2016_12
28
(Wed)12:44

理由-5(逃避行の為の習作4)

キョーコちゃんの誕生日を過ぎてしまいましたね。うう…

そして予約日を間違えてました!すいません!!!

2016/12/28





それはこびりついている。


蓮の身体のあちこちに
自室のありとあらゆるところに
初めて見る場所にだって

こびりつき、息を顰め、油断した時に現れる




■理由-5(逃避行の為の習作4)



キョーコは姿を消した。

芸能界と蓮に別れを告げた後、しばらくは母親のマンションにいたことはしつこく京子を追っていたマスコミからの情報で分かっていたが、それも下火になったタイミングを待っていたのだろう。ある日から彼女の消息は途絶えた。
彼女の母親に問い合わせた強者も中にはいたようだが、教える義務などないとすっぱり切られて終わったらしい。一度顔もみたくない幼馴染が所在を知っているのかと怒鳴り込んできたから、故郷である京都にも戻っていないらしかった。

「てめぇのファンが起こしたことを悪いと思うんだったら、どうしてキョーコをほっとくんだよ!」

普段はクールを気取っている男がまるで幼子のように地団駄を踏み叫んだ。どうしてどうしてどうしてと壊れた玩具のように叫び続け、電池でも切れたのか、突然黙ったあとポツリと告げた。

「俺じゃああいつを笑顔にできないから…お前ならって…思ったのに。」

蓮はもう黙って頭を下げるしかなかった。


己の醜い独占欲が産み出したあの傷

復讐という力を与えたあの幼馴染のほうがよっぽどましだった。

キョーコの羽をもいだ自分には隣にいる資格どころか彼女を想う資格すらない。
別れてすぐに、社に頼んでスマホも変えてもらった。キョーコの欠片だって自分は傍におくべきではない。


もう妄執と言っていい想いは捨てて、これからは演技の為だけに息をし、栄養を摂取して生きていく。

そう誓ったはずなのに




最初は仕事に集中することでそれを振り切ろうとした。

だが、
部屋に残るキョーコの気配に、
彼女が好きそうな小物たちに
彼女がよく作ってくれたメニューに
公園の花一輪にだって、

思い出す

欲する。


今すぐにでも、闇雲にでも走り出し、探し出したい。
彼女を抱きしめ、甘い香りで鼻腔を満たして、愛を囁いて、触れて、唇を寄せて

また…刻みたい


己の中の欲望は常に蜷局を巻いて飛び出す機会を狙っているのだ。


「…まるで獣だな。」

鏡にうつる己の姿を見て自嘲する。
愛なんて、キョーコだけだなんて、そんな言葉を免罪符に襲い掛かろうとする獣だ。

「…いっそ鎖でもつけたほうがいいのかもな…。」

もう彼女に手を伸ばせなくなるような強固な鎖を付けてしまえばいいのだ。



そうこうしているうちに事件から一年近く過ぎていた。
あれほど騒いでいたマスコミももうすっかり京子という女優がいたことすら忘れたようで、別の事件やスキャンダルを追うことに忙しい。


「すいません。どうしても確認したくて。」
「いや、かまわないよ」

社が部屋を出た隙に控室にやってきた女優の意図は明白だが、招き入れてしまったものは仕方ない。いつもなら2人きりの状況など絶対に作らないが、今日は「ちょっと中でお話よろしいですか?」そう尋ねられた時一拍の間を与えてしまった。
原因は「お疲れ様です。」と告げたイントネーションがキョーコのそれに似てる…それだけ。それだけで体の中の獣がうごめきだそうとする。

「この前の撮りでは同じ場所何度も何度も…本当にすいませんでした。次はあんな風なことにはなりたくなくて。」
「気にしなくていいよ。誰だってそんな時はあるから」

テーブルをはさんだ向かいの席を勧めたのに、頭を下げるタイミングで立ち上がった女優が距離を詰めている。話をするだけには不自然な近さ。

「私…敦賀さんに失望されるのだけは…。」

そっと蓮の肩におかれる綺麗に磨かれた手。水仕事なんてもう何年もしていないだろう。そんな手。キョーコとはまるで違う。


いっそ、とことん落ちてしまえば、汚れてしまえば…キョーコを諦められるだろうか?
どこか遠くにいる彼女の幸せを祈れるだろうか?


女優の香りが強くなる。

確か…アルマンディのレディースラインの新作だ。


がたん

蓮が立ち上がったことで女優との距離は一気に開いた。

「あんまり思いつめる必要はないけど、それだけ真剣に役に向かい合っているんなら次の撮影楽しみだ。」
「…あの…。」
「大丈夫。君ならやれるよ。」

敦賀蓮の仮面を貼り付けて笑いながら、ドアを開いて御退出願う。

「俺に謝罪なんていいから、リテイクなんてお互い様なんだし、もう気にしないで。」
「……」
「ね?」
「…次の撮影よろしくお願いします。」
「うん。いい作品にしよう。」

にこやかに、でも有無を言わせず追い出してドアを閉める。暫しドアの前でたたずんでいた女優の足音が聞こえなってから20数えた。

「……っ!」

部屋に備えてあった洗面台に向かい嘔吐する。もともと少ない胃の内容物を吐いて、吐いて、胃液まで吐いたことでようやく治まった。口の中の不快さを洗い流すついでに顔を洗っているうちにこみ上げてくる嗤い。

「無様だな。」

落ちる事さえ叶わない。いっそ汚れてしまえばいいなんて出来るはずのないことを。

キョーコが傍にいたあの幸せな記憶は、どんなに忘れようとしても、気付かないふりをしても蓮の身体に記憶の奥底にこびりついているというのに。


「蓮、大丈夫か?」

控えめなノックとともにかけられた声は社のものだ。暫く前からドアの前で様子を伺っていたのだろうか。蓮の異変に気付いている様子だ。ドアを開けると差し出されるミネラルウォーター

「ありがとうございます。」
「ん。」

ノロノロと椅子に座り、ペットボトルに口をつけるのを社は黙ってみていた。

「…蓮。」
「はい。」
「お前は恋愛に関してだけはお馬鹿さんだから言っておく。」
「…聞きたくありません。」
「今まで黙ってみてきたんだ。そろそろ喋らせろ。」
「……。」

プライベートなこと、とはいえこんな姿を見られた後では反論できない。そもそもキョーコとの関係だって社の協力抜きには成り立たなかったのだから今更だ。

「お前の想いはお前のものだよ?」
「……。」
「キョーコちゃんの傷のことで自分を責めるのは分かる。でもお前の想いまで否定するな。封じ込めるな。」
「……俺は想うだけじゃすまないんです。」
「じゃあ、キョーコちゃんに受け入れられる努力すればいいじゃないか。」
「そんなのっ!」
「キョーコちゃんに一度別れを告げられてそこで泣き寝入りかよ。このヘタレ。どうせ付き合う資格なんてないとか思ってるんだろうけどな。それを決めるのはキョーコちゃんだ。1人勝手に決めて、1人勝手にぼっこぼこに凹むんじゃないよ。どうせ忘れられないくせに」
「それは…。」
「完膚なきまで振られたら骨は拾ってやる。暴走してキョーコちゃんの意向関係なくとか、ストーカー化しそうな時は俺のマネ力全開で止めてやる。一度ダメでもまた男を磨いてアタックすれば50年後ぐらいには受け入れてもらえるかもしれないぞ。」
「…50年って…俺老人ですね。」
「老人が恋をしないと決めつけるのは若人の傲慢だ。キョーコちゃん、おばあちゃんになっても可愛いと思うぞ?」
「それは確かに。」

くすりと笑いがもれた。

「ほら。」

鞄を漁った社に何かを押し付けられて思わず受けとる。

「一体な…。」

手の中にあるのは、去年まで自分のものだったスマホ

「処分したんじゃ…。」
「自分では処分できないからって人に任せるとか本当にヘタレすぎなんだよ。俺が悪徳マネージャーならこの中の情報高い金で売りまってるところだぞ?それに言っとくけど写真とかも俺のクローゼットの奥にあるからな。今度保管料請求するから覚悟しとけ。」

電源を入れ、震える手でデータを呼び出した。はにかみながら笑うキョーコの姿。
ただ、それを見るだけで胸の奥に灯りがともる。暖かくなる。

「ぐちゃぐちゃに悩むのは仕方ない。でも見失うなよ。お前の想いの根っこの部分を。」

料理の仕上げに忙しいキョーコ、美味しいものを口いっぱいに頬張っているキョーコ

「お前は今どうしたい?」
「俺は…。」


会いたい


懺悔もしたい。想いを告げたい。抱きしめたい
けれど、とにかく

ただ、ひたすらに


会いたい


(6話に続く)


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Re: 結局

> まじーん様
もう本当に成長していない敦賀さんです(汗)
ただ、以前と違って沢山支えてくれる人がいれば前向きになれるのかと
なによりキョーコちゃんは逃げてるだけですから。頑張れ!敦賀!( ̄▽+ ̄*)

2017/01/06 (Fri) 04:47 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

結局

一人ではリックの時と同じなんですね。

キョーコがいてくれたから闇からは抜け出せたけどれど、キョーコを失った今は演技の世界以外では息をしているだけの自分の人生を生きられない存在・・・。

敏腕で頼りなるマネージャーなお兄ちゃんの後押しもできたことだし、砕ける覚悟で前に進めるようになるんでしょうかね。

2016/12/28 (Wed) 19:59 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

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