2015_08
20
(Thu)11:55

ほんのわずか(11)

ほんのわずかはパラレルで夜10時台です。
拙宅の基準ですから何がどう夜10時だと言われても夜10時!

「これで?」とか「へたくそ!」とか「冒頭から?」とか…そんな苦情は受け付けませんよー。


2014/8/1初稿、2014/9/12一部修正、2015/8/20修正の上通常公開





玄関での抱擁はそのまま当たり前のようにキスへと移り…暫くすると抱き上げられた。
蓮の肩越しに取り残されたスーツケースと、2人には珍しく脱ぎ散らかされた靴が見える。

向かう先が寝室とわかって、自分がそれを期待していたことをキョーコは知った。



■ほんのわずか(11)




「愛してる…」


「会いたかった…」


「キョーコ…」


今までも蓮から囁かれた事がある数々の言葉は、ベットでの行為を盛り上げるための呪文みたいなものだと思っていた。
だけど

久しぶりだからか
それとも自覚した想いの所為だろうか。
その囁きも、触れらる手も、唇も、今までより熱が籠められているように感じられて

いつもはリネンを握りしめている手が

縋ってしまった…蓮の背中に

なるべく出さないようにしていた声が

呼んでしまった…「敦賀さん」と


ぴたり
蓮の動きが止まる
表情を無くし黙って見つめるその視線にキョーコは我に返り、自分の失態を知った。

「あ…」

慌てて背中から外した両手は、宙を彷徨っているうちに蓮の手に捕らえられた。

蓮は目を閉じると、キョーコの掌を己の頬に引き寄せた
ゆっくり、ゆっくり…何かを確かめるかのように繰り返し頬ずりした後、右手の掌に唇を寄せる。

今度は左手に…

そして開いた瞳がキョーコをとらえる。

(…悪い…魔法だ…。)

目をそらすことができない。


蓮は神々しくもあまやかに微笑むと、キョーコの手を己の首に導き、そしてねだった。

「ね、呼んで?」
「え?」
「もう一度、名前呼んで?」

キョーコは躊躇った。だが、蓮が更にねだるのに負けておずおずと口にする。

「…敦賀さ…」

言い終わる前に、先程とは比べ物にならないほどの熱がキョーコを覆った。


*
*


髪を梳かれる感触で目が醒めた。
それは心地よいものだったけれど、部屋がすっかり暗いことに気が付き、飛び起きる。

「慌てなくても、まだ8時だよ」

蓮が苦笑しながら身を起こした。

「私、寝て…」

いつも、自分の部屋に帰れるよう寝ないように気を張っていたのに。
蓮が少し申し訳なさそうに頬を撫でた

「ごめん。ちょっと加減が出来なかった。久しぶりだったし…」

その手はそのまま背中に回りシーツの上から抱きしめられる

「名前呼んでもらえたし…」

優しく優しく背中を撫でる大きな手

「寝顔…可愛かったよ」


流石遊び人は社交辞令がお上手

前はそう思えたのに。
今は1つ聞くたびに心臓が大きく跳ねる。
この広い背中に手を回したらどんな反応が返ってくるのだろうと思ってしまう。

*
*

「入っていい?」

身支度を整えていると、蓮から声がかかった

「はい、どうぞ。すいません、お待たせして」
「いや、待ってないよ。お土産渡そうと思って」
「あ、はい…」

急いでシャツのボタンを締めようとしたら、「そのままでいて」と声がかかり蓮の手が首筋にかかる
首に回された手と、至近距離の美貌に折角おさまっていた熱が再び籠りそうだと焦っていると金属の感触。
すい、と蓮が少し身を離してキョーコを見つめ、満足げに微笑んだ

「うん、よく似合う」

見ると、華奢な鎖とローズピンクの小さな輝く石が自分の首元を飾っている。

「え?」
「お土産」

上品で繊細なネックレス

「こ、こんな高価そうなもの」
「俺が持ってたってしょうがないよ?」

ね?と首を傾げられ、困ってしまい胸元をもう一度見た。
綺麗な石の色も、繊細な細工の具合もキョーコの好みのそれ。

「これなら場所選ばずにつけれるかと思ったんだ」
「確かに…」

職場でつけても大丈夫かも。そんな考えが浮かんで慌てて打ち消したが、キョーコの頭の中がまるで分かっているように蓮は高低の頷きをしてみせる。

「つけてくれると嬉しい」

蓮の手が鎖を弄り、少しずつ下がって石までたどり着いた
そんな仕草1つまでこの男性は色っぽい。

「…ありがとう…ございます」

なんとか声を絞り出すと、「いえいえ、受け取ってくれてうれしいよ」と頭を撫でられた。

*
*


夕食は、珍しく蓮が「刺身が食べたい」とリクエストし、創作和食の店を訪れた。

確かにお刺身も、それ以外のメニューも美味しい。けれど、向かいに座る蓮の視線が気になり、ドキドキしているのを気付かれないようにするのに必死でなんだか落ち着かなかった。
前はどう思われようとかまわなくて気楽だったのに。でも落ち着かないのに、このままずっと一緒にと思う。
認めてしまうと恋心はなんて厄介なのだろう。

*
*

「…1人で帰れますよ」

日曜だからか、10時前という時間だからか、比較的すいている電車内で、キョーコは自分をかばうように立つ蓮を見上げて言った。

「却下」

有無を言わせぬ蓮の物言いにキョーコはむっと蓮を睨む

「なんで…「シた後のキョーコは目が潤んで、肌も艶が増して凄く色っぽいから誰にも見せたくない」」

耳元に小声で囁かれたとはいえ、公共の場でのとんでもない発言にキョーコは絶句した。口を開いたまま、真っ赤な顔でパクパクするキョーコに蓮は続ける

「今日はお酒飲んだからなおさら。やっぱり飲まずに車で送ればよかった」
「つ、つ、つ、つ、敦賀さんが日本酒飲みたいからちょっと付き合ってって!」
「言ったね」

だから責任もって送るよ。そういいながらクスクス笑う蓮をムカムカしながら見ていると、小さな声が聞こえてきた。

「ね、あのドアの所のカップル、ラブラブだね~。私と旦那も昔はああだったのになあ」
「いや、あんたの旦那、あんな男前じゃないから」
「いいじゃない。思い出位美化したって」

見ると、チラチラとこちらを見ながら楽しそうに話す女性2人
ドア付近にいる男女の組合せと言ったら自分達だけだ。

(カップルに…見える…のかな?)

恥かしくて俯くと胸元のピンクの石が目に入った。



アパートまで10分と少し

その距離を取りとめのない話をしながら歩く。街灯の灯りに照らされて伸びる、手をつないだ2人の影がやたらと視界に入る。
影でみると普通の恋人同士のようだ。

そうしているうちに蓮の歩みが止まって、アパート前まで帰ってきたことに気が付いた。

(もう着いたんだ)

手を放すのが名残惜しくて、キスをされるともっと…と思う。
このままだと『コーヒーでも飲んでいきませんか?』そんな事を言い出しそうで、アパートの階段を駆け上がった。

鍵をかけて、靴を脱いで、電気をつけて…洗濯物が干しっぱなしだと思い出した。
慌てて部屋を突っ切って窓を開けて見て驚いた。

蓮がまだ道端に立っていたから。

突然窓を開けたキョーコに驚いたようだったが、安心したように、そして嬉しそうに微笑むと手を振った。
キョーコもおずおずと振りかえすと、蓮はもう一度手を振ってから駅の方向へと歩いて行く。

思い出す。

初めて送ってもらった日も、その後もずっと、発車するエンジン音が聞こえるのはキョーコがドアを施錠して電気をつけてからだった。
見守ってくれていたのだろうか?
キョーコがちゃんと部屋に入り電気をつけるのを。

取り込んだ洗濯物を機械的にたたみながら考える

胸元で揺れるネックレス
カラーボックスの一番上の棚にしまわれた鎮痛剤
身体中につけられたキスマーク


少しは期待していいのだろうか?
そこに蓮がキョーコを想ってくれる気持ちが少しはあることを


  - ほんのわずかに胸に灯った希望
         それは私の恋心をさらに募らせていく -  


(12に続く)
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