2017_07
05
(Wed)11:55

若葉な恋人(後編)






「げ、本当ですか?どんな企画か分かります?」
「それがねーわからないのよ。夏だからちょっと開放的にいくんじゃない?」
「どんな方向に開放的なんでしょう。益々怖いですね。」

静かに閉められたドアの向こうでは2人の会話が続いている。
それを背に蓮はそっと鍵を閉めた。



■若葉な恋人(後編)




「敦賀さん。」

緊張しながら待っていたらしいキョーコがぴょんとソファーから立ち上がった。

「お疲れ様です。」
「ん、キョーコもお疲れ様。」
「何か…飲み物…」
「いや、大丈夫。」

足早にソファーに近寄ると、キョーコに座るように促した。
何しろ時間がないのだ。1秒だって長く傍に居たい。

久しぶりに間近にみるキョーコを蓮はまじまじと見つめた。

「髪、ほんと可愛くなったね。いつもより前髪短めだ。」
「新しい道を歩み始めるっていうラストに向けてちょっとだけアレンジを。」
「うん。役柄によく合ってるよ。」

そんな些細な会話だけでキョーコは頬を染めてもじもじとした。

「どうした?」
「いえ、あの、本物だって思ったらドキドキして…。」

そう告げる表情はなかなかの破壊力だ。
ぐらり、理性が揺らいだのを誤魔化すように髪をひと房摘まんだ。

「いい匂い。シャンプー変えた?」
「ひゃ!嗅がないでください。か、髪切った時に勧められたんです」
「それでこんなにサラ艶なのか。いいね。うちに置いてるやつもこれに変えようか?」
「まだまだ残ってるのにもったいないです!」

動揺しつつもその辺は譲らないらしい。キョーコらしいとクスクス笑う。

「…1か月ぶりですね。」
「正確には34日ぶり。」
「ほんとですか?」

ほんのり染まったままの頬がなんともいえず美味しそうだ。

「嘘言っても仕方ないだろ?」
「前は事務所で結構会えてたのに嘘みたいにすれ違いでしたね。私の運のなさを実感しました。」
「そう?でも会えた。それにもう少しの辛抱だ。」
「はい。…あ、ちょっと痩せました?コンマ何ミリか顎のラインがシャープになった気がします。」

見上げる瞳が誘うように細められ、伸びた手が蓮の顎をするりと撫ぜた。

ぷつり、と揺らいでいた紐がちぎれる音を聞く


髪を弄っていた手でそのままキョーコを引き寄せて口付け、深くなる前に、僅かに唇を離して告げた。

「困ったな…。」
「…何が…ですか?」
「これじゃキョーコと話が出来ない。」
「……。」
「じゃあ、しなければいいじゃないかって思っただろ?それも嫌だ。」

返事はきかずに再開すると、シャンプーの香りなんて足元にも及ばない魅力的な香りが鼻腔一杯に広がり、ますます頭に霞がかかる。


もっと話をしたいのに唇を塞ぎたい。
もっとキスしていたいのに、顔もみたい
繋いだ手を離したくないのに、もっと色々触れたい

(ああ、やっぱり30分なんかじゃ足りない…)

せめてもう少し時間を、と思ったところで優先事項を思い出す。

元気がなかったというキョーコに話を聞かなければ。愛でるのは、その後だ。

そっと身を離すと、いつの間にやらソファーの上に押し倒す形になっていて、すでにキョーコがワンピースの上に羽織っていたカーディガンは剝かれていた。自分が剥いたに決まっているが、全くの無意識だ。恐るべしキョーコフェロモン。

「もう!ドアの向こうには社さん達いるんですよ!」

小声で抗議されるも、潤んだ瞳でこちらを見上げる表情に却って理性がぐらぐらする。我慢、我慢だ。

「ごめん。あんまり可愛いものだから。」
「かわっ!…ってもう!」
「この騒ぎが落ち着いたら、俺の部屋でじっくりね。」
「じっ?」
「嫌?」
「嫌…じゃありませんけど。」

目を逸らしながらも真っ赤になりながらごにょごにょ言ってくれる間にソファーに押し付けていた身体を起こし、乱れていた髪を手櫛で整える。

「うん。これで狭山さんにも怒られなくて済むかな。」
「チェック厳しいですよ。」
「狭山さんに嫌われたらキョーコに会うの厳しくなるからね。気を付けます。」

ほんとですよ。とクスクス笑う顔には陰りは見えない

「現場、越谷さんが色々気をかけてくれるんだってね。」
「そうなんですよ。隠れ蓑に使っちゃって申し訳ないってすごく恐縮してくださって。」
「越谷さん、もてるだろ?他の共演者のやっかみ買ったりしてない?」
「その辺は流石に第一線でずっと活躍されてる方ですよね。お上手です。」
「ならいいけど。」

この前胎児のエコー写真を見せてくれたのだと話すキョーコは楽し気で、その表情からは椹達の心配は杞憂でないかと思えるほどだ。だが、キョーコは蓮に心配をかける事を極力避ける傾向にある。騙されるわけにはいかない。

「ねえ、キョーコ。」
「はい?」
「このところ元気がないって椹さんたちから聞いたけど?」

一瞬キョーコの目が泳いだ。ビンゴのようだ。

「そ、そんなことないですよ。記者に貼り付かれるなんて経験なかったので気疲れはしますけど。」
「狭山さんも心配してるって聞いた。彼女のチェック厳しんだろ?」
「そ、それは…。」
「それは…何?。」
「も、もう解決したので…。」
「ほんとに?」
「ほんとです。」
「どうやって?」

目を逸らしながら小声で答えるキョーコの頬はどういう訳か赤みが再び増してきている。
その可愛らしい様子が今はなんだかおもしろくない。一体何があったというのだろう。キョーコを支えるのは自分でありたいのにと勝手な不満が膨れていく。

「それは…その…。」
「ね、どうして?今度何かあったときの為にも教えて?それとも俺じゃ頼りにならない?」

どんどん、どんどん、キョーコは赤くなる。なんだか頬からジュージューと音が聞こえそうなほどだ。

「……から」
「え?ごめん聞き取れなかった。何?」

このいじめっ子、と可愛らしいい唇が動いた。

「ね、キョーコ。」

ふるり、と震えた後に真っ赤な顔に涙目が加わった。

「つ」
「つ?」
「敦賀さんに会えなくて寂しかったからです!!会えたから、もう大丈夫なんです!!!」

しん、と一拍の静寂の後、呆けた男の背中からは一段と大きくなったマネージャーたちの声が聞こえた。
きっと今の叫び声を誤魔化すためだろう

「え…そう、なの?」
「そうなんです!」

思わず真顔で見つめていると、ちらり、とこちらを見たキョーコが拗ねたようにまた顔を反らした。

「呆れてます?」
「え?…いや、そんなこと。」
「どうせメンタルコントロール未熟ですよ。」
「いや、そういうのとは違うだろ。」
「だって敦賀さんはちゃんとコントロールできてるじゃないですか。」
「俺?俺だってキョーコに会いたかったよ。」
「でも、それで周りに心配かけるとかなかったじゃないですか。」
「いやそんなことないよ。今回はたまたま…。」
「今回はたまたま?」

頬を膨らましながらキョーコがこっちをジト目で見ている。

「その…」
「その?」
「…今は…会いたいとか触れたいって普通に言えるから。」
「はい?」
「いや、だって…前は電話するだけで色々理由つけなきゃいけなかったろ?前は、電話かけたらどうされました?って聞かれるの確実だったし。」
「まあ…それはそうですね。」
「それに前はキョーコを抱きしめたいとか、色々したいって思うことは隠し通さなきゃいけなかったけど、その必要もないし。」
「いや…それは部分部分隠してもらったほうが…。」
「もう隠さなくていいんだ、俺は最上キョーコの恋人なんだって思うだけで舞い上がっちゃって…。」


一番近くにいれる存在にようやくなれた。

幸せで…幸せで…

会えない時間に会いたいと口に出せることにすら幸せを感じてしまう。


「浮ついちゃってカッコ悪いな。俺」


キョーコの赤面指数が再び急上昇していく

「だからキョーコが俺に会えなくて元気なくしてることまで頭が回らなかった。ごめん。」

にこにこと更に上った機嫌のままに告げると、うう、笑顔が眩しいとかなんとか呟いたキョーコが少し目を逸らした。

「……。」
「でも嬉しいな。キョーコがそんなこと思ってくれるだなんて。」
「…そりゃ思いますよ。」
「うん、そうだね。」

そう、この腕の中の愛しい人もまた己を想ってくれている。

「恋人が自分と同じ望みを持ってくれるのって、こんなにも幸せな気分にしてくれるんだね。」

キョーコは指の先まで真っ赤になった。

「どした?また更に真っ赤になって。」
「…誰のせいですか?」

この天然タラシ、と小声で呟かれたのには少々納得がいかないが、もうあまり時間がない。

「時間過ぎるの早いね。」
「…そうですね。」
「ね、キョーコ」
「なんですか?」
「もうしばらくのキョーコ不足に備えるために、キスしたい。ダメ?」

懸案事項は解決した。
残りの時間は互いを補充することに使っていいだろうと首をかしげてオネダリしてみる。この手のオネダリにキョーコが弱いのも付き合い始めて分かったことだ。

「…この似非日本人はほんとに…。」
「だめ?キョーコも同じこと思ってくれない?」

右、左、右、キョーコは眼球まで動きが活発だ。

「あの…」
「ん?」
「……ギューもつけてくれないとだめです。」



可愛い追加事項に蓮の顔がまた緩む。

「いいね、同感。」


おいでと手を広げるとキョーコもまた満面の笑顔を見せた。


(おしまい)




ある意味初男女交際に、浮かれはっちゃけ脳内花畑でスキップする敦賀さんを書きたかったのに…なかなかうまくいかないなあ…。

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Re: らぶらぶだ〜〜〜

> まじーん様
浮かれはっちゃけ脳内花畑の敦賀さんは、ちょっと会えないことだって「会いたいって言えるんだ。だって俺彼氏だから」と浮かれまくりです。きっと喧嘩しても「初喧嘩だ」と感激して社さんに呆れられそうです。
今回の騒動については後日談をアイドル越谷さん目線で考えたりしたんですが、オリキャラが暴走しそうでやめました(笑)

若葉マークな恋人2人にお付き合いいただきありがとうございます!

2017/07/08 (Sat) 05:49 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: 会えなくても幸せ!

>harunatsu7711 様
そうなんです。会えなくっても幸せなんです。(特に敦賀さんの頭の中は(笑))
キョーコちゃんも、しばらくの間、ギュー付キスを反芻しては身悶えして恥ずかしがり幸せに浸る毎日です。ただし、旗から見ると奇行極まりない動きなのでマネージャーさんに注意されてるでしょうけど♬
コメントいただけて私も潤い頂いてます。ありがとうございます!

2017/07/08 (Sat) 05:39 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

らぶらぶだ〜〜〜

浮かれはっちゃけ脳内花畑でスキップしまくりな敦賀さんに訪れた試練。

これもらラブラブなふたりには良いスパイスになったようですね。

社長の計画はわかりませんが、蓮さんが早くしたいと思ってそうなキョコさんとの恋人宣言、婚約宣言は、「もうこんなことに巻き込まれないように」というのを理由に予定より早まりそうですね。(笑)

素敵に可愛い、若葉な恋人同士のお話。ご馳走さまでした〜!ヾ(๑╹▽╹)ノ"

2017/07/07 (Fri) 19:57 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

会えなくても幸せ!

こんにちは。更新ありがとうございます。


会えない辛さも、ぎゅー付きキスで充電完了。。。
…何だかんだで幸せですね。。。

私も潤いを分けていただき、感謝です。

2017/07/05 (Wed) 14:45 | harunatsu7711 #78TfamQ2 | URL | 編集 | 返信

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