2015_08
06
(Thu)11:55

ほんのわずか(9)

2014/7/18初稿、2014/9/11一部修正、2015/8/6一部修正の上通常公開





■ほんのわずか(9)



目を覚ますと、日付が変わっていた。

もぞもぞと起き上がってみると、薬と睡眠のおかげで痛みも引いて少し余裕が出てきた
湯船につかってお腹を温めたいし、明日の用意もしておきたい。

(朝ご飯の材料…何かあったかな?)

そう考えてふと、枕元の携帯に目が行った。

明日から蓮はアメリカだ。
今日のお礼を言っておいた方がいい…だろうか?
もう日付も変わっている時間なのに?
でも、メールなら…

ベットの上に正座して携帯に文字をポチポチと入力しては消す
結局無難な言葉に落ち着いた。

『薬、有難うございました。助かりました。アメリカ、気を付けて行ってきてください』

送信

~♪・♪・♪~

ありえないことにメールの着信音は近くで聞こえた。
それと同時に焦ったような小さな物音が玄関の外から聞こえる。

キョーコは慌てて狭い部屋を横切るとドアを開けた

「あっ」

携帯を手に驚いた蓮の顔は、すぐにバツの悪いものに変わった

「非常識な時間にごめん。その…さっきは時間無くて薬以外ロクなもの買えなかったから…」

手にはまたもやビニール袋

「寝てるだろうと思ってドアノブに掛けとこうかと思ったんだけど…」

はい、これ、と渡される。
目を見開いたまま見つめるキョーコに蓮は少し眉を寄せて言った。

「危ないから、こんな時間に誰だか確認もせずにドア開けちゃ駄目だよ。」
「…着信音、聞こえましたから」
「確かに音響いてびっくりした。このアパートみんな夜が早いのか静かだね。それでも誰か確認しなきゃだめだよ」

蓮の手がキョーコの頭を撫ぜる。今度は優しく、ゆっくりと
なんだか顔を見れなくなって、袋の中身を確認するふりをしてうつむいた。

ビニール袋の中身は、チンするタイプのリゾットが2種類と、小さな野菜ジュースに、お水。アンパン

キョーコはつぶやいた

「…もう終電終わってますよね?」

蓮の格好はスーツ姿のままだ。

「車取って来たから」

つまり終電ギリギリまで仕事をして、車だけ取りに戻ってこれをキョーコに届けにきたのだ。

「…明日からアメリカじゃないですか。無理しないでください」
「もう準備できてるよ。それに」

それに?

「きてよかった。随分顔色よくなってる。安心した」

蓮の手はキョーコの頭を撫ぜ続けている。

「…ありがとう…ございます。これ・・・助かります」

視線をあげないままなんとかお礼を言った。

「うん」

「アメリカ…気を付けて行ってきてください」

「うん」

「あんまり無理は…ダメですよ」

「うん」

「……」

「なるべく早く帰ってくるよ。だから…」

蓮が何か言ったような気がする。
でも、頬に触れた手に気を取られて聞き取れなかった

上を向かされたのだと理解した時には、もう唇を塞がれていて

おやすみのキス?
いってきますのキス?

そんなことを考えていたら、唇は一度離れて…また重なった。

今度のキスは挨拶としては激しすぎて
気がつけば、背中にあたる壁の支えがなければ立っていられないほどになっていた。

朦朧としかけたところでようやく開放されて、気が付いた。

いつの間にかパジャマのボタンは何個か外されていて胸元が大きく空いている。
おまけに玄関扉は開いたまま

「ちょ、つる…っ」

小さく上げた抗議は言い終わる前に、キョーコの口に再び吸いこまれた。

はだけた首筋に蓮の髪がかかったかと思うと、胸元に吸い付いつかれたからだ。


同じ所を

何度も、何度も

しつこく、きつく

まるで何かを刻み込むように



4月の終わりとはいえ深夜ともなると気温は随分下がる。
開けたままの扉から入り込む冷気で少しヒンヤリとしていた肌は、幾度も触れる唇と小さな痛みに次第に熱を帯びていく。


「…っ」

ようやく唇が離れて、キョーコははだけていたパジャマをかき寄せると今度こそ抗議しようと蓮を見上げた

蓮はじっとキョーコをみている
なんだかその色は切なさを帯びているようで
その色に動揺しているうちにまた唇を合わされた

今度は軽く。優しく

それと同時に、さっきまで吸い付いていた箇所を蓮の手がパジャマの上からそっと撫でる。

「…行ってくる。ちゃんと鍵閉めて寝るんだよ」


蓮の姿が通路から見えなくなるまで呆然と見送って、鍵を閉め、そのままの状態で耳を澄ます。
車のエンジン音が聞こえなくなり、踵を返そうとしてへたり込んだ。

「…なんなのよ。もう」

キョーコ1人の部屋に小さく声がこぼれた。


お風呂にお湯を張りながら、ふと思い立って鏡の前で蓮の残した痕を見た。
もう痣といってもいい程に強く残された痕

キョーコはそっとそれをなぞる。

(敦賀さんが帰って来るまで、消えなければいいのに)

そう思った自分に身震いした。


 - ほんのわずかにもたらされた染みは
        身体中に瞬く間に広がっていく… -




(10に続きます)






いや、もう本当に難産
色のあるシーンは本当に苦手です(_ _。)

逃げ出したい―っ

でも頑張る!
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