2016_12
14
(Wed)11:55

理由-2(逃避行の為の習作4)

ちょっと短いけれど、そしてこのペースじゃキョーコちゃんの誕生日までに完結は無理だけど…

出来る限り頑張ります。


2016/12/14




暫くの間、海岸を歩くキョーコの後姿を見つめた。

あんなにも決意を固め準備を進めてきたというのに、若干の怯みが自分の中にあるのに気付き、蓮は苦笑する。少し落ち着いたほうがいいのかもしれない。
とりあえずキョーコがそんなに長くない海岸の折り返し点を過ぎるまで待とうと決めて、海岸から見えない自動販売機の陰に入った。緊張から何も飲む気にはならないが、なんとなく視線を向けたその先に見知ったものがあることに気付く。


(デザイン…あまり変わってないんだな。)


それはかつてキョーコがCMキャラクターを務めていたレモンティーだった。



■理由-2(逃避行の為の習作4)




あれは付き合いだしてすぐの夏の初め。


「この京子、いいよな。」
「あー。分かる。分かる。清楚だけどなんかエロい。」

壁に大きく貼られたポスターを前に若い男2人が話す言葉に拳をぎゅっと握りしめた。

ポスターの中では南国を思わせる森の中、白いノースリーブのワンピースを着たキョーコがペットボトルを手にこちらを見ている。
一般的に見て性的な匂いはまるでしない。透明感ある肌がより際立つその姿は美しく、少し人間離れさえして彼女が大好きな妖精に近くさえあった。件の男たちの会話は若い彼ら特有の視線なのだと笑ってしまう程度のものだ。それどころかこれで彼女のファンが増えるなら歓迎すべきことなのだろう。彼らは本当のキョーコを知らない。テレビの向こうで、ポスターの向こうで、せいぜい人垣の向こうで微笑む゛京子”を見て、好き勝手に妄想してるだけ。

本当のキョーコに触れ、唇を寄せるあの悦びは自分だけのものだ。

だけど…いやだからこそ猛烈な不快感がこみ上げる。
彼女の美しい首からデコルテ、肩への稜線が遮るものなく人目に晒されていることに。

きっといま己の中の衝動に身を任せたら、街に貼られたポスターというポスターを黒く塗りつぶしていることだろう。


小さく息を吐いてそれを押し殺す。
女優としての彼女の成長を心より望み、喜ぶ感情も己の中に確かにある。そしてどんなにいい演技をしようと、誰かに、そしてより多くの人に求められなければ生きていけない世界だということも嫌という程知っている。
今暴走しようとした激情をぶつけてしまっていては、彼女の隣にいる資格はなくなるだろう。

キョーコの隣にいたい。ずっと

その何より強い想いの前には些細なことのはずだ。
そう思った。



だが、時々それは蓮の奥底からこぼれ出た。



「敦賀さん、いつもここに痕つけますよね。」

シャワーを終えたキョーコが少し唇を尖らせて告げた。夜は少し冷え始めたころで、ゆったりめのスエットの上から指し示すのは胸元、あの白いワンピースだとギリギリ見えるか見えないのか、そんな位置だった。

「あー。ごめん。綺麗だからついつい。」
「ついついじゃありません。」
「殆ど無意識なんだよ。」

それは本当だった。行為に夢中になって、己の理性が吹っ飛ぶとあの薄ら黒い独占欲が解放されるのか、気が付くと何度も何度も唇を押し当てている自分がいる。

「…本当に綺麗だから…。」

だから他の誰にも触れさせたくない。見せたくはない…。
己の奥に沸いた欲に任せて抱き寄せると、焦ったキョーコに両頬をつままれた。

「いひゃい。」
「夜の帝王再発動禁止!もう日付とっくに変わってるんですよ。明日も早いんですから寝てください。」
「…わかったよ。」

不承不承ベットに横になると、当たり前のように隣に寝てくれることに安堵し、キョーコの頬を撫でる。

「最近はあまりゆっくり会えないね。」
「映画公開もうすぐですもんね。でも、お仕事では会えるから嬉しいです。」

DM以来の共演となった映画の公開がもうじきだった。

「うん。でもどうせ仕事なら番宣じゃなく現場で会いたいな。キョーコとやる芝居はやっぱり楽しい。」
「ふふ。ほんとですか?敦賀さんとぎゃふんと言わせる演技できてました?」
「キョーコにぎゃふんと言わせられるつもりは一生ないな。」

きー!今に見ててくださいよ!そう宣言するキョーコに笑って、また頬を撫でる

「公開初日の舞台挨拶の後は少しスケジュール余裕あるんだ。キョーコもだろ?」
「はい。オフが1日。社さん合わせてくれてましたよね。」
「うん。本当に社さんには感謝だね。その日はゆっくり過ごそう。」
「そうですね。年末前に英気を養いましょう」
「その時に話したいことあるんだ。」
「話?」
「うん。俺の本当の名前とか…過去の話とか…」

キョーコの目を見開いた。

「敦賀さん…。」
「ごめん。本当はもっと早く話さなきゃいけなかったんだけど。」

カインを演じていたころから蓮の奥に潜むものについて薄々感じていただろうし、コーンのことだって、妖精でないことは少々ガッカリさせるかもしれないが、ちゃんと説明すれば受けれてくれるだろうと思う。だが、その時間をなるべく余裕をもって取りたくて今日まで来てしまった。

「話すのが辛かったらまだ…。」
「大丈夫。キョーコには知ってほしい。楽しい話じゃないけど…。」

キョーコは首を横にふると、そのまま蓮の胸に頬を寄せてくれた。

「話聞きたいです。これで私も敦賀百万石ですね。」
「何?敦賀百万石って。」
「敦賀さんのこと沢山知ってるってことですよ。」

ふふ、と笑う無防備な顔は本当に可愛い。脳が甘く痺れると同時に、忙しくしている間にこの笑顔に心を掴まれる男が幾人いるのだろうと心の奥底が疼く。

「ゆっくりできなくても会いたい。時間見つけて会いにいくから。」
「私がここにお邪魔しますよ。私の方がスケジュール余裕はあるんですから。」
「うん。無理はしてほしくないけど…会いに来て。」

艶やかな髪に唇をよせ、空いている手でスエットの下に隠れる痕をゆっくりとなぞる。

「これが消えないうちにね。」


これは印

キョーコが自分のものであるという印


いっそ一生消えないほど刻めたらいいのに



そう思ってた。



(3話に続く)
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