2015_07
16
(Thu)11:55

ほんのわずか(6)

昼ドラとかみないのですが、こういった雰囲気なのかなあ、と去年書きながら思っていました。

お話を書き始めて痛感していること。
言葉を!漢字を知らない!
日々、ムムム・・・と眉間に皺よせてます。

とか書いてる去年の私…全然成長してないですねえ。

2014/6/27初稿、2014/9/11一部修正、2015/7/16修正の上通常公開





■ほんのわずか(6)



3月中旬、午後7時41分
ショップのウィンドーにぴったり張り付く女、最上キョーコ

ディスプレイされているワンピースは、確かにキョーコの琴線に触れる品だが張り付く理由はそこではない。
敗北感に打ちひしがれているのだ。

(…何が自分磨きの時間よ。何が洗練された大人の女よ!)

大人の女になるためのステップを甘く見ていた思っていた自分を呪ってやりたい。
そう。キョーコの自分磨き計画はとん挫したのだ。 それもあの後10日も経たないうちに。

(それもこれも骨の髄まで染みついた貧乏性のせいよね。忌々しい!でもでも…)

キョーコはガラスに両手をついて頭を垂れた。

(…どうしても落ち着かなかったんだもん。)

蓮が連れて行ってくれるお店は和にしろ洋にしろ別に高級店というほどではなかった。洗練はされた雰囲気だがキョーコでも少し背伸びをすれば行ける程度のお店。
だが、背伸びをすればの話。
そんなお店に毎週1,2度行っていたら、キョーコの財政はすぐさま破綻だ。

支払いはいつも蓮がしてくれたが、ご馳走になりっぱなしというのもキョーコの常識から外れていた。
毎度毎度払うのは無理でも、せめていつでも「今日は私が払います」と言えるようにはしておきたい。だがそうなると価格帯を下げざるを得ないわけで…
だから、自分磨きと決めてから3度目の約束で、蓮に「食べたいものとか、行きたい店とかある?」と聞かれたとき、いつも通り首を横に振ることができなかった。

「あるの?じゃあ、そこにしよう。どこ?」

蓮に尋ねられて困った。外食を付き合い以外ではほとんどしないキョーコはお店を知らない。
困ってしまい、でも何か言わなくてはと焦って

「赤ちょうちん」

ポロリと出た言葉に何よりキョーコが驚いた。

(いや、確かにドラマとかで見て一度行ってみたかったけど!)

ワタワタと焦って言い訳をするキョーコを蓮はしばらく見つめた後、大爆笑された。

「…なるほど、そうか、女の子だけだと確かに敷居が高いな。」

笑いすぎて痛いらしいお腹をさすると

「よし、行こう。」

そう言って、キョーコの手を引いて歩き出した。


それからはもう芋づる式だ。
屋台のラーメン、ビニールのカーテンで遮断された居酒屋。
キョーコが一度行ってみたかったけれど女性だけではあまり行かないような店ばかり。
新しい世界をキョロキョロするのも楽しいし、キョーコにだって支払可能だ。
結局会計はいつも蓮持ちなのだが…

(本当に何が自分磨きよ。これじゃあ敦賀さんを自分のレベルにまで引きずりおろしてるだけじゃない。)

おまけにいつもいつも支払させて

(これじゃあ、敦賀さんメッシー?いや…身体の関係まであったら違うの?)

坩堝の中で盛大にぐるぐる回っているとすぐ後ろから声がした。

「キョーコ、どうした?ぴったり貼りついて」

びくん!
約束の時間まではまだ30分近くあるはずで、待ち合わせは向かいの本屋のはずなのに…こちらの動揺にはおかまいなしに蓮は横に立つとウィンドーを見上げた。

「このワンピース見てた?確かにキョーコ好きそうだね」

いつの間にかキョーコを名前呼びするようになった美丈夫はニッコリ笑った。

「試着、してみたら?」
「え?いや、いいですよ。」
「絶対似合うから見せて。ほら、試着。試着」

タイミングよく店のお姉さんもウィンドー越しにニッコリ笑ってワンピースを指差している。
グイグイと店に引きずりこまれ、試着室に追いやられ、仕方なく着替えてカーテンを開けると

「ほら、やっぱりよく似合う」

蕩ける様な笑顔を向けられ、直視できない。

「も、もういいですか?」
「くるんと一周回ったらいいよ」

クスクスと笑いながら言われ、知りません!とカーテンを閉めた

脱いだワンピースを店員さんに渡してため息をつく
確かにキョーコの好みそのものだし、体形的にも合っていた。
でも、ノースリーで薄い素材を重ねたワンピースは色も涼しげでいかにも夏仕様、しかも普段着使いできるものではない。
そんな着回しの効かないものを、おまけに定価でなんて…ありえない贅沢だ。

(バーゲンで半額、とかなら買いたいけど残ってないだろうな)

まだ3月も中旬、バーゲンはまだまだ先だ。

身支度を終えて出ると、丁度蓮が店員から紙袋を受け取るところだった。

「え?ちょ、それって」
「行こうか」

「有難うございました~」の愛想良い声を背に店を出る蓮を慌てて追いかける。

「それ、まさかさっきのワンピースですか?駄目ですよ。返してきてください!」
「似合ってたし、ホワイトデー渡せてなかったし」

ホワイトデー?

「…何言ってるんですか。そもそも私バレンタイン敦賀さんにあげてないですよ」

蓮とこういう関係になったのはバレンタインを過ぎてからだ。たとえバレンタイン前だったとしてもチョコはあげなかっただろうが。

「もらったよ?チョコ」
「それは、みんなで合同であげたやつじゃないですか!」
「合同だろうとキョーコからもらったことに代わりはないよ」
「それなら、皆さんからお返しいただいてます」
「それは俺が選んだものじゃないよ」

言い争っているうちに今日のお店についた
今日は女性向けではない立ち飲み屋
ついついワンピースを忘れてキョロキョロするキョーコに蓮が話しかける

「ご希望に沿えた?どうせならビールケース並べて、つまみは缶詰のみっていう店がよかった?」
「丁度いい感じです!普通の酒屋さんが夜になると立ち飲み屋に代わってるの興味津々なんですけど、そういうお店だとやっぱり日本酒とかですよね。」
「んー。ビールでもいいと思うけど、流石にキョーコみたいな若い女の子は見ないかな」
「敦賀さんも似合いませんよ?」
「そう?まあ何度か部長のお供で行ったことがある程度だしね」

蓮はそういって笑うと烏龍茶を口に含んだ。

「…敦賀さん、飲まないんですか?」

蓮は結構飲める口らしい、それがこういう店で飲めないって結構つらいのではないだろうかと聞いてみると、ん?とこちらをみた後、少し身を乗り出してキョーコの耳元に唇を寄せる。

「キョーコと飲むとお酒進みそうだからね。あんまり酔って抱きたくないし…その後はちゃんと送りたい」

ちろり、と瞳に見える夜の色にキョーコは慌てて目を伏せた。


自分磨きとして一歩踏み出した関係…それは思ってもいない形に流れた。

行ってみたかったお店
ポンポンと交わされる会話
正直、蓮とこうして食事をするのは楽しい

でも
蓮にとっては仕事以外に身動きの取れない間のツナギで
キョーコにとっては…一応、新しい自分を見つけるための足掛かり

こういう関係をなんと呼べばいいのだろうか?。


チューハイのグラスが空になった

「そろそろ出ようか」

蓮のグラスもいつの間にか空だ。
店を出て、キョーコは「ご馳走様でした」と頭を下げた。

「どういたしまして」

微笑む蓮を店から漏れる灯りが照らす

そういえば、蓮と仕事以外で会うのはいつも夜だ。
闇と人工的な光の下でしか会うことはない。
夜に待ち合わせて、食事して…身体を重ねて…送ってもらう

(名前を付けるなら…夜の関係?)

ネーミングセンスのなさに笑いが漏れる。


「どうした?」
「いえいえ、別に」

蓮が少し訝しげにキョーコを見たが、首を振ってなんでもないと重ねて言うと、再び首筋へ唇を寄せ行為を再開した。


*
*


テーブルランプの灯りに蓮の背中が浮かぶ。
闇が濃くなった中で陰影がはっきりとして、無駄な肉のない鍛えられた筋肉がより綺麗に見える。
視線を感じたのだろう、蓮は振り向くとキョーコの額に口づけた。

「水いる?取ってこようか?」

小さくうなずくと、ボクサーパンツだけを身に着けてキッチンへ向かった背中を見て、キョーコはゆっくり身を起こす。
行為の後は気怠いが、横になったままだと寝てしまいそうだ。

戻ってきた蓮はペットボトルを渡すとベッドヘットを背に座わり、キョーコを引き寄せ後ろから抱きしめる。
この1カ月で定着した事後の流れだ。
白いクロスをスクリーン代わりに2人の影が映る

「敦賀さんって…」
「ん?」

右手でキョーコの髪を梳きながら蓮が答えた

「こんなペラペラな身体、抱いてて楽しいですか?」
「ペラペラって…すごく魅力的だと思うけど?」

左手が何か確認するかのようにキョーコのお腹をさすっている

「お世辞はいいです。」
「お世辞じゃないけどな。楽しいっていうか…幸せ?」
「…」
「キョーコは…まだ慣れないって感じだよね」

振り返って蓮を見ると、少し困ったような笑顔

「だから、もう少し我慢しなきゃって思うんだけど…ごめん。嫌な時は言ってくれたらいいから」
「嫌…じゃないですよ」

嫌なのは、嫌じゃないと思う自分だ。
キョーコは自分を包む毛布を弄った。毛布越しに自分を後ろから抱きしめている蓮の左手が目に入る。

「嫌じゃないですけど、なんだか…」
「なんだか?」
「自分が粘土細工になった気がします」

蓮にこねられて、こねられて、違う形になってしまう。
自分ではない何か、なってはいけない何か。

「粘土細工ね…」

キョーコを拘束する力が少し強まった。

「キョーコはモノじゃないよ。それに…粘土だとしたら、それに興奮している俺ってヤバくない?」

笑いながら項に口付けられてゾワリとした。
それを振り払うようにキョーコは時計を見る。もう終電が近い。蓮の拘束を解いてベットを降りた

「もう帰らないと。シャワーお借りします」

蓮は小さく頷いた。


身支度を整えているとリビングのテーブルにある袋が目に留まった。今日待ち合わせしていた書店の袋だ。サイズ的には雑誌か何か。

「開けていいよ」

後ろから声をかけられて振り向くと、蓮が頭を拭きながらリビングに入ってきた。

「2人で見ようと思ってたのに忘れてた。開けてみて」
「はい・・・。あっ!」

中身をみて思わず歓声を上げた
世界的アミューズメントパークのガイドブック
憧れていたけれど、学生時代は金銭的に行けなかったし、ショーと交際中も嫌がられそうで言い出せずに終わったのだ。
表紙を見てうっとりしていたので、このガイドブックがここにある意味にまで頭が回っていなかった。

「やっぱり好きそうだと思った」

楽しそうなその声で我に返った。

「いくら年度末とはいえ今年はちょっと異常な位忙しくて、ずっと夜しか時間取れなくてごめん。今の案件がもうすぐ片付くから…来週あたりどうかな?」

どうかな?何が?

「ランドでもシーでもどちらでもいいよ。キョーコは行ったことある?」

小さく横に首を振る
状況がよく理解できないず、LEDのライトの下ラフな格好をした蓮を見つめる

2人は夜会って、夜に別れる。そういう関係だったはずだ。

「天気にもよるけど来週の土曜でどうかな?」

なんでですか?とか…そういうのはちょっととか、ガイドブックをなかば抱きしめるように持った状況では言いにくい。
何より、あこがれの地の誘惑はかなり強烈だった。
キョーコは小さくうなずき了承の意を示した。

「じゃあ。土曜で。俺も行ったことないからよくわからないんだ。ガイドブックで研究してくれると助かるよ。」

蓮は優しい瞳でキョーコを見つめている

キョーコはまた一つ頷くことしかできなかった。


 - ほんのわずか ただ会う時間が変わるだけ
         陽の下で見るその瞳はどんな色をしているのだろう -



(7に続く)





夢の国は詳しくないのでスルーします。


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