2015_08
13
(Thu)11:55

ほんのわずか(10)

↓これ、去年書いたんですけどやっぱり夏は毎年駄目なんだなあと実感しました。

やっぱり日差しにやられております。
もうPC前に座るころにはヘロヘロで…ひたすら同じ文字が画面上に並んでいたり

2014/7/25初稿、2014/9/12一部修正、2015/8/13




鏡に映った自分の胸元を撫でる。
あの夜からもう10日以上すぎて、蓮の残した痕は流石に消えていた。
この間まで、会わなくなって蓮のつける痕が消えてしまえば、時々チラつく感情も忘れられると思っていた。

だが、キョーコはもう気付いている
例え会わなくても、痕が消えようとも、この胸の感情は消えるどころか募っているのだと



■ほんのわずか(10)




「じゃあ、大将、おかみさん、気を付けて行ってきてください。」
「…すまなかったな。休みの日に」
「本当にありがとうね。おかげで助かったよ」
「そんな…私も海外旅行なんて行ったことないので右往左往しちゃってすいませんでした」
「ううん。やっぱり若い人はテキパキしてるね。私ら2人だったら迷子になって飛行機乗り遅れていたかもしれないよ。ありがとう。キョーコちゃん」

お土産買ってくるからね、と手を振って出国ゲートに向かうだるまや夫妻に、キョーコも手を振って見送った。

昔から可愛がっていた甥っ子がグアムで式を挙げることになり、だるまや夫妻は初めての海外旅行となった。
親戚一同と一緒に行けたらよかったのだろうが、店をそう多くは休めないため別行動になってしまい、無事飛行機に乗れるか心配するおかみさんのためにキョーコは見送りを申し出たのだ。

展望デッキでだるまや夫妻の乗った機体が離陸するのを見届けて、時計を見るとまだ9時過ぎだ。
今まで渡航経験のないキョーコには初めての成田。せっかくだから色々見ていこうと案内図を手に取った

*
*

(ちょっと歩き疲れたなあ…)

ショップで小物や土産物をブラブラとみているうちに足の疲れと軽い空腹を感じて、時計を見るともうすぐ12時半
適当に入った店でベーグルサンドとコーヒーを購入し、壁際の席に落ち着くと携帯を開いてメールの受信記録を呼び出した。

『…そんな訳で、後は貴島君にお任せできるようになったから、予定を繰り上げて帰るよ。日曜の3時には成田に着くから、夕飯一緒に食べてもらえるかな?』

分かっている。
成田は初めてだから色々見ておこうなんて自分への言い訳だ。
蓮のメールを受け取った時、既にだるまや夫妻の見送りは予定していた。思わぬ偶然にキョーコの胸は小さく踊ったのだ。
だけど、『私も見送りで空港に行くんです』とは送信できなかった。

(空港で待ち伏せなんて、重いとか鬱陶しいとか思われるよね)

でも、結局理由をつけて空港に居座ろうとしている

(こんなことなら、メールしとけばよかった)

迷惑だと直接言われることはなくても、何かやんわりと断られたら諦めもつくというものだ。

それに…
もしかしたら、もしかしたら

(嬉しいよ、なんて…)

ブルブルブルッと頭を振って、イカれた想像を頭から追いやる。
駄目だ。本当にダメだ。

(うん、やっぱり、帰ろう。それが一番平和よ。安全よ!)

時計を見るともう2時半を過ぎている。

テーブルには冷めきったコーヒーと、粉々になったベーグルの欠片。
どうやら、自分の世界に閉じ籠りながら欠片を弄っていたらしい。
行儀の悪い自分に顔をしかめて、慌てて手荷物をまとめて店を出る。

リムジンバスの乗り場はどこだったかと、キョロキョロしていると携帯が鳴った。

(この着信音ってっ!)

「…はい」
『キョーコ。ただいま。今入国手続き終えたよ』
「到着3時じゃ…」
『ああ、予定より少し早く着いたみたいだね』

そんな落とし穴があろうとは!

『今日は何時から会える?』
「え、あの…」

♪~・♪~・♪~空港内で不審な荷物を発見されたお客様は…

館内の一斉放送だろう、そのアナウンスはキョーコの右耳と、携帯を通じて左耳から同時に聞こえた。

『…キョーコ、もしかして今成田にいる?』
「!!!」

今すぐどこでもドアで高飛びしたい。だが、誤魔化しようもない

「うぅぁ……そ…うです」
『どこにいる?』
「第1ターミナルの…4階です…。」
『荷物受け取ったらすぐ行くから。どこかの店に入ってお茶でも飲んで待ってて』
「え、今コーヒー飲んでたとこですから、適当なところで」
『入ってて』

せわしなく電話は切れて、キョーコは仕方なく先程の店に戻り、今度はアイスティーを頼んで、解けていく氷を眺めながら蓮を待つ

(嫌がられては…ないわよね)

なんて言おう。いや、まず最初は「おかえりなさい」でしょ。それとも「お久しぶりです」?

「あ、見て、超美形」
「すごい!超上玉じゃん!行先一緒だったらどうする~?」
「あ、トランク見て~。帰国組っぽいよ。残念」

(これって…)

近くのテーブルの女の子たちの囁きに確信をもって顔を上げると、思っていたよりラフな格好をした蓮が店の入り口でキョーコに気付き手を振っていた。
慌てて立ち上がり店を出る。

「おかっ」ばふんっ!!

すごい勢いで抱きしめられた

「ただいま。迎えにきてくれるなんて思ってなかった。嬉しいよ」
「いえ、あの…だるまやの大将たちの見送りが午前中にありまして」
「それから待ってくれんだ?」
「ああああの…」

そこでようやく背中に突き刺さる視線の多さに気が付いた

「と、とりあえず離してくださいっ!公衆の面前で…2週間やそこらでアメリカナイズされずぎです!」

少々不満げに開放されて、すぐ手を繋がれる。

「じゃあ、帰ろう。荷物置きたいし、キョーコに土産もあるんだ」

マンションへの道すがら、2人はいつもより饒舌だった。
キョーコは蓮の土産話をせがみ、自分でも不在中の社内の出来事を話し続けた。

顔を見るのさえも久しぶりだからだろうか。
いつもよりずっと、蓮の声にも、視線にも、握られた手にもドキドキする。

ずっとハイテンションを維持していたのに、マンションのエレベーターに乗った途端2人とも無口になった。
2人きりになって、蓮の視線を受けるのがなんだかいたたまれなくて…つないだ手の互いの熱が上がった気がする。
心臓はもう限界と言わんばかりに動いていて

がちゃり
後ろで玄関ドアを蓮が施錠する音が妙に響く。

運んでいたトランクがキョーコの脇に置かれるのが視界の端に見えたと思ったら、後ろから包み込むように抱きしめられた。


「…会いたかった」

何かがゆっくりとそして確実に心を満たしていく

もう目をそらせない

(好きなんだ。この人が)

もう、どうしようもない位に。



 - ほんのわずかだと思っていたこの胸に巣食う感情
       それは気がつけばこんなに大きく育って…私を支配する -



(11に続く)






成田行ったことないので、それを想像するのに一番苦労…
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