2014_04
25
(Fri)12:02

1歩いっぽ(15)

2014/4/24初稿、2014/10/6一部修正



■1歩いっぽ(15) ~それは姿を現し始める~



「どうした?」

ジト目で見つめるキョーコに蓮は首をかしげて聞いた。
その声は笑いを含んでいる。

向かい合う2人のテーブルには生春巻きと、ベトナム風お好み焼き
カジュアルなベトナム料理のお店は、薄暗い上に各テーブルをカーテンが仕切って簡易の個室のような雰囲気
値段も手ごろで、もう暫くしたら大学生をはじめとする若い客層で混み合うのだろうが、平日の6時を少々すぎたこの時間は人はまばらだ。
そのせいか、外見は“福井君”だが、表情や話し方は“敦賀蓮”に近い

「何かご不満でも?さっきまで楽しそうだったのに」
「…ずるいですよね」


*******************************


厚手のシャツとトレーナーを買ったカジュアルブランドの店で、キョーコは散々楽しんだ。

父親も兄弟もいないし、幼馴染は『地味なお前が自分の服を選ぶなんてあり得ない』感じだったためキョーコには男性の服を選ぶなんて初体験。
オマケに着せ替え人形は一流ブランドの専属モデル

キョーコは燃えた。

蓮をフィッティングルームに押し込め「今度はⅤネックで」「今度はこの色で」と広い店内を駆けずり回り、アイテムを次々交換する。
蓮が着替え終わると、カーテンに首を突っ込み上から下まで“視姦”して…

「じゃ、今度はこれお願いします」

平日で客は少なくフィッティングを一つ占拠されていることは問題なかったが、“美形メガネ君”の試着姿に興味津々だった女性店員が途中で声をかけた。

「こちらに出て、大きな鏡で確認されたらいかがですかぁ?」
「ダメです!!!私だけしか見ちゃダメなんです!」

噛みつかんばかりの否定

カーテン越しにその会話を聞いた蓮は肩を震わした
敦賀蓮とバレる危険を回避しようとしているのだろうが、店員から見たら彼氏への独占欲にまみれたバカップルだろう。
蓮は笑いをこらえながら、派手な色のニットに袖を通した


***************************


「ずるいって何が?」
「あんな派手な色のニットも着こなせちゃうなんてずるいです」
「いや、パンツがデニムだからでしょ。あれが下も色物だったら難しいと思うけど、後は堂々としてたら割と見れるもんだよ」
「その言いぐさが憎いです!人間離れした肉体美だから着こなせるんですよ!通販のカタログとかいつも思ってるんですけど、外人とかモデルに使うのって卑怯ですよね。これ一般的日本人なら無理ってのをカッコよく見せちゃうから」
「憎いって…せっかく最上さんのお遊びに付き合ったのに」
「それは…確かに楽しかったです。最後は『これは着こなせないだろう』ってのを探すのに必死になってしまいました。」

お付き合いいただきありがとうございますと、でへへと笑うキョーコに蓮は一瞬無表情になったが、持ち直して微笑んだ

「いえいえ、こちらこそ付き合ってもらえてありがとう。勉強になったよ」
「もうだいぶ掴めてるんですか?」
「正直内面はつかみやすかったんだよ。」
「元バスケットボールの選手ですよね?」

天才、と言われたバスケットプレイヤー、将来を嘱望されていた彼は事故で足に『日常生活には問題ないがプレイヤーとしては再起不能な』傷を負う。

「自分に置き換えたらね。その時の彼の絶望や迷いは掴みやすかった。俺は立ち直れる自信ないけどね」

確かに演技から全く離れて生きていく蓮は想像できないな、とキョーコも思う。

「新しい世界での再生、が一つのテーマですよね。楽しみにしてます」
「うん、頑張るよ」

それで…と蓮は頬杖をついてキョーコの顔を覗き込む

「どうだった?」
「何がですか?」
「今日のデート」
「デ!」

散々デートを連発されてからのお出かけに『違います』とは流石に言えなかった。
キョーコは視線をさまよわせた後に、小声で告げる。

「い、いい意味で普通、でした」
「いい意味で?ってことは俺が行く先々にレッドカーペット敷かせてからしか歩かないとでも思ってた?」
「…どこの王様ですか。それ」

そんなんじゃなくてですね、キョーコはモソモソと続ける

「私、こういうのしたことないんですけど…。自分が一般的なものとして想像していたものとあまりかけ離れていなかったというか・・・」
「うん」
「天上人って思ってましたけど、こうやってても違和感ないっていうか・・・」
「生身の男って思えたってこと?」
「まぁ、そんな感じ…です」

自分の頭の中をうまく表現できなくて、行儀が悪いと思いつつ取り皿の中の生春巻きをつつく

キョーコにとって蓮は雲の上の存在で、天上人だった
蓮への気持ちを自覚した後もそれは変わらなくて、かなうと思っていなかった想いだった。

だって、住む世界が違うのだから。

蓮が自分を想ってくれてると理解してからも、2人でいることは仕事とマンションでの食事以外はあまり想像できないでいた。
それは怖くて想像できなかったというのももちろんあるけど

でも、一緒に歩いてみると
蓮は21歳の生身の男の人なのだ。
大学でみた沢山の学生の中に混じっていてもおかしくない。
まあ、そのスタイルと美貌だと相当目立つのは間違いないが・・・

あんなに傍に立つのも緊張していたのに
お昼を食べるときにすぐ隣に座っても全然おかしくなかった。

「天上人じゃなくなって嬉しいよ」
「天上人、いいと思いますけど…高貴な感じで」
「普通の男として最上さんに意識してもらいたいからね」

甘い甘い笑みを見せながら蓮は言う。

ほんとに、もうぬけぬけと。


見えてしまう

想像してしまう

蓮の手と取った先にある未来を


まだ、怖いのに。


(16に続く)
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Re: ブログに、同じお話が2回入ってます。

>○々様
ご指摘ありがとうございました!
きっと引っ越して少しずつ訂正した時に消し忘れたものと思われます。お恥ずかしい…
今後も何か見つけたら教えてください(笑)
「1歩いっぽ」はしばらく続くと思います。
ここでもう30話近いですからね…確実に40は確実に超えるかと…
ぼちぼち書いて行くのでお付き合いくださいね。

2014/11/10 (Mon) 15:07 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2014/11/10 (Mon) 13:28 | # | | 編集 | 返信

2. Re:ふつう!

>mokaさん
恋をするだけじゃ、交際は長続きしないと思うのです。天上人脱却です!

2014/04/28 (Mon) 01:41 | ちょび #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

1. ふつう!

いい雰囲気ですね!
キョーコちゃんが蓮さんをちゃんと普通の人間にみれるのって凄く大切だと思うのです。
細い食欲も下手したら仙人ぽくて、生身感がないですし。
一歩一歩。進んでいきますね~すてき。

2014/04/25 (Fri) 13:02 | moka #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

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