


さて、と短冊をテーブルに置いた蓮はニコリと笑う。

「地獄まで持っていく想い?傍にいたいTさん?気になるね。K.M.さん」
「あ、あんな…テレビ画面でなんか…。」
「ちゃーんとプリントアウトしてあるよ?なんならプロに頼もうか?今ならドラマの関係でつてがあることだし。」
「そ、そんな公私混同は…。」

じりじりと追い詰められていく。

「ああ、ちなみに最上さんがロケであの神社に行ったのも確認済み。絵馬を書いてたっていう証言も複数出てるよ?。」

いくら広いリビングと言っても限界がある。壁を背にもう下がれなくなったキョーコが横移動に切り替えようとしたが蓮の手に阻まれた。では反対にと思ったらもう片手。

間近に迫った美貌がニヤリと笑う。


「ほら、そろそろ吐いて楽になろうか?」



(おしまい)


天知る地知る我知る敦賀知る




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コメント

Re: これで気づくなんて、すごいセンサー!!

> まじーん様
うふふ…キョーコちゃんの絵馬に気付いたの敦賀さんの恋心と驚異的能力のお陰でしょう。でもなぜ恋愛音痴の彼がという部分はまた書こうかなと思ったりやめとく方がいいと思ったりしてます( ̄▽+ ̄*)(たぶん書かない方が正解です。蛇足ですから)

天上天下敦賀独尊なんて書かれた日の敦賀さんの落ち込み具合、それはそれで見ものだったでしょうねえ(笑)

2016/07/08 (Fri) 04:57 | ちょび | 編集 | 返信

Re: さすが、蓮さま

>ひろりん様
関西人の金曜夜のお供「○○トスクープ」と七夕という何ともへんてこなコラボ楽しんでくださって嬉しいです。
鶴賀さんって男前なくせに姑息な技が似合う所が魅力だと思うのは私だけなのでしょうか?
実はもう証拠のブツ(絵馬)を入手すべく動いているのかもしれません(笑)

2016/07/07 (Thu) 05:04 | ちょび | 編集 | 返信

これで気づくなんて、すごいセンサー!!

普通は見ても気づかず流しますよね・・・笑

番組収録後の蓮さんの捜査は真剣かつ凄まじいものだったでしょうね。

天知る地知る我知る敦賀知る。

それははもう運命。

「天上天下敦賀独尊」と書かなくてよかったです。笑

˖˚⁺\( ̄▽ ̄)/⁺˚˖

2016/07/05 (Tue) 17:56 | まじーん | 編集 | 返信

さすが、蓮さま

ちょび様
こんにちは。
いやーへたなサスペンスドラマよりずっとハラハラドキドキさせていただきました(笑)犯人(キョーコちゃん)を追い詰める鮮やかさ、なのにニヤニヤと顔がゆるんでしまいました。もう想いは地獄まで持って行けそうもないですね。自白すれば少しは罪は軽くなる??ねっキョーコちゃん♡
楽しいお話しありがとうございます!

2016/07/05 (Tue) 15:22 | ひろりん | 編集 | 返信

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