2017_05
19
(Fri)11:55

面倒な奴ら(後編)

2017/5/19






「あ、ついた?うん。部室で待っててくれるかな?アイツ今インタビュー中だからさ。」

事務所の廊下でかかってきた電話にそう答えた。

蓮の帰国から4日、お互い泊まりのロケが入っていたりしてなかなかスケジュールが合わず、未だに蓮とキョーコは顔を合わせていない。今のインタビューさえ終われば今日はもう解放される予定で、キョーコに食事作りを依頼しているのだ。

(まだ蓮に言えてないんだけどさ)

帰国してから忙しいのもあって担当俳優とは一緒にいてもあまり話せていない。
否、仕事の話は普通にするのだが、プライベートの方に流れを持っていけないのだ。

(なあーんかおかしいんだよなあ。塞ぎこんでいるというか、考え込んでるというか…)

思えば、帰国後このLMEで会った時から少し様子がおかしかった気がする。
以前だったら社がソワソワしていると「どうせ最上さんのことで俺をからかおうとしてるんでしょう。」と面白くないような顔をしながらも喰いついてきていたのに。

(帰ってきてから一度もキョーコちゃんのこと聞いてこないしなあ。)

帰国後も会えてないのだ。絶対情報に飢えているはずなのに。キョーコに直接連絡を取っているかと思ったが、確認したところ、帰国の報告のメールはあったらしいが、その後は特にやり取りがないらしい。
キョーコは社の口から己の秘密が漏れたのかと怯えてしまい、宥めすかすのになかなか手間がかかった。

(仕事が終わったらキョーコちゃんが部室で待ってることちゃんと伝えないと)

そして少し発破をかけてやらねば。
気合を入れた分、歩みは自然と早くなったが、その腕をぐいと掴む者がいる。

「椹さん」
「ちょっといいか?」
「え、いや、蓮が今インタビュー中でして。」
「アイツなら一人で大丈夫だよ。」

社の返事を待たず、ぐいぐいと人気のないほうに連れていかれた。

「本気、なんだろうな?」

そう問う椹の顔は少々怖い

「本気…って仕事にはいつも真剣に取り組んでるつもりですが?」
「そっちじゃない。最上君のことだ。」

は?と部署は異なるとはいえ上司に向けて発するには少々不都合のある声が出た。

「ここんとこ追いかけまわしているじゃないか。事務所内で噂になってるぞ。」

頭の中が真っ白になるとはこのことを言うのだ。

「お前がきちんとした奴だってことは分かってる。だが最上君はああいった子だし、何よりまだ高校生だ。俺にとっても色々思い入れのある子だから一応確認しとこうと思ってな。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。違います。そういうのじゃないんです。」
「何が違うんだ。最近はよく会議室で2人きりになったり一緒に帰ったりしてるじゃないか。お前の押しに負けてラブミー部員が落ちたってすっかり評判だぞ?」
「いや…だから…。」

ようやく頭が正常に動き出した。

帰国した直後から様子のおかしかった担当俳優。
合流した日、社は事故渋滞に巻き込まれて到着が約束時間ぎりぎりになって、蓮は事務所で待ってくれていた。
その間に噂を耳にしたのではないか?

あの塞ぎこんだ様子とキョーコの話題を避け続けたのは、噂を信じて一人葛藤していたという訳か


(あんのぉ、ヘタレ恋愛脳ポンコツ野郎め)


とりあえず早急に蓮と話をしなければならない。だが、目の前の人物も大事な協力者だ。きちんと説明しておかなければ。

「誤解ですよ。」
「いや…だって。」
「キョーコちゃんを追いかけまわしてたのは事実ですが、ちょっと彼女が蓮に対して誤解してましてね。その誤解をアイツの帰国までに解いておこうと思ってのことですよ。」
「そ、なのか?」

大きく頷くと、椹はほっとした顔をした。

「そうか、そうなのか。いや、よかった。ほら、最上君のことは蓮も気にかけている様子だなあと思っていたから…その…な?。」

椹は蓮の恋心に薄々気づいていたらしい。ここのところ蓮は事務所ではキョーコへの好意を表に出しているし、社だって椹にキョーコのスケジュールを確認することもたびたびあった。ダークムーンやヒール兄妹を演じていた時期ならともかく常ならおかしいと思われて当然だ。
そのキョーコを蓮のマネージャーである社が追いかけていると聞けば、今後の看板俳優のマネジメントも含めて心配をかけたに違いない。

社はことさら笑みを深めてみせた。

「ええ、だからこそキョーコちゃんの誤解を解こうと焦っちゃいまして、すいません。却って妙な誤解を生むようなことをして。」
「いやいや、俺こそ悪かったな。きっちり否定して回っとくよ。」
「お願いします。」

噂の出所は悪意のない目撃者からか、それとも蓮に可愛がられるキョーコを妬んでのものか、はたまた売れっ子俳優とマネージャーとの間に溝でも掘りたいのか、まあ今はどうでもいい。

早急かつ重大なのは萎れたあの男への気合注入だ。

足早にインタビューが行われている応接室に向かった。



■面倒な奴ら(後編)



「今日はありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。是非またお話を伺える機会を頂けたら嬉しいです。」
「ほんとに実物は何倍も素敵でした。このキラキラ感伝えれるよう頑張りますね!」
「楽しみにしています。」

女性誌のライター達を愛想よく送り出した後振り向くと、先ほどまで春の陽だまりのような笑顔を浮かべていた担当俳優は社の後ろで己の足元を見ていた。
やれやれと小さくため息をついた社は誤解を解くべく声をかけた。

「…れ「社さん、お話があります。」」

遮った声には有無を言わせないものがあった。

「お、おう、なんだ?」
「俺、社さんには本当に感謝しています。社さんの支えがなければ今までやってこれなかったです。」

固い顔で告げられた感謝の言葉に戸惑う。

「いや…そう思ってくれるのは嬉しいけど…」
「社さんなら…最上さんを理解して大事にしてくれるんだろうなって思います。」
「おい。」

ちょっと待て。ここでどうしてキョーコが出てくる。まさか以前言ってた男の査定を行った結果OKなんて出すんじゃないんだろうな、と社は焦る。この恋愛下手俳優、自分の想いがそんな簡単に諦められるものだと思っているのか?付き合ってもいないのにあれほどの独占欲を発揮しているくせに。

おまえな、と説教モードに入りかけた社だが、蓮が深々と頭を下げたことでその動きを停止した。

「すいません。」
「すいません…ってなにが?」

一拍の間、担当俳優がさらに頭を深く下げた。


「俺、最上さんを諦められません。」


そのことでマネージャーとの関係が悪くなろうとも、例えキョーコの心が既に社に傾いていようとも


「何があろうとも…俺は…彼女を諦めるなんてできません。」


蓮の身体の脇の拳がぎゅうと強く強く握られた。

「社さんなら最上さんを幸せにできるんだろうと思います。だけど…だけど社さんのようにいかなくても、俺が彼女を幸せにしたい。それが俺の我儘だって分かってはいても…」


最上さんの傍にいたいんです。


苦し気に、絞り出すように吐露される心情

義理堅いこの男は社と歩んできた今までの芸能人生とこれからの未来と、そして愛しい少女への想いに板挟みになって苦しんだに違いない。
自分でいうのもなんだが優秀なマネージャーを失えばいくら事務所のバックアップがあったとしても、蓮の負担は増大する。今までのように演技に打ち込めるとは限らない。


だが、それでもなお、社と対立してでも、キョーコは譲れないのだと

自分にとって絶対の存在なのだと


ふ、と社の口元が緩む。

(ニブチンはニブチンなりに理解してるじゃないか)

だが噂を鵜吞みにしてウジウジしていたのはいただけない。
一瞬躊躇したが、もう今日は仕事はないのだしと、少しだけ手加減したデコピンをお見舞いする。

「なっ」

額を庇いつつ顔をあげた色男は今まで見たことないくらい動揺している。

「このあほう。妙な噂信じやがって」
「え…?」
「俺がキョーコちゃんを追いかけまわしてたのはお前の為だよ。」
「え…いや…でも…。」
「キョーコちゃんは確かに可愛くていい子だと思うし、これからの成長が楽しみな子だけどさ。そういう目で見たことないから。」

確かに最上キョーコは特別だ。
そのうちに秘めた才能と根性は社のマネ魂を刺激する。
だがキョーコが特別なのは、自身の担当俳優を幸せにしてくれるのは彼女しかいないと思っているから。

幸せになってほしいのだ。この男に
演技の世界で満たされるだけではなく、彼の人生もまた豊かなものであってほしい


「俺の為って…。」
「なんかさ。キョーコちゃんお前のこと誤解してるんだよ。そのことでお前を避けそうな感じもあったからさ、帰国前になんとかその誤解を解いておこうと思ったんだよ。せっかく帰ってきたのにちっとも会えないなんて辛いだろ?そう思って今日の晩飯お願いして段取りしてたのに。なんだよ全く。」
「いや、でも…。え?最上さんが俺を誤解って何を。」
「その話をしようにもキョーコちゃんの話題避けまくってたのはどこの誰だっけ?」

社からはキョーコの恋心は明かすつもりなどなかったのに少し恨みがましく言ってみれば、デカい図体を少し縮こましてすいません、と謝ってくる。

「すいません、って言ったよな。今。」
「は?はい。言いましたけど…。」
「すいませんって思うんなら、今すぐラブミー部行って、さっき俺にいったことそのまんまキョーコちゃんに話してこい。」
「そのまんまって。」

ぐい、と一歩踏み出すと、担当俳優の胸に己の拳を押し当てた。

「お前の気持ち、そのまんまだよ。」

マネージャーと天秤にかけてでも、例え何かを失うであろうとも、譲れない想い

「きちんと伝えてこい」

蓮の瞳にはまだ迷いがある。キョーコのこととなるととことんチキンだ。

「キョーコちゃんが俺のこと好きでも諦めきれないとか言っといて何言い渋ってるんだよ。いいのか?次に噂になるのは本当にキョーコちゃんを想ってて幸せにできる男かもしれないぞ?それこぞぶっとい馬の骨とかな。」

不破のことを匂わせれば、僅かにその美貌が歪む

「彼女にとって俺は天上人ですよ。こんな気持ち伝えて…そんな人だと思わなかったとか…避けられませんかね。」

思わず苦笑をもらす。

「そうなるかもな。」

むう、と蓮が不満げにこちらを睨む。

「軽く言ってくれますね。」
「でも言わないと始まらない。どうせいつ言っても避けられるなら早く言っとくほうがいいかもよ。」
「それはそうかもしれませんけど…。」
「安心しろ。確かにキョーコちゃんの逃げ足は速い。だけどな。」

にやり、と笑って空いている手で己を指差した。

「お前には2人のスケジュールを熟知する敏腕マネージャーが付いている。」

蓮は軽く目を見開いた後、笑った。

「そうでした。社さんがいるなら百人力ですね。」
「そうだろう?なんといっても、お前がいない間キョーコちゃんを追いかけ回した経験ありだ。役に立つぞ。」

心強いですね。とまた笑ってのち、すっと顔を引き締めた蓮は軽く頭を下げた。

「じゃあ行ってきます。」
「うん。」

決意に満ちて、そして何より早く会いたいのだろう。蓮が急いで応接室を出ていくのを見送ると、社はソファーに腰を下ろした。

「やれやれ。」

似た者同士だ。世話が焼ける。

一方は何をどうしたらそう思えるのかと不思議になるほど誤解をし、気持ちを地獄まで持って行こうと心に決めて
もう一方も神や仏の距離感にはがゆい思いをしながらも、その距離さえ失うのが怖くて

二人そろって、想いを押し殺してでも、それでもなお傍にいたいと願って…


蓮の告白をキョーコはちゃんと受け止められるだろうか?
なんといってもラブミー部員だ。これから一波乱二波乱あるかもしれない。
そうなるとあのラブモンスターだって参入してきそうで大混乱必至だ。


「ほんと…面倒な奴らだよ。」


それでも、その先に、2人が紡ぐ未来があればいい。
誰よりも幸せそうな笑顔が見れればそれでいい。



微笑む社の目は、あの日見た芸人のマネージャーと同じくらい優しく暖かかった。。




(おしまい)

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Re: もう、もうっ。

> まじーん様
ヤッシーかっこいいですよね!
なんか努力の上にある自信がみなぎってる大人の男って感じで、絶対職場にいたら惚れてます(笑)
社兄さんの為なら頑張って残業します!

本当に蓮キョ成立には社さんのサポートかかせないと思います。
個人的にヤッシーが手帳をパタンと閉じる仕草がツボです(笑)

2017/05/30 (Tue) 05:27 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

もう、もうっ。

蓮さんとキョコさんがひっつくのには、時間だけでなく、面倒な奴らをなんとかしようとしてくれる頼りになる兄さんの存在が不可欠ですね〜!!

キョーコちゃんの逃げ足は速いけど、お前には2人のスケジュールを熟知する敏腕マネージャーが付いている。


なんてすごいセリフ履けるのは、ヤッシーだけですものね。

ちなみに。
皆様もみたいですが、個人的には私もヤッシーが好みですw

2017/05/24 (Wed) 20:13 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

Re: 面倒じゃないかも。

> harunatsu7711  様
そうなんですよ。根っからのマネージャー気質で乙女成分多々持ってる社さんはにこにこしながら面倒みてくれそうです。
敦賀さんは本当にいいマネージャーに恵まれたって思います。

2017/05/23 (Tue) 05:10 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

> みや様
コメントありがとうございます。ガラケーから拍手コメントできなくなりましたか…。FC2のSSL化に伴いガラケーで対応できなくなるサービスがあるって案内に書いてあるんですよ。それですかね?
私もガラケー愛好者なので最近のガラケー包囲網は寂しいです。メールや電話の送受信は圧倒的にガラケーが便利だと思うんだけどなあ…。最近はスケジュールの管理をグーグルさんにお願いしていることもあって、手帳代わりにミニパットと携帯を2台持ちにしています。

社さん、いいですよねえ。もし身近にいてどちらを好きになるかと言われると圧倒的に社さんです(笑)。敦賀さんはキョーコちゃんじゃないと難解すぎて付き合うと消耗しそうです。

2017/05/23 (Tue) 05:09 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

面倒じゃないかも。

こんばんは。

うふふ。こんなことは、面倒ではありませんよ、って社さんならいってくれそうです。

更新、まってますね。

2017/05/20 (Sat) 22:30 | harunatsu7711 #mYbggkm6 | URL | 編集 | 返信

素敵なお話ありがとうございました。

悩みに悩んで、社さんに宣言した蓮様にキュンとしましたが、
蓮様を後押しする社さんには、ズキュンと来ました!

…自分が若い時、もしもキョコさんの立場だったら…、蓮様に憧れつつ、社さんを好きになってしまいそうです♪




今まで、ガラケーでもFC2拍手に入れたのですが…、最近入れなくなってしまいました。
なので、こちらにコメントさせていただきました。

2017/05/20 (Sat) 21:55 | みや #- | URL | 編集 | 返信

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