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六腑まで(おまけ)

ほんとにおまけです。

でもせっかくなのでホワイトデーに公開してみました。


2019/3/14




花粉だろうか、黄砂だろうか、上空から見る日本は少し霞んで見えた。
そのせいかマスクを着用している人が多い空港の雑踏を抜け、テンの車まで足早に向かう。


「すいません。わざわざ。」
「ウイッグの使用感が聞きたかったから。どうだった?」
「流石、世界の最高峰っていう出来ですね。」


そういいながら外したウィッグの下からは〝敦賀蓮‴の髪色
テン曰く至宝を守る用意してくれたアイテムだ。
久遠の地毛に比べると髪色は若干くすんでいるものの、パスポート程度の写真では判別つきようがないし、ウイッグの説明さえすれば金属探知機等の出入国審査も問題ない。あとは眉毛の色だけなので、そのくらいの特殊メイクはコツをつかめば蓮にも可能だ。

「万全を期する蓮ちゃんには不満かもしれないけど。」
「ここまでの仕上がりだと文句のつけようがありませんよ。それにこの髪色が必要なのは移動の時だけですから脱げるリスクは殆どありませんしね。」

何よりすぐに〝敦賀蓮‟に戻れるのは喜ばしい。

愛しいあの子が待っている今となっては。



■六腑まで(おまけ)



全くなんて1か月だったのだと蓮は思う。

あの第4会議室で棚ぼた的に知ることが出来たキョーコの気持ち。
彼女をようやく絡めとれて、もう一度自分へのチョコを作る約束をやや脅迫気味にでも取り付けたというのに。

10日ほどで帰れるはずだった海外での仕事はトラブルにトラブルが重なり再渡航が必要となった。日本に帰り、とりあえずずらせない仕事をこなすだけこなす6日間を過ごしトンボ帰り。その6日間もキョーコが離島でのロケに出ていて会うことすらできなかった。ようやく仕事が終わってみれば、あれから1か月近く過ぎているではないか。

結果として向こうでの仕事はうまくいったのだし、新たな人脈も築けて次の仕事に結びつけそうだ。キョーコのロケだって急病で降りた女優の代わりとしてかなり美味しい役を演じれたようなので万々歳といったところだろう。

でも、それでも、難攻不落のラブミー部員をようやく陥落させた身としては、彼女のパートナーとしての足場を盤石にするためのスタートダッシュをかけたかったと少しくらいため息をついたって仕方ないと思う。
何よりもう気持ちに蓋をしなくてもいいのだ。電話やメールだけでは足りないと思うのは至極当然の感情だろう。


「事務所でいいのかしら?」
「はい、社長に報告もあるので。テンさんも会っていかれますか?」
「夜に別の仕事が入ってるから、今日はダーリンに会うのは我慢しておくわ。」
「分かりました。」

ハンドルを握るテンの後姿にそう答えながら、‟敦賀蓮‟に相応しい服に着替えた。
年度末で交通量は多いものの、車は順調に目的地に向かっている。
この分だと夕方に会議があるという社が事務所にやってくる前に社長への報告が終わりそうだ。




*
*



「蓮、おかえり。ごめんな。空港まで迎えにいかなくて。」
「社長が手配してくれてましたから大丈夫です。」
「しっかし、一日早く終わらせるとは思わなかったよ。一日二日遅れるんじゃないかと思ってたのに。」
「あっちのスタッフもスケジュール埋まってたみたいで」
「とか言って、キョーコちゃんに早く会いたくて仕方なかったんだろ~?」
「勿論それもあります。」
「…堂々としたもんだな。」
「社さんに隠す必要ありませんから。」

はいはい、そうですか、と肩をすくめた社は時計を確認した。

「あっちでのこと色々詳しく聞きたいんだけどさ。会議の後でいいか?」
「勿論です。事務所内で適当に時間潰しときます。」
「ん。じゃあ、終わったら電話するよ。キョーコちゃんが仕事あがるのが8時予定だから、打ち合わせしてから事務所出たら丁度いい時間だろ。」
「分かりました。」

社と別れた足は無意識のうちにラブミー部に向かうが、キョーコがいないのは確定事項だ。蓮は目的地を変えた。


第4応接室は今日も無人だった。

3人掛けのソファーに少々行儀悪く身体をあずけると鞄から出したイヤフォンをスマホと耳に装着する。


画面に映し出されるのは「あの日」のキョーコ

自分の名前が書かれた。どうみたって本命宛てと思われる手作りチョコに思いっきり動揺したのち、それがすでに開封済みなのが気になった。中身の確認?それなら1回完全に包装してリボンまでかけたりしないだろう。そもそもRENとあるが、あの子のことだ。自分宛てであるとは100%は言い切れない。
暫し考えた後、物をカメラに収め、私物まるごと置いて行っているのだからすぐ戻ると踏んで壁際におかれた小さなテーブルにに動画録音機能を起動したスマホをセットした。キョーコが見つければ蓮の物だとすぐに気付くだろうが、それはそれで構わない。礼儀正しい彼女が先輩のスマホを勝手に弄ってデータを削除したりはしないだろうから、チョコの写真という証拠を見せつけて問い詰めればいいだけだ。ただ、その前に散々悪足掻きの逃走劇を繰り広げるだろから、すんなり捕えるためには見つからないのがベストだが。

事は蓮の思惑通りに進み、恋人という立場を得たうえに、残ったのがこの映像だ。



入室したキョーコはわき目も降らずチョコレートの前に座り、ゆっくりと箱を開け、暫しその中身を眺めた後、薔薇を模ったチョコをつまんで光にかざした。

斜め後ろからの映像だ。表情は写らない。
だが、キョーコの背中が何かに耐えるように強張り、やがて覚悟を決めて口に含み咀嚼した後、ふるりと震えている様は確認できる。



うっそりと蓮の口角が上がる。


日本から遠く離れた地でのハードな撮影の中、何度この映像をみて心癒されたことだろう。
無論好きな子がこんな風に痛々しい背中を見て満足するなど悪趣味だとは自覚している。
付き合いだした今となっては、キョーコが哀しみに耐えてると知れば抱きしめに行きたいし、それが叶わなくてもなんとかできないかとあがくだろう。

でも、一方通行の想いだと思い込んでいたころからキョーコがこんな風に自分を想い、一人耐えてくれていたなんて。

続けてもう一粒のチョコを口に運んだ。

華奢な身体がまた小さく揺れる。

俯くことで揺れる髮に、ぎゅうと握られる手に

蓮への想いが溢れている。


ああ、
どうして今まで気付かなかったのだろう。




*
*


「夕飯どうする?どこか個室ある店押さえるか?」

打ち合わせも滞りなく終わり、キョーコを迎えに行く道中で社に尋ねられた。
時刻はまもなく8時。出来ることなら自分のマンションで2人きりになりたいが、そうなるとキョーコは自分が食事を作ると申し出るだろう。遅くなってしまうし、ハードな撮影を終えた彼女に負担はかけたくない。何より今日は色々まずい。

「そうですね。お願いします。」
「一緒に入店はするけど、安心しろよ。俺は別室にいてやるから。」
「…ご配慮ありがとうございます。」
「出来立てほやほやの恋人達を邪魔するほど野暮じゃないよ。キョーコちゃん、昨日は早い上がりだったから頑張ってチョコレート作ったみたいだし。」

蓮がうっすらと笑ったのがバックミラー越しにもわかったのだろう。

「お前言っとくけど、この前の方が出来よかったとか虐めるなよ。材料の袋抱えてキョーコちゃんえらく切羽詰まった顔してたぞ。」
「しませんよ。そんなこと。」

やり直しがしたいだけだ。キョーコが蓮一人の為を想って作るチョコレートをちゃんと受け取り口にしたい、それだけ。

「そもそも、チョコじゃなく彼女まるごとでもいいわけですし「れーん、くーん。相手はラブミー部の聖らガールだぞ!?」…分かってますよ。」
「ちゃんと待てよ?じっくり、じっくり、じっくり、じーっくり待てよ?」
「そんなに連呼しなくても分かってます。」

外食しようとする理由の最たるものが己の理性を保つためなのだから。
なにせ1カ月ぶりだ。己のマンションで軽い接触で終われる自信はまるっきりない。

「ちゃんと待ちますよ。彼女からOKサインが出るまで。」
「あ、それ待ってたらお前一生お預けだぞ?」
「…貴方は俺にどうしろって言うんですか。」
「んー?1歩すすんで2歩下がる、みたいな?」
「さっぱりわかりません。」

そうこうしているうちにスタジオの駐車場についた。

「あ、キョーコちゃん、終わったんだ?……うん。うん。お疲れ様。今駐車場だよ。……うん、一緒。今から俺が迎えに行くからね。」

通話を終えた社は「待ってろよ。」と言い残し出ていった。自分も迎えに行きたいが、騒ぎになるのは分かっているので流石に大人しく見送った。

暫くして社に連れられてキョーコがやってきた。ほんのり頬を染め、弾むような足取りが何とも愛おしい。


「おかえりなさい!」
「うん。ただいま。」
「長期間お疲れ様でした。」
「うん、キョーコも仕事お疲れ様。」
「キ、キョ!?」
「何?電話では何度も呼んだだろう・」

ハクハクと空気を取り込んだ後、「実際聞くとインパクトが凄いんです。」と呟かれた。全身茹蛸になって時々こちらを上目遣いに見つめる様はもう本当にどうしてくれようかと思わせる。

「キョ「はいはい、シートベルトは締めたかな?」」

社の声にキョーコが小さく飛び上がった。蓮もにじり寄っていた自分に気付き元の位置に戻る。全くの無意識だった。恐るべし

「す、す、すいません。あ、あの荷物持っていただいてありがとうございました。」
「そんなの当然だから気にしないでいいんだよ。」

そういえばキョーコはいつもの鞄とは別に随分大きな保冷バックを膝にのせている。中身はまさかすべてチョコレートではと蓮はちょっと怖くなった。あれこれ試作しているうちに大量になった…という可能性もなくはない。流石に愛しい彼女がつくったものでも大量にしかもチョコレートは無理だ。

(まあ、そうだったとしても冷凍したらいいか。)

そうすれば幸せを長く味わえるというものだ。コーヒーと合わせたら朝食代わりにもなるだろうと怒られそうなことを考えながら見つめていると、キョーコと目が合った。

笑みを深めてみれば、頬を薔薇色に染め視線を逸らされた後、おずおずとまたこちらを向いて恥ずかし気に微笑まれる。なんていうか…もう可愛い。世界の中心で何かを叫びたくなるくらいに可愛い。

(見ていることを誤魔化さずに済むっていいな。)

片思いの頃はあまりじっと見ていたら不審に思われるだろうとキョーコがこちらを向きそうになると視線を逸らしていた。きっとその時間の間に見落としていたものが沢山あったに違い無い。
これからはそんな必要はないのだ。仕事場ではそうはいかないが、プライベートでなら誰憚ることなく想いを込めて見つめることが出来る。

そうすれば、今まで見たいに彼女の気持ちに気付かないなんてことは極力減らすことが出来るはずだ。

2人の関係の進展だって、明確な意思表示はなくとも何かしらのサインは受け取ることは可能だろう。



「キョーコちゃん、何か食べたいものある?」

甘い空気を払拭する調子で社が尋ねた。

「この辺は個室ある店多いから色々選べるよ。和、洋、中、韓国、イタリアン…あ、北欧やベトナム料理のお店もあったな。この時間なら空いてきてるだろうし」
「へえ、社さん、そんなにお店詳しいんですね。」
「担当俳優が食に興味が無いから全然活用できてないけどな。」
「いや、俺だって社さんが食べたいっていうなら付き合いますよ。」
「えーお前と行くと俺ばっかり食べなきゃいけなくてなんかやだ。ハッセルバックポテトとかそれだけで腹いっぱいじゃないか。」
「ハッセバック?どこの料理ですか?」
「ハッセルバックポテト。スウェーデンだよ。今割と話題だぞ。」
「あ、あの…。」
「はいはい、キョーコちゃん。何?」
「私、今日は昼からだったので…。」

膝の上に乗せていた荷物をそっと持ち上げて見せた。

「晩御飯重箱に詰めてきたんですけど…」

しん、と黙った男たちにキョーコは焦る。

「帰国したばかりで敦賀さんお疲れだろうから家でゆっくりされたいんじゃないかなあとか思ってですね。おつゆ作るくらいならすぐに出来ますし、や、社さんの分は別の容器に入れてますので持って帰って寛いでから召し上がっていただけたらとか…。男性にはお肉かと思ってローストポークとか入れたんですけど、お酒のあてにもいけると思います。」


おうちごはん、
社さんはハウス イコール 二人きり。

お酒 イコール 送っていけない


「あ、あの…やっぱり…お店で出来立て食べる方が…いいです…か?」

潤んだ瞳の上目遣い


これはもうサ「いや、違うから、サインじゃないから。」

「サイン?」
「なんでもないよ。キョーコ。夕食すごく嬉しいな。ありがとう。」
「ちょ、ちょっと待て。お前、じっくりのじの字も待ってないぞ。」
「じの字?」
「気にしないで。うん、家にかえ「そうだ!事務所!事務所で食べよう!3人で!!!。」」
「え?事務所?」
「社さん、邪魔しないでくださいよ。」
「いいや、邪魔する!キョーコちゃん、こいつは敦賀蓮じゃない。敦賀蓮の皮を被った飢えた狼だよっ。」



弥生の夜空、
すこし輪郭がおぼやけた月が優しく照らす車内で

敏腕マネージャーと鈍感少女と恋愛初心者俳優の攻防は暫く続いたのだった。



(おしまい)

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Comments 4

ちょび
ちょび  
Re: ツボに入ったのは

> よっちゃん様
敦賀蓮の皮、ツボっていただき光栄です(笑)
もし、敦賀蓮の皮があったら……キョーコちゃん、丁寧にたたんでしまってそうですね。レイノ対策には仕えそうです。
読み返していただけるのは本当に嬉しいです。ありがとうございます!!

2019/03/27 (Wed) 23:22 | EDIT | REPLY |   
よっちゃん  
ツボに入ったのは

「敦賀蓮の皮をかぶった狼」です。
敦賀蓮の皮って!凄いワードですよね。
しかも何一つ間違っていない。凄い。
このお話、何度も読み直しちゃうくらい、好きです。ツボです。
素敵作品を生み出してくださって、ありがとうございます!

2019/03/26 (Tue) 12:55 | EDIT | REPLY |   
ちょび
ちょび  
Re: こころの声がただ漏れ

>SAILEE様
コメントありがとうございます。
そうなんです。都合のよい脳内変換を有能マネージャーは見逃しませんでした。きっと打ち合わせしてる頃からどこかソワソワしている担当俳優に「そりゃまあ早く会いたいよな。」と思いつつ担当女優の危機を察知してたかもしれませんねー(笑)

2019/03/15 (Fri) 00:48 | EDIT | REPLY |   
SAILEE  
こころの声がただ漏れ

最後のやり取りが面白いです。
蓮さん心の声をばっちり社さんに読み取られてますね。

2019/03/14 (Thu) 13:48 | EDIT | REPLY |   

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