2014_05
21
(Wed)02:00

貴方じゃなくても(終話)

2014/5/21初稿、2014/12/18一部修正






■貴方じゃなくても(終話)





「あ、さ、ひ、ちゃ━─━─━─━─━─ん!」


叫び声と共にエントランスから茶色い塊が転がり込んできた。
それはもう猛スピードで、あまりの速さにあさひの動体視力が追いつかなかった位だ。

「え?京子さん?走って?なんで?」
「だってタクシー信号で停まっちゃうから、もうまどろっこしくて」

すごい汗で息を切らしながらも早く部屋に行こうと、キョーコは座っていたあさひを引っ張った。

「こんな女の子を一人で夜のロビーで待たせるなんて、敦賀さんったら紳士の風上にもおけないんだから」
「…違いますよ。京子さん」

その言葉に、あさひを引っ張りながら歩いていたキョーコが振り返る。

「たとえ後輩だって、女の子を一人で家にあげませんよ。敦賀さんは京子さんに誤解されたくないんですから」

いいなぁ、大事にされてるって。
あさひも大事にされたかったな。

笑いながら冗談めかして言いたかった言葉は涙と共にしか出てこなかった。
私にはやっぱり女優は無理だな。とあさひは思う。

蓮はキョーコを大切にしている。
だからそのキョーコを守る為には時に紳士ではいられない。
“敦賀蓮”としてはどうしようもないこともあるだろう。
でも、プライベートでは他人にどう思われようと、本当に本当に大切なものを優先するのだろう。
きっとそれは譲れないのだ。


キョーコもあさひも、翌日は夕方から撮りが始まる例のバラエティ収録のみ
キョーコは諭すでも同情するなく、ただ黙ってあさひの話を聞いてくれた
黙っていたけれど、キョーコが翔太に強い怒りを感じているのは伝わってきて、自分のために怒ってくれる人がいることに安堵する。

胸の中に溜まったものをきれいに吐き出したせいか、少しの時間なのにぐっすり眠れて目を覚ました。
物音がしたような気がして時計を見ると5時前

(そういえば、敦賀さんは朝早いって言ってたっけ)

蓮には昨夜部屋に入った時に挨拶したきりだ。
日も変わるような非常識な時間に押しかけたのだから、お詫びとお礼を言っておいた方がいいかもしれない。
あさひはベットから降りると、少しだけドアを開けて音のする方をうかがった。
もう靴を履いたのだろう、玄関に立った蓮がキョーコと話をしている
あさひがまだ寝ている思い気遣ってくれているであろうボソボソ声は、他に音のない廊下を伝わってあさひの耳にも届いた。

「じゃあ、帰りは明日の夜になるから」
「わかりました。運転気を付けてくださいね。それと、ご飯ちゃんと食べてください。」
「はい、はい。」
「ハイは1回です」

キョーコの注意に蓮は小さく笑うと、壁に手をついてゆっくりとキョーコとの距離を縮めた。
間近に迫った蓮の顔に焦った声があがる。

「ちょ!、お客様がいるんですよ」
「うん。でも、ちょっとだけチャージさせて」

2人の姿が重なり、空いている蓮の手がキョーコの頭を撫ぜる。
ゆっくりと愛おしげに。
背中を向けているキョーコの身体が安心したように力を抜いたのがあさひにも分かった。

あさひはそっとドアを閉めた
ベットを背に膝を抱えて座り込み、今見た玄関の2人を思い出す。

翔太があんな風に愛おしげにあさひに触れたことがあるだろうか?
あさひがあんな風に翔太の横で安心したことがあるだろうか?

膝を抱える手に力を込める
辛くともここで逃げてはいけないのだ。ちゃんと答えを出さなければ。

*
*

午後3時

迎えにきたマネージャーの北見はマンションの前に立つあさひをみて驚いた。
足元には大量の荷物。トランクに、旅行鞄、そのほかに大型の紙袋が2つ。

とりあえずトランクと後部座席に詰め込んでから、助手席に座ったあさひに問うた

「どうしたの?喧嘩でもした?」
「別れようと思うの」

え、とマネージャーは驚いた。
あさひの為にあの男とは早く切れてほしいとは思っていたが、あまりに唐突で。

「まだ別れ話はしてないんだ。その時は北見さん同席してね」

どうやら翔太が学校の隙に荷物だけ運びだしてきたらしい。

「それと、新しい部屋探すの手伝って」
「それは勿論。でも…どうしたの?」

あさひは頬杖をついて窓の外を見ながら言った。

「北見さん、私、次は素敵な恋をするんだ」

キラキラと輝いて見えて、お互いを想いあっていた2人

「相手は敦賀蓮じゃなくていいから」

「お互い想いあって」

「ありがとうやごめんなさいや大好きをちゃんと伝え合って」

「互いの仕事を尊重して」

「美味しいものや、楽しいことがあったら、今度は2人でって思えて」

「隣にいることが一番安心できる」


そんな恋をするの。


翔太がしたことは許せなかった。
でも、もしかしたらあさひも“恋する自分”に酔ってたのかもしれない。自分が思う“いいこと”を押し付けていたかもしれない。
一緒にいる為に必要なのはただただ相手のいう事を聞くだけじゃない。
大事にするってことはただ甘やかすってことではない。


あさひはマネージャーの返事を待った。
こんな時にマネージャーが言うセリフはもう予想がついているけれど

「あさひはかわいいし、物おじしないし、勉強家だし、大丈夫よ。きっと素敵な恋が出来るわ。」

でも…

「どうしてそこに敦賀さんが出てくるの?」

うふふっとあさひは笑う。
その経緯はまだトップシークレットなのだ。
ただ、秘密じゃなくなる日は割とすぐやってきそうだけど。


(fin)





「貴方じゃなくても」お付き合いいただきありがとうございました!
「敦賀蓮じゃなくていいから」
これを言わせるためになんて時間がかかった事か…
最後はもうなんだかシツコイ感じになってしまいましたし…
オリキャラ目線難しい!清里あさひめっ!

3ヶ月書いてこられたのもアメンバー様、その他ご訪問くださる方々のおかげです。
ありがとうございました。

またよろしければ今後ともお付き合いくださいませ。
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コメント

2. Re:完結おめでとうございます。

>seiさん
有難うございます!
翔太は売れてないので本家ショータローよりかなり哀れですよね~
バイトも続くのか?
そのうちガソリンスタンドであさひちゃんと遭遇したりして( ̄▽+ ̄*)

2014/05/22 (Thu) 17:36 | ちょび | 編集 | 返信

1. 完結おめでとうございます。

“恋する自分”に酔っていた頃は、実は相手は貴方(翔太)じゃなくてもヨカッタのかもしれない。

でも、次の恋は理想的な敦賀蓮程じゃなくても、彼と京子の様な関係のものにしたい。

あさひちゃん。

成長しましたね!!

自立出来ていないヒモ男翔太は、今からバイトに明け暮れてほしいものです。

素敵なお話を有難うございました!!
最終話も頂戴して帰ります!

2014/05/21 (Wed) 09:48 | sei | 編集 | 返信

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