2014_07
07
(Mon)11:59

1歩いっぽ(25)

2014/7/7初稿、2014/10/7一部修正

■1歩いっぽ(25) ~明かされる、受け止める~


ノックの後、キョーコはしばらくドアを見つめていた

暫しの沈黙

「俺だけど…」

控えめな声にゆっくり歩いていきドアを開ける。
蓮はグラスの載ったトレイを持って立っていた

「アイスティー飲まない?」

そういいながらキョーコの横をすり抜ける。

女性の部屋に許可も求めず入るなんて、らしくない

窓際のテーブルに置かれたトレイの上のグラス
繊細な模様の施された細身のロンググラスは、先程までキョーコが使っていたキッチンの分かりやすい所には置いてなかった。
アールグレイだろうか、薫り高い紅茶。
大きな冷蔵庫には既製品のアイスティーなんてなかったし、茶葉もすぐわかるところには置いてなかった。

だが、蓮は当たり前のようにそのグラスにアイスティーを淹れてきた
“お客様”であるキョーコに

それは
彼が“この家の人”だから。

キョーコは頭の中に次から次と湧いてくる考えに混乱した。
何の言葉も発することもできず、ただ黙って蓮を見つめる。

蓮はベットの上に開かれたままになっているアルバムを見つけた

「こんなものまで用意したのか…。本当に過保護だな」

そうつぶやいた蓮はベットに腰掛け、キョーコに微笑んだ。

「最上さん、座らない?話があるんだ。きっと君の頭の中の疑問にも答えることができると思う」

その言葉を聞いて、キョーコの身体から力が抜けた。
ストン、と蓮の向かいにある椅子に腰掛ける。

蓮はアルバムを手に取りゆっくりと撫でる
だが、その手が少し震えていることにキョーコは気づいた

「さて…どう話そうか…。先に質問したい?」

キョーコは頭を横に振る。どう聞いていいかなんてわからない。

「じゃあ、俺の話を聞いてもらえる?」

キョーコは小さく頷いた。

「じゃあ、少し長くなるけど聞いてもらおうか。俺の…久遠・ヒズリの物語を」


せっかくだからと、蓮はアルバムを開き、写真を見ながら話し始める

最初に写るのは
-黄金の髪と翡翠色の目をした赤ん坊-

本当に天使か…妖精のようだ

妖精の国の名はハリウッド
王様はクーヒズリという№1アクション俳優と呼ばれたスターで
女王様は世界一美しいと評されたトップモデル。ジュリエナ

ああ、とキョーコは思い出す
ナツのウォーキングを教えてくれた時のことを。

世界一美しいモデルを彼はいつも身近に見ていたのだ。


-笑みを絶やさない幼子の写真-
本物のヒーローのそばにいて、ただ純粋にその背中を追って、この世界で生きるのだと、芝居が大好きだった時代


-陰りを帯びた目の少年-
両親の大きな影に囚われ、焦り、もがいていた頃

「そんな時、父の里帰りで訪れた京都で“キョーコちゃん”に会ったんだ。」

自分を見てくれる少女の夢を壊すのが忍びなく演じた妖精。
楽しかった。
その演技が喜ばれることが何よりうれしかった。
自分は演じることがこんなにも好きなのだと実感した。

そして、キョーコちゃんと別れる寂しさと引き換えに、芝居への情熱を持ち帰ったアメリカ

それは無残に打ち砕かれた。


-陰りを増す目-
産まれと容姿を羨み蔑むする人々によって
時には言葉で、時には暴力で

少年から大人に成長しつつあった心はそう簡単には両親に助けを求めることができなかった。

親友の支えだけを頼りに、またもがいてもがいて…

折れた

父のようなヒーローになりたくて、演技のために武道を学んだはずの手は
人を傷つけ、血に汚れた

後はもうブレーキの壊れた暴走列車のようで
それを止めようとした親友を巻き込み死に追いやった。


「いっそ、このまま…と思ったよ」


アイスティーの氷はとっくに溶けて、グラスは沢山の汗をかいている


社長に救われ、敦賀蓮という名前を与えられ、あとはもう必死だった。

日本人俳優敦賀蓮として生きることに。
演技の道を追求することに。
自分の罪を忘れずにいることに


「こんな自分は大事な人は作れないって思ってた」

だけど、キョーコと再会した。

最初は過去の思い出に引きずられないよう必死だった。
だけど、想いは急速に膨らんで
それが嘉月の演技をもたらせてくれた
BJの演技と闇に向き合う力をくれた

演技だけではない。

生きていくのだ。

罪も過去も、大事な人への想いも抱えて

そう決めた


トレイの中、グラスの周りには小さな水たまりができている


「最上さんに詫びなくちゃいけない」

伏し目がちに語っていた蓮がキョーコを見る。

「グアムのことは勿論…何度も何度も君を騙したことになる。ただ…一つだけ言い訳を言わせてもらうと、俺の独断で君に秘密を打ち明けるわけにはいかなかった」

“敦賀蓮”として生きるためには、社長やテンをはじめとする人々の協力が必要だった
彼らはリスクを負ってもなお彼を支えてくれた。

「だから社長に了承を取ってから…と思ったんだ」

「場所と機会は社長がセッティングすると言ってたけど、まさか家族で何度もきた別荘があるこの島で、父まで引っ張り出すとは思わなかったけどね。」

このアルバムも背中を押すためかな、ともう一度アルバムを撫ぜた。

それともメッセージかもしれない
“お前を愛している”と


蓮はキョーコの顔を見て、そして頭を下げる

「本当にごめん」

それでも、キョーコは何も言わない。

蓮の不安が増した。

「もが…「敦賀さん、明日は撮影ありませんでしたよね?」

キョーコは立ち上がった


(26へ続く)



なっげー独白?で終わっちまいました…。

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