2014_06
25
(Wed)12:00

鋭利なる男・なまくらなる女(中編)(B.P.D加盟作)

2014/6/25初稿、2015/1/14一部修正


■鋭利なる男・なまくらなる女(中編)(B.P.D加盟作)



「れん…

    ごく」
「…」
「れん…こん」
「…」
「れん…たん」
「…俺、“れん”から始まる熟語言えなんてお願いしてないけど?」
「…それはもう重々承知しております」
「俺のこと名前で呼んでって、言ってるだけだけど?」
「どーしても、呼べないんです!」
「いやいやいや…れん、のところで終わらせればいいだろう?」
「それが無理だって言ってるんです!」
「どぉーして?」

「どうして?いいですか!エベレストに登るのだって大変な準備が必要です!ましてやこんな霊峰!まず禊から始めないと無理です!」
「人の名前、山よばわりしないでくれないか?」

(今日も始まった)

ここは蓮の控室。恋人たちの密室でのあまーい逢瀬…のはずである。
社はいつものバカップルの馬鹿喧嘩を聞き流しながら、部屋の隅っこで来期のドラマオファーの資料に目を通していた。

今日の喧嘩のネタは蓮がキョーコに名前呼びをねだったことによるらしい。蓮の“キョーコ”呼びが定着し、少し欲が出てきたといったところか。
喧嘩は非常に盛り上がり?古代日本における言霊信仰にまで言及している。

付き合い始めのころは、社だって2人が口論を始めるとハラハラと見守ったり止めに入ったりしたのだ。
だが、ある日悟った。これは2人の発声練習で、ストレス発散で、いちゃつき方の一つだと。
だから社をはじめとした親しい人の前でしかやらないし、控室では無意識のようだが声のトーンも微妙に調整している。

社はチラリと2人を見た。

言葉の応酬の中で、器用にもキョーコはカバンから水筒を取り出している。あの中には疲れた喉を労わるための生姜入り蜂蜜柚子茶が入っているはずだ。

「俺がキョーコって呼ぶのはいいのに、どうしてキョーコは俺の名前呼べないわけ!?」
「敦賀さんに私をどんな風に呼ぼうが、どうだっていいんです!」
「なっ!?」

どうだっていい。なんて言われて蓮の顔色が変わった時

「どんな呼び方されたってドキドキしちゃうんですからっ!」

敦賀蓮、撃沈

(今の状態を絵で表すなら、心臓にハートの矢がズッキューン!ってところだな。)

いつもいつも最後は蓮がキョーコ可愛さにノックアウトされるくせに…よくもまあ毎回やれるものだ。そう呆れながらも、この時を待っていた社は行動を開始する。

「キョーコちゃん、オファーきてるんだけど見てもらえるかなぁ?」

蓮が機能停止している横で、カップに柚子茶を注いでいるキョーコの前に素早く資料を滑らせる。

「オファー?え?アルマンディですか?」

依頼者名を見たキョーコの声が裏返った。

ぴくんっ
蓮が再起動したのが分かったが、資料さえキョーコの手に渡ればこっちのものである。

「社さん、これっ男性物のアンダーウエアって…」
「ちょ、社さんっ!」
「そうなんだよ。少年にも見える中性的魅力の女性モデルが欲しいんだって。蓮との共演で、欧米でも使われるポスターだよ」

仕事をアピールしつつ、腰を浮かしかけた担当俳優の肩を押さえて動きを抑え込む。
キョーコは渡された資料に夢中だ

「なんですか?キョーコがアンダーウェアのモデルって!俺聞いてませんけど?」
「お前に先に言ったら握りつぶすだろ」
「当たり前でしょう?男物のアンダーウェアって!」
「れーんくーん?」

社は声を潜めた

「欧米のショップでも使われるポスターだぞ?恋人が世界の扉を開こうとしているのに、敦賀蓮ともあろうものが邪魔するのか?」

うっ
痛い所をつかれて蓮が口を閉じる。
社はさらに声を潜めた

「大体、下はボクサーパンツだけど、上はちゃんとTシャツ着てるから。お前まさか男物のアンダーウエアだけ履いて手ブラしてるキョーコちゃんとか想像してないよな?」

ぎくりっ
目をそらした担当俳優をにたり~と見つめてやった。

(若造めが。よし、一丁上がり。)

「これだったら、久遠少年イメージしたら私でもいけるでしょうか?」
「そう!俺もそれイメージしたんだよぉ。キョーコちゃんなら適役だよ!」

もう、何も言えなくなった担当俳優は放置して、キョーコが気が変わらないうちにと社はイソイソと椹に電話をかけ始めたのだった。

*
*

「お、社じゃないか?蓮とは別行動か?」

LMEの通路にデカデカと貼られたポスターを見ている社に声をかけてきたのは椹だ。

「俳優部で打ち合わせがあったもんで、蓮は先に撮影に向かわせたんですよ」

そうか、そうか、と近づいてくる椹は上機嫌だ。

「最上君にいい仕事回してくれてありがとう。すごい反響だよな」

そういって、見つめる先はアルマンディのポスター
モノクロにアルマンディのロゴだけが赤い。
黒のTシャツ、黒のボクサーパンツ姿でキョーコがソファーに胡坐をかいて、肘掛けに頬杖ついている。
こちらを見る澄んだ瞳には力があって、まるでこれから悪戯をしかけようとしている少年のような挑戦的な笑み。
身体にぴったりとフィットしたシャツとパンツ
ラインの出るそれを着ていると、胸のふくらみは控えめなことがよくわかるが、それがかえってこれから伸びゆく若竹のように瑞々しく健康的な美しさに見せていた。

蓮は少し距離を置いて、ソファーを背に座り、キョーコを見上げている。
こちらもTシャツにボクサーパンツ
その眼は優しく穏やかだ。

恋人なのか
兄妹なのか
はたまた男女の親友か

どうとでも取れる構図

色気に溢れた前回は恋人やパートナーへのプレゼントとして女性陣に大ヒットした
こちらは色を感じさせずクールに美しいポスター
アルマンディのアンダーウエアのラインの美しさを演出したものだ
それが、「あんな色気は俺はちょっと」と気おくれしていた男性陣を刺激し、若い男性に“勝負パンツ”として爆発的に売れた。

そして…

「最上君もすっかり綺麗になって、大人になったんだなあと思ってたけど、こういう表情みてるとまだまだ幼いなあ」

椹はニコニコとポスターのキョーコを見つめる。
そうなのだ。キョーコのこの少年のような姿は世のお父様方の目を引いたのだ
どういう訳か、年頃の娘さんを持つお父様方の郷愁を誘ったらしく

「娘が一緒にキャッチボールをしてくれていた頃を思い出した」
「同じ年頃の娘がいるが、まだまだ子供なんだなあと安心した」

と、好意的な意見が続出したのである。
そして、先日の父の日プレゼントランキングの上位を飾る売り上げを見せたのである。

(椹部長も同じくらいの娘さんいるもんな)

社が納得していると、椹は声を潜めて囁いてきた

「それに安心したよ」
「はあ…」
「蓮と付き合いだしたって聞いて…正直心配してたんだ。蓮は…ほら…大人だろ?それに引き替え最上君は高校生だし、男女の事には疎いし」
「…」
「でも、このポスターを見てわかったよ。蓮は最上君のこと大事にしてくれてるんだなあ」

うんうんと頷く椹に『京子は女優ですよ』といってやりたい。
蓮がキョーコを大事にしているか、と聞かれればそれはもう自分の命より大事にしていると言えるだろう。
だが、椹の願うように『大事にしてる』かと聞かれたら、そんな訳はないのである。

お父さんの知らない所で娘は彼氏のパンツ履いちゃっているんだから

「そりゃあ、蓮は将来見据えて大事にしてますよ。俺が保証します」

嘘はついてない。
蓮はキョーコの生涯をからめとる気満々なのだから。

「そうか、そうかあ。」

お父さんは知らなくていいこともあるのだ。
娘はいつまでも穢れ無き天使。
そんなお父さん方の夢を守るポスターに仕上がるなんて

「…いい仕事したな、俺」
「ん?なんか言ったか?」
「いえいえ、じゃあ、局に戻ります」


テレジャパへのタクシーが信号待ちで停まった時、社のセンサーが作動した。
ガラス越しに周囲を見渡すと、丁度アルマンディのショップ前fr件のポスターがウィンドーを飾っている
その前にいるのは…

(不破君…だよな)

変装しているようだが、その横にいるマネージャーといい、確実だ。
2人はポスターの前で微動だにしていない。

(不破君も色々とキョーコちゃんに夢持ってそうだよなあ。)

蓮はキョーコの幼馴染にある一種の脅威を感じているようだけど、幼馴染は幼馴染で色々縛りがありそうだ。
あのポスターを見て何を思うのかしれないが、現在時点であの馬鹿ップルの前では大した問題にはならないだろう。

(処置不要っと)

社は前を向いた。

さて
アンダーウエアの大ヒットでアルマンディジャパンは大喜び
キョーコは一流ブランドの店を飾る仕事を経験でき、来月のアルマンディ本店のイベントに2人で呼ばれて、初の海外デートに担当俳優は上機嫌

全くもっていい仕事をした。
今日は発泡酒ではなく、リッチなビールを買って帰ろう。

信号は変わりタクシーは走り出した。
1組の男女をポスターの前に残して…

(後編に続く)





ここで終わりにして、その後はおまけって形にしようかと思ったのですが、なまくら女が登場してないことに今気づきました…
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コメント

8. Re:お借りしました(事後報告ですみません)

>ナーさん
え?名前なんて使ってたっけ?とナー様のお話を読み返し…これかいっ!と突っ込みましたとも( ̄∇ ̄+)
これならどんどん使ってくださいってか一般名称ですからっ!
続き楽しみにしてますよ~

2014/06/27 (Fri) 09:47 | ちょび | 編集 | 返信

7. お借りしました(事後報告ですみません)

キョーコちゃんのかっこいいB.P。いいなぁ。
世のお父さんと並んで私もあたたかく見守りたいです。

蓮の名前を言えずにれん・・こん。可愛い。可愛すぎます。
思わず、私の駄文にちょびさまの名前を拝借しました。許してください。。

2014/06/27 (Fri) 00:36 | ナー | 編集 | 返信

6. Re:Re:Re:敦賀蓮、撃沈

>mokaさん
有難うございます!きっと自分にないものを読めるからこの世界面白いんですよね~
でもmokaさんの書く色っぽさはちょっと分けて欲しいですけど(笑)
金曜劇場「ほんのわずか」があまりに1話が長くなりどこで切ろうかもがいているのもあってグチグチ申しました~

2014/06/26 (Thu) 22:12 | ちょび | 編集 | 返信

5. Re:手ブラだと思ってました!

>くろろさん
手ブラはセルフでも敦賀さんの手でも、敦賀さんのフェロモンビックバンになってR18行き確実なので、社さんが接触不可を条件にした模様です(笑)
社さんは耳栓が生えました。きっとマネージャーとしての進化の過程でしょう!

2014/06/26 (Thu) 22:08 | ちょび | 編集 | 返信

4. Re:Re:敦賀蓮、撃沈

>ちょびさん

ちょびさんファンとしては、ダラダラ続くと思っておりませんよ!
長いのも短いのも、丁寧で柔らかくて、私は大好きで、そして羨ましいのです~!!

2014/06/26 (Thu) 19:49 | moka | 編集 | 返信

3. 手ブラだと思ってました!

絶対!手ブラ。もしくは後ろから蓮さんが抱き締めての蓮さんの手ブラだと思ってました!
それにしても、2人は上手にのろけてるんですね~。周りが砂吐き被害に遭いまくってかわいそうです。

2014/06/25 (Wed) 21:55 | くろろ | 編集 | 返信

2. Re:敦賀蓮、撃沈

>mokaさん
なんだか最近ダラダラ続く傾向が…
修業しなきゃダメですね!

2014/06/25 (Wed) 17:05 | ちょび | 編集 | 返信

1. 敦賀蓮、撃沈

手ブラといってのけた社さんに拍手喝采?!
できる男、社さん!
海外デート!一波乱ありそうですけど、ご機嫌はいいこと♡

なまくら女は、、後編楽しみです!

2014/06/25 (Wed) 14:58 | moka | 編集 | 返信

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