2017_01
20
(Fri)11:55

理由-7(逃避行の為の習作4)

気が付けば1月も終盤戦。1月中に終わらせたいです。


2017/1/20




キョーコに会いたい。


その気持ちに向き合って前に進むための儀式として、彼女の誕生日にあの海に行くのはいい思い付きだと思った。
儀式なんていかにもキョーコが好きそうなことを思いつくあたり、離れていてもすっかり自分の頭は毒されているらしい。そんなことに今更気付く

そう

あの甘い甘い毒は
もうすっかり自分の身体を侵しているのだ。



■理由ー7(逃避行他の為の習作4)





せっかくなので1年前に思い描いていたスケジュールにそって動くことにした。あの海まで2時間もかからない。自宅マンションをまだ暗いうちに出たら夜が明けたばかりの時間に目的の場所につく。
以前いろいろと下調べをしていたので、近くに別荘地があることはわかっていた。それもあっていくらシーズンオフとはいえ早朝の散歩客がいるのを予想していたが駐車場に車はなく、トイレの建物の近くに自転車が一台停めてあるだけだ。その籠には服らしきものがのぞく紙袋が入っていた。

(随分無防備だな)

自分が産まれた国なら5分もせずに籠の中身は空っぽだ。いや、こんな簡単なロックだけの自転車そのものが無くなっているかもしれない。それだけこの国の治安はいいということなのだろう。そんなことを考えているうちに紙袋から覗く服の何やら見たことがある色合いに目を止めた。なんだったっけ?と注視してみて、小さなロゴの刺繡に気付いて合点がいく。社と何度かドライブスルーでお世話になった全国展開しているハンバーガーショップの制服だ。この自転車の主はバイト前の散歩なのかもしれない。

とにかく、誰がいると分かっているのなら顔は隠すに越したことはない。こういう時冬は何かと便利だ。帽子を目深にかぶり、ネックウォーマーで口元を覆う。
自転車の横を通り過ぎ、建物の陰に隠れて見えていなかった砂浜の様子が目に入った途端、蓮は息を止めた。


こちらに背を向け、砂浜を歩く後姿。


随分と髪が伸びた。
髪色も以前と違う。
コートも蓮の傍にいるときには身に着けていなかったものだ。

だが分かる。

その歩き方で
ピンと伸ばされた姿勢で


キョーコだ


途端に心臓が躍り出す。

(待っていてくれた)

混乱する頭の中で咄嗟にそう思い、呼びかけようとして開いた口をなんとか止める。

何を都合のいい解釈をしているのだ。
自分自身を作るのだと、あんなに情熱を注いでいた演技の世界での翼を奪ったのは他ならぬ蓮だ。

だが、ならどうしてここにいる?

約束していた海に。しかも彼女の誕生日に


(…とりあえず落ち着こう)

彼女が振り返ってもすぐには分からぬように建物の傍に身を顰めた。
何度か深呼吸してみるが、手前勝手な推測が止まらない。あれほど欲していたキョーコの姿に全身の血肉が騒ぎ出しているのが分かる。早く捕まえろと、もうそのままお前のものにしてしまえと。

冷静にならなければならない。彼女は自分の意志で蓮に別れを告げ姿を消したのだ。今声をかければ逃げ出してしまうかもしれない。そうなったらまたふりだしだ。



キョーコはゆっくり歩く

海からの風に髪が煽られて、頬から顎のラインが露になる。少し瘦せたのかもしれない。
12月も終わりの海だ。相当寒いはずなのに、時折足を止めて海を眺め、また歩き出す。

彼女がここにいることは自分が期待したものとはまるで違うかもしれない。
自分が演技だけは捨てれなかったように、キョーコにとってもかけがえのないものだったはずだ。しかも確実にキャリアアップを重ねていた。もっともっといろんな役を演じたい。その願いを突然断ち切られた絶望はいかほどのものだっただろうか。

ここにくることはキョーコにとっても儀式なのかもしれない。
1年前の世界への未練を断ち切り生きていくための。

そして新しい世界にきっと蓮は不要なものだ。

会えるのか?

今度はマイナスな方向に走り出した自分の考えを振り払うように首を振った。どうしてキョーコのこととなるとこうも弱気になってしまうのか。


キョーコはまた足を止めて海を見ている。
その時、髪とともにはためくストールに気付いた。

それを蓮は知っている。否、忘れるはずもない。

あれは蓮も一緒に選んだのだから。

*
*

蓮と付き合う少し前からキョーコはクレジットカードを使い始めた。
母親が親権者として同意してくれたのだと嬉しそうに言っていたそれを節約家の彼女はなるべく使わないようにしているようだったが、芸能人として顔が売れてくれば時間に余裕もなくなるし外では買いづらい物も増える。蓮は彼女の為とは分からないように、自身のPCをタブレットとしても使える2in1のタイプに変えて気軽にネットで買い物ができる状況を作り上げた。キョーコの利便の為でもあったが、なかなかお買い物デートになど連れていけれない自分の為でもあったのだ。

「何見てるの?」

タブレットに夢中になっているむき出しの背中を抱き寄せ、首のラインにキスを贈ると、ぎゃっという色気のない悲鳴を上げてキョーコは振り向いた。

「お、起きてたんですか。」
「ん、今起きた。」

キョーコの肩に顎をのせて、タブレット画面をのぞき込む。様々な色合いのタータンチェック

「ストール見てました。」

奏江と出かけた時に入ったセレクトショップで見かけたのだというそれは、蓮も耳にしたことのある英国の老舗毛織物メーカーのものだ。

「厚手で羽織ったときのシルエットが素敵だなって思ったんです。モー子さんがネットなら色ももっと色々あるんじゃないかってアドバイスくれて。」

どうやらお買い上げはほぼ決定らしく、後は色を決める段階らしい。
ふーんとキョーコの脇から手を伸ばし、画面をスクロールする。

「これって、ウール?ごわごわしてない?」
「目の細かいウールで織られているらしいです。ショップで触ってみましたけど肌触りよかったですよ。」
「カシミヤやアルパカは?キョーコの肌に触れるものは滑らかなやつがいい。」

そんなお高いの買えませんよ。そう答えるのは計算の内だ。キョーコにプレゼントを贈るいい機会だと思った。

「…これでいいんです。」
「でも」
「肌触りなんて…カシミヤよりもっともっと極上のやつ知っちゃいましたから」
「カシミアより?何それ?」

そう問うとキョーコは真っ赤になって俯いたが、少し身体の向きを変えて蓮の胸にスリスリと顔を寄せた。

「え…俺?」

更に赤くなったキョーコがこくんと頷く
その様子は本当に殺人的に可愛くて、ぎゅーっとタブレットごと抱きしめた。

「キョーコの肌こそ。」
「そ、そんなこと。」
「滑らかで艶やかで甘い匂いするし、実際甘いよね。」
「な、何を夜の帝王全開で言ってるんです!ちょ、ちょっと!何を。」

ベットでじゃれあいながら、2人でGray Stewartという柄のストールを選んだ。
その後暫くして届いたのだと見せに来てくれた時は、2人で巻き方のアレンジを考えて遊んだ。ふざけてグルグル巻きにするとキョーコの華奢な首はとぐろを巻いたウールの中に埋没し、その様が小動物的で可愛いと笑うと怒られた。

そんな彼女をストールごと抱きしめた。その感触さえも鮮やかに思い出せる。

*
*

一層強い風が吹き付け、流石に寒いのだろう。首を縮こませたキョーコは巻いていたストールを掻き寄せ首元を埋めた。
そのまま頭は動かない。
まるでなにかを抱きしめているかのようにその手はストールを握りしめている。

抱きしめている?
何を?

そのストールの向こうに誰を思い浮かべている?


もしかして…もしかして…
あの日の自分ではないのだろうか?

あれから1年たった今も彼女が縋るのが自分の幻だったとしたら…


どうして、キョーコは自分の前から姿を消したのだろう?



結局その日、蓮は踵を返した。
都合のいい方に推理を巡らしていることも分かっていた。キョーコの現状を把握し冷静に判断したかったから。

足早に車に向かいながら停めてある自転車に目をやる。これはほぼキョーコのもので間違いないだろう。
自転車で行動できる範囲に生活していて、おそらくこのハンバーガーショップで働いている。
これだけの情報があれば、あのマフィア顔負けのネットワークを持つ社長なら簡単に探し出すだろう。

もし、2人の想いが同じものであったなら

逃しはしない。



そのためには彼女がここに辿り着いた理由を知らなければ。


もう2度とキョーコを手放さないために。



(8話に続く)
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コメント

Re: 更新ありがとうございます!!

> まじーん様
コメントありがとうございます!亀更新で本当に申し訳ないです。

とりあえず遠目ですが、会えました。いや、遠目くらいのほうが敦賀さんの心臓にはよかったのかもしれません( *´艸`)

過去話書いてると些細な思い出に縋っている敦賀さんが可哀想でなりません。抱かれたい男№1の欠片もありませんねえ

2017/01/25 (Wed) 05:11 | ちょび | 編集 | 返信

更新ありがとうございます!!

遠目にですが・・・やっと会えましたね。
過去のイチャベタ話にも萌えました。(*´ェ`*)…♪

キョコさんの現住所や仕事先はもうわかったも同然ですが、ここから蓮さんはどう動くのか・・・

続きも楽しみです!!

2017/01/20 (Fri) 17:16 | まじーん | 編集 | 返信

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