2018_03
09
(Fri)11:55

余韻

去年のこの時期に書きかけていたお話です。
闇色進めたいけど、時期を逃すとまたお蔵入りなのでー。

2018/3/9

シュッ

柔らかく小さな火がつくと同時にツンと鼻をくすぐる刺激臭がした。



今朝はまるで冬が舞い戻ったようにキンと冷える。

夜遅くまで働いていた店主夫婦はまだ眠っているが、間もなく起きてくるだろう。
朝食を作り終えたキョーコは、居間を温めておこうと、部屋の隅に置かれた灯油ストーブにやかんを載せて火を付けた。
随分な年月使われてきたそれは、着火装置がもううまく作動せずマッチの火に頼らねばならない。

このいかにも旧式の暖房機器がキョーコは好きだ。
目に見える火とやかんの立てる湯気が、実際の温度よりもなんだか暖かく感じるから。

点火と共にボッボッボッと音を立てて、燃焼筒が次第に赤く熱を帯びていく様を正座して見つめた。




余韻





〝君が…最上さんが好きなんだ。″



頭の中で再生されるのは、昨夜耳障りのよい低い声が紡いだあの言葉。

他に好きな人がいるのだと、己の想いは地獄までもっていくのだと決めていた心に真っすぐ届いたのは、今までのどんな役を演じている時の彼の声より自信なさげに震えていたからかもしれない。

それでも目を見開き固まっているキョーコの手を取り、蓮は続けて言った。

「時間をくれないか?すぐに俺を好きになってくれとは言わない。でも男として、君の恋人として傍にいるの相応しい男になって見せるから。どうか…俺を見てそれから判断して欲しい。」

キョーコの手を遠慮気味に握る手は、いつもより色を失い、そして声と同じく細かく震えていた。

「あのバカ男みたいに不誠実なことは絶対にしない。それに君が俺を受け入れるのは無理だと判断しても、諦めるつもりなんてない。…君だけだから。君を想い続けるから。」

聞けばなんだか怖くもあるセリフをこの美貌の男が言うと、なんとも様になるから不思議だ。


「時間なんていりませんよ。」

覚悟を決めたものの目を伏せ気味にそう告げた瞬間、ビクリと震えた手に己の失敗を悟った。

「ち、違います!いらないのは判断の時間ということであってっ。」

慌てて否定しながら顔を上げると、縋るようにこちらを見つめる目と視線が合わさった。その子犬のような殺人的な可愛らしさに心拍数が一気に上がり、体温が急上昇する。

「あ、あ、あの。」
「それっていい意味?悪い意味?最上さんのそんな顔みたら都合のいい方にしか解釈できないんだけど。」

体中を猛スピードで駆け巡る血液が言葉まで運び去ってしまったかのように、声がうまく出ない。ただただ顔がどんどん熱を帯びていることだけは自覚していた。

「俺じゃダメ?」

プルプルと首を横に振る。自分が今どんな顔をしているのか、想像するだけで恥ずかしく俯いてしまう。

「だめ…じゃないです。」
「それって、俺の恋人になってくれるって思っていいの?」

ちゃんと言葉で伝えなければと思うのに、こくんと頷くのが精一杯だった。

「よかった。」

見上げた顔ははにかみ照れながらも、喜びに満ち溢れていて、見ていられないほどに神々しい。

「もう少し傍によってもいい?」

現在二人の現在地は蓮のマンションのリビングのソファー。3人掛けのそれに間半人分空けて座っている。

「ど、ど、どどどどうぞ。」

敦賀さんのおうちなんですから、と続けようと思ったが、なんだかそれは違う気がしてやめておく。ありがとうという声と共に、蓮はソファーの背もたれに手を添えると腰を浮かして距離を縮めた。
ぴたりと密着した身体に、神経のすべてが身体の右半分に集中する。

背もたれに添えられていた手がキョーコの左肩に回った。
抱き寄せられるのだと思うと左肩にも凄まじい緊張が走り、ガチンガチンになりながらも、蓮の動きを待つが、それ以上のアクションがない。そろそろと眼球を動かして確認すると、キョーコの肩にある手は指先がかすかに触れた微妙な状態で止まっている。

突然自分が魔法が使えるようになり、時間を止めてしまったのかと思ったが、僅かにまるで迷うように動く指が見えた。
どういうことかと身体はそのままに目だけをキョロキョロと動かし考えた結果、理解した。


ガチガチだ。
あの敦賀蓮が。

あんなにドラマでもCMでも優雅に女性をエスコートして、世の女性がうっとりするようなラブシーンをかます敦賀蓮が。


そもそも、キョーコを抱きしめたことだって1度や2度ではない。ヒール兄弟としてだが同じベットで寝たことだってあるのだ。


なのに、恋人になった途端こんなにもぎこちないなんて。


なんだかおかしくて、ふふ、と口元と共に緊張が緩んだ。その気配を察したのだろうか、大きな手が肩を包み抱き寄せられる。


伝わってくる、蓮の温もりと、少し、いやかなり早い鼓動


上品なよい香りは前と変わらない。でも


(全然違う…)


それはセラピーなんて言葉で括れるものではなかった。

なんともいえない安らぎと、同時に感じる高揚感。
このままずっとこうしていたいと思う反面、小恥ずかしくてどこかに駆け出して行きたくなる。
もうこの状況で一杯いっぱいのはずが、もっと強く抱きしめて欲しいとか思ってしまう。

くすぐったいほどに幸せで、緩み切った顔はさぞかし間抜けに見えるに違いない。


では蓮はどんな顔をしているのだろうと、見上げると目があった。
口元をふよふよと緩ませ、目を細め笑うその様はいつもの彼より随分幼く見える。

その可愛らしさに思わず手を伸ばして口元をふにふにと引っ張ってみる。

「幸せそうですね。」
「おかげさまで。」

そう言って蓮は笑って…




「おはよう。キョーコちゃん、いい匂いだね。」

かけられた声に飛び上がらんばかりに驚いた。いや実際2センチくらいは浮いたかもしれない。振り向くと、寝間着姿のおかみさんが顔をのぞかせていた。

「お、おはようございます!も、もう準備万端ですので、よ、よろしければご一緒に。」
「ありがとう。あの人ももう起きてくると思うよ。」
「さ、さようでございますか。」
「あれ?キョーコちゃん、顔真っ赤だよ?。」
「え…?あ、ちょっとストーブにあたりすぎちゃいましたかね。」

あはははっと誤魔化してみれば、キョーコの奇行に慣れてるおかみさんはすんなりと納得したようだ。

「顔洗ったら、手伝うよ。」
「あ、はい。」


洗面所に向かう背中を見送っていると、卓袱台に置かれた携帯がヴッヴッブッと震えた。メールのようだ。火照った頬をぺちぺちと片手で叩きながら確認の為の操作をする。

送信元はたった今思い出していた人からだ。



〝昨夜の事、夢じゃないよね?″



そのメッセージにまた一段と顔を赤くした後に、キョーコは口元を綻ばせた。

まだおかみさんが戻ってくる気配はない。
シュウシュウとやかんが小気味よい音を立てているストーブの姿をパチリと撮影し、昨日知ったばかりのアドレスにメールを送る。


〝昨夜の敦賀さんと同じくらいあったかくて、離れがたいです″


送信完了を確認すると閉じた携帯をゆるゆると撫ぜ、大切にパーカーのポケットに片付けると、朝食の仕上げに立ち上がった。




(FIN)






なんともむずがゆく電車で読むにはちょっと恥ずかしい感じのお話を目指して…迷走。




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Re: お寒うございます

> GREEN様
この1週間ほどで一気に暖かくなりましたね。去年も後で仕上げしようと置いてたら暖かくなって公開できなくなったんですよ。

敦賀さんガチガチなのも新鮮ですよね。勿論身体にタラシ技術が染み込んでいるので直に「ほらやっぱり隠れ遊び人」っていう技術を発揮されると思います(笑)
ただ、2人ともしばらくは1人になると余韻に浸っているんじゃないかなって思います。
表面上は真面目な顔して台本めくっている敦賀さんの頭の中を想像して、社さん砂吐いてそうです(笑)

2018/03/17 (Sat) 06:12 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

お寒うございます

あの蓮さまがガチガチになるなんて、なんて可愛いのでしょう。実に初々しい二人に心が暖まりました。

2018/03/10 (Sat) 21:35 | GREEN #- | URL | 編集 | 返信

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