1歩いっぽ(2)
2014, 03. 10 (Mon) 00:11
2014/2初稿、2014/9/22一部修正
■1歩いっぽ(2) ~それは深く浸みこんでいく~
「大将、女将さん、行ってまいります!」
だるまやにキョーコの元気な声が響く。
元気よく飛び出して学校に向かう…と見えたキョーコだったが、ペダルを漕ぐ力は常に較べて弱い。
だるまやが見えなくなるとキョーコは重い溜め息をついた。
思い出すのは昨夜のこと。
蓮の真っ直ぐに自分を見つめた熱い視線と告げられた言葉
身体の中から溢れだす歓喜
足の下から這い上がってくる恐怖
どうして蓮の言葉は届いているのに、自分はそれを理解し受け入れることができないのか。
キョーコは自転車を止め、ハンドルを握り直すと、軽く首を降った
まだその理由については考えたくない。
それに、セツカとしての仕事は終わり、今日からは学校も仕事も通常営業だ。
下宿させてもらっているだるやまの手伝いも出来るだけしたいし、蓮が自分のことを好きだなんで、まるで夢のようなことの思考の渦にはまってばかりはいられない。
そうだ。やっぱりおかしいじゃない。
夢よ。夢。私の妄想よ。
キャリーオーバー気味の頭で、夢オチという現実逃避に走り、再びペダルに足をかけたタイミングでキョーコの携帯がなった
”敦賀さん”
発信者は昨夜まで兄として一緒にいた人
「はい!最上です」
『おはよう。最上さん。朝早くにごめんね。今日学校だよね?』
確かに時計は7時半を少し過ぎたところ。
何か急の用でもない限り、蓮が電話してくるような時間ではない。
「いえいえ、大丈夫ですよ。登校途中で自転車も停めてますし」
敦賀さんは今朝早くからお仕事だったんじゃないんですか?と続けると蓮は肯定した。
『そう、夏の単発ドラマのね。今は控室だよ』
蓮は終戦日近くに放送されるドラマに、ロシア人のクオーターとして辛酸をなめながら、家族のために日本兵として戦った男と、その孫役として出演することになっていた。
(BJ終わったとたんに怒涛のように仕事組まれているんだもん。やっぱり凄い)
ほら、やっぱり。相手は天上人よ。妄想よ。とキョーコは結論づけた。
そうなるとこの電話は…
「あ、私、忘れ物とかしてましたか?」
『忘れ物じゃないよ。』
蓮が苦笑する気配がする。
『最上さんが昨夜俺が言ったことを、夢だとか思ってるんじゃないかと思って』
まさにドンピシャ。
キョーコの喉からヒュと音が漏れた
『ああ、やっぱり』
くすくすという笑い声。
『そうされちゃったら、いくらなんでも俺、可哀そうでしょ?』
(どどどどどどどっどうしてそんなに楽しそうなんですか!?)
キョーコは完全にテンパっている。
「そ、そそ、そそそ、それでわざわざお電話を…」
『うん。俺の一世一代の告白だったし。それに・・』
それに?
『好きな子の声を朝から聞けたら、仕事がんばれそう「ああああ、あの!返事聞くまでは先輩としてって!!!」』
『言ったね』
「じゃあ!」
『くどかないとは言ってないけど?』
確かに言ってない。でも、キョーコは臨界点だ。自分が往来で全身茹蛸になっているのは鏡を見なくてもわかる。
「誰が聞いてるかもしれないとこで、何言ってるんですかっ!」
『俺一人の控室だし、声ひそめてるよ』
余裕の態度がなんだか腹立たしい。もう何を言ったのかわからない状態になりながらもなんとかキョーコは電話を切った。
なんなのよ。もう、なんなのよ。
訳が分からない!と心の中で叫びながら、茹蛸状態のまま、キョーコは力強く自転車のペダルをこぎだした。
朝から意中の少女の声を聞けたせいか、機嫌よく通話が終わった携帯を片付ける担当俳優を社はあきれ顔で見ている。
「蓮、俺はいるんだが」
「社さんならかまいません」
開き直りやがった。
「お前、キョーコちゃんの男の査定するとか言ってなかったか?」
言ってましたねえとつぶやくと蓮は社に向き合った。
前に進むことにしたんです。と告げる目は強い力を帯びている。
「覚悟決めることにします」
(3)に続きます
「大将、女将さん、行ってまいります!」
だるまやにキョーコの元気な声が響く。
元気よく飛び出して学校に向かう…と見えたキョーコだったが、ペダルを漕ぐ力は常に較べて弱い。
だるまやが見えなくなるとキョーコは重い溜め息をついた。
思い出すのは昨夜のこと。
蓮の真っ直ぐに自分を見つめた熱い視線と告げられた言葉
身体の中から溢れだす歓喜
足の下から這い上がってくる恐怖
どうして蓮の言葉は届いているのに、自分はそれを理解し受け入れることができないのか。
キョーコは自転車を止め、ハンドルを握り直すと、軽く首を降った
まだその理由については考えたくない。
それに、セツカとしての仕事は終わり、今日からは学校も仕事も通常営業だ。
下宿させてもらっているだるやまの手伝いも出来るだけしたいし、蓮が自分のことを好きだなんで、まるで夢のようなことの思考の渦にはまってばかりはいられない。
そうだ。やっぱりおかしいじゃない。
夢よ。夢。私の妄想よ。
キャリーオーバー気味の頭で、夢オチという現実逃避に走り、再びペダルに足をかけたタイミングでキョーコの携帯がなった
”敦賀さん”
発信者は昨夜まで兄として一緒にいた人
「はい!最上です」
『おはよう。最上さん。朝早くにごめんね。今日学校だよね?』
確かに時計は7時半を少し過ぎたところ。
何か急の用でもない限り、蓮が電話してくるような時間ではない。
「いえいえ、大丈夫ですよ。登校途中で自転車も停めてますし」
敦賀さんは今朝早くからお仕事だったんじゃないんですか?と続けると蓮は肯定した。
『そう、夏の単発ドラマのね。今は控室だよ』
蓮は終戦日近くに放送されるドラマに、ロシア人のクオーターとして辛酸をなめながら、家族のために日本兵として戦った男と、その孫役として出演することになっていた。
(BJ終わったとたんに怒涛のように仕事組まれているんだもん。やっぱり凄い)
ほら、やっぱり。相手は天上人よ。妄想よ。とキョーコは結論づけた。
そうなるとこの電話は…
「あ、私、忘れ物とかしてましたか?」
『忘れ物じゃないよ。』
蓮が苦笑する気配がする。
『最上さんが昨夜俺が言ったことを、夢だとか思ってるんじゃないかと思って』
まさにドンピシャ。
キョーコの喉からヒュと音が漏れた
『ああ、やっぱり』
くすくすという笑い声。
『そうされちゃったら、いくらなんでも俺、可哀そうでしょ?』
(どどどどどどどっどうしてそんなに楽しそうなんですか!?)
キョーコは完全にテンパっている。
「そ、そそ、そそそ、それでわざわざお電話を…」
『うん。俺の一世一代の告白だったし。それに・・』
それに?
『好きな子の声を朝から聞けたら、仕事がんばれそう「ああああ、あの!返事聞くまでは先輩としてって!!!」』
『言ったね』
「じゃあ!」
『くどかないとは言ってないけど?』
確かに言ってない。でも、キョーコは臨界点だ。自分が往来で全身茹蛸になっているのは鏡を見なくてもわかる。
「誰が聞いてるかもしれないとこで、何言ってるんですかっ!」
『俺一人の控室だし、声ひそめてるよ』
余裕の態度がなんだか腹立たしい。もう何を言ったのかわからない状態になりながらもなんとかキョーコは電話を切った。
なんなのよ。もう、なんなのよ。
訳が分からない!と心の中で叫びながら、茹蛸状態のまま、キョーコは力強く自転車のペダルをこぎだした。
朝から意中の少女の声を聞けたせいか、機嫌よく通話が終わった携帯を片付ける担当俳優を社はあきれ顔で見ている。
「蓮、俺はいるんだが」
「社さんならかまいません」
開き直りやがった。
「お前、キョーコちゃんの男の査定するとか言ってなかったか?」
言ってましたねえとつぶやくと蓮は社に向き合った。
前に進むことにしたんです。と告げる目は強い力を帯びている。
「覚悟決めることにします」
(3)に続きます
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コメント
ちょび
Re: すいません
> yam様
ご指摘有難うございます!
このところ、1歩いっぽのメンテに取り掛かっているのでその際に消してしまったと思われます。
修正しときます!
また気付いた時は教えてくださると嬉しいです。
そして、読み直してくださってありがとうございます!
ほんのわずかもラストスパート!ちゃんと最後まで書きあげますよ~
ちょび
4. Re:無題
>ちびぽちさん
よく見ているのか、野生の勘なのか…とりあえずこのお話の敦賀さんは地道にマメみたいです( ̄▽+ ̄*)
ちびぽち
3. 無題
キョーコさんが蓮さんの告白が夢ではと思っていいるところに・・
蓮さん電話が入り、キョーコさんに気持ちが伝わってないのではと?流石は蓮さん、キョーコさんをよく見ていますね。
ちょび
2. Re:迷いを振り切って
>一葉梨紗さん
コメありがとうございます。キョーコちゃんの心はさまよってる感じです(笑)字の大きさのご指摘ありがとうございます。確かに読みづらい大きさでした。ちゃんと確認しなきゃですね。