2017_03
14
(Tue)11:55

香りの効能

ホワイトデー話。本誌設定なので時期は今ではありませんが…
内容も薄いですが、よろしければどうぞ


2017/3/14




琴南奏江がノブに手を伸ばしたドアは向こうから開いた。

「ああ…琴南さん。おはよう。」
「…おはようございます。敦賀さんはこれからお仕事ですか?お疲れ様です」
「うん。ありがとう。」

最近この長身の美貌は、自分が所属してもいないラブミー部の部室を訪れることになんの理由も言い訳も言わなくなった。聞けば答えてくれるだろうが、わざわざ聞くまでもない。最もこの男が聞いて欲しいだろう自分の親友はニブチンなのでまるで分かっていないようだが。
ドアを開けてくれている事務所の看板俳優に頭を下げながら横をすり抜ける。その一瞬、上品でさわやかな香りがした。

(いい香り…)

くん、と意識的に嗅いだのは先日雑誌で読んだこの男の単独インタビューで、身に着けている香りについても述べられていたからだ。
香りがいいのは勿論、程度も完璧だ。プライベートゾーンに入るか入らないかギリギリの距離でほのかに漂うそれ。
この業界は男女問わずおしゃれに敏感な人が多いので、香水やコロンを身に着けている男性も少なくない。だが、過剰につけすぎてもはや香害だと訴えたいような人だって多いのだ。
そのあたりをちゃんとわきまえている辺り流石一流ブランドの専属モデルといったところか。


■香りの効能




「モー子さーん。お疲れ様!お茶淹れようか?」
「ペットボトル買ってきたからいらないわ。」

満面な笑顔で迎えてくれたキョーコをいつも通りクールにあしらって、腰を下ろそうとして気が付いた。

仄かに香るのは先程嗅いだものと同じものだ。

「あれ…この香り」
「あ、気が付いた?いい匂いでしょ?敦賀さんにホワイトデーに戴いたの。」

机の上には開封されたばかりらしいラッピングの包みと結構大ぶりなチューブと小さな缶。どちらもラベルのデザインが一緒だ。

「ハンドクリーム?」
「手にもいいけど全身に使えるんだって。」
「へえ…同じラベルってことは中身は一緒で携帯用と自宅用ってとこ?」
「そうなの。」
「ふーん。あんたチョコ渡さないって言ってなかった?」

奏江の部屋でチョコを作ったときのことを持ち出すと、アワアワと動揺する。

「ち、ちがうの。嘘つこうとか騙そうとか思ったんじゃなくて。チョコは渡してないのよ。敦賀さんチョコは沢山もらうし、そんなに得意そうでもないし、だからゼリーをね。その日はたまたま現場一緒だったし!」

だからゼリーを作って持って行ったという訳か。キョーコのことだからゼリーと言ってもプロ並みの出来だったに違いない。それをわざわざあの男の為に。為だけに。

「別にいいわよ。私も確かチョコをあげないのか?って聞いたと思うし。同じ事務所で共演しているだからあげない方がおかしいと思うし。」
「そう!そうなのよ!」

色々引っかかることは多いが、他にも聞きたいことがあるので軽く流して話をすすめることにした。

「でも、なんで今頃?」

GWも終わり季節は初夏に入っている。ホワイトデーなんて一体何か月前の話だ。

「敦賀さんお忙しいから。」
「まあ確かにね。」
「私はDMで共演してたし、同じ事務所だし、気を使ってくれたみたいで。」

この鈍感娘は知っているのだろうか?敦賀蓮がホワイトデーの品を配るのに一定の期間を設けていることは、この業界では結構有名な話だ。勿論、事務所が同じだからと言って特別待遇もない。だからその時期なんとか遭遇したいのだと奏江の共演者もヤキモキしていた。それをあえて外れに外れたこの時期に…

(何がなんでもこの子に渡したかった。そうとも取れるわよね。)

このところ、奏江の中の疑惑はもはや確信変わっている。
そうなるとこの香りも…

「ね、この香り、敦賀さんと一緒じゃない?さっきすれ違った時嗅いだのと同じような気がするけど?」
「流石モー子さん!おしゃれガールはそういうとこまで気が付くのね!」
「おしゃれガールって。」
「これねアルマンディが出してるやつなんだって。同じブランドだと香りも似るのかな。」
「…さあどうかしら。」

美容関係の品はまめにチェックしている。アルマンディのクリームはお高いがその効能の評価も高く、実は奏江も乾燥しやすい冬場には愛用している。その香りは確か2種類。ローズラヴェンダーだけだったはずだ。


〝この香りですか?アルマンディのフレグランスを俺の為にアレンジしてくれてます″
〝じゃあ、世界に一つだけの香りってことですか?贅沢ですね。″
〝本当ですね。専属として期待して戴いている証だと思っています″


セレブ向けのファッション雑誌だ。キョーコはあのインタビューをきっと目にしていないだろう。


敦賀蓮、ただ一人だけのフレグランス loto


その香りが練りこまれたこのクリームを用意するのにあの先輩俳優はどれほどの金とコネをつかったことやら。

(どんだけ必死よ)

美貌の男だけが纏う香りを漂わせる…なんてマーキング以外の何物でもない。

無論、香りは香り。
敦賀蓮と間近に接しなければ嗅げないそれとキョーコを結びつけるものはそんなに沢山いないだろう。
だが、美に関心の多いものが集まるこの業界には必ずいるはずだ。何より貼られたラベルには小さくながらも〝loto″とはっきりと書かれている。誰かが気づけば、その手の噂はじわじわと広がっていく。

「流石一流ブランドよね。ラッピングも素敵なの。このパールチェーンがリボン代わりに使われてたんだけどなんか本物の真珠みたいじゃない?」
「…ほんとね。ネックレスには短すぎるけど、ブレスレットとか作れそう。」
「やっぱり?モー子さんもそう思う?」

(絶対本物よね。キョーコがこういうの考えそうなこと想定してるわよね)

目には見えないガードだけではなく、ちゃんとした物も贈りたいという訳か。

(もう何やら策を弄しすぎちゃって、小さいというか、何というか…)

ものも見事に策にはまっているキョーコはこれでいいのだろうか?そう考えかけて…やめた。

向かいに座るキョーコがクリームを塗られているだろう手をそっと擦って微笑んだから。
その顔があまりに綺麗だったから。


やっぱりもしかしたらこの子も…そう思ったから

こんな顔させているのに気付かないなんて、キョーコに負けず劣らず先輩俳優殿もニブチンなのかもしれない。


まあ、このところ理由もつけずにこの部屋を訪れることといい、それが必ずキョーコが事務所内にいるタイミングであることいい、あの男も攻勢に転じ始めたということか。

だが、相手はキョーコ。そう簡単にはいくまい。


(このクリームが無くなるまでになんとかなりますかね。先輩)


思わず一人笑いをした奏江をキョーコが不思議そうに見つめた。


(おしまい)




ちなみに、敦賀さんは箱買いしてると思うのです。
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Re: うふふ

> まじーん様
敦賀さん、箱買いですよねえ。
多分敦賀さんのご自宅キッチンにも常備ですよ。「いつも手が荒れるようなこと頼んじゃってごめんね?」とかヌケヌケとおっしゃっていると思います( *´艸`)

薔薇の花から宝石一粒は私も思いました。花束って手をふさいじゃう贈り物だから、何気に花を下にして盛ったり、平置きしたりすると思うんですよ。キョーコちゃんの部屋まで持ったのは奇跡といっていいでしょう(笑)

2017/03/16 (Thu) 05:02 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

うふふ

モー子さんにはお見通し!

同じ香りが特殊であれば、そりゃあ鋭い人は気づきますよね〜。
噂になる段階で、蓮さんアシスト発言とか色々しでかしそうですし。

>ちなみに、敦賀さんは箱買いしてると思うのです。

そうですよね。マーキングなら、同じ香りをずっと纏っていないと!ですから、なりげなく、なくなりそうな時にはうまいこと丸め込みながら新品を補充、いや、プレゼントしていくんでしょうね〜。

パールチェーン・・・キョコさんなら捨てないかもですが、本物はやはり本物とわかるようにしておかないと!なんて、貧乏人は思います。(爆)
でも、蓮さんならこの手を使うでしょうね!!(笑)
間違えて捨てたら・・・と、いらぬ心配を・・・蓮さんの宝石プレゼントは毎回、落とすよ、なくすよ!と心配させるプレゼント法ですよね。
(バースデーに贈ったバラの花の中から高価な宝石が一粒だなんて、いつのまにかこぼれ落ち、紛失しない方が不思議です)

2017/03/14 (Tue) 19:53 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

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