2017_02
10
(Fri)11:55

たとえ世界の果てからでも

ギリギリ間に合った!
敦賀さん生誕記念&拙宅の3周年を祝しまして。

ご挨拶、御礼等は後程上げさせていただきます。


2017/2/10




「なんか声枯れてるけど?はあ?オールで騒いだから?ばっかじゃない?そういうのを体調管理が出来てないっていうのよ。5年後10年後に泣いても知らないからね。」

どこのお母さんだと聞きたくなるような説教をしているのは間違いなく自分の恋人で、電話の相手はその幼馴染だ。

少し振り返ってダイニングを伺うと、キョーコは携帯を耳にあてたまま器用にコーヒーの豆を挽いている。

小さくため息をついて視線を落としたリビングのローテ―ブルには、先ほど切り分けられたばかりのブルーベリータルト。先日下のスーパーで一緒に買い物をしていた時に目にした蓮がリクエストしたものだ。
断面からのぞくクリームを人差し指で少しすくって口に含んだ。控えめな甘さに仕上げているチーズクリームは泡立て具合も完璧で、ブルーベリーの酸味と合わせたらさぞかし美味しいだろう。

自信作だと誇らしげに小さなホールを見せてくれた恋人に礼を言って、少し照れながらバースディソングを2人で歌って、さあコーヒーを入れたら頂こうというこのタイミングで電話が鳴った。

せっかくの誕生日なのに。




■たとえ世界の果てからでも



「あんたみたいなバカでも女将さんにとってはたった一人の息子なんだからね。は?テレビで顔が見れる?ほんと馬鹿。つべこべ言わず大阪公演あるんだったら実家に顔ぐらい出しなさいよ。ファンにバレる?この情報化社会にほーんとにおまぬけさんね。あんたの出身なんてとっくにネットで出回ってるわよ?は?冗談じゃない。なんで私があんたの情報流すなんて手間かけなきゃいけないのよ。中学時代にあんたにべったりくっついてた頭の悪そうなおっぱい星人たちが呟いてくれたんでしょうよ。…ぬぁんですって?誰が羨ましいか!あんな脳みそ空っぽの代わりに膨らんだおっぱいなんて!!!」

いい香りを漂わせながら抽出されるコーヒーと共にキョーコの怒りのボルテージも上がっている。
こうなると蓮があからさまな視線を送っていることにも気づかない。

(ま、毎年のことだけど)

またため息。

そう、キョーコと付き合いだして3年。執念深く実は暇人らしい自称人気歌手は、毎年蓮の誕生日の晩にキョーコに電話をかけてくる。この夜にキョーコが必ず蓮の元を訪れることも、キョーコの電話がかかってきたら相手を確認せずに出てしまう癖がなかなか治らないことも、そして電話を始めてしまえばいつもの幼馴染のテンポに持って行けることも、そのことに蓮が不機嫌になることもあの男は想定済なのだ。わざわざその思惑にのってやる必要など微塵もない。

(負け犬の遠吠えだと思えばいいんだよな)

そんな些細な嫌がらせで仮にその場の雰囲気は悪くなろうとも一時のことだ。今更あの男に渡す気など更々ないし、キョーコの身も心もきっちり掴んでいるつもりだ。外堀だってガッチガチに埋め固めている。
実際、去年社にこの電話の話をした時「お前がイラつくのも分かるけど、不破君もなんだかちょっと哀れだなあ。」と笑っていたではないか。

キョーコに未練タラタラの幼馴染の小さな嫌がらせぐらい笑って流してやればいい。


「あんたもね。チヤホヤしてくれて胸が大きいからってデレデレしてたら足元掬われるわよ。分かってる?分かってないから言ってるんじゃない。この間も週刊誌につつかれてたくせに」

イライラするのは、喧嘩腰ながらもキョーコが幼馴染を気遣っているのが分かるからだ。
あの男がただの幼馴染ではなく、特別な存在なのだと再認識させられるからだ。


「しょうもないこと言ってないでとっとと寝なさいよ。加湿するの忘れるんじゃないわよ。は?水切れ?自分で入れてくりゃいいでしょ!!!じゃあね!」

早口で説教をまくしたてながらも、キョーコは温めていたコーヒーカップをトレイにのせて電話を終わせた。
このあたりのタイミングが実に絶妙なのが2人の息の合ったところを見せつけられているような気がする。

(落ち着け。落ち着け…。不機嫌になったらアイツの思う壺だ)


社の協力と2人の頑張りで捻出した貴重な時間だ。無駄にはしたくない。
せっかくの誕生日なのだ。
大人の男として、あんな男の悪足掻き放っておくのが一番だ。


そう、誕生日

年に一度来る誕生日

キョーコと付き合いだしてから、愛しい人に祝福されるのがこんなに嬉しいものだと実感できるようになった特別な日


こんな日位…ちょっと子供のように駄々をこねても許されるんじゃないだろうか?
自分を一番に想ってほしいと訴えたっていいんじゃないだろうか?



「お待たせしました。」

カップを蓮の前に置いたキョーコの顔が少し緊張したものとなった。こちらの気配を察したのだろう。

「煩くしてすいません。……あ…の…怒ってます?」
「いや、怒ってないよ。」
「で、でも。」
「怒ってないけど…。」

こちらを窺うように身を乗り出していたキョーコの身体は少し引くだけで簡単に腕の中にとらえることが出来た。

「キョーコの中で俺とアイツの違いって何なのかなって気になった。」
「そ、そんなの全然違いますよ!!」

抗議のために小さく暴れる身体をさらに抱きしめ、その肩に頭をあずけた。

「うん。分かってる。だけど…アイツはずっと一緒に育ってきた幼馴染だろ。その過去は否定するつもりはないよ。キョーコだってそうだろ?」
「そ…れは確かにそうですけど。」

居候だろうとなんだろうと同じ家で暮らし一緒の時間を共有していたことは間違いない。それをなかったことにしてしまったらキョーコの一部をも否定してしまうことになってしまう。

ぎゅうぎゅうと抱きしめたまま黙っていると、キョーコがオズオズと話し始めた。

「アイツの為に何もかも…って時代は私にとって黒歴史なんですけど…小さいころアイツがいてくれたから…そのなんていうか…救われてたってのは確かなんです。」
「うん。」

家ではいつも1人だった。たとえ母が家にいるときだって伸ばした手はいつも振り払われた。
もっといい子になれば褒めてくれるのかとお勉強を頑張ってみたけれど、母の納得のいく結果が出せなかった。せめて役に立ちたいと思ってお手伝いを頑張ってみても母の眉間の皺は深くなる一方だった。
だから保育園は楽しかった。お歌やお絵かきだって1人よりずっと楽しい。字を上手に書いたら、お手伝いをしたら先生は褒めてくれる。頭を撫でて、時にはぎゅーってしてくれる。
だけどそんな時間には終わりがある。夕方薄暗くなり出すと1人また1人と帰っていく、いつも残るのはキョーコと仲良しのみすずちゃんだけ。みすずちゃんとお人形で遊びながら思う。どうかどうか、少しでもみすずちゃんのお母さんが遅くお迎えに来ますように。

「今から思えばあの頃から私の心ってピュアじゃなかったんですね。」
「…そんなことないよ。」

だけど、みすずちゃんのお母さんはやってくる。息を切らして保育室に駆け込んでくる。「遅くなってごめんね。」と謝りながらも笑うのだ。さあ帰ろうと、そう笑うのだ。お母さんが帰ってきた途端ぐずぐずと駄々っ子になるみすずちゃんを、ちょっとだけよとすでに大荷物を抱えた腕で抱き上げてヨッタヨッタと歩いていく。
そしてキョーコは1人になる。ちらちらと時計を確認する先生の気配に、なるべく手を煩わせないように迷惑に思われないようにしながら母が来てくれるのを待った。

「だけど…アイツの家にあずけられるようになって変わったんです。」

旅館にとっては忙しい時間帯だ。女将が来るときはほとんどなかったが、お手伝いさんはいつも決まった時間に迎えにきてくれた。そうするとショータローが言うのだ。「キョーコ。帰ったら昨日の続きしようぜ。」と。
キョーコは1人じゃなくなった。
ショータローの好むのはお人形さん遊びじゃなく特撮ヒーローごっこだったけど、それだってヒーローに守ってもらうお姫様という新たな楽しみも知ることが出来たし、お手伝いをすれば仲居さんもお客さんも喜んでくれた。

「昔…私の誕生日祝うのイブだって言ったら、哀しんでくれましたよね。」
「ああ…うん。」
「LMEに入ってから、誕生日にみんなが祝ってくれて…毎年必ず敦賀さんが最初におめでとうって言ってくれます。」
「それは誰にも譲りたくないからね。」
「それは凄く凄く嬉しいんです。だけど小さいころの私が言ったことも決して間違ってるわけじゃなくて。」

だって、ショータローの家にあずけられるまではキョーコの誕生日を家で祝うことなんてなかった。産むことにさえ多くの葛藤を抱えた母はとってその日を祝福なんて出来なかったのだろう。
だから嬉しかったのだ。保育園の12月生まれのみんなと一緒の誕生日会ではなく、自分の誕生日を祝ってくれたことが。たとえそれがクリスマスのお祝いも兼ねてだとしても。

無論、大きくなるにしたがって、ショータローはキョーコを相手にしなくなったし、一緒に住んでいることで学校では女の子から手酷いいじめだって受けた。

それでも、あの幼い自分を救ってくれたのも確かなのだ。

「アイツが…何もできないながらも母のことで心を痛めてくれたことも分かってます。」

キョーコの心の傷の深さに戦き、どうすればいいか分からずぎゅっと拳を握りしめていたとこも知っている。だからこそ、ショータローの前では泣かなくなったのだけど、それでもあの頃のあの空気を共有していたのは間違いない。

同じ時間に同じ空間に生きてきたからこそ感じられる互いの間合い

蓮には決して立ち入ることのできないそれ。


「…キョーコはアイツにどうなって欲しいの?」

そういえばカインの時にも同じようなことを聞いた。あの頃から自分はあまり成長していないらしい。

「負けたくない…とは思ってますけど復讐してやるとか呪ってやるとか…そんなことは今は考えてなくて。」
「…うん。」
「海外進出とかほざいてますけど…そのなんというか…どこに行こうと好きにすればいいんですけど…ショータローらしく生きていけたら…いいのになって思ってます。」

どこに行こうと
彼らしく生きていけたらいい。

それはどこにいても、キョーコはあの幼馴染の幸せを祈っているということなんだろう。

どんなに立場が変わっても
どんなに距離があこうとも

決して切れない絆


それに勝る立場になれているのだろうか?


更に沈んだ蓮の雰囲気を察したのかキョーコが焦ったような声を挙げる。

「こ、コーンとの思い出は私の宝物ですよ。あの石が私をずっと支えてくれました!」
「…うん。」
「憎しみで何も見えなくなっているときに演技の面白さと目標を与えてくれたのも敦賀さんです!。」
「…うん。」
「も、もう恋なんてしないって決めてた私の心をこじ開けたのだって敦賀さんです。」
「…うん。」
「こんな風に…だ、抱きしめて欲しいのだって…そ、そそそそそその先だって敦賀さんとじゃなきゃ…。」

恥ずかしがり屋のキョーコが夜をにおわすことを言うなんて相当ハードルが高いのだろう、肩に頭をあずけているせいで首筋しか見えないがそこも朱に染まっている。
もう充分だろう。自分との過去を宝物だと言ってくれて、今はこうして直接触れ合える立場にいる。

「うん。ありがとう。ごめん。変なこと聞いて」
「そんなこと…。」
「ケーキ食べよう。楽しみにしてたんだ。」
「はい。あ、コーヒー淹れなおして…。」
「いいよ。このままで。ケーキ食べた後におかわり淹れよう。」

フォークに手を伸ばそうとした時、目に入った。
ブルーベリータルトの断面に控えめに空いた小さな穴。

誕生日なのに、と拗ねていた子供な自分がまた騒ぎ出す。

「…ねえ。」
「なんですか?」
「俺が地球の裏側にいるときも祈ってくれる?俺の幸せ。」


瞬間、キョーコは顔を強張らせ、俯いた

「キョーコ?」
「…そうありたいですけど…無理かもしれません。」

呟かれた言葉に小さなショックを受ける。

「どうして?」
「…だって…。」

それ以上言葉が続かない。流石に焦れて両手で頬を包み込みこちらに向かせた顔は真っ赤でどういうことか涙目になっていた。

「…キョーコ?」
「…だって…敦賀さんが笑っている時傍にいるの私がいいですもん。」
「…え?」

そんなの無理な時だってあるって分かってるんですよ?敦賀さん最近海外の仕事多いし、私だってお仕事ありますし。でも、でもね。

「私、きっと敦賀さんのいいニュースを聞いた時にきっと思うんです。待ってって、私が行くまで待ってって。敦賀さんを幸せにするのは私だって。そう思っちゃうんです。」

我儘なダミホー女ですいません。そうフルフル震える彼女をもう一度抱きしめた。

「ありがとう」
「ふへ?」
「俺も思ってるよ。キョーコを幸せにするためなら世界の果てにいようとも駆け付けたいって。その役目を他のやつらになんて譲ってたまるもんかって。」


実質的には無理な話だ。
2人にはやらなければならない仕事があって、責任がある。それは何より自分たちの為だから。


だけど、それでもなおと
傲慢ともいえる想い


それを抱くのは


唯一無二の人だから



えへへ、と照れた笑いが腕の中のキョーコから聞こえた。

「嬉しいです。」
「うん。本当にそう思ってるからね。」
「はい。…でもダメですよ。仕事ほっぽり出しちゃ。」
「大丈夫。そんな時は社さんが現実に戻してくれるよ。」
「社さん、責任重大ですね。」

さあ、今度こそケーキを食べようと身を離した。明日の朝はゆっくりめだと言っても時間は有限だ。有効に使いたい。


「この前スーパーで見たのよりも大粒だね。」
「愛媛産って書いてありました。クリーム甘さ控えめにしてありますから敦賀さんにも美味しく召し上がっていただけるかと。」

つまみ食いをしたから、クリームの味はもう知っている。蓮の好みの甘さだ。
この後、もっと甘いのを堪能するのだからこれくらいでちょうどいい。

「うん、美味しい。」
「本当ですか?」

勿論と蓮は満たされた顔で笑った。それを見てキョーコも笑う


来年も、その先もずっとこんな笑顔でこの夜を迎えられたらいい。


ただ、来年からはキョーコの携帯の電源を切るのを忘れないようにしないといけないな、そう思いながら蓮は2口目を頬張った。



(おしまい)





最近無駄に長い。そしてコロッケ話に被ってる…
でもいいのです!生誕記念祭に参加できたから!

敦賀さん、お誕生日おめでとうございます!毎年言ってるけど、今年こそ人間としてチューできたらいいね!!!
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C.O.M.M.E.N.T

Re: 蓮さんお誕生日おめでとう!!

> まじーん様
敦賀さんお誕生日おめでとうでございますね!!(*^-^*)!!!
本当に2人なら世界の果てからでも互いを目指して全力で会いに行きそうです。キョーコちゃんは自分の足で、敦賀さんは暴走運転で横には顔面蒼白の社さんを乗せてなイメージ( *´艸`)
タルト私も食べたいです。タルト生地がサクサクの美味しいやつ!キョーコちゃんお手製なら…最高でしょうね。敦賀さん。

本誌ではチューどころか出番さえない敦賀さん。早くツーショットみたいですよねえ。
今年の二人の進展を祈念しながら、お話書いていきたいと思います。

2017/02/12 (Sun) 06:54 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

蓮さんお誕生日おめでとう!!

ちょびさんワールドの蓮さん!ハッピーバースデー!

幸せな誕生日となりましたね!!
仕事は放置しないけど、世界の果てからでも全力で会いに行きそうな二人にニヤニヤしちゃいます。

そして、キョコさんお手製タルトが美味しそうです。←

今年こそ人間としてチュー。本当に叶いますように!!

生誕記念&3周年記念作、素敵でした。

2017/02/11 (Sat) 00:16 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

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