2017_04
12
(Wed)11:55

一粒で

誰も待っていないとは思うけど、帰ってきた「恋する愚か者」シリーズ!


悩みの音 
□愚か者の幸せ(前編)(後編) 
笑う愚者 【頂戴品】 
□ 撫で愛でる未来(リクエスト)(前編)(中編) 後編
□それは儚いものだけど (前編)(後編)  

時間軸でいうと「撫で愛でる未来」の後くらいですかねえ?

久しぶりに書いたので雰囲気変わっちゃったのかもしれないです。
社さんのお母様がちらりと出てきます。捏造キャラですので苦手な方はご注意を


2017/4/12





「倖、それ、そんなに真剣に見るドラマじゃないでしょ?」

久しぶりに帰った実家で母にかけられた声に社は振り向いた。

「ちょっとね。うちのタレント出てるから」
「ああ、京子ちゃん?可愛いわよねー。このドラマみてファンになっちゃった。」
「母さん見てるんだ?じゃあこっちきてみればいいのに。」
「いやよー。そういうドラマは1人で見てときめきたいの。」
「そういうもん?。」

笑いながら画面に視線を戻す。

「三角関係なんて王道なのに先が気になるのよねえ。」

全くだ。
結末が気になって仕方ない。

その結果が担当俳優のメンタルに影響を及ぼすことは確実なのだから。



■一粒で



連続ドラマ「シャジクな恋」

最上キョーコこと京子の初主演ドラマである。

キョーコが演じる桶川幸(さち)は今春短大を卒業したばかりの新人だ。
ドラマでは入社した通信教育大手の会社で仕事と恋に悪戦苦闘する姿が描かれている。

初主演は実に喜ばしい。
この春高校を卒業したキョーコにとってはまさに適役。実際、不器用ながらも一生懸命でみているこちらも応援したくなる幸をキョーコは実にうまく演じていて、それほど注目されているドラマではないが、結構いい線をいくんじゃないかと社も期待している。
蓮とてキョーコにそのオファーがきたことをとても喜んだ。自身の役が主演だろうと脇だろうと気にするような男ではないので、主演という言葉を聞いてあんなに嬉しげにするのを初めて見たかもしれない。

万々歳だったのだ。
恋の大三角形を形成するのが腐れ縁の幼馴染と職場の尊敬する先輩と知るまでは。


「あら、やっぱり狭山さんって幸のこと特別視してるのね。」

見ないといいながらお茶をもってきてくれたまま足を止めている母は画面を、見て楽しそうに笑う。

画面では職場の先輩狭山武(たける)が大失敗をやらかした幸を厳しく指導している。普段クールな狭山らしからぬその行動には確かに幸への強い思い入れが感じられる。

「狭山さんってかっこいいわよねえ。」

母の言葉に大きくうなずく。

一流大学を出て強い目的意識をもって入社している武は広い視野と高い能力を持つエリートで、なんとなく入社して学生気分が抜けきれない幸に厳しい。だが、幸の頑張りとユニークな発想を認め、応援するうちに女性としての魅力に心惹かれるようになるのだ。

「厳しいところもあるけど、ここぞの時は頼りになるし。会社の人から信頼されてて、やっぱり仕事頑張ってる男の人って素敵よね。男前だし。」

うん、うんと大きく同意
だが母は「だけど…」と続けた。

「修也君もいいわよねえ。若さあふれてて。」
「…そお?」
「あら、素敵じゃない。夢に向かって頑張ってて。年取るとああいう子が眩しいわあ」

桶川幸には兄妹同然に育った幼馴染 白岡修也がいる。
ダンスの勉強の為渡米し3年ぶりに再会した修也は夢を追う人特有の輝きに満ちていた。なんとなく大手だからと入社し、その仕事に四苦八苦している幸には眩しいほどに。
その修也に「ずっと好きだった」と告白されて、幸は大きく揺らぐのだ。


「夢っていったって、ダンスで食っていけるのなんてほんの一握りだよ?プロとしての寿命も短いし、将来のこと考えたら狭山がダントツリードだろ?」
「えー、夢を追ってる人って素敵じゃない。」
「夢で腹は膨れないよ。それにそもそもサラリーマンが夢がないと決めつけるのってどうなのさ。組織だから出来る事ってあるだろ?」
「それはそうだけど」
「安定した収入と整った福利厚生、タイプは違えどイケメンでどっちにもときめくんだったらもう狭山で決まりだよ。」
「やあね。年頃の娘を持つお父さんみたいなこと言っちゃって。」

ころころと笑われ少し拗ね気味に社は足を組みなおした。

仕方ないではないか。
狭山の細身のスーツ姿やら幸との年齢差や、修也の明るく染まった髪の毛が、あまりに現実のキョーコの恋人と幼馴染を彷彿とさせるのだから。
正直悪戯好きのラブモンスターが脚本家に入れ知恵しているのではないかと疑ったぐらいだ。

蓮だって表には出していないけれど引っかかるものはあるのだろう。キョーコが傍にいない時件のドラマを見聞きした時漂う空気が少し変わる。
修也と再会したシーンで幸が「しゅーちゃん。」とつぶやいた時、控室のテレビで見ていた蓮の肩がピクリと動いたと気付いた時は室温が何度が下がったほどだ。

ドラマの結末さえ分かっていれば対処のしようもあるのだが、キョーコの演技に刺激を受けた脚本家が結末に少し迷い初めたらしく、撮りはもう終盤に入っているというのに最終2回の脚本はまだあがっていないのだ。
これがすんなり修也とくっついた、とかいう結末ならまだ「ドラマはドラマ」と割り切れるが、狭山と少し付き合って出した結論が修也との未来とか…だったりしたらなんだか蓮とキョーコの未来にも暗雲が立ち込めそうで勘弁してほしい。

(気にしすぎなんだろうけどさ)

キョーコが幸を演じているからといって所詮はドラマ、架空の世界だ。
現実はすでに蓮はキョーコの恋人の座を手に入れ、過去の自分もさらけ出した2人の絆はそんじょそこらの馬の骨には切れないと思う。

(でも不破だからなあ…)

蓮にとっては鬼門、トラウマになっているといってもいい。
幼いころ幼馴染が一番のキョーコを知っていて、再会してからも何かあると2人にしかわからない空気を見せつけられてきたからだろう。それに、歌手とタレント兼女優という同じ芸能界でも分野の違うのにあり得ないほどの遭遇率は、ショータローの意向にもよるものだろうが、強い運命みたいなものを感じたことは社にだってある。

「倖ったらそんなに眉間に皺寄せて…京子ちゃんみたいな子がタイプなの?」
「母さん…俺、孫の運動会見れるくらいには長生きしたいんだ。」
「は?」
「だからそんな恐ろしいこと言わないでくれる?闇の国から招待状が届くから」
「…なあに闇の国って?LMEで所属タレントとマネージャーの恋って禁止なの?」

母親が盛大にはてなマークを飛ばす中、テレビ画面の中では狭山の存在に焦った修也が幸の唇を奪っていた。


*
*


控室に向かう社の足は軽い。

海外ロケから戻ってきた担当俳優は10日振りに恋人との時間を楽しんでいるのだ。
食事休憩の限られたものとはいえ、天然敦賀使いのキョーコのことだ。無意識に蓮のハートを鷲掴みにしているに違いない。
昨夜録画でみた修也とのキスシーンで減りに減った蓮の心のバッテリーもぜひとも充電していただきたいものだ。

(ダークムーンのころの不破とのキスを思い出すんだろうけど、それを押さえようとする分にじみ出る闇の気配が怖かったんだよなー)

出来るだけ2人きりにしてやりたいが、今日の現場は何かと変更事項が多く頻繁にスタッフがやってくる。公の関係になってない以上あまり社が控室を離れるわけにもいかない。

控えめにノックをすると、蓮が穏やかな笑みをたたえて出迎えてくれた。だいぶ回復したようだ。

「ありました?」
「あった。あった。替えのインク売ってて助かったよ。このペンじゃないと使いづらいからさ。誰か来た?」
「いえ、誰も。」
「おかえりなさい。社さん、お茶入れましょうか?」
「いいよいいよ。ついでに缶コーヒー買ってきた。蓮とキョーコちゃんもよければどうぞ」

缶コーヒーの礼をいう2人に断って部屋の隅にあるテーブルを陣取ると、2人はテレビを前に並べた椅子に再び座る。ぴったり並んだ椅子を見たらどういう関係かなんてバレバレで、来訪者がいなかったことにホッとした。

どうやら2人はキョーコが出ているトーク番組を見ながらまったりした時間を過ごしていたようだが、にこにこと話しかける彼女の髪を梳く蓮の指の動きはなんとも艶めかしい。
10日振りに恋人に触れる健全な20代男子としてはまあ仕方ないだろう。


『京子ちゃんのドラマ、うちのかみさんはまってるで。視聴率もじわじわ上がってきてるらしいな。』
『奥様が?嬉しいです!』
『で、どっちとくっつくねん。おっちゃんにコッソリ教えてえな。』
『ここでお伝えしたらコッソリになりませんから。ダメですよ。』
『そりゃ残念。かみさんは職場の先輩派やで。尊敬から始まる恋に萌えるらしいわ。』
『えー、マリエは絶対修也!』

天然おバカキャラで売っているタレントが声を挙げた。

『あーああいう感じ好きそうやな。』
『だってー、先輩なんて堅苦しくて肩こりそう。付き合いだしてからも上司面とかマジウザいし。』
『とか言って、ツンデレとかお前好きやないか』
『そうだけどぉ。ずっと友達だったんなら気がねしなくていいじゃん?なんでも打ち明けられるしぃ。』

(ああ…蓮の地雷を…)

いつも丁寧な言葉遣いなキョーコだが、別に蓮に気兼ねがあるとかそういうわけではない。だが、もっとフランクな話し方とか不満というほどではないものの気にしていることをズバリ指摘されて担当俳優の顔面の筋肉がひきつった気配を感じる。

『男なんてー所詮ガキのくせにぃ。ちょっと年が上だと妙な大人の余裕みたいなの見せようとするじゃん。いらないっつーの。』

はい、ここに大人の余裕を見せようとして必死な男がいます。

(でも、それはまあ…仕方ないよな。惚れてる子には誰だってカッコよく思われたいし)


好きな子だから、頑張っている仕事を応援したい。
好きな子だから、その仕事内容が殊更気にかかる。
余裕のある大人な自分を演出したくて、その一方でフランクな関係にもあこがれて

矛盾だらけな想いにもがいて、些細なことに動揺するのだ。



クスクス…
おしゃべりをやめて画面を見ていたキョーコが笑い出した。

「どうしたの?」
「え?ああ、すいません。尊敬から始まる恋と友情から始まる恋って、私両方体験してるなあって思いまして。」

(あ、言っちゃうんだ)

まあ、キョーコにとって不破とのことはすでに思い出なのだろう。
それでも蓮にとってはトラウマで消し去ってほしいとさえ思っているに違いない幼馴染との過去をそんなお得感たっぷりに言ってしまうって、無邪気って時には残酷だ。

なおも笑いながらキョーコは声を潜めて言う

「だって私コーンのこと大好きでしたけど、それh友情だって思ってましたもん。なのにこんなびっくりな結果が待っているなんて。」

へ?と敦賀蓮らしからぬ声が担当俳優の口から洩れた。

「俺?」
「そうですよ?私、1粒で2度美味しい想いしてますね。」


尊敬から始まる恋も
友情から育った愛も

この隣に座る男に抱いているのだとキョーコは笑う。




パッカーン!


社は担当俳優のモヤモヤが吹き飛ぶ音を確かに聞いた。


「ドラマの幸は迷うじゃないですか。」
「うん…」
「そんな時は敦賀さんとコーン2人並べてみるんですよ。無理!選べない!って頭抱えちゃう気持ちが分かると言いますか…すいません。役作りにこんな使い方して。」
「いや…それは別に。」
「ほんとに2人が一緒でよかった。私ってラッキーですよね。」



流石だ。天晴だ。天然敦賀使いの放つ矢は蓮のハートを打ち抜きまくっている。
これからは件のドラマを見聞きするたびに、担当俳優の機嫌ではなく緩む顔面を注意しなければ。

「敦賀さん?どうしたんですか?なんかちょっと顔赤いですよ?」
「いや…別に。」
「熱とかないですよね?」

少し眉を寄せたキョーコが蓮の額に手を伸ばす。

「あ、大丈夫そうですね。」
「うん。大丈夫。」

大丈夫じゃないのはこの男の理性の紐だ。


ちらり、と蓮がこちらをみた。

どうせ社さえいなければギューとかチューとかしたいと思っているのだろうが、ここは局の控室で休憩時間ももう残りわずか。誰かに見られなくても行き過ぎた破廉恥行為に及んでキョーコに逃走された日には、しばらく切り札無しに担当俳優のメンタル維持に神経を使わなければならなくなる。


結論
これ以上のおさわり禁止



俺はいなくならないぞ、と殊更主張するために社は新たな書類を机に並べて見せた。


(おしまい)




1年近く前に書きかけて放置していた為「シャジクな恋」のシャジク、なんの意味だったか忘れてしまいました。
「これだ!」って思った記憶はあるんですけどねえ。
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Re: タイトルなし

> ○ゅ○こ様
コメントありがとうございます。
幸せな敦賀さんやキョーコちゃんが些細なことにモヤモヤするお話が実は好物なのかもしれません。
このお話ではいつも天然キョーコちゃんにすっぱーんと無意識に解決されてますが、もうこのまま流されちゃってと思います。
ちょっと更新止まっていましたが、またぼちぼち再開…あれ、GWが既に目前?…とりあえず近々お話投下したいと思いまーす

2017/04/24 (Mon) 05:32 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: お待ちしてました!「恋する愚か者」シリーズ!

> まじーん様
ありがとうございます。そしてお返事遅くなりました!
花粉症今年は本当にひどいです。病院いけなくて市販薬で押さえようとするには無理があるんでしょうねえ。

そしてただいまです!
幸せにどっぷり浸りながら尻に敷かれる敦賀さんが戻ってきました!
敦賀さんよ、もうトコトン流されてしまえ!と思いながら書いてます(笑)
ニヤニヤしちゃいますか?( *´艸`)もっといっちゃってくださーい。

2017/04/24 (Mon) 05:18 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: 待ってました!

> 雪夏様
初コメントありがとうございます。お返事がこんなに遅れて申し訳ありません。
ちょっとリアルと花粉症が…本当にすいません。
「恋する愚か者シリーズ」待っていてくださって嬉しいです。
初期に書いていた話なので雰囲気が変わっちゃったのではないかと不安だったのですが…また時折出現できるよう頑張ります。

2017/04/24 (Mon) 05:07 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2017/04/13 (Thu) 17:56 | # | | 編集 | 返信

お待ちしてました!「恋する愚か者」シリーズ!

おかえりなさい、毎回見事な蓮さんの心情把握と心の中でのツッコミが冴えわたってる社さん!
おかえりなさい、いつも流石な天然敦賀使いちゃん!
おかえりなさい、恋する愚か者で、無自覚にいつのまにかキョコさんに流されてるキュートな男!

このシリーズ、読みながらニヤニヤニヤニヤ、ニヤニヤニヤニヤしちゃうんですよね〜。読み返し&この回もずっとニヤついていました。

面白すぎです!

2017/04/12 (Wed) 21:22 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

待ってました!

初めてコメントさせていただきます。
このシリーズ大好きです!
何度も読み返してます。
また続きを期待しちゃいます。

2017/04/12 (Wed) 13:15 | 雪夏 #- | URL | 編集 | 返信

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