2018_01
12
(Fri)11:55

一年の計

もう明けましておめでとうございます。というには遅すぎる登場です。鏡開きも終わってるし…。
すいません。でも、最初なので言わせてください。新年明けましておめでとうございます。

そして、1週間ほど遅れた感のある仕事始め的なお話です。
こんなに遅れてカッコ悪いので来年に回そうかとも思ったんですが、いやスキビがもっと展開してたら出せなくなるし…って訳で完全遅刻ですが、公開させていただきました。

今年もマイペースにお話し綴れたらと思います。
皆様の休憩時間のお供になれば幸いです。
どうかよろしくお付き合いくださいませ。


20178/1/12




「今年も京子をよろしくお願いいたします。」


社倖一はプロデューサーをはじめとするスタッフに深く頭(こうべ)を下げた。

女優京子にとって今年は大きな飛躍の一年になるはずだと確信している。
今日はその始まりの日だ。

そのスタートをよりよく切れるためならこのマネージャーの頭を下げる等お安い御用だ。




■一年の計




「初仕事お疲れ様キョーコちゃん。今年もよろしくね。」

新年会の誘いを振り切り、2人きりになった車の中で改めて新年の挨拶を告げる。

「こちらこそよろしくお願いします。新年早々私の仕事に付き添っていただいてすいません。」
「蓮の方は朝一からドラマの撮りだったから一緒に現場入りして必要な挨拶は済ませてきたから大丈夫。」
「ってことは相当朝早くからってことですよね。今年も敦賀さんも社さんもお忙しいってことですね。」
「ありがたいことだよね。」

さて、と後部座席に向けていた身体を正面に戻してエンジンをかけた。キョーコはこの仕事で新年初日の仕事は終了で、社長とマリアが開催する小規模の新年会に招かれている。

「遠回りになるし撮影終わるまでちょっと待つことになるけど、蓮を拾っていいかな?今日は確実に酒が入るからあいつ車出してないんだ。」
「社さんは敦賀さんのマネージャーなんですから、そんなの当然ですよ。」
「そう言ってもらえると助かるよ。せっかくだしキョーコちゃんも少し見学させてもらおうよ。新年の挨拶して顔覚えてもらうのも営業の一つだし。」
「ほんとですか?敦賀さんの演技見れるなんて大歓迎です」

暫くは蓮の出演ドラマの内容についての他愛もない会話が続く。
社は会話をそれとなく繋げながら、時折バックミラーで後部座席に座る担当タレント兼女優の様子を伺った。

ほんの少し会話が途切れる瞬間、キョーコは窓の外にそれとなく顔を向け、口元をフヨフヨと緩ませるのだ。

「どうかしましたか?」
「ん?あ、ごめん。横断歩道わたってた人がなんか面白い表情してたから。」

思わず笑みが漏れてしまったのをそれとなく言いくるめれば素直なキョーコは納得したらしい。



愛するのも愛されるのも拒んでいると思っていたラブミー部員1号の想いの片鱗が見え始めたのは、映画「泥中の蓮」撮影中だ。叶わぬ恋を胸に秘めたその演技に感嘆すると同時に疑問に思った。
確かに彼女は恋を知っている。だが、その恋は叶わなかったが秘めてはいなかった。あれほどまでの想いの籠った哀し気な眼、そして胸に秘めたうえでの表情をどこで知ったのだろう?

無論、想像や他人を観察することで演技を身に着けることだって可能だ。だが、京子は役を憑ける、社のもう1人の担当俳優と同じタイプの女優だ。蓮だって普段は演じる人物の性格や背景をとことん掘り下げて研究したうえで役を解釈し演じている。それが出来る演技力や数々のスペックだってある。だが、己の一部もしくはそれから派生するものを絞り出しているからこそ、凄まじいともいえるダークムーンにおける嘉月の負の感情や恋の演技に繋がったのだと社は思っている。

泥中の蓮における紅葉の想いの演技はそれと同じ部類のモノだった。

つまり、キョーコはそんな恋をしたのだ。

不破との恋が終わった直後に芸能界に飛び込んでそれほど時間は立っていない頃から彼女のことは知っている。つまりその恋は近い過去のものか、現在進行中ということになる。

そう判断してしまえば、キョーコを観察し分析するにはマネージャーという立場はうってつけだった。

触れてほしくないらしい仕事の部分は分からないが、その他での交友関係はだいたい把握できる。映画撮影中の古賀との会話に聞き耳を立てることなんて朝飯前だ。何より己の担当なのだ。自然と蓮とキョーコの接点は増えるし話題に上ることも多い。その前後の表情や声に注意してみればすぐにわかった。

十中八九、キョーコは蓮を想っている。ただし、それは絶対に口外するつもりはなさそうだが。



現場に到着すると、蓮はセットの中で打ち合わせ中だった。
こちらが軽く手を挙げると小さく会釈をして返すその表情に社にしかそうとは分からない喜色が混じった。今日のスケジュールから言ってこうなることは予想はしていたのだろうが、やはり嬉しいのだろう。

蓮は昨年末ギリギリまでロケが入っており、完全なオフは三が日くらいしか取ってやることができなかった。その貴重な休みはキョーコがだるまや夫妻と温泉旅行に出ていたらしく結局会えなかったようなのだ。親代わりといえる夫妻との時間を邪魔するような男ではないし、そうできる立場でもない。恋する男は健気になにかと理由をつけて電話をしていたようだが、それだけでは潤い不足だったに違いない。


(全く…キョーコちゃんの誕生日にでもさっさと告白すればいいものを。奥歯にものが挟まった口説き方をするから斜め方向に誤解されるんだよ。)

彼女が着込んでいる鎧は恋愛拒否なんてものではなく、蓮への思慕を覆い隠すためだと言うのに。

けれど、こういうものは他者からみるとそうと分かっても本人となると途端に見えなくなるものらしい。キョーコの場合社にだってなかなか分からなかったのだから、上辺だけ百戦錬磨実は恋愛音痴の男にそうと分かれというのは酷というものかもしれない。


「あれ?京子ちゃん。あ、そうか。社君がマネジメントしてるんだっけ?」

女性スタッフから声がかかる。以前ゲスト出演したドラマで一緒に仕事をしたことがあるらしい。
新年の挨拶をかわし、キョーコが頭を上げたタイミングで、大きな段ボールを下げたスタッフがすぐ横を通り過ぎた。部外者である自分が邪魔をしてはいけないと思ったのだろう。キョーコは慌てて横によけようとしたが、細いピンヒールの靴が災いしよろけてしまった。傾ていく痩躯を、社は素早く手を伸ばし支える。

「大丈夫?」
「だい…じょうぶです。すいません。」
「うん。気を付けてね。」

キョーコの後ろには撮影で使う小道具やらが積み上げられている。もしそこに突っ込んでいたらちょっとした悲劇が起こっていただろう。

「ありがとうございます。見学させていただいているのにご迷惑をおかけするところでした。」
「車降りる時も思ったけど、その靴まだ履きなれないのかな?」
「そうなんです。こんな大人っぽい靴私にはまだ早かったですかね。」

足元を見ながらキョーコは眉を下げた。誕生日に奏江から贈られた靴を今日初めて下したらしい。コートの下のワンピースも甘いながらもキョーコにしては少々大人っぽいセレクトだ。靴に合わせたのだと言っていたが、本当は今夜の新年会の為なのだろう。ばれない程度に、ほんの気持ち程度にでも蓮の傍に立つのにふさわしいものをと一生懸命選んだのだろうか?

キョーコのいじらしさに、己の乙女心が刺激され口元が緩みそうになるのを押し込め、マネージャーらしい微笑を浮かべて答えた。

「さすが琴南さんのセレクトだよね。キョーコちゃんに似合ってるよ。これからはそういった靴を履く機会もどんどん増えるし、沢山履いて慣れていけばいいよ。」
「そう…ですよね。」

えへへ、と恥ずかし気な笑顔が社を見上げる。
その途端、先ほどからずっと感じていた視線が鋭いものに変わった気がした。

「…ヘタレなくせに独占欲だけは一人前だな」
「え?社さん何か言いました?」
「なんでもないよ。そろそろ撮影再開しそうだし、ちょっと下がっとこうか。」

ことさら丁寧にキョーコをエスコートして壁際まで下がらせる。益々鋭くなる視線に目を合わせてニッコリ微笑んでやると、気まずげに目をそらした。

(キョーコちゃんを助けてくれたのはありがたいけど、その役目は自分がしたかったとか、そんな笑顔は俺だけに向けてほしいとか思ってるんだろうな。お前、ほんとに無駄に目力強すぎなんだよ。悔しかったら恋愛力高めやがれ)

心の中でアッカンベーをしていると、再びこちらを見た蓮が小さく頭を下げる。打ち合わせしながらのことなのだから本当に器用な男だ。

(つまらぬ嫉妬してすいません。撮影終わるまで最上さんをお願いしますってとこか。やれやれ)

まかせておけとこちらも小さくうなずくと、蓮はわずかにほほ笑んで、視線をちらりとキョーコに向けた後に表情を引き締めた。


(惚れた女の前だもんな。いい仕事しろよ。)

横をみれば、キョーコはじっと蓮を目で追っている。
その表情は、勉強熱心な後輩だ。だが、蓮の横に立っている女優が親し気に笑いかけているのを見るとかすかに瞳が揺らいだ。

(やれやれ、お互いよく見てるくせに一番大事な部分に気付かないんだもんなあ…)


「…ねえ、キョーコちゃん。」
「あ、はい。なんですか?」
「今年はどんな年にしたい?」
「そ…ですね。具体的な目標とかないんですが、沢山お仕事を…出来ることなら演技のお仕事をいただけて全うできればと思います。」
「うん。俺もキョーコちゃんが仕事に集中できるように頑張るね。」
「社さんにそう言っていただけると心強いです。」
「任せておきなさい。俺結構敏腕だよ?」
「知ってますよ。」

うふふふ、と笑ったキョーコがじゃあと少し首を傾げた。

「社さんはどんな年にしたいですか?」
「俺?俺かあ…そうだなあ…。」

無邪気にこちらを見上げる担当女優の顔を見て、そしてセットの中で立ち位置を確認しながらスタッフからの指示を聞いている担当俳優に目をやった。

「俺は…2人が新境地を開いていくのを見たいかな。その手伝いが出来たらと思う。」
「新境地…確かにどんどん新しい役やっていきたいです。同じような役柄だって自分が演じてこそっていう演技をしたいです。」
「うんうん。その意気。」
「出来れば妖精とかも」
「ん~それはちょっとハードル高いかも。」
「敦賀さんだってこれから益々活躍の場を広げていかれるかもしれませんね。舞台とか、あ!海外とか!。」

胸の前で両手の拳を握りながらはしゃぐキョーコに目を細めた。


(うん…。そろそろ2人は新しい世界を知ってもいいころだと思うんだよ。)


大切に、大切に、自分の想いを胸に潜めて
ささやかな喜びをかみしめて…


そのもどかしさも、切なさも、敦賀蓮と京子という演技者に彩を与えてくれている。


でも、そろそろ次の扉の向こうにあるものを知ってもいいころだ。


2人とも他者から羨望されるものを幾多と持ちながらも、個人としての自分自身のことは過小評価するきらいがある。
だから、知ればいい。

自分が誰かにとってかけがえのない存在であることを。
それが互いにとってそうである喜びを。


兄のような心持にある自分は、2人に誰より幸せになって欲しいのだから。


そして何より敦賀蓮と京子をマネジメントする者として見てみたい。


誰よりも愛しい人に想われる喜びを
想いが通じて後の会えない時間の切なさを
大事なものが出来たからこその己のうちに生まれる恐れや弱さを


知った彼らはどんな演技を見せてくれるのだろう?


「大丈夫。2人とも安心して前に進めばいいよ。俺がしっかりフォローするから。」
「はい!頼りにしてます。」

撮影が再開されるのか、蓮をはじめとする役者たちがそれぞれの立ち位置に再度散らばった。

「あ、始まりそうですね」
「うん。」


恋愛下手な2人のことだから、思いもしない展開になるのかもしれない。
またちょっとドタバタと遠回りするのかもしれない。


でも大丈夫。この2人なら。


マネージャーとしての自分にとっても腕の見せ所だ。
しっかりサポートしてみせる。



「いよいよだね。」




(FIN)
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Re: 明けましておめでとうございます。

> まじーん様
ほぼヤッシーの独白のようなお話になりましたが、今年のスキビ及び蓮キョ進展への期待を込めました。
私にとってスキビのキーマンは社さんなので(笑)
一時期かもしれませんが、社さんがキョーコちゃんのマネージャーを務めるなんてもう二人は距離を縮めるしかないと思うんです!

すっかり遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
今年もどうかよろしくお願いいたします。

2018/01/16 (Tue) 06:00 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

明けましておめでとうございます。

ヤッシー兄さんによる蓮と京子のマネージャー兼務が当たり前になれば、こうなるのは時間かも?


二人とも、お互いの目の前では役者魂で想いを隠せていても、相手にばれない場所では漏れ漏れですものね。

二人に未来は未知。でもヤッシーのフォローがあれば、すべてが良い方向に転がっていきそうです。

素敵な幕開けのお話。ありがとうございました。

本年もよろしくお願いいたします。

2018/01/12 (Fri) 14:24 | まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集 | 返信

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