2017_03
22
(Wed)11:55

兄帰る(記憶喪失の為の習作6)

帰ってきました記憶喪失。
しかも病室シリーズ。
いや、別にシリーズ化したわけじゃないんですけど、病室のみで話が完結するパターン確か3回目?というより1話で終わる記憶喪失話全部そうじゃないか!と今更気付きました。まあ…ほら、私のちっこい脳みそで思いつく話なんでどっかワンパターン化するのです。
ちなみにタイトルは某文豪の先生の作品名をアレンジさせていただきました。読んだことないんですけど受験勉強から遠ざかって早○○年たった今もタイトルが頭から離れません。

ではでは、とりあえずお話を…

2017/3/21





社倖一が目を覚ましたのは病室だった。
なんでも事務所の資料室で落ちてきた箱で頭を打ったらしい。

らしい、と言うのは目を覚ました彼は何も覚えてなかったからだ。

そう、自分の名前さえも



■兄帰る(記憶喪失の為の習作6)




昨日入院したてほやほやとなると、病院生活は意外に忙しい。
回診、検温に血液検査、いくらかの打撲傷はあるものの身体は特に異常はないが頭を打った社はCTも受けねばならない。その合間合間には見舞客だってやってくる。
夜になり、成人男性の社には少々物足りない夕食をテレビをお供にとってやっと一息ついた。勤務先が手配してくれたのは個室なので同室の患者に気を使う必要がないのが有り難い。
既にシャワーは浴びたので、夕飯を下げてしまうと後は自分の記憶を引っ張り出すために資料に目を通すだけだ。だがなんとなく億劫になりテレビのチャンネルを変えていくと、自分が担当している俳優が出ている番組があった。画面の向こうは己が足を踏み入れていたとは俄に信じられないほどに煌びやかだ。

しばらくドラマの内容に意識をとられていると、扉がノックされた。
入室を促す返事を返すと、顔を覗かせたのはこのドラマで設計士を演じている男だ。

「こんばんは。社さん。遅くにすいません」
「いや、忙しいのに見舞いなんてごめんな。敦賀くん」
「蓮、でいいですよ。社さん、いつも俺のことそう呼んでいましたから」
「そうなんだろうけど、なんとなくね」

この担当俳優と顔を合わせたのは昨夜だ。なんでも、倉庫で倒れていた社を発見してくれたのは彼らしく、救急車を見送った後一人で次の仕事に向かったらしい。そして仕事が終わった後に駆けつけてくれたのだ。本当に申し訳ないしありがたい話だが、直属の上司である俳優部部長の松島と話をしているタイミングで現れた時は仰天した。
あまりに整った顔にあまりに恵まれた体格、記憶はないもののこれほど美麗な男を自分は見たことがないに違いない。裏方とはいえ芸能界なんて世界にいたことさえ信じられないのに、こんな男を自分がマネージメントしていたなどすんなり理解出来るはずもない。けれど、上司はそうだというし、蓮も「社さん」と親し気に呼ぶ。信じ難いがそういうことなのだろう。

「こんばんは、社さん。お加減いかがですか?」

蓮の後ろから覗かせてたのは

「こんばんは、京子さん。」

タレント兼女優、京子こと最上キョーコだ。
社には随分世話になったとかで昨夜も蓮と一緒に見舞いにきてくれたのだ。

「社さんに京子さんなんて呼ばれると新鮮ですね。あ、敦賀さんのドラマ見てたんですか?」
「うん。少しでも参考にと思って。いつまでも代マネお願いするわけにもいかないし」

京子は蓮とも共演経験があり、事務所も結構売り出しているらしい。デビュー前には蓮の代マネを経験しているそうで、今はスケジュールが空いているからと手をあげてくれたのだ。

「私はいいんですよ。時間ありましたし、敦賀さんのお仕事傍で見るのは勉強になりますから。」
「俺も最上さんなら気心しれてますしね」
「出来メン社さんみたいにはいきませんが精一杯務めさせていただきます!」

キョーコがビシッと敬礼を決めると蓮は「よろしくね」と優しく笑って頭を撫でている。本当に仲良くやってくれているようで社は安心した。

ぐー
安心したと同時になる腹に赤面する。

「いやあ…病院って晩飯の時間早いからさ」

照れながら言うとキョーコがおずおずと紙袋を差し出した。

「これ…病院食だと物足りないかと思ってちょっと作ってきたんですけど…」
「え?ほんとに?」
「生春巻きなのでそんなに重くないと思うんです」

小振りのタッパーの中には春巻が綺麗に並べられていた。量は多くないとはいえ具のバリエーションが3種類ある、結構な手間だろう。

「うわ~旨そうだなあ。マネージャーもお願いしてるのに大変だっただろ?」
「全然。ついでだったんで」
「今日、夕方に空き時間あったんでうちで食事したんですよ。」
「うちって…敦賀君ち?」

上司である俳優部部長の松島の話や昼間目を通した資料によると、蓮は独身で都内の高級マンションに一人暮らしをしているはずだ。
男の一人暮らしの部屋に代理マネージャーとはいえ若い女性が上がって夕食を共にするなんて、例えやましいことがなかろうとも売れっ子俳優と成長株のタレントにしては自覚が足りないし、何より無防備すぎるのではないだろうか?

「ええ、勿論。生春巻き、俺も食べましたけど美味しかったですよ。そのソースも最上さん特製なんです。」
「ただ混ぜただけですよ。」
「何をどう混ぜるかで全然違うだろ」
「それはそうですけど…冷蔵庫のスイートチリソース早く使いきりたかっただけですし。」
「あるもので美味しく作れるのが凄いと思うよ。俺はそういうアイデアまるで浮かばないから」
「そんなアイデア浮かぶ前に3食ちゃんと食べることを思い出して下さい。」

(は、はーん。)

社の顔にニタリとした笑いが浮かぶが、紙皿がどうのお茶がどうのと忙しい二人は気付いていないようだ。


自身が記憶を喪っていることを忘れるくらい会話が弾む夜食タイムが過ぎた。淹れてくれた煎茶を飲んでいた蓮が、チラリと時計を見あげてキョーコに告げた。

「そろそろお暇しようか」
「そうですね。社さんがお元気そうでほんと安心しました。」
「ありがとう。検査結果も特に異常はないみたいだし、記憶ばっかりは様子を見るしかないだろうから、明日の診察問題なければそのまま退院って流れになると思うよ」
「じゃあ敏腕マネージャーの復帰も近いってことですね。」
「いや、敏腕かどうかは…。記憶もないことだし」
「今の社さんも十分頼りになりそうですけど、退院直後に無理はよくないですから。」
「そうだよなあ。」

日常生活にも不安があるのにいきなり売れっ子芸能人のマネジメントはハードルが高い。それに…と社の顔にニタリ笑いが再び浮かぶ。

「せっかく大っぴらに二人でいれる時間は長い方がいいよな。」
「「はっ?」」

二人同時にすっとんきょうな声をあげられたが社のニタリ笑いは止まらない。

「いいよ。いいよ。隠さなくても。付き合ってるんだろ?」
「なっ…ちが!」
「敦賀君の京子さんを見る目、甘くて甘くて蕩けそうだもんなあ。京子さんも敦賀君の背中を潤んだ瞳で見つめちゃってさ。もう二人の気持ちバレバレだよ」

見てるこっちが照れちゃうよ~て身体をくねらす社にキョーコは反論しようと口を開きかけたが、蓮の方が早かった。

「最上さん、それ本当?」
「え?何が」
「俺の背中潤んだ目で見つめてたって」
「あ、あの…そ、れは…」
「俺は本当だよ。最上さんのこと愛しく思ってる。この想いが伝って、君が同じように想ってくれたらと願ってた。」
「え、あ、の…」

ぐいぐいを押していく蓮にキョーコは少し引き気味だ。しかし、真っ赤に熟れた頬と再び潤み出した瞳が否とは思わせない雰囲気だ。

「ね、その顔、期待していいの?」
「だって…敦賀さん…隠れ遊び人…。」
「失礼だな。君だけだよ。助手席に乗せる女性も、部屋に上げるのも。ね?俺じゃダメ?」

口を開けてその光景をみていた社はようやく気付いた。

(これって…両片思いってやつ?)

どうやら自分の一言が2人の距離を一気に縮めることになりそうだ。

(俺、もしかしてすっごくいい仕事した?)

再びニタニタ笑いがこみ上げるが、とりあえずここは2人きりにすべきだろう。缶コーヒーでも買ってくることにしようと2人に背を向けてベット脇のキャビネットの引き出しを開けた。背後では蓮の口説き文句が続いている。声だけ聴いても甘ったるいそれにキョーコが陥落するのも時間の問題かもしれない。急いで財布を取り出すと、病院から渡された資料数枚がはらはらと床に落ちてしまった。

(いけない。いけない)

早く部屋を出てやらなければと気が急くままに、ベットに腰をおろしたままで、上半身を折り曲げて床に散らばった書類を集めていく。最後の一枚はキャビネットの下に滑り込んでいた。手を伸ばすとなんとか届く。

(これで全部だよな)

書類を確認しながら上半身を持ち上げたのがいけなかった。引き出しを開けたままにしていたのをすっかり失念していたのだ。ガゴンという低く嫌な音と共に後頭部を強打した。

(…っ…)

なんとか身体は起こしたものの、クラクラする。これはいけないと思ったのを最後に社の意識はブラックアウトした。







(あれ…ここ…どこだっけ?)

確か資料室で書類を探していたはずなのに、どうやらベットの上に横たわっているらしい。目の前に見える小ぶりのテレビが載ったキャビネットはよく病室で見かけるやつだ。

(もしかして…俺。倒れて病院に運ばれたのか?)

記憶ある最後の映像は落ちてくる段ボール箱だ。あれで頭でも打って意識を失い、ここに運ばれたということだろうか?

(蓮は仕事行ったのか?…一体今何時だ?)

とりかく現状を把握するためにもっと情報が欲しい一心で振り向いて…再び意識が飛びそうになった。


それはベットサイドで担当俳優が片思い中の少女を貪らんばかりのディープキスをかましていたから。



暫し呆然と社が見つめる中、その行為は収まるどころか加速していく。

深い…とはいえただのキスのはずなのに、流石抱かれたい男№1.エロい。とにかくエロい。
これは17才以下のお子様にはとてもじゃないがお見せできない。
いや、ちょっと待て。貪られている方は17才じゃないかと、ハタと気付く。

(まさか無理やり?)

何しろモテまくりで経験豊富であろうに恋愛初心者な担当俳優は、愛しい少女のこととなるとタガが外れやすい。しかも最近は積極的にアプローチを仕掛けているにも関わらず、恋愛脳細胞死滅気味のラブミー部員には全く理解されずストレスを抱えている。
社が寝ているとはいえ実質2人きりのこの部屋で、ついに理性の紐がブチ切れたとか?

無意識にモザイクをかけようとする己を叱咤激励して、いまだに続くそれを観察する。キョーコの手は弱弱しく蓮のジャケットを握っていて、たまに息苦し気に身をよじるものの、拒絶や抵抗の色は見えない。時折洩れる声もキョーコのものとはにわかには信じがたいほどに色っぽく甘い。

(ってことは同意の上?)

何をどうしたらそんなことになるのだ?この前事務所で会った時だって、メイクや服装を褒めてみたのに「モー子さんセレクトなんですぅ」と親友愛を熱く語られていたではないか。

そうこうしているうちに、キョーコの手がおずおずと蓮の背中に回った。やっぱり同意の上らしい。一体全体どうして?担当俳優はどこぞの魔女から惚れ薬でも手に入れたのか?

サインは蓮に伝わったらしい。更にキスが深くなる。いや、さっきでも十分深かったのにこれ以上先があったのだ。社が知ってたディープキスなどセンジュナマコ(※注1)クラスのもので、世の中にはカイコウオオソコエビ(※注2)クラスがあったのだ。いやはやキスって奥深い。

半ば現実逃避していると、もう足が立たなくなってきたのかキョーコの身体がぐらりと傾いた。問題はその方向が社がいるベットだということで、絡みついている男も一緒に雪崩れ込んでくる姿勢になる。

(え?ちょ、ちょ、ちょっと待て~~~!!!!)

なんだ?このままこの先に進むのか?ここは病院で、しかも社のベットだ。色んな意味で勘弁してほしい。

キャーという悲鳴は…担当俳優がベットに手をついてキョーコの身体を支えたことで上げなくて済んだ。
ちゅぱっという音と共に唇が離れて、蓮は空いている手で彼女を胸に抱え込み、こちらに向かってにこりと微笑んだ。どうやら社が目覚めていることに気付いていたらしい。なんて性質の悪い。

「れ、蓮、お前…これは一体…。」
「蓮と呼んでくれるってことは社さん記憶戻ったんですか?」
「え?俺記憶なかったの?」
「ええ。昨日病院で目を覚ましてからずっと。」
「昨日?ってことは…。」
「丸一日以上たってますよ。」
「まじ?…っていうか、そうじゃない。お前、この状況は…。」

そうしている間に体勢をもとに戻した担当俳優はキョーコを胸に抱えたまま、更に笑みを深めた。

「社さんのお陰です。ありがとうございます。」
「え?俺のお陰なの?」
「そうですよ。流石敏腕マネージャー。生涯の恩人です。」

握手を求められ訳も分からないまま応じる。

「いや…まあ…その…とにかく想いが通じてよかったな。」
「ええ。本当に。」

愛おし気に彼女を見つめる蓮の瞳に色が差した。そして、どうやら意識朦朧としているらしいキョーコの耳元に何やら囁いた後こちらを向いた笑顔はなんだか嘘くさい。

「すっかり遅くなりましたし、俺たちは失礼します。検査結果は特に異状なく、明日診察で問題なければ退院だって、社さんさっき言ってましたよ。」
「あ…そうなんだ。」
「社長には俺から連絡入れときますね。ご両親はインフルエンザでお見舞いに来れないと伺ってますから社長から一報入れてもらいましょうか?」
「あ…いや…親には俺から明日電話するよ。」
「そうですか。では失礼します。」

色々細かい説明をすっとばし、担当俳優は愛しい彼女の腰を抱いて高速で去っていった。早く2人きりになりたいのだろう。


(……っておい!)


2人きりになって何するつもりだ?


(これはいかん。早く現場復帰しないと)

あの色気ダダ漏れ俳優を制御し、来たるべくスキャンダルに備えなけば。2人のマネージメント方向についても事務所と相談する必要がある。

一刻も早く己の場所に還るべく…社はとりあえずナースコールを押した。


(おしまい)




※注1 センジュナマコ:深海層(3000~6000m)に生息。海底をゆっくり這いまわっているらしい。
※注2 カイコウオオソコエビ:超深海層(6000~10000m)に生息。落ちてきたものは何でも食べるらしい。



深海生物?ちょびはあまり存じません。
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コメント

Re: 社さんナイスです

>ミ○様
待っていてくださいましたか?ありがとうございます。なんだかしょっちゅう記憶喪失している気がするんですけど、前作の12月の鬼から言ったら1年空いてるんですよね。びっくりです(笑)
病室シリーズにして、ラブミーフィルター取り払ったらシリーズでもあるんですよ。しょっちゅう助手席載せて、何かあったら電話して、抵抗なく部屋に招き招かれる…どうしてフライデーされない?と思う2人ですよねえ。

記憶があろうがなかろうか、社さんは蓮キョ成立には欠かせない人物だと思ってます。彼がピンときたら実際はどう動くのか想像するのは楽しいです。

私もセンジュナマコもオオソコエビも知らないです(笑)住んでる深さだけでチョイスしました~

2017/03/27 (Mon) 05:55 | ちょび | 編集 | 返信

Re: さすが社さん!

> ○ほ様
コメントありがとうございます。本当に久しぶりの病室シリーズをとなりました。楽しんでいただけて嬉しいです。
深海生物なみに餌(キョーコちゃん)に飢えてるのでがっつり食いつきました。ま、この深海生物ツルガサンは餌は極度に選り好みするんですけどね。食べなくても死なないし(笑)
こんなおバカ話でもちょっと和んでいただけなのなら本当に良かったです。また一服しにきてくださーい

2017/03/27 (Mon) 05:43 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 社さん

> まじーん様
ラブミーフィルターが記憶とともに消滅、第2弾です(笑)
ラブモンクラスでも30巻を過ぎてようやく取り払えるラブミーフィルターを消してしまえば…ほら真実はここに!(笑)(笑)

そして絶好のタイミング?での記憶回復、まさに敏腕マネージャーですよね~。きっとマネ勘が働いたんですよ。
ちなみにキョーコちゃんの表情は見えないように敦賀さんは角度等調節済です( *´艸`)

2017/03/26 (Sun) 06:29 | ちょび | 編集 | 返信

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2017/03/23 (Thu) 10:38 | | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

> 匿名希望様
コメントありがとうございます!
見学ご希望ですか?真っ白な病室、濃厚真っ最中な2人と、それを傍線と見つめる青年…かなりシュールな絵柄ですよ?(笑)
頭を打とうと、記憶がどっかに旅行中であろうと、蓮キョ成立には社さんは不可欠という結論に至っています!
頑張れ社さん!きっとこれから大変だ!

その後…翌朝呆然としているキョーコちゃんの姿しか今のところ思いつかないです(´;ω;`)

2017/03/23 (Thu) 06:59 | ちょび | 編集 | 返信

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2017/03/23 (Thu) 05:26 | | 編集 | 返信

社さん

記憶喪失でも、良い仕事ぶり!

まあ、蓮の気持ちは言っちゃいけないとか、キョコちゃんが恋なんてそんな訳がないとか、刷り込みのようなものがなくなれば、見えちゃいますよね。真実が。
社さんという身内の前では、特に・・・恋する二人が見せる本音は漏れ漏れですもの。

しかし、蓮さんの理性の紐が盛大に千切れた時に、記憶を戻すなんて。

やはり敏腕マネなお兄ちゃん!
貴方がいないと大変です、これから!!(笑)

大好きなこのシリーズ。今回も楽しいお話でした!

2017/03/22 (Wed) 15:55 | まじーん | 編集 | 返信

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2017/03/22 (Wed) 13:55 | | 編集 | 返信

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