2016_07
13
(Wed)11:55

天知る地知る…兄聞かず

もう火曜だ。金曜だ。にこだわっていられなくなったちょびです。不定期ですがお話書くのは続けますよー。

誰に頼まれたわけでもないのに、先日の天知る地知る のサイドストーリーです。
蛇足だね。きっと蛇足だね、と分かっているけど書いちゃった。

2016/7/13




LME俳優部門マネージャー、社倖一が担当するのは若手№1と称される売れっ子俳優だ。

社は敦賀蓮を売れている、なんて言葉では言い表せない程卓越した才能を持った男だと思っている。

一部の隙もないほど整った容姿、演技力、それに対する情熱、共演者やスタッフへのコミュニケーション能力、どれをとっても完璧で正直同じ人としてくくられるのはどうかと思う程だ。



■天知る地知る…兄聞かず


(ん?)

社が担当俳優の様子に違和感を覚えたのは、関西では不動の人気を誇る深夜番組の収録中だった。
今回の最後のVTRを見ていた蓮の表情が一瞬だが強張ったのだ。

(何かおかしい所あったっけ?)

場面は関東の神社までやってきた依頼者と探偵がようやく絵馬を探し当てたところだ。
出演者に注意を向けていたとはいえ社だってVTRは見ていた。若くて美人なのに妙にキャラの濃いOLと探偵のやりとりは面白かったが、他にこれと言って気付いた点はなかったように思う。

だが違和感を覚えたのは一瞬の事で、VTRが終わると担当俳優は楽しげに感想を述べて、和やかに収録は終了した。

「敦賀君、今日はありがとね。」
「いえいえ、こちらこそ伝説の番組に出演させて戴けて光栄でした。」
「いやいやもう長く続いたってだけでね。関西特有の泥臭さだし楽しんでもらえるか心配だったんだ。」
「すごく楽しかったです。東京での放映日を後程伺って記念に録画しようと思います。」
「そんなに?嬉しいなあ。僕もこの番組が好きで好きで局長なんてやらせてもらってるからさ。本当に嬉しいよ。そんなに気に入ってもらえたんなら編集出来次第送ってもらいなよ。なあ、ディレクター?。」
「勿論です!事務所に送らせていただきます!」

また違和感。普段の蓮なら言わないタイプのリップサービス。なんだか誘導尋問臭い。やはりVTRの内容に何か引っかかるものがあったのだろうか?
暫し考えたのち、社は手にしていた手帳を綴じた。

(まあ…いいか)

放映時にはVTRがテレビ画面にうつるので蓮のあの表情が公共の電波に乗ることはない。社はその違和感については聞かないことにした。

担当マネージャとして敦賀蓮という仕事人を信用している。
仕事に支障をきたすような事はDMで演技に行き詰まった時位しか覚えがないし、必要な時は社にちゃんと相談してくれるだろう。蓮から話をするまでは特に問いただすべきことではないとマネ感は告げていた。

CM撮影と番宣の為に訪れた関西の地でも担当俳優は引っ張りだこで、分刻みに組まれたスケジュールをこなすうちに、そのことは社の記憶の片隅に追いやられた。

*
*

「T…」

担当俳優が謎のアルファベットを呟いたのは、帰京して暫く経ってから。主演ドラマの撮影の合間に雑誌のインタビューを受けた後に、休憩をかねての昼食中である。
ペットボトルのお茶を飲んでいる最中だった社はキャップを閉めながら次の言葉を待った。

「最上さんの傍にいるTさん…って誰ですかね?」

半分ほど食べた弁当を前にして蓮はそう続けた。重苦しいその様子に、いったい何のことだと思ったがそれ以上話す気はないらしい。ついでに言えばそれ以上食事をする気もなさそうだった。

はて、と蓮の言葉の背景を考える。いったいどうしてそんなイニシャルトークになったのか?思い当たる節が全くない。なにぶんこの多才なる担当俳優は脳味噌も実に器用に出来ているらしく、いつも通りに仕事をしながら全く別のことを考え込んでいた…なんてことがざらにあるのだ。いったいいつから考えていたかなんてことさえ分からないが、それ以上説明をしないということはたとえ理由を尋ねても答えはしないだろう。

(T…ねえ)

食べ終わった弁当に蓋をしながら社も考える。神に愛されし敦賀蓮に足りないものがあるとすればそれは恋愛能力だ。こんな顔して吃驚するほど恋愛音痴なこの男は自分の恋心に気付くのさえ随分と時間がかかった。

(キョーコちゃんかインタビューとかでそんな発言してたっけ?)

担当マネージャーとして、そしてけなげな片思い中の担当俳優を兄のような心地で応援している社は、蓮の想い人である最上キョーコのスケジュールやら仕事内容やらをほぼ完全に把握している。BOX-Rが最終的には勝ち組と言われる視聴率でエンディングを迎えたせいもあってここのところメディアへの露出も多いが、イニシャルで誰かのことを語ってた…そんな記事は無かったはずだ。

(京子に関するチャットでも覗いたのか?)

蓮は結構スマホを使いこなしている様子で、何やら調べたり確認している姿は時々見かける。ナツを演じたことで男性ファンが急増したし、ファンサイトでも検索したのかもしれなかった。
仕事柄芸能情報はまめにチェックはしているが、キョーコに何か噂が立っていると聞いたこともないので、結構他愛もないファンのチャットをみてふと気になった。そんな話だろうか?

事情が分からないので深く考えようもなく、社は単純明快に答えることにした。

「傍にいるTさん。」

そう言いながら目の前の男を指差して見せれば、へ、となんとも間抜けな声を出した。敦賀蓮としてはかなりレアな表情だ。

「傍にいるTさん、だろ?間違ってないじゃないか。」

残念なことに色気も甘い雰囲気も全くないが、「傍にいる」ということだけで言えば間違いはないだろう。

最上キョーコは己の担当俳優程ではないが実に忙しい毎日を送っている。
増えてきた仕事に、せっかく学費を払っているのだからと手を抜く様子はない学業、下宿先の手伝い。おまけにラブミー部員として社長のお遊びやら事務所の雑用やらに駆り出されるので実際の自由時間はかなり少ないはずだ。その少ない自由時間に蓮と会せる算段を社がしているのだから、物理的距離で測れば傍にいる人物の一人に蓮が入っているのは確かだろう。
心理的距離でないのが残念だが。

「俺…ですか?」
「うん。おかしくないと思うけど?」

物理的心理的距離共に近いラブミー部員琴南奏江のイニシャルはTではない。もう1人は天宮千織…名前がTだが、確かキョーコは苗字で呼んでいたはずだ。

(あ、ファンのサイトとかなら千織=Tもありえるか。でも蓮もTさんで間違いはないし…まあいいか)

「俺…。」
「うん。お前である可能性有ると思うぞ。」

あくまで現状での物理的距離だけでいったならの話で、心理的距離でいったらまだまだ目標は遥か遠くだぞ、とは闇の国の蓮さんを召喚しそうで怖いからやめておく。

「そ…ですか…。」

一言つぶやいて、蓮は弁当を片付け始めた。その横顔はほんのり赤い。傍に居る人って認識されたというだけでそんなに嬉しいとはどれだけ幸福基準度が下がっているのだと、抱かれたい男№1の担当マネージャーとしては泣けてくる。
泣けてはくるが、担当俳優のテンションが上昇気味になるのはいいことだと納得させ、コーヒーを飲むために立ち上がった。


その後も、事務所での空き時間にラブミー部ではなくタレント部で椹と話し込んでいる蓮を見かけたりと時々不思議な出来事はあった。だが、どれも仕事に影響するようなことではなく、かえって蓮は精力的に仕事をこなしているので社は静観することにしたのだ。


*
*


「ほい。」

差し出した保冷バックに蓮は怪訝な顔をした。

「キョーコちゃん来るの今晩だろ?もうすぐ七夕だしいつも食事のサポートさせちゃってるし、俺からの差し入れ。」

土産の礼に食事を作ってもらえると聞いたのは少し前の事で、本日最後の仕事のCM撮影は幼稚園児との共演だったので随分と撮影に時間がかかった。その間に抜けて近くの和菓子屋で買ってきたのだ。

「葛を使った冷たい和菓子だからな。帰ったら冷蔵庫に入れろよ。」
「分かりました。有難うございます」

蓮は受け取ったそれを大事そうに後部座席に置いた。想い人と共に食べるというだけでお菓子の価値も上がるらしい。

「七夕と言えば、それはどうする?俺が引き取ろうか?」

そう社が提案したのは撮影場所となった幼稚園の保育士さんから渡された笹だ。園児たちのつくった笹飾りがなんとも愛らしいが、渡された短冊だってきっと蓮は書かないだろうし、何より殆ど家主が不在の部屋で干からびていくより、事務所に飾っておくほうがいいだろう。
だが、担当俳優は頭を振った。

「いえ、せっかくだから俺が戴きますよ。今日は最上さんも来ますし。」
「ああ、そうか。キョーコちゃんと2人で願い事かいて飾るのもいいな。。」

少しでも2人の仲が進展するように願って欲しいが、きっと仕事関係の色気の全くない願い事なのだろう。だが、2人で笹に願いを吊るして…なんてことだけで幸福基準度ダダ下がり男は嬉しいに決まっている。

「ええ、好都合です。」
「は?」

好都合ってのはちょっと日本語の使い方違うんじゃないか?と運転席の男を見れば、その顔には何やら悪い笑いが浮かんでいる。

「え…蓮…君?」

どういう意味?と聞こうとすると、こちらに向いたのはいつもの穏やかな笑みをたたえた顔だ。

「さ、帰りましょうか?」
「あ…うん。」

気のせいだったのか?そう思って、社はシートベルトをしめた。


*
*


「俺たち付き合うことになりました。」

その驚愕のニュースがもたらされたのは、翌朝、社長室でのことだ。
喜色満面の担当俳優と、その長い腕に腰を抱かれ、真っ赤な顔をしてうつむくラブミー部員。

昨日別れた時には予想も出来なかった事態に状況が理解できず、社長席を確認してみれば、ローリィも口をあんぐり開けている。

「何を…どうやって…・」
「社さんのお陰です。有難うございました。」
「え?俺?」

何がなんだかわからぬうちに空いている方の手で握手を求められる。

「これからもサポートよろしくお願いします。」
「あ…うん。それは勿論。」

ちらりと脇を見れば、キョーコも一緒に頭を下げている。と、いうことは脅迫とか無理矢理とかそんな訳ではないらしい…多分。

「れーん。」

葉巻をふかしながら、呆れ顔のローリィが告げる

「お前、撫でる位ならかまわんっていったはずだが?」
「それはヒール兄妹の時ですよね?想いが通じ合った結果の先にある行為は当然の事でしょう?」
「ちょ、敦賀さん!。」

(あー、やっぱり大人の階段昇っちゃったんだ。)

蓮の腕の中でじたばたもがくキョーコを見ながら確信する。
あんなにヘタレな恋愛音痴だったくせに、想いが通じた途端電光石火の手の速さだ。

しかしどうしたらこうなったのだろう?
あの難攻不落のラブミー部をどうやったら口説き落とすことが出来たのか?
そもそも口説き落とす雰囲気に持っていくことさえ困難な感じだったのに。
しかも社のお陰だという。いったい何をどうした?

「敦賀さん、そろそろロケに向かわないと!」
「うん。頑張ってくる。週末には泊りにきてくれるよね?」
「え”?」
「え”って何?。」

その後はこちらに聞こえない小声で2人はなにやら遣り取りをしている。様子から察するに蓮が馬鹿なことを言ってキョーコに叱られているようだ。プンスカ怒るキョーコを宥めるように身を屈めた蓮がその耳元に何やら囁くと…瞬時に頬を染めたキョーコが花が咲くように笑って頷いた。

その笑顔をみて社もまた微笑んだ。

(まあ…いいか)

何がどうしてこうなったかは物凄く気になるが、2人幸せなようならそれでいい。これからも長い付き合いになりそうだし、尋ねてみる機会はまたいくらでも訪れるに違いない。

今はともかく想いが通じ合った2人を祝福して、これからのサポートを約束しよう。

*
*

その後、関西より10日ほど遅れて放送された番組の問題個所をコマ送りしてようやく“Tさん”の出所をしった社は、担当俳優の野生動物並みの動体視力と、筆跡を憶えるほどの執着ぶりに少々恐怖したのだという。


(おしまい)
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コメント

電光石火の手の速さ!

これが付き合う前にもっと発揮できていれば!とも思いますが、相手のオッケーが確信できないと告白もできないというヘタレ男子あるあるかもですね。

こんな良き兄やっしーがいれば、キョコさんや蓮さんの恋愛環境は心配なさそうです。

担当俳優の野生動物並みの動体視力と、筆跡を憶えるほどの執着ぶりに少々恐怖した・・・部分には爆笑しました。

でも、キョコさんと蓮さんはこういう部分でも似たものカップルですね。
両思いで何よりでした。

2016/07/23 (Sat) 21:00 | まじーん | 編集 | 返信

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2016/07/13 (Wed) 22:36 | | 編集 | 返信

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