2014_07
14
(Mon)12:00

1歩いっぽ(26)

2014/7/14初稿、2014/10/7一部修正

■1歩いっぽ(26) ~ 明かされる 受け止める ~



立ち上がったキョーコはゆっくりと蓮に近づいた
ベットに腰掛ける蓮の前で立ち止まり、しばらく黙ってその顔を見下ろしていたが、胸の前で拳を握る。

(殴られる…のかな)

仕方ない、と蓮は思う。

幼かった頃のことは不可抗力かもしれないが、その後もコーンの心配をして涙を流すキョーコを知りながら騙し続け、かつグアムで嘘の上塗りをし、想いを告げてからも言い出さなかった

蓮は覚悟して目を閉じた。


キョーコが深呼吸する気配がして

その両の拳が

ぐりっ!
ぐりぐりぐりぐり~
回転しながら蓮の蟀谷(こめかみ)を挟み込んだ。

「いだっ!いだだだだだっ!最上さん!痛い!」

のめりこむかのように炸裂しているコークスクリュー

「痛くしてるんだから、当たり前です!散々心配させて、翻弄しといてっ!」

このこのこのこのっ、と容赦なくグリグリする顔はかなりの悪顔。

「いだっ、いだいけど…」

痛いけど?

「視覚的には嬉しいかも」

え、と下をみれば、蓮の目の前にキョーコの胸

ぎゃっと、キョーコは後方に飛んだ。

「あ~痛かった。禿げるかと思った。」

蓮は蟀谷を撫でた

「そんなに簡単に禿げませんよ!本当に心配してたし、本人の前で…」

再会してからの数々の恥ずかしいことが思い出される。
本人の前で妖精について熱く語り、久遠少年を演じて見せて、グアムでは…

恥かしさのあまり、キョーコは再び飛んで、ベットにダイブした
同じベットに腰掛けている蓮の目などすっかり忘れて、声にならない叫びをあげながらのた打ち回る。

枕に顔を沈めた状態でようやく停止したキョーコに蓮が話しかける

「これでおしまい?最上さんはもっと怒っても、詰ってもいいと思うんだけど?」

キョーコは少し体の向きを変えて片目だけこちらに見せた

「驚きましたし、爆発しそうに恥ずかしいですし、妖精じゃないのは少し残念なような…なんか頭の中ごちゃごちゃですけど…ちゃんと話していただいたら理由はわかりましたし、決して嫌なことじゃないです。それに…」
「それに?」

がばりっと身を起こして、拳を握って言って見せる。

「私は敦賀さんみたいに大人じゃないので、ごめんなさいでは水に流しません。生涯に渡って取引材料として使わせていただきます!」

プッと蓮は吹き出した

「生涯に渡って…か、望むところだね」

そう告げてキョーコにいつもの神々しくも甘い笑みを向ける

どくんっ
キョーコは己の心臓の音を聞いた

子供のころに出会った妖精と間違う程に美しい少年と、10年の時を経て再会して、恋に落ちるなんて…
運命、なんてキョーコの乙女心をくすぐる言葉が頭をチラチラする。

「…嬉しい…ですよ。コーンが元気で、こんなに高く羽ばたいていて、私のそばにいてくれたなんて」

そう思わず零れた言葉に、蓮はなぜか少し寂しさが混じった複雑な顔をしてみせた。

「うん…。“コーン”をどれだけ大事に思ってくれているかはわかってた。だからこそ言い出すのに躊躇したってのもあるかな」
「?」
「“コーン”というレンズ無しで俺を見て欲しかったっていうのかな…久遠ヒズリっていう本当の俺を知ってほしいとも思うのに、敦賀蓮を認めて欲しいとも思うんだ」

矛盾してるね。
伏し目がちに蓮はそういって薄く笑う。

久遠・ヒズリ それが本当の名前。
だが、“敦賀蓮”もまたこの7年間、両親との絆を絶ってまで必死に作り上げ守ってきた自分だ。

誰よりも誰よりも大事な少女
その少女に“久遠・ヒズリ”を認め愛してほしい。
それは切実な願い

だがその一方で、“敦賀蓮”が悲鳴をあげるのだ
俺を忘れないでくれ、俺を認めてくれと

蟀谷に再び拳の感触
気がつけば蓮ににじり寄っていたキョーコの拳が頭を挟んでいる

グリグリグリグリ・・・
今度は優しく緩やかに

「全部貴方です」

目の前にあるキョーコの顔は真剣そのもの

「久遠・ヒズリも、コーンも、敦賀蓮も」

「久遠・ヒズリの22年に敦賀さんとしての7年は欠かせない。敦賀さんの7年は久遠・ヒズリの15年の上にあるんです。大事なんです。私にとっても」

キョーコの想いが耳から、蟀谷から浸透していくのを感じて蓮は目を閉じた。

キョーコに抱いていた心の重荷を「生涯の取引材料」と言ってのけ、久遠もコーンも蓮も両手で包んでくれる。

何度後悔してもしきれない過去
だが、その過去があって、こうして今キョーコと向き合っている。

キョーコの言葉は続いている

「本当に本当に敦賀蓮は凄い人なんですよ。本人である貴方が卑下してどうするんですか。
再会したばかりの頃言いましたよね?『根性だけでやっていけると思うなよ』って。根性だけじゃない。外見やスタイルだけであなたが今の地位に入れる訳ないじゃないですか。演技力も、仕事に対する姿勢も、本当に…本当に…」

流石は敦賀教信者、どうやら話し出したら賞賛が止まらなくなったらしい

「この7年を誇るべきです!みんなが認めています!いいえっ!例え誰が何と言おうとも頑張ってきた敦賀さんに私がご褒美をあげたい位です!」
「ご褒美くれるの?」


急に聞こえた蓮の声に冷静になった。

ここはベットの上、その上に膝立ちで蓮の蟀谷を挟んでいて、その美貌は至近距離…
慌てて蓮の蟀谷から手を放そうとしたが、すでにその手は捕らえられている。

「ご褒美くれるんでしょ?」

その距離、わずか10センチ

「いえ、あのっ、」

逃げられない状況に、もはやここまで、と目をつぶると

「じゃあ、おかえりなさい。をお願いしようかな」

聞こえてきたのは、想像と全く違うもの。

「えっ?」

「俺は最上さんより3日遅く帰るから、その夜に晩御飯作って『おかえりなさい』って言ってもらいたい」

なんだか拍子抜けして間抜けな声が出た

「何?もっと色気のあるお願いの方がよかった?」

蓮が再び距離を縮める
距離6センチ…5センチ…

「いいいいいいいいいいいいえっ!!!!!!」
「確かにそっちの方も魅力的だけど…」

蓮はキョーコの手を放し、ドアに向かい声をかけた

「誰かに聞かれてるってのはいただけませんよね。Mr.?」

(ミスター?)

蓮の言葉が理解できずにいると、恐る恐る…といった具合にドアが開いて、クーが顔をのぞかせた

「いや、その、お茶を持ってきただけだよ。立ち聞きなんて…」
「すっかり氷融けてますよ」
「…」

言葉を失ってキョーコは2人を見比べた

そういえばクーの仕草に誰かを連想しそうになったことがあった。
並び立つ二人はどこか似ている。

クーのもつトレイの上のグラスに目が行く
繊細な模様の入ったロンググラス
蓮が持ってきたグラスと同じそれに、なんだか唐突に理解した。

(親子なんだ…)


「キョーコは私の娘も同然だっ!その娘が深夜に男と2人っきりなんて心配だからだな…」
「じゃあ、さっさと部屋に乗り込んできたらいいじゃないですか」
「それはだな」

言いあう様子もなんだか微笑ましく思えて、キョーコはすっかりぬるくなったお茶を飲みながら2人を見守ったのだった。



**************************



蓮の帰国の日
もうすっかり暗くなった道をキョーコは全速力で走っていた。

その手には食材の入った袋

キョーコは心の中で悪態をつく

(プロデューサーめえっ!私が遅刻した時はあんなに詰ったくせに…2時間!2時間も待たせるなんて!)

きまぐれロックの収録は4時前には終わる予定だったから、夕飯を作って蓮を待つ予定だったのだ。
それがもう8時前

これでは蓮の方が先にマンションについてしまう

(こうなったら晩御飯はあきらめるとしても、先にマンションについて『おかえりなさい』って言わなきゃ!)

キョーコがラストスパートをかけるべく加速しようとしたとき
見覚えのある車が速度を落として少し前に停まった。

「どうしたの最上さん。すっごい形相で走ってたよ」

最上キョーコ「おかえりなさい」計画。とん挫。



「別に気にすることなかったのに。もう暗いのにこんなに荷物下げて走ってこられるほうが心配だよ」
「でもですね」

上昇するエレベーターの中、上機嫌でエコバックを持つ人気俳優と、任務不履行にしょげかえる後輩女優

「帰ってきた日に最上さんに『おかえりなさい』って言って欲しいのは俺のわがままなんだから」
「でも、玄関開けて『おかえりなさい』って言わないとなんか違う気がします」

チンッ

エレベーターが最上階に到着して、その扉を開いた

「じゃあさ」

降りたところで蓮が立ち止まる

「もう一個ご褒美追加していい?」
「…なんですか?」

キョーコは少々警戒して尋ねた

「玄関まで、手、つないで欲しいな」

はあっ?と差し出された手と蓮の顔を見比べた

「玄関そこですよ?」

ワンフロア占有とはいえ、エレベーターから玄関までの距離だ。

「うん。ちょっとだからいいだろ?ここなら誰に見られることもないし」

ね?ちょっとだけ。

確かに誰もいないし、大した距離でもないし…

「はあ…まあ…いいですけど…」

おずおずと手を差し出すと、指をからめられた

ゆっくり歩き出す。

時折、つないだ手を大きく前後に振られたりしてキョーコもそれに引っ張られてヨタヨタする。

「何するんですかっ!子供みたいに!」

蓮は楽しそうに笑って、また手を振った。

(まったく、もう!)

きっと自分の顔はあり得ないくらい真っ赤だ。

蓮はいつもよりゆっくり、ゆっくり歩く

それが何故なのか。
鈍いキョーコでも流石にわかる

だからキョーコもそれに合わせてゆっくり、ゆっくり歩く


1歩 またいっぽ

つないだ手の温かさを忘れないように
この小さな幸せを胸に刻むように

歩いていく



(まるで最終回のようですが…27に続きます)




1歩いっぽで一番書きたかった場面が書けました~!
ここまで読んでくださってありがとうございます!

ここで終わらせたら綺麗なような気もしますが、一応2次を書き始めたきっかけとなったこのお話、最後まで書かせていただきます。

でも一段落はついたので、しばらく休憩してよそ見しようかと…
記憶喪失するか、短編するか…

さてさてさてさて。
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6. Re:パパ、、

>mokaさん
クーさんにはコップを耳に当ててもらおうかと思いましたがやめました( ̄▽+ ̄*)

いつも嬉しいお言葉有難うございます~。活力源です!

2014/07/16 (Wed) 07:59 | ちょび #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

5. パパ、、

クーさん、お茶がぬるくなるほど、たちつくしていたんですね。
グリグリができるようになったキョーコちゃん、久遠と蓮をバラバラにしていた蓮さん。
一歩いっぽ、今度はキョーコちゃんが寄って行くのかしらー
ホワホワ温かくなりながら、続きをお待ちしておりますー

2014/07/15 (Tue) 07:38 | moka #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

4. Re:ぐっと

>ナーさん
うちのキョーコさんは攻撃型なんで、受け止め方もグリグリです!

時間軸にして、告白から手をつなぐまでで10カ月!手なんてカインの時も握っているのに!0になるのはいったいどれほどかかるんでしょか?

2014/07/15 (Tue) 01:00 | ちょび #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

3. Re:へなへなっちです。

>へなへなっちさん
空耳ですよ、きっと( ̄▽+ ̄*)
いったい何のためだったのか、思い出せません。
お手てつないで喜ぶ敦賀さんは、私の脳内ではもっと可愛らしかったのでですが、文才が…。
へなへなっちさんにエールいただきましたので、ちょっとよそ見しま~す。
っていうか1歩いっぽ終わっちゃったら燃え尽きそうなんですよね~

2014/07/15 (Tue) 00:56 | ちょび #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

2. ぐっと

力強い一歩をキョーコちゃんはグリグリと受け止めてくれた~~。
グリグリ。敦賀さん嬉しかったろうな。

その距離、ゼロになるのを待ってます。

2014/07/14 (Mon) 21:21 | ナー #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

1. へなへなっちです。

えっ?… いや、空耳(誤字)かな。それよりっ!(≧∇≦) 可愛いっ!お帰りなさいが言いたくて、鬼の形相でペダルをこぐキョコちゃんも、手を繋いで喜ぶ蓮さんも出歯亀のクーもっ!(≧∇≦) みんな大好きです♪
短編も記憶喪失も好きですよ

2014/07/14 (Mon) 16:09 | へなへなっち #79D/WHSg | URL | 編集 | 返信

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