2014_05
30
(Fri)02:00

1歩いっぽ(21)

2014/5/30初稿、2014/10/7一部修正

■1歩いっぽ(21) ~明かされる。受け止める。~


3月中旬 アメリカ合衆国ハワイ州 ホノルル空港

国内線への乗り継ぎの為の待ち時間、南国気分に浮かれながらショップをウロウロしていたキョーコに、同行していたスタッフから声がかかる。

「京子ちゃーん、よければこっちでさあ…」

キョーコが振り向くよりも早く、別の声がかかった。

「キョーコちゃん!探したよ~。今のうちに打ち合わせすませとくよ」
「あ、社さん。すいませんっ。浮かれてウロウロしちゃって。」
「俺がちゃんと言ってなかったから…ごめんね」

社はキョーコに声をかけようとしていた若手スタッフに頭を下げる。

「そういう訳で、申し訳ありません。後程また」

社に連れて行かれたカフェでは黒崎が手を振っていた。
監督を待たせていたのかとキョーコは青褪める

「違うよ。キョーコちゃん。打ち合わせなんて嘘だから」
「は?」
「大変だなあ。マネージャーも。虫除けまでやらされてんのかぁ?」
「担当俳優がいい仕事をする為ですから」

すまして答える社に、しししっと笑う黒崎はキョーコに同じテーブルにつくように促した

「まあ、マネージャーもいないこの嬢ちゃん1人じゃ心配だわな。楽園気分の観光客もいるし、スタッフも若い奴多いしなあ。もしかして、事務所の会議云々もお前に虫除けさせるための計画なんじゃねえの?」
「そうかもしれませんね」
「しかしこんだけ心配するってことは、あれか?まだ成就してないのか?」
「どうなんでしょうね?そこんとこどうなの?キョーコちゃん」

ニヤニヤ笑う黒崎と、ニコニコ顔の社の視線がキョーコに集中する。
口を開けたまま固まっていたキョーコは慌てた

「じょ、じょ、成就って…」
「オッケーしてやったのかって聞いてんだよ。…なんだまだオアズケくらってんのか?抱かれたい男№1も形無しだなあ」
「オフレコでお願いしますよ。監督」

勝手に進められていく話にますますアワアワする。

「まあ、じれったい想いも醍醐味だよな。いいねえ若造は」
「青春ですね」

もう、口をはさむのは諦めた。キョーコはせめて赤い顔をなんとかしようとテーブルにうつぶせて頬を冷やすことにした。

「敦賀は昨夜こちらについているはずですよ」

キョーコの心臓が一気に跳ねる

「そうだったな。サンフランシスコからこっちって何時間かかるんだ?」
「だいたい5時間くらいです」
「へえ、やっぱり日本よりだいぶ近いんだなあ」

蓮が待っている。
更に顔が赤くなったのが自分でも分かるので、うつぶせていてよかった。


 『理由はまた今度ね?』

事務所で会った時の蓮の囁きが急に甦る。

そして“今度”はやってきた。
蓮は“理由”を聞かせてくれるのだろうか?



*****************************


空港からはバスでホテルに向かう

「着いたらすぐに準備、出来次第移動して撮影行くぞ~」

ホノルルに朝降りたって、それから空路で1時間もしない島、乗継時間があったとはいえまだ日は昇りきっていない。
窓の外を見ながら少しぼんやりとしてきたキョーコに社が声をかける。

「キョーコちゃん、寝ちゃだめだよ。撮影に響くし、時差ボケ酷くなるから」
「え?あ…すいません。飛行機でもそれなりに寝たつもりだったんですけど」

「慣れてないから仕方ないよ。俺もアメリカ方面は結構きついから」
「?行先によって違うんですか」
「人それぞれかもしれないけどさ。俺、ヨーロッパは平気だな。」

キョーコは改めて窓の外に広がる景色を眺めた

「グアムも感激しましたけど、ここは本当に楽園って感じですね」

「俺もオアフ島しか行ったことないから楽しみだったんだよ。この島、セレブの別荘とか多いみたいだよ」

まだボンヤリとしている頭でたわいのない話をしていたキョーコだが、ホテルの車寄せに佇む人が目に入った途端、一気に覚醒した

(あ、あの、豆粒並みの大きさでも漂ってくるオーラは!)

ゴージャスター様の前では南国の楽園さえもただの背景になるらしい

「よお、売れっ子俳優さんにお出迎えしていただけるとは光栄だな」
「売れっ子俳優って…そろそろかと思って外に出てみればドンピシャでしたね」

黒崎はチラリと後ろのキョーコに視線を走らせた

「ほぉ…なかなか凄いレーダー持ってんなぁ」
「それはもう空母並ですよ」

キョーコの横の社が小声で答える。

蓮は2人にキュラリ、と笑ってみせると、キョーコの前に立った。

「久しぶりだね。最上さん。今回はよろしくね」

その笑顔は甘く柔らかい。

「…お久しぶりです。こちらこそよろしくお願いします」

心臓に悪い蓮の笑顔を前に、キョーコは平静を保つのに必死だ

「あっまーーっ。缶詰の桃並みだな」
「表現が安っぽいですよ。監督」

後ろで囁き合う監督とマネージャーの声は聞こえないふりをして、蓮はキョーコをホテルのエントランスに促した。

蓮の顔を見上げたキョーコは気付く
もと来た方へと体の向きを変えながら、蓮が一瞬だけキョーコの後ろに視線を走らせたことに

蓮が歩き出したことを確認してから、キョーコはそっと後ろに目を向ける
そこは今バスが走ってきた道路で、見えるのは数台の車だけ。
少し先にあるという別荘地に向かっているのだろうか

(気のせい…かな?)

キョーコは気を取り直し、蓮の背中を追った。



(22に続く)
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コメント

2. Re:蓮さんのケジメ終了後の再会

>seiさん
これまで以上にガンガン行く…のかな…。
時間軸で言うとすでに1年近くたっています(@ ̄Д ̄@;)どんだけ我慢強いのやら(^ε^)

2014/06/03 (Tue) 00:16 | ちょび | 編集 | 返信

1. 蓮さんのケジメ終了後の再会

ふたりの距離はどうなるのでしょうね。

蓮さんの虫退治はわかりやすいものになりそうですけど。( ´艸`)

2014/05/30 (Fri) 19:50 | sei | 編集 | 返信

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