2016_10
02
(Sun)11:55

世界一贅沢な-5終話(逃避行の為の習作3)

なんとかお約束を守りましたです。
拍手御礼は間に合いませんでしたので、後日必ず!


2016/10/2






「え?」


その瞳は忘れもしない。森の奥で出会った妖精の…

「え?え?」


最後に会ったのはグアムのはずで


「コココココ…。」
「うん。コーンだよ。キョーコちゃん。」
「い、いやだって、髪の毛。」
「さすがに髪まで染める時間はなかったな。」
「え?染める?」
「うん。もう3割くらいは分かっていると思うけど、コーンは俺で、俺がコーンだから」
「……。」
「本名はコーンじゃなくて久遠。クオン・ヒズリ」

どっかーん!!!という爆発音がキョーコの頭の中で響きわたる。適切に処理できなかった脳内物質が暴れまくっているに違いない。ジャジャジャジャーンとピアノが運命を奏で、どういうわけか阿波踊りと一緒にサンバ隊隊が踊り狂っている。それほどの混乱だ。
うんうん唸り出したキョーコが抱える頭を大きな手がくしゃりと撫でる。

「ごめん。混乱させて。」

温かく大きな手
そう、久遠少年を演じた時、キョーコの頭を撫でてくれたクーの手も大きかった。


妖精の王様の大きな手
演技の先生、クーの最愛の息子の名前

グアムで再会した妖精の王子
声も骨格も何もかも蓮とそっくりで

森で泣くキョーコの傍にいてくれた少年
テレビでの母の発言があった夜、非常識ともいえる時間に会いに来てくれた蓮


あちらこちらにヒントは転がっていた。



■世界一贅沢な-5終話(逃避行の為の習作3)




「どう…して私気付かなかったんでしょう…。」
「俺がそう仕向けたってのもあるよ。バレるわけにはいかないと思ってた。久遠・ヒズリとしての人生を捨ててここにきたと思ってたから。」

ゆっくり、ゆっくりと頭を撫でていた手が頬に下りてきて、蓮は苦笑する。

「鶏君にこの世のどこにいたって幸せになる資格がないっていったよね。父の…クー・ヒズリの名前から抜け出せずにもがいた末に俺は自分を見失った。そして俺を誰より認めてくれていた親友を巻き込んで…その結果死に追いやった。」

蓮の声が震えを帯びる。

カインを演じていたとき何度も感じた蓮の心の底知れぬ闇
殺人鬼、その言葉にあれほどに激高した姿

今でもその罪と悔恨は蓮の身と心を抉っているに違いない。
そして、蓮は今もなお一生許されるとは思っていない。いや、許されようとは思っていないのだろう。

その頃のことをキョーコに教えてくれるのは急がなくていい、そんな思いを込めて頬にある蓮の手を握ると、ありがとうと小さな声が聞こえた。

「もう消えてしまえばいい。そんな風に思っていた俺がなおも演技を捨てれなくて、別人として生き始めたこの国で、また君に出会った。キョーコがいてくれたからこそ、あんなに頑なに拒否してた過去の自分を受け入れることができた。どんなに思い出したくない、罪にまみれた過去だって、それがあるからこそ今の自分があるって思えた。」

あの過去があったから、出会えた人々、仕事、最愛の人

ぎゅう、と音が鳴るほどに蓮の身体を抱きしめた。

「私もですよ。」

あの胸が押し潰れそうな母への想いがあって、
ショータローへの思慕があって、絶望があって、復讐心にとらわれた自分があって

そして今がある。


「絶対本人には言いたくありませんけど、ショータローにも感謝してるほどです。」

「……キョーコ」
「はい?」
「せっかくいい雰囲気なのに、あいつの名前は聞きたくない。」

ショータローのことになると本当に子供だと思わず笑う。

「過去の自分に怯えていたなんて、なんかおかしいですね。」
「本当にごめん。」
「どうして、付き合ってからはもっと早く言ってくれなかったんですか?」
「正直、キョーコにこんなに早く想いを受けれてもらえると思ってなかったんだ。」

胸に収めておくのが困難になった膨れ上がった想いを思わず吐き出した、そんな告白にキョーコが頷いてくれた。

「幸せで幸せで…失うのが怖くなった。過去の自分を知ったらって想像したら悪い結果しか浮かばなくて」
「私、ちゃんと受け止めますよ?」
「うん。そうだね。…だけど。」
「だけど?」
「キョーコ言ってたじゃないか。コーンのことは好きだけどラブじゃなくてライクだって。やっぱりお友達でいましょうとか言われるんじゃないかとか」
「言いませんよ!」

ぎゃん!と怒ってみせれば、分かってるんだけどやっぱり不安だったんだよ、と子犬顔で言って見せる。その顔に弱いことを知っていてなんて卑怯な。

「いつまでだって秘密にできるものじゃないでしょう?一緒にいればそのうちおかしいって思うこと増えてきますよ?」

いくら性能のいいコンタクトといってもずっとつけ続ければ目には負担だ。それに最近はキョーコが部屋を掃除することだって多いのだから出自がわかる書類を目にしたり何かに違和感を覚えることだってあるかもしれない。

「うん。なるべく早く話そうとは思っていたんだ。だから…。」
「なんですか?」
「…怒らない?」
「内容によっては怒りますよ。ただ自主的に話すとバレるとでは違うと思います。」
「…キョーコって古風じゃないか。」
「はあ…そうでしょうか?。」
「だから1回ベットを共にしちゃえばそう簡単に別れ言い出さないんじゃないかなって…いてっ!」
「このエロ似非紳士!あんなにドキドキしてたのに…そんなこと企んでたなんて!制裁のデコピンをもう一回!!」
「ちょ、流石にもう一発は痕がつくからっ!!」
「微妙にずらすから大丈夫です!」
「俺だってキョーコとの初めてにドキドキしてたよ。それは本当!」
「だまらっしゃい!!!」

しばらく続いた車内の攻防戦はキョーコの腹の虫が盛大に声を上げたことで強制終了となった。


蓮はどこか店に行こうかと言ってくれたが、今あれほど芸能ニュースを騒がしているのだ。いくらサングラスで顔を隠してもこの神がかかった骨格をみれば一目瞭然だ。危険すぎる。


「あ、タコス巻、美味しい。」
「ほんとですか?このポーク玉子おにぎりも美味しいですよ。食べます?」
「…なんかヘビーそう」
「えー。美味しいですよ?からし菜との相性も抜群で。」

結局安全策をとって、キョーコが買ってきたコンビニ食を車内で取るスタイルになった。おにぎりを食べ終わったキョーコはおでんの容器を取り出した。朝から豚豚しすぎて重すぎるとは思ったが、せっかく沖縄に来たのだからとソーキのおでんを買ってしまったのだ。

「ごめん。キョーコ。」
「はふ?にゃにがりぇすか?」

口一杯に頬張ったタイミングでの謝罪に首をかしげる。報道やコーンのことならもう何度も謝ってもらったのに一体何だというのだろう?

「世界一贅沢な朝ご飯行けなくて。」

とろけるように柔らかかったソーキを飲み込んで、ああ、そのことですか、とつぶやいた。視線を落とすと膝の上にはおでんの残骸とさんぴん茶のペットボトル

「あの番組で世界一の朝ごはんにはしゃぎ過ぎたのは、敦賀さんが向かいに座って…って想像しちゃったからです」

ちらりと横を見ると、驚いたように目を見開いている蓮の顔

「本当はなんだっていいんです。敦賀さんと一緒ならなんだって世界一贅沢な朝ご飯なんですから。」



たとえそれがホテルの朝ごはんだろうとも、コンビニの御握りだろうとも
蓮と一緒ならなんだって
どんな時だって、どこだって、世界一とびきりの贅沢だ。


「まあ…この朝ご飯だって諸費用を考えると恐ろしい金額ですが。」

フェリー代に帰りの飛行機代、それを加算したら、あのホテルの朝ごはんより絶対高いだろう。
これはしばらくはあのプチ贅沢な保湿クリームは控えるべきだろうか。スーパーにだって置いてある青い缶のクリームだってそんじょそこらの美容クリームに負けないとどこかで読んだことがある。

「…キョーコ」

自分の世界に引き籠っていたので、運転席と助手席という距離からはあり得ないほど近くで囁かれた名前に反応が遅れた。

「え?ち、近いです!ちょ、待ってください!おでんのおつゆがこぼれます!」

気が付けば夜の帝王を召喚した恋人の顔が近づいてきていた。視界の端っこに食べかけのまま放置されたタコス巻の姿が見える。ちゃんと食べなきゃダメでしょう、とどうでもいいお小言が口をつくまえにその唇は塞がれ、抵抗できないことをいいことに朝っぱらからとんでもなく濃厚なキスをされた。

あまり人気もないし、時間の節約にと真昼間のコンビニの駐車場にそのままいたのは失敗だった。いくら車内といったってフロントガラスを通じて外から丸見えで、これから海に向かうと思われる若者たちの視線を浴びている。全くもって健全な青少年の育成のためによろしくない。
半ば現実逃避でそんなことを考えていると、ようやく身を離してくれた蓮がぺろりと自身の唇をなめた。その様はモザイクをかけななきゃいけないほどに色っぽい。

「…なるほど」
「…なんですか?」
「ソーキってこんな味なんだね。初めて食べた。」

にっこり笑われ、また頭に血が上る

「そ、そんなの食べたっていいません!」

そう?とクスクス笑う恋人はキョーコからおでんの容器を取り上げる。

「店の前で捨てれるみたいだから行ってくるよ。」

さっきフェリーのターミナルまで迎えに来たときはあんなに余裕がなかったくせに。普段通りの蓮には翻弄されてばかりだ。

「敦賀さんはまだ食事終わってないじゃないですか。私が捨ててきます。細巻まで全部食べてくださいね!」
「え?これも?なんかすごく長いよ、これ。」
「敦賀さんはそんなに大きいんだからしっかり食べてください。」

取り返した容器を片手に、あっかんべーをして勢いよくドアをあけた。

日差しがきついが湿度が低いせいか不快さはない。
キョーコはクリアな気持ちで元気よく歩き出した。


*
*


沖縄は初めてのキョーコの為に、蓮はドライブがてら空港まで少し遠回りしてくれた。

「なんかやっぱり街並みというか空気というか…違いますね。今度はゆっくりきてみたいです。」
「そうだね。俺は今度一緒にフェリーのってみたい。甲板や船室で強制的にのんびりもいいかもな」
「…あの空間で敦賀さんと一緒って…なんだか途端にいかがわしい気がするから嫌です。」
「嫌って失礼だな。まあしないとは言わないけど。」
「言わないんですね…。」
「そりゃあ男ですから。あ、なんだったら仕事は明日の午後からだし今日は沖縄に一泊…。」
「ぜーったいダメです!飛行機が飛ばなかったらどうするんですか!」
「…自分だって帰りの飛行機押さえもせず、思い付きでフェリーに飛び乗ったくせに。」
「それは…。」

ばつの悪さに口ごもると、「うそうそ」と運転席から伸びてきた手に頬を撫でられる。

「ちゃんと1時の飛行機で帰るよ。夜から会見の予定もあるし」
「あ、ちゃんと話をするって今日なんですか。てっきり明日かと。」
「まあその後は仕事にならないだろうからね。せめて1日くらい間を空けようかと。」
「否定のコメント出したのに、そんなに騒がれるなんて大変ですね。」

人気者は一挙一動が注目されていているのだ。だが、キョーコとて高みに昇ろうと思っている。そういう立場にいつかはならなくては。

「んー。まあ、あんな報道じゃすまないだろうなあ。」
「は?どうしてですか?」
「まあ…とりあえずあっちに帰ったらバタバタだね。ミス・ウッズだって羽田で待ってるだろうし。」
「ミューズが?敦賀さんを?」
「いや、キョーコを。」
「え…それって…。」

赤信号で車が停まる。こちらを向いた胡散臭いことこの上ない笑顔にキョーコの血の気が引く。

「ま…さ…か…。」
「本日20時、インペリアルハワードホテル鳳凰の間、俺とキョーコの交際会見。」
「ひいっ-------!!!」

キョーコの悲鳴は歩道の人の耳にも入ったらしい。ぎょっとした顔でこちらを見ている。

「な、な、なんで…?」

キョーコは公表には消極的で、蓮も理解を示してくれていたはずだ。

「んー?背に腹は代えられなくなった…かな?」
「意味全然分かりません!」
「後でちゃんと話をしますって芸能記者に頼んだって言ったろ?」
「言いましたけど…それが」
「実際は古参の芸能記者3人に頼んだんだ。」

その他大勢の記者たちを撒く協力への報酬は恋人京子の存在と、記者会見後に記者3人それぞれとの単独インタビュー

「情報の解禁は俺が沖縄への飛行機に乗った午前2時35分もしくは朝刊からだから、今頃ガンガンに流れてるだろうねえ。」
「ね、ねえって!何を呑気な!ど、どうしてよりにもよってこんな急な…心の準備ってものもですね。」
「キョーコが万が一あの船に乗っていない可能性だってあったしね。」
「はい?」
「敦賀蓮と京子との交際会見、それにもし京子が現れなかったら…゛敦賀蓮”の面目丸潰れだよね?キョーコがそんなことするはずないと思ったんだ。」

つまり交際会見にしては豪華すぎるともいえる超高級ホテルはキョーコを誘い出すための罠゛キョーコホイホイ”だったわけで…

「な、なんて…。」
「卑怯だろうと、小狡かろうと、キョーコを手放さないためだったら俺はなんだってやるからね。」
「なんだってって…まさか犯罪まで」
「敦賀蓮を犯罪者になんてしないよね?キョーコ。」
「は!はい!勿論であります!!!」

車は空港のエリア内に入った。実に滑らかに車を停めた蓮がシートベルトを外しながら極上の悪魔笑顔で告げた。

「着いたよ。観念してね。キョーコ。」

そして車を出てキョーコのトランクを下ろし、走り寄ってきたレンタカー会社のスタッフに優雅にキーを渡す。そんな蓮の姿を見ながらキョーコは苦笑した。

どうやら世界一の朝食のお代は相当お高いらしい。



だけど



「さあ、行こうか。」

そう手を差し出す蓮の自分だけに向けられた笑顔を見れるなら、お安いものだと思ってしまう自分は重症だ。


「はい」



キョーコの笑顔に蓮がまた笑う。
絡まる指から伝わる温もり。



ああ


なんて世界一贅沢な




(世界一贅沢な 完)





長かった。長かったですね。でもとりあえず終わりました。

海上に逃げるというネタ自体はもう1年あまり温めていたというのに…3話で終わるつもりだったこの無計画性
もう笑うしかありませんが、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。


さて、どうでもいい話ですが、今回「また大阪出てきたよ。」と思われた方いらっしゃるでしょうか?
スキビでお話を書かせていただくときの最大のネックが舞台が東京であるということなんです。東京はもう数えるほどしか行ったことがないもので。どうしても関西方面に逃げてしまいます。
「ほんのわずか」番外で成田を出した時は、「東京の人って成田までの主要な交通機関って何?成田エクスプレス?リムジンバス?リムジンバスならどこで乗るの?」と頭を抱えました。コミック読んだらキョーコちゃんは成田エクスプレス派のようですねえ。
そして今回も何度マル○ーフェリーさんのHPを閲覧したことでしょう。まるで重度のフェリーファンのようでした。
那覇の旅客待合所付近の様子やら、空港までの道路風景やら、HPやブログやグー○ルマップさんだけでは私の乏しい想像力はうまく機能しませんでしたので、在住の方や最近フェリー乗られた方には突っ込みどころ満載かと思われます。どうかお許しをm(__)m

では次回は闇色でしょうか?
またのお越しをお待ちしておりまーす。








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