2017_05
23
(Tue)13:08

30cm

だー!!!下書きのまま保存してました!


さて、今年も懲りずに…


2017/5/23



休憩を知らせる声に、知らず小さな吐息を漏らした。
CGを多用したこの映画は場の雰囲気を意識するのに気を使うせいか、大して動いていなくても消耗する。

(空気のせいもあるんだよな)

日本ではあの湿度の高さを不愉快に感じていたというのに、西海岸の日差しと乾燥した空気に違和感を感じるから不思議なものだ。それだけ自分があの国に馴染んだということか。

「蓮、お疲れ。」

飛び交う母国語の中で、マネージャーから発せられる日本語にどこかホッとする。

「どうでした?」
「ああ、よかったよ。腹に何か抱えてそうな美貌の悪魔なんてお前以外に適任いないねって思うくらい。」
「それは俺が腹黒いって言いたいんですか?。」
「キョーコちゃんと付き合う前のお前の所業をよく思い出してみろ。」

思い当たる節がありまくるので、軽く肩をすくめてみせる。

「それにしてもみんなうまいよ。仕上がりが楽しみだ。」

異世界に迷い込んだ少女の冒険を描くファンタジー、蓮はとあるきっかけで少女と旅を続けることになる悪魔を演じている。最新のハリウッドの技術を結集した壮大な長編映画の第1作だ。

「キョーコちゃん、目をきらっきらさせて見るんだろうなあ。」
「彼女の好みが詰まってますからね。」
「お供の妖精なんてキョーコちゃんの夢そのまんまだよな。やりたかっただろうなあ。」
「主人公も妖精も白人女性が条件でしたから、仕方ありませんよ。この映画はまだまだ続きますからね。シリーズが終わるまでにはハリウッドに手が届く女優になって見せるんだって張り切ってました。」
「キョーコちゃんらしいよな。ほい。その頑張り屋さんから今日も来てたぞ。」

社が持っていた鞄から新橋色の封筒を取り出した。


■30cm



この映画の撮影期間は4か月、最初の2か月は日米を行き来していたが終盤に入ってからは一度も帰れていない。

離れている間、キョーコからのコンタクトは毎日の手紙だ。
便箋2~3枚にその日あった出来事が時にはイラスト付きで詳しく書かれている。

「うわ、キョーコちゃん今日もまたビッシリ書いてるねえ。」
「ちょっと覗かないでくださいよ。」
「こんなところで広げるから目に入るんだよ。誰?このハートマークいっぱい飛ばしている男。」
「貴島君だそうですよ。共演中の天宮さんにアプローチしているらしくて。」
「ああ、それで女の子の方は毒々しい雰囲気なんだ。貴島も天宮さんにちょっかい出すなんて命知らずだな。すっごいキツイ断られ方されそう。」
「もうすでにばっさり切られたみたいですよ。それが却って火をつけたみたいで。」
「まじ?実はマゾっけあるとか?」
「それはどうでしょう?」

笑いながら2枚目を読み始めた蓮の顔が甘く緩んだ。

「蓮くーん。ピンクオーラ出すぎだから。ここは狩人のお姉さん方多いんだからな。気を付けろ。」
「だから見ないでくださいよ。」
「今は手紙は見てないよ。どうせ取るに足りないささやかな言葉に胸を熱くしてるんだろ?キョーコちゃんのこととなると幸福基準度相変わらず低いな。」
「ほっといてください。」
「ま、ほっとくけどさ、休憩伸びそうだし、今ならあっちまだ電話しても大丈夫な時間だろ。始まりそうなら呼びに行くから、かけてきたら?。どうせなら直接声聞きたいんだろ?」

社が指差す方向には監督と照明スタッフ達が話し込んでいる姿。何かトラブルでも起きたのかもしれない。
蓮は便箋を丁寧に折畳み封筒に仕舞うと、社に礼を言ってその場を離れ足早に電話がかけれそうな場所に向かった。


付き合ってまもなく1年、同じ日本にいるときだって撮影で何日も会えないことはよくあった。
だが、これほどに会えない期間は初めてだし、何より彼女と同じ空を見ているわけではない。

あの笑顔が直接見れないのなら、せめて声だけでも聴きたい。

無論、2人共仕事がある。先日主演したドラマが大ヒットしたせいで彼女のスケジュールもビッシリだ。おまけに時差という壁もある。当然電話が通じることは少なく、自然とコミュニケーションの手段はメールが手紙に頼らざるを得なかった。

だからこそ電話がつながるときは無性に嬉しい。

(まあ、手紙を見て喜んだり落ち込んだり気分が乱高下して、せめて声だけでもなんて酷い欠乏症にかかっているのは俺だけなんだろうけど)

無論、蓮がメッセージを残せば電話をくれるし、メールにも返事をくれる。それにこんな内容の濃い手紙を毎日書く方がメールや電話よりよっぽど手間だ。
キョーコが自分から電話やメールを送ってこないのは、ハリウッドの大作のしかも重要な役どころに抜擢された蓮の仕事の邪魔をしたくない一心だからだ。電話やメールの着信に蓮の集中力が削がれることがないようにと思ってくれているのだ。
自分の重苦しい愛情を受け止めて、こうやって返してくれるだけで、もう充分だ。

それに手紙という古風な手段はタイムラグはあるものの、撮影が終わったときや合間のキリのいいタイミングで社から手渡される。封を切る瞬間、自分の肩にどこか入っていた力が抜けていくような気がするから不思議なものだ。

綺麗に並んだ彼女の筆跡を見ているだけで、温かな気持ちになったこことが何度もあった。

『はい!キョーコです!!』
「あ、手紙読んだよ。貴島君の恋はその後どう?」
『それがもう面白くて、貴島さんってほんとマメな上にタフですよね。』


キョーコの声が弾んでいる。そのことにまた自分の顔が甘く溶けていくのを感じながら、手にしていた新橋色の封筒をそっと撫でた。


*
*

「分かりました。では朝に。はい。」

映画は無事クランクアップした。勿論終わったのは撮影だけで、映画の公開前には宣伝行脚が待っているのだが、一先ず日本に変えることが出来ることになった。あちらでも仕事仕事の日々だろうが、それは苦ではないし、何よりキョーコがいるのだ。

「さて、片づけるか。」

後半はアラスカでの撮影も入っていたので、ロスで拠点としていたこのアパートメントには大して荷物は置いていない。その中で最初に手を付けたのは、汚れたり万が一紛失したりすることのないようにお気に入り以外は備え付けのデスクに片づけていたキョーコからの手紙だ。何を忘れたってこれだけは持って帰らなければ。

引き出しを開けると色とりどりの封筒がそれだけで蓮の目を楽しませてくれる。時々読み返していたせいもあってランダムに入れられたそれを一通一通取り出しては重ねていくのだが、ついついまた読んでしまったりしてなかなか作業が進まない。

「もうすぐ会えるってのに何やってるんだか。」

自分の行動に苦笑する。このままではいつまでたっても終わらない。明日朝にはこの部屋を出て日本に向かうのだ。帰ってからキョーコとゆっくり読み返すことにして、誘惑を断ち切るためになるべく意識を向けないように機械的に引き出しから取り出していく。
〝キョーコレタータワー″はみるみる高くなっていく、そうなるとこちらも妙な子供心が沸いて崩れないようにバランスを考えながら一心に積み上げた。

「これで最後だな。」

それが鎮座した時タワーの高さは30㎝を超えていた。

「……」

それ1通はそれほどの厚みはなくても、ほぼ毎日届いていたのだ。沢山あるとは思っていた。だが、これほどまでとは。

暫し見つめているうちにベルが鳴った。違うフロアに部屋を借りている社だろうと何も考えずにインターフォンに出たのは不味かった。

『はぁーい、レン、明日ニッポンに帰るんでしょう?ちょっと飲まない?』

モニターに映っているのは、共演者である狩人のお姉さん。セキュリティーの厳しいこのアパートメントにどうやって入りこんだのか疑問だが、知人が住んでいるのかもしれない。居留守を使ったらよかったと後悔するが、何分これからも一緒に仕事をする間柄だ。無下には出来ない。

『やあロージー。悪いけど荷物がまだ纏められてないんだ。今度来た時にまた改めて』
『ええ~残念。でも渡したいものがあるの。ちょっと出てくれない?』

画面の向こうで彼女が見せているのはラッピングされた化粧品らしきもの
どうやら蓮がモニター越しに断るのは計算済みで、何が何でも玄関扉を開けさせたいらしい。

『私が持ってたグロス、どこのか聞いたことあったでしょ?ニッポンで待つ彼女にお土産。』

そういえばそんなことがあった。容器が随分と可愛らしくてキョーコ好みだと思って聞いたのだ。

『分かった。ちょっと待ってて。』

自分にアプローチしてきた女性からの品をキョーコに渡す等無神経ではないが、ここで断るのも大人げない。一先ず受け取って帰ってから事務所でどうにでも処分できるだろう。

ドアを開け、礼を言いながら受け取ったグロスは随分と肉食系のカラーだった。

『ね、ちょっとでいいからお部屋見せて。』
『仮ぐらしの部屋だし、散らかってるから勘弁してほしいな。』
『そんなの私気にしないわ。ここ、今友達が住んでるんだけどもっと下の部屋なの。お部屋の違い知りたいわ。』

流石狩人、ずい、と突っ込んでくるのをその長身で塞ぐ。

『ごめん、俺恋人の香りがしないと寝れなくてね。部屋にはマネージャーにも入らないようお願いしてるんだ。』

む、と露骨に不快そうな顔

『なあに?愛しの彼女の写真ペタペタ貼って、ご愛用の香水でも振りまいてるの?あまりいい趣味とは言えないわね』
『その辺はご想像にお任せするよ。』

にっこり笑えば、むっつりと身体を引いた。やれやれとドアを閉めにかかれば、彼女は引き攣った笑いを浮かべた。

『レンの彼女ってあのラブレターの君でしょう?来るのは手紙ばっかりでこの4か月会いにくるどころか電話さえかかってきてるの見たことないわ。』
『古風な日本人でね。俺の仕事の邪魔をしないよう考えてくれてるんだ。』
『どうかしら?愛してるのはレンばっかりで、向こうでよろしくやってるのかもよ?』


自分と同じだけ愛してくれているなんて思っていなかった。
以前なら彼女を信じつつも、どこか動揺していたかもしれないが今なら言える。

『ご心配ありがとう。でも愛されてるから大丈夫。』
『ほんとかしら?』

蓮は笑みを深めた。

『うん、本当。11.811インチ程ね。」
『は?11…インチ?』

きょとんとした顔がいつもより随分幼く見える彼女に、重ねて礼を告げて扉を閉め、書斎スペースに舞い戻りながらクスクス笑う。


積み上げると、約11.811インチ、30cmにもなったタワー

その1つ1つにキョーコの想いが込められている。


こんなにも会いたくて、声が聴きたいのは自分だけ、なんて、本当に自分は女心が分かっていない。

毎日、毎日、あれだけの手紙を書くのにどれだけ時間を使ったのだろう?どれほどの時間、蓮を想ってくれたのだろう?

楽し気に、そして丁寧に書かれた文字がほんのわずかに歪んだ箇所があった。
もしかして震えるほど寂しい夜があったのか?

蓮の食事や体調を気遣った文末部分の便箋にわずかに皺があるときもあった。
もしかして涙をこらえる日だってあったのかもしれない。


愛してるなんて一度も書かれたことはなかった。
会いに来て、なんてもってのほか

だけど、だけど、きっと文面以上に多くの想いを込めて届けられた手紙


そこに込められた気遣いが、想いが、愛情が、封を開けた瞬間、蓮を癒してくれていたのだ。



「早く会いたいな…。」

会ったらまず抱きしめて…「ただいま」の後はなんて言おう?


会いたかった?

ありがとう?


いや、違う


愛してる。

そう言おう


きっと、脈絡もなく告げられた愛の言葉に目を白黒させるだろう。
いきなりなんですか、なんて言われるかもしれない。


だけど、きっとその後は


少し照れた顔をした後に、華のような笑顔を見せてくれるに違いない。


(おしまい)





はい、今年も懲りずにラブレターの日に駄文投下です。

メールは便利だし日時をバシッと決められますけど、書面でのメッセージはやっぱり違いますよねえ。
最近は手ごろな万年筆も出回ってますし、おしゃれなカードでも買ってたまには誰かに贈ってみるのもいいかもしれません。

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コメント

Re: ちゃんと

> まじーん様
これからは事あるごとにキョーコレタータワーを積み上げてる敦賀さんがいると思います。
そしてキョーコちゃんの自分への想いにうっとりするんです(笑)

久遠ハートには少年っぽい部分がかなりあるので、やり出したら崩さないよう必死で積み上げてみたりして…( *´艸`)

コメントありがとうございました。

2017/05/30 (Tue) 05:32 | ちょび | 編集 | 返信

Re: きゅーんとしました。

> harunatsu7711様
きゅーーーん!ありがとうございます!
キョーコちゃんは凝り性なので書き始めたら一心不乱に書いてそうです。それを横で眺めてあきれるモー子さんが浮かんだりしました。
こちらこそいつもコメントありがとうございます!励みになってます。

2017/05/30 (Tue) 05:23 | ちょび | 編集 | 返信

ちゃんと

キョコさんの気持ちも届いていましたね。

(∩*´ω`*∩)

〝キョーコレタータワー″ に込められた沢山の気持ち。

蓮さんもキョコさんの中に高々と積み上げられますように!



2017/05/24 (Wed) 20:24 | まじーん | 編集 | 返信

きゅーんとしました。

こんにちは!
毎日心を込めて手紙を書くキョーコ、
喜んで受けとる蓮、
きゃーーー!
きゅーーーん!
としました。

いつもありがとうございます。

2017/05/23 (Tue) 18:12 | harunatsu7711 | 編集 | 返信

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