2015_06
11
(Thu)11:55

ほんのわずか(1)

こちらは2014/5~10に本編を、2014/10~2015/6まで番外編を限定記事にて連載していた拙宅初のパラレルです。

※社会人蓮キョのパラレル
※社会人ですので登場人物の年齢設定およびキョーコちゃんの生い立ちが大幅に違います。敦賀さん26歳、キョーコちゃん22歳
※拙宅基準的夜10時台(笑)

以上の点が気にならない方のみご覧ください。結構ベタなお話です。



2014/5/16初稿、2014/9/10一部修正、2015/6/11修正の上通常公開




■ほんのわずか(1)



「キョーコちゃん、これお願いできるかな?大原さん帰っちゃってて」

椹部長の頼まれモノを仕上げて席に戻ってきたキョーコに声をかけてきたのは営業の石橋光だ。

まただ。
キョーコはそうとはわからないようため息をつく。
光は要領が悪い。仕事を頼むのもさっさと指示を出せばいいものを、目の前のことを処理するのに一杯いっぱいで、ギリギリだったり、担当者が不在の時だったりするのだ。そのくせ、「急ぎでお願い」と言われて慌てて処理して顔を上げるとホワイトボードに「直帰」と書いてある…なんて事もしょっちゅうで、営業部の女性陣には「いい人なんだけど、仕事はダメね」と評判はイマイチだ。

キョーコは光の手にある書類に目をやっていった。

「これ、大原さんの担当ですよね。部外の私がやるのは不味くないですか?」

そう、同じフロアに席があるとはいえ、キョーコは営業企画部の所属だ

適当に仕事をふるのはやめてほしいとキョーコは思う。
営業は事務担当の女子社員も明確に担当がある。大原愛理だって休んだわけでも手が足りないわけでもないのに、担当物件を部外の人間が処理するのはあまり気持ちのいいものではないだろう。

「そうなんだけど、明日の9時半にはこれもって出なきゃいけないんだよね。」

見ると代表印までいる書類だ。いくら愛理の事務処理が早いとはいえ、9時の始業では厳しい。
光の上司である敦賀主任がいたら自分でやるように指導してくれるかもしれないが、キョーコの立場では断り辛い。
キョーコは企画部長の椹にチラリと視線を送った。

「仕方ないな。最上君お願いできるか?石橋君、最上君は君専用の代打要員んじゃないんだよ。ちょっと仕事のやり方を見直しなさい」

ちゃんと聞いてくれていたらしい、光にちくりと言ってくれた。
部長の許可もおりたので急いで作成に取り掛かる。
光がこうやって頼んでくるのは頻繁なので、愛理にも明日説明したらわかってくれるだろう。書類そのものは書式もPCにあったしすぐに作成でき、チェックしてもらって時計を見上げると7時前だ。

(今ならまだ百瀬さんいるかもしれないな)

調印は役員室まで行かなくてはならない。常務秘書の百瀬逸美は担当役員が忙しいのもあって遅くまで在席していることが多い。

「ついでなので、調印行ってきますね」

光に断りを入れて、役員室に向かおうと腰を上げると丁度営業部から出ていこうとする不破松太郎の姿が見えた。
それを見てキョーコの足の動きは鈍る。


キョーコとショータローは先月1月まで3ヵ月間交際していた。3ヵ月といっても最後の一月はショータローがなんだかんだと理由をつけてキョーコを避けていたのだが。
そんな短い交際期間に加えてキョーコが男女のことに疎いことと、ショータローは独身寮暮らし、キョーコもつい最近までは短大時代からの下宿先のだるまやに住んでいたこともあって、何度かキスを した程度の関係で終わっている。

(ううっ、同じエレベーターとかちょっと気まずくて嫌だなあ)

キョーコの足は自然と階段に向かった

未練や恨みは全くない。
そもそも同期とはいえ短大卒のキョーコにとって、大学卒の2歳上でその容姿から目立つ存在だったショータローは関わることがない人だった。だから、交際を申し込まれた事が驚きだったのだ。
短い期間で別れを告げられたのも、お弁当を作って公園に行ったり、街をぶらぶらすることで満足し、キスで精一杯だったお子様だったのだから、きっとつまらなかったのだろうと思っている。

キョーコにしてみたら、男女交際のまねごとみたいなことはできたし、21にもなってまだだったファーストキスも体験できてちょっと夢も見れた。よかったと思っているのだ。

それでも2人きりでエレベーターは少々気まずい。
社内恋愛って難しいものなのね、と本日何度目かのため息をつきながらキョーコは階段を上った。


今日は役員も直帰だったり接待でもあるのか、フロア前は静かで専用の受付も無人だ。
秘書の人たちももう帰ってしまったのかと少し心配になったが、役員室は明りがついて人声が漏れている。

(よかった。誰かいる)

ドアを開けようと手を伸ばしたところでキョーコは止まった。
聞こえてくる声の主はさっきまでキョーコが思い出していた人物だったから

どうやら逸美を食事に誘っているらしい。
キョーコと別れた後、逸美に熱心に言い寄っているという噂は本当のようだ。

(うーん、どうしよう。明日朝一番でこようかな・・・)

キョーコは持っている書類に目をやった

「不破さーん、逸美ちゃん困ってますよぉ?だいたい、不破さん、企画の最上さんと付き合ってるんでしょう?」

別の秘書から笑いを含んだ声がする
突然話題に上った自分の名前にキョーコは顔を上げた

「とっくに別れたよ。あいつ、つまんなくて」
「最上さん、真面目ですもんね。不破さんが遊び人すぎるからじゃないですか?」
「違うって。あいつスッゲー重いの。やたら節約してたり、弁当つくってきたり、私奥さんに向いてますアピールっていうの?結婚してほしいオーラ満載で浅ましいっていうかさあ」

くるり
キョーコはドアに背を向け、すぐ後ろに光が立っていたのに気付く。

「いや…その…調印ぐらい俺が行こうかなあと追いかけてきたんだけど…」

聞こえていたのだろう。気まずそうにボソボソと話す光にキョーコはニッコリ笑った

「ありがとうございます。じゃあお願いできますか?」

小声でそう告げると、失礼します、と頭を下げて横を通り過ぎた。


*
*


会社を出ると、雨が降っていた。そんなに激しい降りではなかったが、2月の雨はキョーコの心をさらに暗くさせる。
傘をさして歩き始めると顔が周りから見えにくくなるのもあって、営業用の微笑みが消え、唇を噛みしめた。

“浅ましい”
ショーの言葉が頭の中でリフレインする。

キョーコは小学校1年生の時に両親を失っている。
親戚を転々とした後、高校の終わりから先月一人暮らしを始めるまではバイト先であるだるまやで暮らしてきた。それを寂しいと思ったことはあるが、可哀そうとか惨めだとか思ったことはない。
両親がキョーコを本当に本当に愛してくれて、宝物のように大事にしてくれていたことを知っているから。
その宝物のような記憶があるから。

親戚には疎まれたが、だるまや夫妻は我が子のようにかわいがってくれたし、今も気にかけてくれている。なんとか短大まで出れたし、大手と言われる企業に就職もできた。
そしていつかは両親のような家庭を築きたい。そう思ってきた。

だから、ショータローと付き合って少し夢を見たのだ。
必ずショ―タローと結婚したいとか、今すぐとか思ったわけではないけれど、おぼろげだった人生のパートナーのモデルが出来て、想像してみた。それだけだ。
それが、そんなにいけないのだろうか?

キョーコは傘の柄を持つ手に力を込めた

節約は頼るモノのいないキョーコの性分のようなものだ。別に結婚の為などではない。いい奥さんアピールなんてしていない。
そう叫んだら楽になるんだろうか?

“浅ましい”

自分の今まで歩んできた道を全否定されたようで
自分にないものを渇望する様を嗤われたようで

惨めで哀しくて

心が折れそうだ。


  - ほんの僅かな 

       その一言で

      私の心はもろく崩れ去る -


(2に続く)




“パラレルで、ほんの僅か…という締め文で終わる”が今回のテーマです!
なんだそれ?とおっしゃられても、ちょびの気分なんです!

こんなんでもいいよ~とおっしゃる方はよろしくお付き合いください。
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック